VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで 作:Amisuru
タグ『勘違い』
──小さい頃から、ロボットアニメが好きだった。
地を歩き、空を舞い、宇宙を駆ける──鋼の巨体が魅せる勇姿に、心を奪われた。
同じ二足歩行であっても、人間には決して生み出すことの出来ない、動きの重厚感。無骨な輝き。無機質が故の揺るぎなさ。そういったものに、圧倒された。
ところが今。
16歳になった俺は、地上110m超の一室で──
「──始めて下さい。お母さん」
「ええ。よろしくお願いします」
──
いやはや、人生何があるか分かりませんね、ホント。
「御名前をお聞かせ下さい」
「赤嶺陽彩です」
「御年齢は?」
「16です」
「御職業は何を?」
「学生です。……あの、お母さん」
「如何なさいましたか? レッドヒーロー様」
「赤嶺陽彩です。……この
「陽彩くんだけ仲間外れは可哀想かと思いまして」
「……それはそれは、お気遣い痛み入ります」
とまあ、俺とお母様のガチンコ勝負はこんな感じの空気から始まった。
ユルい。なんかもうお母様、大分態度が砕けてきていらっしゃる。まあユメさんにパーフェクト負けした後だもんな……今更キリッとしたキャラで進めるのも無理あるよな……
だがまあ、それならそれでよし。
「では、志望動機をお聞かせ願いましょうか。陽彩くん、貴方は何がきっかけで『Wasteland Titans』を始めようと思ったのですか?」
「小さい頃から、ロボットアニメが好きだったからです」
さっきも言ったね、これ。
「
「申し訳ありません。専門用語の濫用はお控え頂けると」
「専門用語」
そうか。
「ですが──どうやら貴方は、筋金入りのゲーム好きのようですわね、陽彩くん」
「別に褒められたことでもないですよ。中身のない奴ほど数を誇るって奴です」
そう。
確かに俺は、先に挙げたゲームの全てに触れてはいる。それなりに堪能もした。しかし──
全てがせいぜい、上の下止まり。ゲームの世界に達人の門のようなものがあるとするなら、その門を潜る一歩手前で引き返す。それを繰り返してきたのが、俺だった。
「……前々からわたくし、不思議に思っていたのです」
「はい?」
「
「……ええ、まあ」
そう──前にも言った通り、俺の通っている高校は都内でも有数の進学校ということになっている。ホントに近いから決めただけなんだけどな。入ってしまえば校則も緩いし他人に関心ない奴多いし良い高校だよ。後者をメリットに含むのかはまあ、人によるだろうけど。
「にも拘らず、かつてのリンちゃんのように娯楽に溺れ、現実の立場を悪くしてしまうような方々がいる──貴方もまた、その一人なのではないですか? 現在の成績はどういう具合なのです? 件のゲームを始める前と比較して」
「……絶賛下降中ですね」
……おっとお? 触れられないと思っていた箇所に切り込んできやがったぞ? 関係無いとか大見得切った俺が馬鹿みたいじゃないですか。ユメさんのフリーターに関しては触れられなかったのにズルくない?
が、どうやら。
それにはこういう、理由があったそうで。
「間違ったことをしているとは思いませんか? ゲームに割いた時間を現実での努力に充てれば、もっと違った
「…………」
……いやはや。
まっこと実に、耳の痛い話だ。
覚えてるかな。俺とギーザーの間でかつて、こんなやり取りがあったことを。
この時の俺はね、ガチで悔やんでたよ。
だからですね。
素直に答えるよ、ここは。
「……めちゃめちゃ思いましたね。ほんの一月ほど前に」
「なら──」
「
「──え」
そこで、初めて。
俺とお母様以外の第三者の声が、漏れた。
正直困るんだけどな、
「だから──今はもう、
その言葉と、同時に。
俺を見据えるお母様の目が、見開かれる。
さっきからおかしいと思ったよ。
原因を理解した。
俺のことをいくら深掘りしても無駄ですよ、お母さん。
俺の中にあるのは所詮、薄っぺらいオタ知識と享楽的な人生観だけ。掘っても掘ってもカスみたいなものしか出てこないです。時間の無駄だ。
だから──
お前だけが俺を、本気にさせてくれる。
ハリボテの俺を、本物にしてくれる。
だから俺はずっと、遮二無二になってお前を求め続けてきたんだから。
そうだろ──
今の俺の全ては、ただお前のためだけにある。
「──ほんの4日前の話です。ふとした話の流れで俺は、かつて伝説と謳われたWTプレイヤーの存在を知った」
「────」
「その名は『serin』──当時僅か13歳、俺と同い年の女の子。話を聞いた俺は正直、半信半疑でした。そんな漫画のような人物が、現実に存在するのかと。ところが──」
奇跡のような確率。運命的な何か。
そうとしか言いようのない偶然で、俺達は出会った。
「──伝説は本当だった。俺の隣の席のクラスメイトは、元最強のWTプレイヤー『serin』その人だった──それを知った俺は彼女と本格的に話をするようになり、それまで知らなかった彼女の裏の顔を知ることになり、そして──
「ひ、惹かれ……?」
「
「──ひゅっ」
困惑するお母様の背後で、渡良瀬の口からなんか変な音が漏れた。どうした急に。
でもそうだよな。急にこんなこと言われたら驚きもするよな。俺の心の中を覗いてたわけじゃないもんな。だけど俺は
そう──あの人生の中で最も長く感じられた一日、その最後。
お母様にデバイスを取り上げられて泣きじゃくっていたお前に、初めて俺は、こう言ったんだ。俺はお前の──
な? 単なる
やり遂げる。必ず。
だから
俺は本気で、心の底から、お前を──
「そ──それはつまり、娘を、リンちゃんを──
「はい。
「はっ……はわっ、はわわわわ……」
「うわ、セリンちゃん顔真っ赤」
「マジか……ヒーロー、やるなおめー……」
なんか左サイドがぶつぶつ言っている。どうした? 何かおかしなこと言ってるか? 茶化すつもりなら勘弁してくれよ。俺は今真剣なんだ。お母様に俺の本心を伝えようと必死になっているんだ。邪魔しないでいただきたい。
あと渡良瀬はどうしたお前。孔明ちゃんの物真似か? 世代じゃないから知らんけど。
「──彼女への想いを自覚したその日、俺は胸中で一つの誓いを立てました。覚えていますか? お母さん。彼女が公式大会を制覇したその時、インタビューで放ったとある言葉を」
「そ、それは……?」
「『今まで生きてきた中で、今が一番幸せです』──そもそも最初に、俺を惹きつけたのもこの言葉でした。
例えばそれは、初めて親に好きなゲームを買ってもらった時だったかもしれない。そのゲームを遊んでいる最中のことかもしれない。エンディングへと辿り着いて、物語の余韻に浸っている最中のことかもしれない。或いは、それこそ──
──俺の左でぶつくさ言ってる連中と、他愛もない喋りに興じている時間とか。
その全てが正解であり、不正解であるようにも思う。
それはそれで幸福なことなんじゃないか、という気持ちもある。
どれが一番か決めかねる程度には、俺の人生は充実したものだったのだと言えなくもない訳だから。
けれど──
もっと劇的で、決定的で、『これだ!』と思える瞬間が欲しい。
例えるなら、それは。
物語の
「──未だにどの瞬間が、
「────」
「だから一旦、自分の
「────!?」
言った。
ついに言った。
直接口にはすまいとおもっていた、その誓いを。
流石に少し、こっ恥ずかしい。こんな形で伝える羽目になるとは、思ってもみなかった。
それでも、これは。
今の俺の心の底からの、願望だから。
包み隠さず、吐き出すべきだと、思った。
「俺はもう一度、彼女にあの言葉を言わせてやりたい──
「
「ひょっ……ひょええぇぇ……」
「うわ、茹でダコみたいになってる……おデジちゃんみたい……ウマ娘のことはわたし全然わかんないけど」
「それそのうち天に召されるやつじゃねーか? しかしなあ……やりやがったなヒーロー、おめーマジで漢だぜ……」
さっきから外野が煩いな。俺の本気を疑ってるのか? 大言壮語か何かとでも思ってるのか? 何度も言うけど大マジだぞ、渡良瀬。
いや訂正。
WTで。
思った訳ですよ。こいつが何よりも大好きだったWTを手放す羽目になった理由っていうのは、どれもこれもあの『Blade』とかいう根性無しのせいなんじゃないかって。もしそのポジションにもっと実力かメンタルのどっちかが強い奴がいたなら、
だから俺が、
当然、求められるハードルは極めて高い。根性無しとか言ったりしたが、今の俺の腕は当時の『Blade』にすら及んでいないのは間違いない。ましてや
けれど、いつかは。
いつかは必ず、その0を、1にする。
当然、一度っきりじゃ終わらせない。二度でも三度でも勝ちまくって、そのうちかつての『Blade』同様、
それでも、もしも。
俺がそこまでの領域に、辿り着けたのならば──
例えば未来の、全国大会決勝。
大歓声の中に包まれて、赤いタイタンと銀のタイタンが向かい合っている。
両機は互角の戦いを繰り広げ、その果てに──どちらか一機が、生き残る。
互いに死力を尽くした一戦。持てる力の限りを、余すことなく出し切った──会心の勝負。
今まで生きてきた中で、今が一番──
その幸せの形ならば。
俺のようなハリボテのカスでも、こいつに与えることが出来る。
何しろ俺は16年間、
他にあるなら教えてくれ。俺は知らん。一切な。
とにかく、これが。
今の俺が、
──赤嶺陽彩という人間の、全てだ。
「──素晴らしい」
ぱちぱち、と。
それまで沈黙を保っていた男が、両の掌を弾き合わせている。
名前はさっき、ちらっと聞いた。
渡良瀬、哲生。
「今時珍しいくらいに、情熱的で真っ直ぐな子だ。
「赤嶺陽彩です。お父さん」
「ははは。うん、
「あなた正気なの!? 聞いたでしょう、この子達まだ知り合ってから3日4日くらいしか経っていないのよ!? いくら何でも早過ぎるわ!」
「君がそれを言うのかい? 瞳さん。今でも昨日のことのように思い出せるよ、僕は。中学上がりたてで恋のこの字も知らなかった僕を一目見た途端、『貴方が私の運命の人です。一生を添い遂げて下さい』って教室で三つ指突いて言った君の姿を──」
「あああああああなた!? その話はリンちゃんの前ではしない約束でしょう!? それにこんな、皆様方のいる前で……!?」
「いやあ、もう解禁でいいでしょ。16歳だよ? その頃には僕ら大概のことは──」
「あああああ! 言わないで言わないで言わないで!」
まっ……前田利家……。
しかしそうか。同い年なのかこの二人。外見年齢に差があり過ぎるから年の差婚だとばかり思ってたわ。やっぱり
しかし何故、このタイミングで惚気話をぶち込まれたのだろう。まるで意味が理解らんぞ。これ以上聞かされるとまた心の中の惇兄が叫び出してしまう。それはマズい。
速やかに終わらせよう。
俺は面倒が嫌いなんだ。
「──お母さん」
「はいっ!?」
目の前の黒髪の女性から、素っ頓狂な声が上がる。いよいよ本格的に
なので、ぼちぼち。
「どうか目を逸らさないでほしい。貴女にはもう、
「あっ……あああっ……」
「それでも言葉にしてほしいのなら、言いましょう。俺は必ず、彼女を──
「ひっ……ひいろくん……」
その声は、お母様のものではなかった。その後ろで何故か真っ赤になった頬を両の手で抑えぷるぷる震えている、
さっきから大丈夫かお前。体調悪いのか? ごめんな、長引かせちまって。もう少しで終わるから我慢してくれ。
「だから──お願いします。
せっかく
娘の今後を左右する、大事な大事な話だ。
そしてついに、俺は口にした。
この一連の騒ぎを締め括る、決着の言葉を。
『
「……ど」
目の前の
大丈夫かなこれ。ちゃんと機能してますか? ご自慢の鑑定眼。そんな不安が俄かに、鎌首をもたげ始めた頃──ようやく。
その言葉は、紡がれた。
「どうかよろしく、お願い致します……」
「っしゃああああああああああああああ!!」
────勝った。
長かった戦いよ、さらば。
完全勝利。
なあ──やったぞ、渡良瀬。
ついに俺はこの手で、お前を取り戻した。
そして──『イノセンス・モラトリアム』に──
「きゃ────────────!!」
「痛い。痛い。マジで痛いからやめてユメさん」
などと思っていたら、突然。
左サイドから駆け上がってきた栗毛パーマのお姉様に、全力で肩をばしばし叩かれた。何なんだよ畜生。ここ
「うっ……うわぁー! ヒーローくっ、ヒーローくん──うわー! うわああぁー!」
「ここではリントの言葉で話せ」
「
「
「おー。おーおー。おーおーおー」
「アンタら二人して何なの? 人としての知性を何処かに置き忘れてきたの?」
脇腹を肘でつつくとかいう典型的ウザ絡みを繰り出してきた金髪のおっさんにそう言い返す。さっきからマジで何なんだ一体。いいからもっと喜べよアンタら。俺達全員にとっての朗報なんだぞ?
「おい、訳わかんないことやってないで、
「なーに言ってんだ唐変木。おめーが迎えに行くんだよ、誰が好き好んで馬に蹴られに行くかってんだ」
「何それっぽい言い回ししてるのギザさん? 小説家気取り?」
「気取りじゃねーよ! 本職なんだよ! 一応!」
「じゃあさっさと続き書きなよ。何書いてるのか知らないけど。ていうかヒーローくんもセリンちゃんも読んだことあるっぽいのにわたしだけ蚊帳の外なのおかしくない? おかしいよね? ユメさんは説明を求めます」
「いや知らねーよ。ピンポイントで読者が二人も紛れてる方がおかしいんだよ。どういう確率だこれ? 別にアニメ化した訳でもねーのに──」
「いいわけはじごくできく」
「おま、よつばとの話はわかんねーって前に言ってたじゃ──」
なんか置いてけぼりにされてしまった。この二人微妙に距離感変わったか? 前にも増してユメさんがぐいぐい攻めてく感じになったような……
その大役を担うのは、吝かではない。馬がどうとかいうのは何のこっちゃだけど。死因のトップを知ってるかって話か? アニメもう始まってんだっけか。例によってネトフリ先行配信らしいけど。
そんな話はどうでもいい。
さあ──迎えに行こう。あいつを。
「わたら──」
せ、と言いかけたその口が。
「……うっ……ううっ……」
──ぎょっとした。
未だにお母様の後ろに立ったままの渡良瀬が、ぼろぼろと涙を溢し唸っている。言うまでもなく、その表情は──いや笑顔か? 喜んでるのか? 悲しんでるのか? どっちだこれ。ギーザー引っぱたいた時も絶妙な顔してたよなこいつ。左右非対称の笑顔とでも言えばいいのか。どこの
かつての俺は、こいつの涙を呆然と眺めることしか出来なかった。慰めの言葉すら出てこなかった。俺とこいつは隣の席のクラスメイトという以外、一切の接点を持たない関係だった。
それが僅か、3日前の話だ。
早過ぎる、とお母様は言っていた。何が早過ぎるのかは知らないが、俺とこいつの関係を指していたのなら、それは確かにその通りと言わざるを得ないだろう。
それでも別に、あり得ない話じゃない。全然。
──実の名前も素顔も知らない相手でも、共通の趣味があればたちまち、打ち解けられることもあるのだから。
そう、WTとかね。
「──まーた泣いてんの、お前」
「ぐすっ……だって……だってぇぇ……」
だから、今は。
こういう多少のノンデリ発言も、軽口代わりに吐き出すことが出来る。
これでついに4日連続。ユメさんの時もギーザーの時もガン泣きしてたが、結局俺も渡良瀬凛音号泣記録の更新に加担してしまったという訳だ。
けれど──その記録も今日で、打ち止めとなるだろう。
これで本当に、こいつを泣かせるようなあれやこれやは、一切合切取っ払うことが出来たのだから。
だから今は、好きなだけ泣け。渡良瀬。
あの夜に出来なかった分、いくらでも待つよ。
お前の気が済むまで、いくらでも──
「……ねえ、陽彩くん。これ、本当に現実……? 夢じゃない、よね……?」
「……ああ、現実だよ。夢なら
「どさくさに紛れて人の名前で笑い取ろうとするのやめようねヒーローくん?」
「…………」
外野から何か聞こえたけどスルーで。
で、無言で懐から何かを取り出す渡良瀬。それを自身の目元に押し付けて、ぐいくいと拭っている。
……そっか。自分で持つことにしたのか、ハンカチ。
一応今日も持ってきてたんだが、この様子だとこっちの出番はなさそうだ。二度目の真田さんチャンスならず。
などと思っていると。
「──陽彩、くん」
「……どした?」
「……夢じゃないって、確かめたいの。だから──こっちに来て?」
「……? おう」
……なんだろうな。
なんか様子がおかしくないか、こいつ。
泣くのはまあ、予想出来た。ユメさんの時もそうだったし。しかし今のこいつの有様は、さっきの
そんなことを思いつつ、立ち上がり。
俺達の動向を見守るばかりの渡良瀬夫婦をすり抜けて、真正面に立つ。
確かめたい、とこいつは言った。一体、何をする気なんだろうか。
……手でも握ろうってのか?
いやいや、そんな。握るにしたってなんで俺の手なんだよ。お母様でもお父様でも、ユメさんでもいいだろ別に。
でもギーザーだけは許さん。万に一つの接触も許さん。や、確かに異性かつ22歳差とはいえ、同じ
なんかそれは、嫌だ。
理由は上手く言い表せないけど、とにかく、嫌だ。
……この気持ちは一体、何なんだろう?
俺は今、渡良瀬に対して、何を──
──直後。
柔らかな感触が全身を、包み込むのが理解った。
一瞬遅れて、その
信じられないくらいに、熱かった。
まるで──遥か昔から、ずっとその熱を溜め込み続けていたみたいに。
硬直した脳味噌が、遅れに遅れて何が起きたかを理性に伝えてきた。
感触も、体温も、甘いシャンプーの香りさえも──全てが感じられる。
言い訳の余地もないほどに──
……!?!?!?!?!?!?!?
何だ?
何が起こっている?
温かい。柔らかい。甘い。その三つの情報が永遠に脳を支配してまともに思考が働かない。CPUが完全に機能を放棄している。何。何。何何何。
なんで俺──
「……嬉しい……本当に、夢じゃないのね……」
「わ……渡良瀬……?」
「まだ早いって、思ってた……今は私の独りよがりでしかなくて、あなたの方は全然、そうじゃないって……でも、違うのね……? 私達、
「…………え?」
……なんですって?
こいつは今、一体、なんて仰いました?
「わ、わわっ……! セリンちゃん、大胆……!」
「なーにガキみてーな反応してんだユメ。いい歳こいて」
「ううううるさいなあ! どうせわたしは彼氏いない歴=年齢ですよー!!」
「ああ……あなた、子供の成長って早いのね……リンちゃんに打ち明けられた時から、
「いやー、やっぱ子供って親に似るものなんだねえ。好きと決めたら一直線だ」
「どういう意味よそれ!?」
「そのままの意味だけど?」
で、だ。
何故アンタ達はこの異常事態を当然のように受け止めている? 現実改変でも食らったのか? やっぱり財団案件だったのか? 機動部隊アルファの到着はまだですか?
先の精神錯乱は渡良瀬が記憶処理を施してくれた。しかし今やその渡良瀬自身が、強烈な精神汚染の被害に遭っている。そしてどうやらこの様子では、周りの助けも期待出来ない。何とかして脱出しなければ。皆を正気に戻さなくては──
──などと、誰よりも正気ではない思考に囚われていたところに。
俺達の
「私──
「──な」
「ううん──たとえ何かの拍子に、離れ離れになったとしても──」
──まっすぐに。
ひたすら一途に、その瞳は──俺だけを、捉えていた。
逸らすことなど出来ようもない、眼差しだった。
「──何千何万回生まれ変わっても、私はあなたを見つけ出すから。そしてその度に、あなたを──
「あい!?」
「だから──だからね? 陽彩くん──」
1期ラストのせっちゃんばりの絶叫にも構わず、渡良瀬は。
ようやく現状を──
その言葉を、口にした。
嫁入り前の娘が、嫁ぎ先の相手に向けて放つ、挨拶を。
「…………」
スーッ、と。
全身の血の気が引いていくのを、感じた。
熱に浮かされていた頭が、急速に冷めていく。甘いとか柔らかいとか言っている場合ではなかった。
それはそれとして、柔らかかった。
死んで詫びるしかないな、これ。
「ねえ──陽彩くん? あなたさっき、言ってたわよね。
「…………」
「私──今なら言える。
「渡良瀬さん」
「──ふえ?」
それはもう。
とてもとても可愛らしい声が、渡良瀬の口から漏れた。
いやごめん。本当に、マジでごめん。
俺もう本当に、カスなんだけど。全人類で今すぐ首括るべき人間ランキング一位に、輝く自信あるんだけど。
そうしてしまったら、俺は──人としての最低限の矜持すら、失ってしまうから。
寸でのところで止めさせて頂きました。はい。
「どうか──どうか落ち着いて聞いてほしい、渡良瀬」
「ひ、陽彩くん……?」
「俺には、その──なんていうか、
「「「「「は?」」」」」
一斉に、声が漏れた。
俺を除く全員の口から。
はい、完全アウェー確定です。俳句を読みましょう。
「……どういうこと、
あ、凛々しい渡良瀬さん出ちゃった。
ほんの今さっきまでなんかもう、蕩け切ったとしか言いようがない顔してたんですけどね。
これがいわゆるげろげろ現象ってやつなんでしょうか、ユメさん。
「……私のこと、友達以上って言ったのは……?」
「それは……なんていうか、
「私のこと、幸せにするって言ったのは……?」
「それはその……WTでこう、なんか良い感じに……」
「……お父さんとお母さんに、私をくださいって言ったのは……?」
「ウチのチームに返してください、という意味です……」
「……………………」
カスのカスによるカスみたいな言い訳を、耳にして。
無言で渡良瀬が、それまで締め付けるほどに力強く抱き留めていた俺への
いや本当に酷いなこれ。特に幸せの部分。ここもう少し流石に言いようあっただろ。何の説明にもなってねえよ。もう一回チャンスくれません? ダメですかそうですか。
で、俺は俺で自由になれたはいいが、当然どこにも逃げ出す先はなく。そもそも人として、逃げる訳にもいかないので。
ただじっと、その時を待った。
「……いーち、にーい、さーん、しーい──」
──不意に。
渡良瀬の口から、謎の秒数カウントが刻まれ始めた。
否──
とても、よく、知っている。
「ごー……ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉー…………」
その証拠に。
ぉぉぉぉぉ、という声を吐き出しながら、渡良瀬の首がどんどんどんどん項垂れていく。自慢の黒い後ろ髪が前へ前へと垂れ下がっていき、渡良瀬の表情が見えなくなる。
怖い。最高に怖い。
「…………く」
そして、とうとう。
カウントが、止まった。
部屋に訪れる沈黙。俺だけでなく外野連中も声を発することが出来ない、圧倒的威圧感。それが今、渡良瀬の身体から放たれていた。暗黒闘気と言い換えてもよかった。
この後に何が起こるのかも、俺はもう、知っている。
たかが6秒数えた程度で、吹き飛ぶような感情なら。
それは別に、
「──
「はい」
「この……この────」
だから俺は、ただ粛々と受け入れた。
元へと戻ってしまった呼び方も、わなわなと震えながら伸ばされたその両手が、
……のど?
直後。
万力のような力が、俺の喉元を締め上げた。
「くそぼけ──────────!!」
「ぐえええええええええ────!!」
その拍子に、覆われていた渡良瀬の顔が顕になる。
頬を真っ赤に染め上げて、目尻にかすかな涙を湛える、典型的な──
ただし。表情に反して、やっている行為が。
令和基準の
「わっ……わたらっ、わたらせっ──しっ、死ぬ……!」
「やかましいぃぃぃぃ!! しねえぇぇぇぇぇぇ!!」
「なんか最近聞いたような台詞だよねギザさん」
「全部
で、死に征く
なんてことはない。昨日散々、こいつのことをボロクソにこき下ろしておきながら──
人類史上最低最悪のブーメラン使いは、俺だったのだという。そんな気付き。
「あああ……そんな、なんてこと……このわたくしとしたことが、彼の真意を
「ま、そういう日もあるよ瞳さん。昔から言うでしょ?
「……それ、使い方間違ってないかしら?」
そしてそこのお二人さん。ポエムで〆ようとしてないで助けて下さい。あなた達の娘が殺人未遂の現行犯になろうとしています。つくづく渡良瀬ってのはこの二人の娘なんだなっていう……あっ意識が……視界に……靄が……。
「わっ……渡良瀬、悪かった……俺、ちゃんと、考え……お前のこと、真剣に……」
「黙りなさい! 忘れて! 忘れろぉぉぉぉぉ!!」
これもどっかで聞いた台詞だな、と思いつつ。
消えゆく意識の中で俺は、ぼんやりと、考えた。
……いいや。そりゃ無理だよ、渡良瀬。
もう一生、忘れられそうにない。それこそたとえ、最高クラスの記憶処理を施されたとしても、絶対に。
皮肉なもんだ。俺もまた、昨日のお前と同じように。
フラグがバキバキにへし折れた後で、その
「忘れろビィィィィ────ッム!!」
往年の名声優もかくやというシャウトが、響き渡る中。
こんなことを、思った。
──不肖、赤嶺陽彩は。
クラスメイトでチームメイトの、渡良瀬凛音さんを。
好きになっちゃったみたいです。どうやら。
でも今更もう遅いみたいなので、来世から本気出そうと思います。
転生物になっちゃったね。結局。
それでは、皆様お元気で。
来世でまた会おう! Yeah!!
(最終回じゃ)ないです