VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで 作:Amisuru
「……あの、
「いい? お姉様。確かに趣味に走るのは大事なことよ、私の二刀流だってそうだもの。でもね、私の見る限り『フーフォン』からは
「な、なるほどぉ〜……ところでセリンちゃん、ヒーローくんが呼んでるみたいだけど……」
「にしても時代は変わったのね。私の時代のフロート型と言えば、地上での移動速度と引き換えに劣悪な空中性能を持たされた産廃一歩手前のカテゴリーだったのだけれど、
「お、おお……」
「…………」
昔、とある乙女座の男が言っていました。
愛を超越すれば憎しみになるのだと。
俺は今、それを実感しています。
ご覧の通り、我々の元へと返ってきました。
今後一切、お母様が口出しすることもなくなりました。完全勝利です。
当初の目標としてはね。
代償もまた、ご覧の通り。
朝方の
俺と
残念だが、当然。
クソボケに相応しい最期と言えるでしょう。はい。
あの後。
来世に向かって旅立つところを『それ以上いけない』と制止に入って下さったお父様のおかげで、
お母様からも無事、合格判定を頂きました。
『次はないですからね』という脅し付きで。
そりゃあね。娘の感情天国から地獄に叩き落とした訳だからね。むしろよく許可貰えたよね。その場で殺されても文句言えないと思ってたよ正直。
ただし。
一つの
正確に言うと、区切りというか。
渡良瀬の
『──皆様方の掲げておられる『
『……ええ。わかります』
そう。
前に俺も渡良瀬も、いつまでもWTやってる訳にはいかないって話したの覚えてるかな。お母様が
4月現在。高校2年生の俺と渡良瀬が、再来年に控えているイベント。言うまでもなく、
それに向けての区切り時が、8月末。部活みたいなもんだと思えば妥当な話だ。リーグ戦期間のことを思えばもう一月くらい続けさせてほしかったが、流石にそこまでWT漬けだと将来が危ないからな。俺達の。
満場一致で、お母様の提案は受け入れられた。ギーザーとユメさんの二人も、その時を自身の
よって。
来年、8月末を持ちまして。
我々『イノセンス・モラトリアム』は、活動を休止致します。
アイドルか何かじゃあるまいし、辞めたところで別に誰も困らないって話なんですけどね。
で。
それらの取り決めをもちまして、渡良瀬家からは即時撤収の運びとなりました。
本当だったらね。そのまま4人でファミレスでも行ってセリンちゃん奪還おめでとうパーティーとか開くのが自然な流れだったと思うんですけどね。
何処ぞのクソボケがやらかしたせいでね。とてもじゃないけど切り出せませんでした。誰も。
何なら今日来ないかもしれないと思ったしな、
とにかく現在、19時02分。
20時のリーグ戦開始まで、残り1時間を切っています。
今我々が訪れているのは、リーグ戦の舞台となる
周囲には我々同様、この日のために牙を研いできたであろうBクラスリーガーの皆様方がうじゃうじゃいらっしゃいます。Aクラスの方々はいません。会場が違うからね。
というか俺達は言うほど研いでないな。牙。昨日今日とそれどころじゃなかったし、一昨日だってチームとしては例の
まあどうにでもなるだろう。Bクラスまでなら。
「…………」
問題は渡良瀬だ。
より正確に言うなら、
はっきり言って、状況は最悪だと言っていい。取り付く島もないとはこのことだ。何ならチームに誘う前の方が、まだ良好な関係を築けていたと思う。普通にコミュニケーション成立してたしな。見ろよ今の俺の有様を。完全にいない者として扱われてるよ。救いはないのですか……?
まあ完全に、自業自得なんですけど。
にしても、本当に──どうしたらいいものか。
「…………」
……改めて。
とんでもないことを、言われてしまった。
言われた時は正直、困惑でそれどころじゃなかったが、こうして冷静になって思い返してみると──
……心臓が、跳ねる。
まさか──まさか渡良瀬に、そこまで重い感情を抱かれているなんて、思いもしなかった。
いつだ? 何処でそんなにあいつの好感度を稼いだ? だって俺が、あいつにやったことと言えば──
教室で昔のあいつの動画を見て泣かせ。
体育の時間にあいつの事情を深掘りして泣かせ。
「…………」
……わからん。
いやごめん。マジで理解らない。なんでこれで俺惚れられてるの? カスの見本市じゃない? それでトドメが朝の
女心は複雑怪奇。欧州情勢も目じゃないぜ、まったく。
「──おう、ヒーロー」
などと、第35代内閣総理大臣の如く脳内でぼやいていると。
金髪の──もとい、眼帯の2m越え親父が急に声を掛けてきた。
「試合までまだ結構時間あんだろ? 本番前の
「……は? どういう風の吹き回しだよ、今までそんなこと一度も──」
「いーからいーから。な? よーユメ、セリン。
「はいはーい。どうぞご勝手にー」
「……え? あの、ちょっとお姉様──」
「おら、お姉サマの許可も貰ったしさっさと行こーぜ」
「いや、別に俺は行くとは──ちょ、引っ張んなって! 大体向こう行くなら
「いーからいーから。な?」
「新手のbotと化すのやめろォ!!」
何だってんだ、一体。
だがまあ──そうだな。
このどうにもならない現状に対する気分転換としては、有りかもしれない。
ギーザーの手を振り解いて、俺は自身の足で、先を行く大男の背中を追いかけていった。
「──あ……」
……行っちゃった。
行ってしまった。
結局一言も、言葉を交わせないままで。
朝のことも、これからのことも、一切話せないままで。
……どうしよう。
本当に──わたし、どうしたらいいの……?
「──さてと」
などと、人混みの中に消えた二人を眺めていると。
私の前にぴょこんと飛び出したお姉様が、畏まった様子で。
「で、ヒーローくんとはいつ仲直りするのかな? セリンちゃん」
「うはぁえ!?」
「凄い声出たね今」
のっけから全力で切り込んできた。
そっ……そうだよね、お姉様だって当然気になってるよね……もしかして、隊長さんが彼を連れていったのもこの話をするためなんじゃ……お姉様と隊長さん、なんて阿吽の呼吸なんだろう。元々こんなに仲良かったのかしら? それとも
正直羨ましい。とても。
……私と彼は、あんなにも盛大に、
「ゔあぁああああぁあ────!!」
「わ──! セリンちゃんダメだって、ここほら周りに人いっぱいいるから人! ね!? ちょっとほらこっち来てこっち──」
「リンちゃん!? どうしたの大丈夫!?」
「心配性だなあ瞳さん。友達とゲームしてるんだから大声上げることくらいいくらでもあるって。むしろ声がする方がよっぽど安心──」
「出てけ────────!!」
ごめんねお母さん。気が動転してたせいで思わず本音が出ちゃった。そんなこと言える立場じゃないのにね、私。
だけど、ね? お父さんの言うとおりなの。完全に。
これからは私、目一杯騒ぐと思うから。3年間ずっと、我慢してた分。
だから全然、気にしないでくれると嬉しいな。
私はもう、大丈夫だから。本当に。
……もしかしたらすぐに、
彼との今後次第では。
「──どう? 落ち着いた?」
「……うん」
人気の多い表通りを離れ、私とお姉様は一足先に
お姉様曰く、試合開始の10分前になるとここから自動で対戦ステージへと転送される仕組みになっているのだという。そこからAIによる互いのチーム紹介とステージ説明が挟まれた後、私達と一緒に転送された各々の機体に乗り込み、時間になったら戦闘開始──というのが、基本的なリーグ戦の流れなんだとか。
随分持って回ったやり方をするんだなと思っていたら、どうやらリーグ戦の内容は『Wasteland Titans』の公式アカウントによる配信コンテンツになっているらしい。特に注目度の高い試合は『ピックアップバトル』という形で大々的に扱われ、AIではなく生の実況付きで試合が配信されるのだという。前期の『イノセンス・モラトリアム』の最終試合も
で、今日も。
私達の試合はその、
理由は何となく、想像が付く。
大方ピックアップの対象チームを決める人達が、開幕戦はどのチームにスポットを当てるかということで候補に挙げたんだろう。前期全敗の『イノセンス・モラトリアム』を。それで前期を3人だけで戦い抜いた史上最弱のチームに、どんな馬の骨が入ったのかと確認してみたら──
3年前に消えた筈の、
完全に妄想だけれど、割といい線いってるんじゃないかなって思う。それとも自惚れ過ぎかしらね? 流石に。
そんな話はどうでもいい。
今はただ、とにかく──彼のことだ。
……
私──私。
これから一体、どんな顔であなたと話せばいいの……?
「それじゃあ、改めて──セリンちゃんに根掘り葉掘り、聞いちゃおっかなあ」
「──え」
「ぶっちゃけなんでホレたの? ヒーローくんに」
「わ──!! わわわわわ、わ────!!」
「ぐへへへ、泣こうが喚こうが誰も来やしねえぜ嬢ちゃんよお……自分に正直になろうや……ふひひひひ」
「いやあああ! 私のお姉様はそんな下品な声で笑わないのおおおおおおお!」
ご丁寧に『にやけ面』の
「ま、悪ふざけはこのくらいにするとして……実際のとこどうなんですか? セリンちゃん。あんな隙あらば即人のこと泣かせようとする鬼畜小僧のどこを気に入ったというのかね。後学のために是非とも教えていただきたいです」
「な、なんだか前より言い方が辛辣になってるような……それにお姉様、後学も何も私に教わることなんて何もないんじゃ……あんなに可愛いのに……」
「わたしの話はいいんです。さあ、洗いざらいをぶちまけたまえ。包み隠さず」
「う、うぅ……」
……はずかしい。いや、皆の前であれだけのことを言っておいて今更何を恥ずかしがる必要があるのかって思われるかもしれないけれど、あのときは──その、それどころじゃなかったから。
まあ、一瞬で全部砕け散ったんだけど。幸せ。
ごめんなさい。これ以上の想起は命に関わるわ。私の。
「……上着をね。被せてくれたの、頭に」
代わりに、私は。
「単なるクラスメイトの私と、友達になりたいって言ってくれた。私の
──
これは流石に、誤解を招くから、言えないけれど。
……そうだ。
私はもう、何度も何度も、
もしかしたら、その一つ一つが。その全てが。
私にとっての
……ああ、そうだ。
私と彼は、本当に──滑稽なほど、すれ違ってしまったけれど。
彼の与えてくれた
だから、きっと。
彼があのとき言っていた、あの言葉も──
「……ぅあ」
──ああ、ダメだ。
やっぱり、私──ダメだ。
「好き──私、彼のことが、好き……」
ただでさえ、大好きだった男の子に。
あんな──あんなことを、言われてしまって。
おかしくならない女の子なんて、いない。絶対に。
「私──今でも私、陽彩くんのこと、好きだよぉ……!」
溢れ出したらもう、止まらなかった。
涙も──
きっともう、何があっても、捨てられない。
それこそ何千何万回、すれ違ったとしても──きっと。
「……すごいなあ」
そうして結局、あの日のように泣きじゃくってしまった私を。
このひとは当然のように、抱き締めて、支えてくれる。
お姉様。彼とは違うベクトルで、心の底から大好きな、私の自慢のお姉様。
本当に、私──
あなた達のいない世界なんて、考えられない。考えたくもない。
ここが私の居場所なんだ。
もう決して、手放そうなんて思ったりしない。絶対に。
「人を本気で好きになるって、そんな感じなんだなあ……全然わかんないや、わたし。これは本当に」
「……お姉様?」
「ううん、こっちの話。……そういうことなら、するしかないよね? 仲直り」
「ううぅ……そうだけど、そうなんだけど……」
……怖い。
彼が一体、どんな答えを出すのかが──怖い。
真剣に考えるとは言っていた。
けれど──その結果、
だってそうじゃない? 私は彼に、明確にそう突き付けられたばっかりなのよ?
あっ死ぬ。狂いそう。いやもう一周回って冷静になってきたような気がする。とにかくその、私は派手に
だからずっと、彼と言葉を交わせなかった。あれから、今まで。
彼の答えを聞くのが──怖くて。
「……多分だけどね? セリンちゃんが心配してるようなことにはならないと思うよ、きっと」
「……ぅえ?」
そんなどうしようもない、臆病者の私を。
このひとはいつだって慰めて、励ましてくれる。
「セリンちゃんの
「何やってるのお姉様……」
「とにかくそういうワケだから、フラグが折れたと諦めるのはまだ早いぞよセリンちゃん。きっと今頃あっちのおじさんも、あの手この手であの子のお尻を引っぱたいてるに違いないからね。愛のキューピッドコンビと読んでくれたまえ」
「……それ、本当に呼んでも大丈夫? 怒らない?」
「いや……うん、勢いで言ってみたけど最高に痛いね……ごめん忘れて……金輪際……」
しょぼん、といかにも落ち込んだ様子で『雨』の
覚えが早いのだ。きっと。その気になれば、という枕詞が付くのかもしれないけれど。
……そうなのかな。
本当に、私──
「……もう一度、見てもいいのかな。あんな素敵な──」
「
その先の、言葉を。
私の代わりに、お姉様が、引き継いでくれた。
「あなたの
……ああ、やっぱり。
名は体を表すというのは、本当なのかもしれない。
だって、何の、保証にも。何の確約にもなっていない、単なる言葉遊びなのに。
それだけで、私、本当に──
──何もかもがこのひとの、言うとおりになるような。
そんな安心感にたちまち、包まれてしまったのだから。