VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで 作:Amisuru
「──で、どうすんだ。
「…………」
……開口一番、それか。
対戦エリアに向かうのかと思いきや、その手前の会場エリア側で足を止めて入口広場のベンチへと歩を進めた時点でおかしいとは思っていた。最初からその話をするのが、こいつの目的だったという訳だ。
だがまあ、仕方ない。
正直もう、猫の手も借りたい気分なのだ。
よりにもよってこのおっさん相手に、こんな相談をする日が来るとは思いもしなかったけれど。
入口広場は巨大な噴水をシンボルに謎のモニュメント群やら適当な木やらが立ち並ぶ、極々普通の広場である。その名の通り荒野が舞台の『Wasteland Titans』ではあるが、タイタンなどという超兵器が存在することからも判る通り、人の手が入った区域は充分な発展を遂げている。
俺は溜息と共に、先にギーザーの腰掛けたベンチへと隣に並んで座り込んだ。ちなみに
「……どうすりゃいいと思う?」
「質問を質問で返すなよ。爆死する羽目になんぞ」
「鉄球ぶつけられる方かもしんないけどな。……あの有様で何が出来るってんだ、俺に。北風も太陽も浴びせようがない」
「で、
「…………」
……また実に、答えづらいところに食いつきやがって。
北風と太陽。
そんなものは今更、考えるまでもない。
「……太陽」
わざわざ、童話に倣うまでもなく。
俺は初めから、あいつに
結果はもう、散々なものに終わってしまったけれど。
「おし戻るか」
「はァ!? いや早えよ、一切何も解決してないだろ! 大体な、それを伝えようにも伝えられないから苦労してるって話で──」
「なーにを苦労する必要があるってんだ。おめーらしくもねえ」
「いや、俺らしくって──」
「
……つくづく、さっきから。
痛いとこばっか突いてきやがる、こいつ。
「いつものおめーだったら、セリンの態度になんざ構わずぶっ込んでた筈だぜ。おめーの言いたいことをな。それが出来てねー時点でもう、おめーは
「屈辱過ぎてキレ散らかしそうなんだが殴っていいか?」
「おーおー、顔だろーが腹だろーが好きにしやがれ。顔は
「噴ッッッ!!」
「ぐああああああああ! てっ……てめーこの野郎、よりにもよってオレのか弱い膝を狙い撃ちしやがって! ユメーといいおめーといい人の膝を何だと思ってやがんだ膝を!」
「そんなに膝が好きならもう膝と結婚しろよギーザー」
「オレは別にロボコでも天田美雪でもねーんだよ……!」
後者も別に好きって訳ではないと思うぞ。膝。
とりあえず溜飲は下がった。そして確かに──俺らしくもなかった。それは認める。
しかし──いざ
……いや。
そもそもの問題として、だ。
……俺は、本当に。
あいつのことを、
「……なあ、ギーザー」
「おー、いててて……あーくそ、何だってんだよ人の膝を神谷活心流ばりに破壊しておいて──」
「女に惚れる感覚って、一体どんな感じなんだ?」
「ぶっ!!」
膝を抑えて悶絶しているギーザーの口から、盛大な吹き出し音が響き渡った。良かったわーここが
「……何が悲しくってこの歳で、ガキンチョ相手にガチの恋愛相談されなきゃならねーんだ……?」
「アンタが始めた物語だろ。
「どう見ても困ってる奴の態度じゃねーんだよなあ……」
「そう見えるか? ……内心大真面目だよ、俺は。本気で考えても答えが見つからない難題だ」
それはもう。
散々俺を足踏みさせている、
確かに
しかしあれから、半日近くの間が空いて。改めて自分を問い質してみた時、こんな疑念が頭を過ったのだ。
俺の感じた、
あいつに
「…………」
……愛。
──愛!
今時こんな大仰な言葉を浴びる男子高校生が、果たしてこの世に存在するものだろうか?
いるさ。ここに一人な。
間違っても、ヒューッなんて口笛を吹いている余裕は、ないのだけれど。
好きか嫌いかで言うなら間違いなく、好きだと思う。
しかしそれが、
愛って何だ。躊躇わないことさと、昔の人は言っていたけれど。
それならば。間違いなく、今の俺は──
あいつのことを、
こんなにも懊悩に苛まれて、明確な形の見えない感情が──愛などと呼べるものである筈が、ない。
だから俺は、迷っている。
こんな半端な気持ちのまま、あいつと──渡良瀬と向き合っていいものか、悩んでいるのだ。
「……女に惚れる感覚、ねえ」
がしがしと、隣の大男が頭を掻いている。面倒事を処理する時のこのおっさんの癖だ。きっと
「『なんかいいなこいつ』で充分だろ、そんなの」
「……そんなもんなのか? なんか軽くない?」
「別にいいんじゃねーの? いきなり相手の重さに合わせようとしなくたってよ。んなモンくっ付いちまえば勝手に釣り合い取れるように出来てんだよ。んでもって釣り合わなけりゃそこで
「……ちなみにそれ、
「……身近なサンプルが数件、とだけ言っといてやる」
……なるほど。
数としては不充分だが、0よりは参考になる。ずっと。
ついでに言うとこいつは多分、
こうなると成功例も欲しくなるな……男じゃないけどユメさんにも聞いてみようかな……経験豊富そうだし……。
や、
「大体な。重いか重くねーかで言うなら、おめーの方こそ大概だろーがよ」
「……は?」
「『今が一番幸せだって、何回だって言わせたい』……だっけか? オレから言わせりゃ、
「……あれは──」
どういうつもりと聞かれても。
あの夜あいつは、大好きだった
今にして思えば、お母様のやったことも決して間違ってはいなかったのだけれど──それに理不尽を感じた俺は、心の底から、思ったのだ。
「……
──そうだ。
俺はただ、あれ以上あいつが悲しみに暮れているところを見たくなかった。味わせたくなかった。
もう一度あいつに、心の底から、笑ってほしくて──
──
……なら、
俺は何故、あいつを
……どうして、俺は。
「──気付いちまったな、ミスター
そんな俺の胸中を、見透かしたように。
どっかで聞いたような台詞と共に、人生の大先輩様は、断言した。
「
……そうか。
多分あいつが、
俺の方こそが先に、あいつのことを──
──好きだったのだ。きっと。
とっくの昔に、
渡良瀬凛音という、世界最強のエースパイロットに。
「……ギーザー」
「あ?」
「今から俺、最高に死亡フラグなこと言うぞ」
「……へえ? そりゃどんなだ?」
……すっとぼけやがって、こいつ。
俺よりアンタの方が断然詳しいだろ、そういうの。ただでさえ俺以上に年季の入ったオタクなんだし、その上──
──
「俺、今日の試合が終わったら──
目的地は、決まった。
さあ、俺らしく行こう。
「……ったく、つくづく可愛げのねー野郎だよおめーは。もっと躊躇うとかそういうのねーのかよ?」
「馬鹿言えよ。充分過ぎるほど悩んだんだ、むしろ無駄に時間をかけ過ぎた。こういうのは早ければ早いほどいいんだよ、天下の
「あー、アニメも終わっちまったなあ……まさかウルフウッドが……」
「ちょっと待ってくれ。完結してから配信で一気見しようと思ってまだ観れてないんだよ」
「あー、そう言って積んでるうちに結局観なくなるパターンな。あるあるだわ」
「いや観るから。トライガンだけは絶対全部観るから。旧アニの劇場版だって観たから」
とまあ、すっかり俺達の空気が
唐突に、その声は浴びせられた。
「──やや? おぬしらは──
やたらと時代がかった、野太い男の声。
え、なんすかと思いつつ。声のする方へと、ギーザーと共に視線を投げてみると──
何故一目で忍者だと思ったのか? ナムアミダブツ……その男はDLC衣装の忍び装束を身に纏い、指でなにがしかの印を切り、背中に
忍べよ。
「……どちら様ですか?」
「ククク……笑止。これより死合う相手の顔すら碌に把握しておらぬとは……」
「隠密が足りておらぬでござるなあ、兄者」
「然り然り」
「うわなんか増えた」
一人かと思ったら背後に三人も隠れていやがった。一瞬分身したのかと思ったわ、忍者だけに。衣装がそれぞれ色違いだから別人だって判るけど。
……というか、何?
ひょっとして、あなた方が本日の──
「……対戦相手の、『ニニン
「然り然り!」
「ククク……笑止。前期Aクラス下位の中でも、最も多くの勝ち点を稼いだ我らのことを碌に知らぬと見える」
「隠密が足りておらぬでござるなあ、兄者」
「えらいキャラ濃い連中が落ちてきやがったな……」
別世界の住人を見るような遠い目で、ギーザーが感想を漏らした。や、そういう顔に見えたんだよ。
前期Aクラス下位──ということは即ち、こいつらは上からの
「……そういえば、去年の上半期にも見かけた覚えあるなアンタら。直接対戦する機会はなかったけど」
「当然でござろう? 拙者達は上半期の昇格チーム、対しておぬしらはシーズン全敗の弱小チーム! リーグ戦の仕組み上、初戦でマッチングしない限りまず対決の機会などあり得ぬのでござるからなあ!」
「いや、オレらが全敗したのは下半期だけで上半期は10連勝とかしてたんだが……」
リーグ戦の仕組み──そう、リリースから4年の時を経た今でも、アクティブプレイヤー数云十万人を誇っている『Wasteland Titans』。勿論全てのプレイヤーがリーグ戦に参加している訳ではないとはいえ、到底総当たりなど出来る筈もない。
という訳で、リーグ戦の組み合わせは一試合毎に同等の勝ち点を稼いだチーム同士がランダムでマッチングする仕組みとなっている。そうすることによってある程度、マッチング運のみで昇格・降格してしまうようなチームの発生を防ごうという訳だ。
我ら『イノセンス・モラトリアム』も昨年上半期は破竹の10連勝を成し遂げたりもしたのだが、そもそもリーグ戦自体への参加が遅過ぎたせいで惜しくも昇格ラインには届かなかった。昇格組のこいつらと当たる機会がなかったのもむべなるかな、という話。
「ククク……笑止!」
「然り然り!」
「そちらの弟さん方って単一の台詞しか吐けない改造手術か何かでも受けていらっしゃる?」
「上半期ぃ〜? 何を偉そうにほざいているのでござるかぁ〜? おぬしらがかつてそれほどの勝利を重ねられたのは、あのプロゲーマーチーム『
「隠密が足りているでござるなあ兄者!」
お主の言う隠密とは一体何なのだ弟者。多分情報収集とかそんな感じの意味合いで使っているものと推測される。そしてこの件に関しては、間違いなく兄者様の仰る通りであった。
かつて俺達と共に荒野を駆け抜けていた、リベさん──もとい、プレイヤーネーム『Liberta』。あのひとの存在こそが、かつての『イノセンス・モラトリアム』を昇格一歩手前まで引き上げた原動力だった。そして彼女が去った後の俺達が、下半期にて見るも無惨な戦績を残したことも既に何度かお伝えした通り。
腐れ運営様が俺らの下半期最終戦をピックアップなんぞして下さったせいもあって、今や我々『イノセンス・モラトリアム』の弱さは数多のWTプレイヤー達の知るところとなっている。この忍者軍団のイキり具合もそういうことなんだろう。ちょうど試合前に当の俺達を見かけたものだから、ゲーマー特有の煽りカス精神に火が付いてこうして絡んできてしまった、と。
「『Liberta』嬢なきおぬしらの現状、拙者達が知らぬとでも思うたか! Bクラスへの降格は実に無念でござったが、初戦の相手がおぬしらというのはなんとも好都合! さくっと蹴散らし昇格への弾みとしてくれるでござる!」
「然り然り!」
「隠密!」
「笑止!」
「おめーらとりあえずそれだけ言ってりゃコミュニケーション成立すると思ってねーか?」
兄者の陰でやいのやいのと騒いでいる
さておき。
煽られたからには煽り返すのが、我らゲーマーの正しいマナーである。そして此度のレスバであるが、
が、流石に
が、しかしですね。
人類史上最低最悪のブーメラン使いを名乗る者としてはですね。
目の前に投げ返せそうな
「……一つだけ、お伺いしたいのですが」
「ぬ?」
「あなた方は初戦の組み合わせが決まってから今日に至るまで、一度でも
別に面倒な作業じゃない。一分と掛からずに終わる。
メニュー
それでも確かに、知ることだけは出来るのだ。
「ククク……笑止!」
言うと思ったよ、青の弟者。
その言葉が聞きたかった。
「サイゾウの言う通りよ! 今のおぬしらぁ?
「然り然り!」
「ははあ……なるほどなるほど、それはそれは──」
黄色い弟者の
悪いね、ミスター
貴方の投げつけた
「──
いたんですよ、
手を貸してくれたっていうより、掴んで引っ張ってきたんですけどね。