VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで 作:Amisuru
『──『Wasteland Titans』プレイヤーの皆様、今年もついにこの季節がやって参りました! 上半期シーズンの到来! 前期惜しくも昇格を逃し涙を飲んだチームも、Aクラスから転げ落ち再起に燃えるチームも、はたまた今期が初参戦という期待の
滑舌の良い実況者の口上が
そもそも俺らが今いる場所、
Bクラスリーグ戦第一試合、使用ステージは『居住区A』。荒野のど真ん中にぽつんと築かれた、エスニックな雰囲気の建物が並ぶ生活区域が今回の舞台だ。こんなところで
試合開始10分前。
我ら『イノセンス・モラトリアム』、そして対戦相手の『ニニン
『さて、本日私が実況を務めさせていただくのは、チーム『イノセンス・モラトリアム』とチーム『ニニン=Ⅳ』の一戦! 『ニニン=Ⅳ』は前期Aクラス下位の中でも最も多くの勝ち点を稼いだチーム、その実力は紛れもなくBクラス屈指! 今期の昇格候補最有力と言えるでしょう! 対する『イノセンス・モラトリアム』ですが、こちらは前期まさかのシーズン全敗! その実力差は一目瞭然、試合前から結果は見えていると言わんばかりですが──』
「相変わらず言いたい放題だよな
「ま、向こうもお仕事だからな。視聴者サマのために必死こいて盛り上げねーといけねーんだよ、ただでさえBクラスなんざ試合自体は大して見所ねーんだし」
「世知辛い話だねえ……」
しみじみとした口調で締め括る23歳幼女。大人って大変なんですねと言わんばかりである。あなたもその大人の仲間入りしてないといけない筈なんですけどね、本当は。
それはさておき、一応配信コンテンツ扱いとなっている
で、その下半期シーズンが締め括られた以上、腐れ運営達はもう俺達なんぞに用はない筈だっただろう。ところが今期も開幕戦から、我ら『イノセンス・モラトリアム』はこうしてスポットライトを浴びる羽目になっている。
その理由は間も無く、実況者様の口から語られることとなった。
『──ご覧下さい! お見えになるでしょうか!? チーム『イノセンス・モラトリアム』、その4人目に刻まれたプレイヤーネームが! 我々はこの名前を知っている! 彼女が残したその伝説を知っているッ! 『Wasteland Titans』にプレイヤーネームの被りはありませんッ! 故に──本物、本物ですッ!!』
「あ、あわわわわ……」
「おーおー、派手に煽りやがる」
「大注目だねセリンちゃん」
「か、からかわないでお姉様……というか、今のWTって毎回こんな感じなの……?」
「安心しな。PU戦だけだよ、ここまで無駄に煽り立てんのは。とはいえおめーくらいにBクラスん中で際立ってっと、下手したらシーズン丸ごとピックアップ対象なんてこともあり得るかもな?
「いやあああああああ……」
「はいはーい、セリンちゃんよしよーし」
弱々しくぷるぷる震え出した電子の荒野最強の少女を、落ち着かせるように撫で回す栗毛パーマの幼女。この光景を見て一体誰が、こいつのことを『
可愛い顔に騙されないで。彼女は
『──元プレイヤーランキング一位! 第一回の公式大会優勝者! プレイヤーネーム『serin』ッ! 3年間の長き沈黙を経て、
「──ござる!?」
それなりのスペースを挟んで向こう側に立っていた兄者様の口から、盛大な驚愕の声が漏れた。ござるってそんな使い方する言葉だったかな……まあこの口調がこいつらの
「しょ、笑止!」
「然り然り!」
「お、隠密が足りておらぬでござったか……」
「ええい、狼狽えるでない弟者達よ! このようなところに元全一がおられる筈もない! 斬れ! 斬れぇぇい!」
「それはもう忍者じゃなくて悪代官の台詞なんよ」
ゲームジャンルをロボットアクションから
さておき。どうやらこの忍者軍団は
『この3年間何処へと消えていたのか!? 何故今になって再び荒野へと舞い戻ってきたのか!? 彼女とチーム『イノセンス・モラトリアム』の間にどのような繋がりがあったというのか!? 疑問は尽きません、しかし彼女はここにいます! 我々にとってはそれだけが真実です! どうか皆様、拍手でお迎え下さい! 我らが
『ウオオオオオオオオー!!』
「はっ……はずかしい……」
「大袈裟だなおめーは。公式大会の時の方がよっぽど緊張したんじゃねーのか? あん時は
「あ、あの時はちゃんと試合の方に集中出来てたから……きょ、今日は、その……」
そう言って。
ちら、と
何故に渡良瀬が目の前の試合に集中出来ていないのか。答えはまあ、俺のせいだろう。忍者軍団との邂逅を経てチーム控え室で渡良瀬と合流した俺は、いの一番にあいつの前に立ち、言ったのだ。試合が終わったら控え室に残っててくれ、と。
多分、あいつも察している。俺の
それからというものの、完全に
『しかし! 果たして伝説は今も健在なのか、最強は今も最強のままなのか!? 私の見る限りserin選手の『ヘルディン』、なんと
「……う」
痛いところを突かれた、というように。
そう──おそらくそれこそが、あの
二日前に
故に。今のWTプレイヤーから見た『ヘルディン』というのは、ぶっちゃけた話完全なる
そんな機体で、
……改めて。
俺は本当に、化け物みたいな女の隣に並び立とうとしているなと、思った。
『とにかくこの試合が、今のserin選手の実力を測る試金石となることは間違いありません! Bクラスプレイヤーのみならず、Aクラスの猛者達にとっても注目の一戦となるでしょう! それでは続きまして、本日のステージ紹介ですが──』
「……ククククク……ハーッハッハッハァ! 笑止!!」
が、そうとは知らない青の弟者さん勇み足。
「お、隠密!」
「然り然り!」
「うむ! サイゾウの申すこと、一々ごもっとも! 何が伝説、何が
『SASUKE選手、非タイタン搭乗時の暴力行為はプレイヤーポイント没収などの厳罰に処される可能性がありますのでくれぐれも慎むように』
「はい」
奇声を上げて刀を振り回していた兄者が一瞬にして大人しくなった。今はいって言いましたかこの人? 最後まで徹底しろよ
ともあれ、ニニンがシノブ伝の皆様方は『ヘルディン』のロートルっぷりに勝機を見出したようだ。それ最高に死亡フラグだと思うんですけどね。『そんな骨董品で俺達に勝てると思ってんのか!』みたいな感じだろ? 俺の試合前に立てたフラグとどっちが強いか勝負だな。俺と兄者達の両方が散る可能性もまあ、ゼロじゃないけど。
何しろこれは、
最後に一人でも残っていた方が、勝者となるのだ。
『──それでは、試合開始5分前です! 双方各々の機体に乗り込み、
「見ておれ『serin』! 見ておれ『イノセンス・モラトリアム』! 我ら
「笑止!!」
「然り!!」
「隠密!!」
兄者の号令と共に、各自一斉に『煙玉』の
この
「……なんつーか、WTの遊び方にも色々あんだな」
「うーん、あの手のノリは本当にわかんないままでいいかなあ、わたし……」
「ま、俺も自分でやろうとまでは思わないけど……あそこまで突き抜けてると、心底楽しそうだなとは思うよ。正直アリだと思うね、忍者じゃなければ。忍者じゃなければ」
「おめーいつから忍殺魂に目覚めやがったヒーロー?」
ニンジャ死すべし。慈悲はない。
ともあれ今回、真に連中を
語録使いはこのくらいにしておきましょう。サヨナラ!
「ま、しょーもない話はこれくらいにするとして──ぼちぼちオレらも行くか」
「りょーかーい」
「……えっ? あの、今更だけど……隊長さん、作戦とかそういうのは──」
「あ? 前にも言っただろーが、オレの
皆が各々の機体へと歩を進めようとする中、一人その場に置いていかれようとしている
「『
「んっふっふ……なんか懐かしいねえこの感じ。久しぶりにわたしも調子乗れそうな気がしてきたぜ」
「おめーは絶対一人で突っ込むんじゃねーぞ、ユメ。仕掛ける時は必ず──」
「わたしを見てない敵だけ狙え、でしょー? はいはい、百も承知ですよおじさん」
「そー言って毎回すぐにテンパってぶっ放すんだよなおめーは……」
「ちっちっち、今日のわたしはもう呉下の阿蒙じゃないのです。三日経ったらお目目ぱちくりしないといけないのは男の子だけじゃないってことを見せちゃるけんのう」
「……おめー、なんか微妙にキャラ変わったか? 言葉遣いがどんどん変な方向に行ってるような気がすんぜ……」
などと呑気に掛け合いつつ、すたすたと自機の元へと歩き去っていく
と、なれば。
俺の仕事は、もう片方の泣き虫を落ち着かせてやることだろう。
「──
「!?」
敢えて。
今のこいつはまだ、切り替えが間に合っていないから。
「ひっ──陽彩くん!? ちょっ、これって配信されてるんじゃ……!?」
「普通に陽彩くんとか呼んでるお前が言うな。よっぽどデカい声出さない限りは拾われねえよ、タイタンの出す音に合わせて集音してんだから」
「そ、そうなんだ……よかった……」
ほっとしたように胸を撫で下ろす渡良瀬。まあ、流石に全国の皆様方が観てる中で本名ぶっぱは洒落にならんからな。ただでさえこいつの場合素顔の方は割れてるんだし。4年前のやつだけど。
それはさておき。
「あー……いや、お前が言うなって言い方は間違ってた。むしろ逆だわ、安心した」
「……え?」
「
「あ──それは、ご、ごめんなさい……」
「……なんでお前が謝るんだ」
「だ、だって……私、あなたに、ひどいこと……あんな、あんなことするつもりじゃ……」
「……渡良瀬」
……本当に。
どうして俺は、何度も何度もこいつのことを、泣かせてしまうんだろう。
こんな俺の何処がいいんだ、お前。人には偉そうに上から目線で説教垂れておきながら、肝心の自分は最低最悪のやらかし魔と来たもんだ。挙句の果てに、それを自覚した上で尚、今も再びお前のことを追い詰めてしまっている。
こういう時に、本当の
俺には全然、思いつかない。
そして今日も、俺の中にいるイマジナリー赤嶺陽彩君は返事をしてくれないので。
別の世界の
「……お前さ。マクロスプラス観たことある?」
「……は?」
「いや、この際スパロボの知識でもいい。α外伝だけでもやってりゃ
「……お父さんに勧められて、観たことあるけど……ど、どうして今そんな話を……?」
……グッド。
良い趣味してますよ、お父様。前田利家呼ばわりしたことを深くお詫び致します。まるで前田利家が不名誉な存在みたいな言い方だなこれ。加賀百万石の租ぞ? 天下の五大老ぞ? でも槍の又座って言うと途端にアレな感じに聞こえるから不思議なもんだよな。槍(意味深)。
そんな話はどうでもいい。
真面目な話をしよう。
「だったら話は早い。……今の俺らの状況に、ぴったりの台詞があるだろ」
「……それって──」
なんか、最近。
ちょっと前に口にした言葉が、形を変えて戻ってくることが多いな、と思う。
この台詞にしてもそうだ。確か昨日、ギーザーを相手に使ったばっかりだ。そして今度はこいつのために、そして何より──
──俺自身の、ために。
この言葉を、使おうとしている。
……まったく。
つくづくお前は、人類史上最悪のブーメラン使いだよ。赤嶺陽彩。
「……過ぎたことは、忘れようぜ。な?」
──俺の知る限り。
こいつが世界最強の、
まあこう言っておきながら、俺はきっと一生、あのやらかしを引き摺るだろうし。
お前もまた、俺の首を絞めたことを一生忘れないんだろうけど。
お互いそれを承知の上で、
お前の
そうすることでようやく、俺達の
「────」
「あー……なんだ、これだと微妙に間違った意図で伝わってるかもしんないな。俺のやったことは忘れなくて別にいいんだけど、むしろ本当にごめんとしか言いようがないんだけど、それはそれとしてお前のやったことは忘れていいんだっていう話で──」
「……そういうところ」
ぽつり、と。
俺の蛇足じみた説明は、そのたった一言で、止まった。
「あなたの、そういうところが──好き」
「……!?」
「……ずっと、そうだった。私はいつも、何度も何度も、あなたに泣かされてばかりだったけど──その度にあなたは、あの手この手で私を泣き止ませようとしてくれた──そんな優しいあなたのことが、私は──大好き」
「わっ……渡良瀬、お前、これ、配信中……」
「……聞こえないんでしょ?」
「いや……そうなんだけど、その筈……なんだけど……」
……あまりにも。
不意打ちが、過ぎる。
ただでさえこっちは、ようやく気持ちを自覚したばっかりだっていうのに。
こいつの感情は常に、俺の想像の遙か先へとぶっ飛んでいる。
……本当にこれ、釣り合いなんか取れるのか? 信じていいんだよな? ギーザー──
『──おい、ヒーロー! セリン! いつまでイチャコラやってんだ、もう始まるまで一分切ってんぞ! さっさと乗り込んで準備しろ!』
「──ふえ!?」
「うるせェ──!! なんかあったら責任取れおっさん!!」
『ああ!? 一体何の話──』
『あーもー、ギザさんまで乗っかってどうすんのこのすっとこどっこい! いいから二人ともさっさとダッシュ! ほら、ハリーハリー!』
「……行くか」
「う、うん……!」
流石にこれで、二人揃って
ちなみに今更ながら、WTの移動操作ってどうなってるのか説明するとだね。スティック型のコントローラーにボタンが付いてて、それを押しながら腕を振ると振りの速さに合わせて
だから今、
ゴーグルで目を覆われた二人のガキンチョが、それぞれ必死こいて全力で両腕ぶんぶん振ってる姿が拝めるわけ。
これが俺達のプレイしている、『Wasteland Titans』の
まあ、それでもね。
なんだかんだで楽しいですよ、こんなハリボテの異世界でも。
「──
「え──」
走りながら、呼んだ。
それが一体何を意味するのかは、流石にこいつも理解る筈だ。なんだかんだ言って、元WT最強の女なんだから。
赤嶺陽彩と渡良瀬凛音の時間は、もう終わり。
ここからの俺達は──Bクラスリーグ戦に臨む、『イノセンス・モラトリアム』のチームメンバー。
『REDHero』と、『serin』になる時だ。
「観たことありますかタイムpart2だ! 今度はロボット物じゃないし、アニメでもないけど──アベンジャーズってわかるか!? キャプテンアメリカとかアイアンマンとか出てくるやつ!」
「今度は一体何!?」
「このタイミングで言いたい台詞があったのを思い出したんだよ! ほらどっちだ!? イエスかノーかで答えろ今すぐ!」
「い──イエス!」
「グッド!!」
ダービー兄ばりの勢いでそう言って、隣を駆ける
別に焦る必要はない。何一つ。
今の俺達には、いくらでもその時間があるのだから。
先に
『プロタゴニスト』の胸部ハッチが展開し、中の
うーん、実に
ま、こんなもんですよ。
「陽彩くん!? 結局何を──」
で、話の途中で放置される格好になってしまったセリンとしては堪ったもんじゃない。俺の少し先で足を止めて、前方の『ヘルディン』と後方の俺とをちらちらと見比べている。律儀な奴。
慌てんなよ。すぐに終わる。
今のお前に必要なのは、本当に──この一言だけだ。
元ネタの方は
それでも、
言った。
「──
──さあ、見せつけてやろうぜ。
「…………」
……本当に。
あなたはいつも、私に一番必要なものを与えてくれる。
例えばそれは、涙を覆い隠すための上着だったり。
肩を並べて荒野を駆ける、
一度死に損なった私を、本当に殺してくれたり。
そして──
……いいんだよね? お姉様。
本当に、私──
──『
『セリン!? おいマジで時間ねーぞ、早くおめーも機体に乗り込め!』
『せ、セリンちゃん──』
……おっと。
そうだよね──
今は一旦、
皆が私を、呼んでいる。その名前で。
だから──下がってなさい、臆病で泣き虫の私。
恋する女の子の、私。
今必要とされているのは、
「──了解」
返答と共に踵を返して、走り出す。
幾度となくあなたと共に、
長い間待たせてしまって、ごめんなさいね。本当に。
きっとこれが、
──私と一緒に、
何百回と繰り返した動作だ。忘れる筈もない。
そしてまた──これからも、私はこの動作を繰り返す。
繰り返せるように、してくれた。みんなが。
『──全機搭乗確認! 対戦の準備が整いました! 試合開始までもう間も無くです!』
転送された
緊張はもう、ない。あるのはただ、使命感だけ。
お姉様が、私の鎖を外してくれた。
隊長さんが、私の罪を赦してくれた。
そして、彼が。
陽彩くんが、私を──
──『幸せにしてみせる』って、言ってくれた。
だから今、私はここにいる。
さあ──今こそ。
その恩を、返そう。
私には他に、みんなに与えられるものなんて、何もないから。
ただ一つ、約束しましょう。
勝利を。
『──それでは時間です! Bクラスリーグ戦上半期第一試合、チーム『イノセンス・モラトリアム』対チーム『ニニン=Ⅳ』!
『戦闘モード、起動』
「──行くわよ、『ヘルディン』」
やることは変わらない。何一つ。
私にとってはこの
思う存分、
きっとみんなは、そんな私を、今まで通りに──
──しっかりと、支えてくれる。
期待でも、呪いでも、何でもなく。
私はそう、
『──
私は──走り出したら、止ま
故に今日も、最初から。
──さあ。
『