VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで   作:Amisuru

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『Smash!!』

 

 

『──『Wasteland Titans』プレイヤーの皆様、今年もついにこの季節がやって参りました! 上半期シーズンの到来! 前期惜しくも昇格を逃し涙を飲んだチームも、Aクラスから転げ落ち再起に燃えるチームも、はたまた今期が初参戦という期待の新参者達(ニュービーズ)も、全てが等しく0からのスタート! そんなBクラスリーグ戦第一試合、実況は(わたくし)DJアオシマでお送りいたします』

 

 

 滑舌の良い実況者の口上が電子の荒野(Wasteland)に響き渡り、直後にウオオオオオオオオー!! と見えもしない観客共の歓声も届いてくる。うん、本当にただの録音音声なんですよ。

 そもそも俺らが今いる場所、闘技場(アリーナ)の中でも何でもないですからね。

 

 

 

 

 

 Bクラスリーグ戦第一試合、使用ステージは『居住区A』。荒野のど真ん中にぽつんと築かれた、エスニックな雰囲気の建物が並ぶ生活区域が今回の舞台だ。こんなところで戦争(ドンパチ)おっ始められたら堪ったもんじゃないだろうね、ここに住んでる人達は。

 試合開始10分前。闘技場(アリーナ)のチーム控え室に詰めていた俺達は、それぞれの愛機と共にここへと分身(アバター)を転送され、実況者の独演が終わり機体に乗り込むその時を今か今かと待っている。

 我ら『イノセンス・モラトリアム』、そして対戦相手の『ニニン=Ⅳ(がし)』。双方ともに欠勤者なし、4対4の公平(イーブン)な勝負です。ルールを守って楽しく決闘(デュエル)と行きましょう。

 

 

『さて、本日私が実況を務めさせていただくのは、チーム『イノセンス・モラトリアム』とチーム『ニニン=Ⅳ』の一戦! 『ニニン=Ⅳ』は前期Aクラス下位の中でも最も多くの勝ち点を稼いだチーム、その実力は紛れもなくBクラス屈指! 今期の昇格候補最有力と言えるでしょう! 対する『イノセンス・モラトリアム』ですが、こちらは前期まさかのシーズン全敗! その実力差は一目瞭然、試合前から結果は見えていると言わんばかりですが──』

「相変わらず言いたい放題だよなWT(ウェイタン)の実況」

「ま、向こうもお仕事だからな。視聴者サマのために必死こいて盛り上げねーといけねーんだよ、ただでさえBクラスなんざ試合自体は大して見所ねーんだし」

「世知辛い話だねえ……」

 

 

 しみじみとした口調で締め括る23歳幼女。大人って大変なんですねと言わんばかりである。あなたもその大人の仲間入りしてないといけない筈なんですけどね、本当は。

 それはさておき、一応配信コンテンツ扱いとなっている注目対戦(ピックアップバトル)ではあるが、基本的にBクラスとAクラスの試合では再生数に天と地ほどの差がある。理由は言うまでもなく、試合自体のレベルの差だ。わざわざ好き好んで下手糞(Bクラス)共の試合までチェックするような物好きなど、筋金入りのWT愛好家くらいのものであろう。なのでBクラスのピックアップ対象には、実力以外の()()()()が考慮されるパターンが非常に多い。シーズン全敗達成なるか注目、みたいなね。

 で、その下半期シーズンが締め括られた以上、腐れ運営達はもう俺達なんぞに用はない筈だっただろう。ところが今期も開幕戦から、我ら『イノセンス・モラトリアム』はこうしてスポットライトを浴びる羽目になっている。

 その理由は間も無く、実況者様の口から語られることとなった。

 

 

『──ご覧下さい! お見えになるでしょうか!? チーム『イノセンス・モラトリアム』、その4人目に刻まれたプレイヤーネームが! 我々はこの名前を知っている! 彼女が残したその伝説を知っているッ! 『Wasteland Titans』にプレイヤーネームの被りはありませんッ! 故に──本物、本物ですッ!!』

「あ、あわわわわ……」

「おーおー、派手に煽りやがる」

「大注目だねセリンちゃん」

「か、からかわないでお姉様……というか、今のWTって毎回こんな感じなの……?」

「安心しな。PU戦だけだよ、ここまで無駄に煽り立てんのは。とはいえおめーくらいにBクラスん中で際立ってっと、下手したらシーズン丸ごとピックアップ対象なんてこともあり得るかもな? 絶対女王(ミス・パーフェクト)

「いやあああああああ……」

「はいはーい、セリンちゃんよしよーし」

 

 

 弱々しくぷるぷる震え出した電子の荒野最強の少女を、落ち着かせるように撫で回す栗毛パーマの幼女。この光景を見て一体誰が、こいつのことを『完璧(パーフェクト)』などと思うだろう?

 可愛い顔に騙されないで。彼女は光波(ホームラン)マシーンだ。

 

 

『──元プレイヤーランキング一位! 第一回の公式大会優勝者! プレイヤーネーム『serin』ッ! 3年間の長き沈黙を経て、()()電子の妖精がついにWastelandへと帰還致しましたァ──ッ!!』

「──ござる!?」

 

 

 それなりのスペースを挟んで向こう側に立っていた兄者様の口から、盛大な驚愕の声が漏れた。ござるってそんな使い方する言葉だったかな……まあこの口調がこいつらの個性(アイデンティティ)って奴だもんな……明確な自分があるっていうのは素晴らしいことだと思うよ。自分探し(モラトリアム)真っ最中の身からするとだけど。

 

 

「しょ、笑止!」

「然り然り!」

「お、隠密が足りておらぬでござったか……」

「ええい、狼狽えるでない弟者達よ! このようなところに元全一がおられる筈もない! 斬れ! 斬れぇぇい!」

「それはもう忍者じゃなくて悪代官の台詞なんよ」

 

 

 ゲームジャンルをロボットアクションから生身戦(リアルファイト)に変えようとするな。卑怯だぞ、どいつもこいつも刀持ってるからって。

 さておき。どうやらこの忍者軍団は渡良瀬(セリン)の威光が通じる連中、即ち黎明期からの生き残り勢であるようだ。或いは俺と違って真面目にWT史のお勉強をしてたのか、まあどっちでもいいや。これがサプライズ忍者理論ならぬサプライズ渡良瀬理論です。ご堪能頂けたようで何より。

 

 

『この3年間何処へと消えていたのか!? 何故今になって再び荒野へと舞い戻ってきたのか!? 彼女とチーム『イノセンス・モラトリアム』の間にどのような繋がりがあったというのか!? 疑問は尽きません、しかし彼女はここにいます! 我々にとってはそれだけが真実です! どうか皆様、拍手でお迎え下さい! 我らが絶対女王(ミス・パーフェクト)の帰還をッ!!』

『ウオオオオオオオオー!!』

「はっ……はずかしい……」

「大袈裟だなおめーは。公式大会の時の方がよっぽど緊張したんじゃねーのか? あん時は現実(リアル)で大観衆に囲まれながら試合してたじゃねーか」

「あ、あの時はちゃんと試合の方に集中出来てたから……きょ、今日は、その……」

 

 

 そう言って。

 ちら、と渡良瀬(セリン)が俺の方へと視線を送ったのを感じた。いや、頭が動いたんだよ。分身(アバター)の。

 何故に渡良瀬が目の前の試合に集中出来ていないのか。答えはまあ、俺のせいだろう。忍者軍団との邂逅を経てチーム控え室で渡良瀬と合流した俺は、いの一番にあいつの前に立ち、言ったのだ。試合が終わったら控え室に残っててくれ、と。

 多分、あいつも察している。俺の()()がどっちなのかまでは判っていないかもしれないが、間違いなく朝方の一件に決着(ケリ)を付けるべく呼び止められたのだろう、ということは。

 それからというものの、完全に渡良瀬(こいつ)はこんな調子だ。凛々しい渡良瀬さんとは何処へやら、という具合である。流石にそろそろ気持ちを切り替えてもらわないと困るんだが。ふわふわするのはユメさんの相棒(フーフォン)だけで充分です。

 

 

『しかし! 果たして伝説は今も健在なのか、最強は今も最強のままなのか!? 私の見る限りserin選手の『ヘルディン』、なんと機体構成(アセンブル)に近年のパーツが何一つとして入っておりません! 最新でも3年前のパーツで更新が止まってしまっています! これでリーグ戦に乗り込もうというのは最強故の余裕か、はたまた慢心かーッ!?』

「……う」

 

 

 痛いところを突かれた、というように。

 渡良瀬(セリン)の口から僅かに、呻き声が漏れた。

 そう──おそらくそれこそが、あの親睦(わからせ)会で俺が奇跡の一発を叩き込めた最大の理由だったのだろう。

 二日前に渡良瀬(セリン)がWTへと復帰してから、今この瞬間に至るまで。こいつは一切、現環境に適応するための時間を取れなかった。3年の間に追加された新ミッションの攻略も、その報酬で手に入る新装備(パーツ)の獲得も、その他現環境の情報収集に割く時間も、何一つ。

 故に。今のWTプレイヤーから見た『ヘルディン』というのは、ぶっちゃけた話完全なる()()()()なのである。ガンダムMk-Ⅱから見たところの初代(ファースト)ガンダム、グレートマジンガーから見たところのマジンガーZ、ゲッタードラゴンから見たところのゲッター1etc──そんな存在。

 そんな機体で、渡良瀬(セリン)は俺達3人を相手にやってのけたのだ。()()を。

 

 

 ……改めて。

 俺は本当に、化け物みたいな女の隣に並び立とうとしているなと、思った。

 

 

『とにかくこの試合が、今のserin選手の実力を測る試金石となることは間違いありません! Bクラスプレイヤーのみならず、Aクラスの猛者達にとっても注目の一戦となるでしょう! それでは続きまして、本日のステージ紹介ですが──』

「……ククククク……ハーッハッハッハァ! 笑止!!

 

 

 が、そうとは知らない青の弟者さん勇み足。

 有利(アド)だと見做してしまいましたねえ、実況者からの情報を。

 

 

「お、隠密!」

「然り然り!」

「うむ! サイゾウの申すこと、一々ごもっとも! 何が伝説、何が絶対女王(ミス・パーフェクト)か! 所詮おぬしなど過去の亡霊、発売初期から研鑽を積んできた拙者らの敵ではないわ! 我が妖刀の錆としてくれる! キェェェェェェェイ!!」

『SASUKE選手、非タイタン搭乗時の暴力行為はプレイヤーポイント没収などの厳罰に処される可能性がありますのでくれぐれも慎むように』

「はい」

 

 

 奇声を上げて刀を振り回していた兄者が一瞬にして大人しくなった。今はいって言いましたかこの人? 最後まで徹底しろよごっこ遊び(ロールプレイ)をよ。

 ともあれ、ニニンがシノブ伝の皆様方は『ヘルディン』のロートルっぷりに勝機を見出したようだ。それ最高に死亡フラグだと思うんですけどね。『そんな骨董品で俺達に勝てると思ってんのか!』みたいな感じだろ? 俺の試合前に立てたフラグとどっちが強いか勝負だな。俺と兄者達の両方が散る可能性もまあ、ゼロじゃないけど。

 何しろこれは、集団(チーム)戦なので。

 最後に一人でも残っていた方が、勝者となるのだ。

 

 

『──それでは、試合開始5分前です! 双方各々の機体に乗り込み、操縦席(コックピット)にて開始の合図をお待ち下さい!』

「見ておれ『serin』! 見ておれ『イノセンス・モラトリアム』! 我ら義兄弟(きょうだい)の絆をとくと見せつけて、伝説とやらが()()()()に過ぎなかったことを証明してくれる! 弟者達よ、散ッ!!

「笑止!!」

「然り!!」

「隠密!!」

 

 

 兄者の号令と共に、各自一斉に『煙玉』の演出(エフェクト)機能を起動する『ニニン=Ⅳ』の皆様方。彼らの投げつけた玉っころが地面に直撃した瞬間、一瞬で周囲が白煙に包まれて視覚情報が役に立たなくなる。そうして時間が経ち煙が晴れた頃には、連中の姿は綺麗さっぱり目の前から消え失せていた。

 この演出(エフェクト)実装した奴誰なの? ロボットゲームに必要な要素じゃないだろどう考えても。連中の忍者服コスといい、世界観を大切にしろと言いたいです。もこもこ女児服の幼女とか連れてる俺らの言えた台詞じゃないかもしんないけど。

 

 

「……なんつーか、WTの遊び方にも色々あんだな」

「うーん、あの手のノリは本当にわかんないままでいいかなあ、わたし……」

「ま、俺も自分でやろうとまでは思わないけど……あそこまで突き抜けてると、心底楽しそうだなとは思うよ。正直アリだと思うね、忍者じゃなければ。忍者じゃなければ」

「おめーいつから忍殺魂に目覚めやがったヒーロー?」

 

 

 ニンジャ死すべし。慈悲はない。

 ともあれ今回、真に連中を殺す者(スレイヤー)は俺ではないのでね。

 語録使いはこのくらいにしておきましょう。サヨナラ!

 

 

「ま、しょーもない話はこれくらいにするとして──ぼちぼちオレらも行くか」

「りょーかーい」

「……えっ? あの、今更だけど……隊長さん、作戦とかそういうのは──」

「あ? 前にも言っただろーが、オレの()()はあん時から変わってねーよ」

 

 

 皆が各々の機体へと歩を進めようとする中、一人その場に置いていかれようとしている渡良瀬(セリン)。そんなあいつに、我らが隊長様はひらひらと手を振ってこの一言。

 

 

()()()()()()()()()()!』ってな。──安心しろよ、ガチで何もかも丸投げしようってワケじゃねえ。とにかくおめーは好きにやれ、こっちで勝手に合わせてやる」

「んっふっふ……なんか懐かしいねえこの感じ。久しぶりにわたしも調子乗れそうな気がしてきたぜ」

「おめーは絶対一人で突っ込むんじゃねーぞ、ユメ。仕掛ける時は必ず──」

「わたしを見てない敵だけ狙え、でしょー? はいはい、百も承知ですよおじさん」

「そー言って毎回すぐにテンパってぶっ放すんだよなおめーは……」

「ちっちっち、今日のわたしはもう呉下の阿蒙じゃないのです。三日経ったらお目目ぱちくりしないといけないのは男の子だけじゃないってことを見せちゃるけんのう」

「……おめー、なんか微妙にキャラ変わったか? 言葉遣いがどんどん変な方向に行ってるような気がすんぜ……」

 

 

 などと呑気に掛け合いつつ、すたすたと自機の元へと歩き去っていく大人(アダルト)コンビ。あの二人は何も心配いらなそうだな、うん。ギーザーはまだしも、ユメさんのメンタルがあそこまで安定してるのは正直意外だった。もしかしたら今日は泣かずに済むかもしれないな、あの人。

 

 

 と、なれば。

 俺の仕事は、もう片方の泣き虫を落ち着かせてやることだろう。

 

 

「──()()()

「!?」

 

 

 敢えて。

 ()()()()()で、呼んだ。

 今のこいつはまだ、切り替えが間に合っていないから。

 

 

「ひっ──陽彩くん!? ちょっ、これって配信されてるんじゃ……!?」

「普通に陽彩くんとか呼んでるお前が言うな。よっぽどデカい声出さない限りは拾われねえよ、タイタンの出す音に合わせて集音してんだから」

「そ、そうなんだ……よかった……」

 

 

 ほっとしたように胸を撫で下ろす渡良瀬。まあ、流石に全国の皆様方が観てる中で本名ぶっぱは洒落にならんからな。ただでさえこいつの場合素顔の方は割れてるんだし。4年前のやつだけど。

 それはさておき。

 

 

「あー……いや、お前が言うなって言い方は間違ってた。むしろ逆だわ、安心した」

「……え?」

()()()()、とか呼ばれたら辛いからな、今更。……そもそも、無視(シカト)されるかもしれないとも思ってたけど」

「あ──それは、ご、ごめんなさい……」

「……なんでお前が謝るんだ」

「だ、だって……私、あなたに、ひどいこと……あんな、あんなことするつもりじゃ……」

「……渡良瀬」

 

 

 ……本当に。

 どうして俺は、何度も何度もこいつのことを、泣かせてしまうんだろう。

 こんな俺の何処がいいんだ、お前。人には偉そうに上から目線で説教垂れておきながら、肝心の自分は最低最悪のやらかし魔と来たもんだ。挙句の果てに、それを自覚した上で尚、今も再びお前のことを追い詰めてしまっている。

 こういう時に、本当の主人公(プロタゴニスト)はどんな台詞を口にするんだろう。一体どんな言葉なら、こいつの涙を止めてやることが出来るんだろう。

 俺には全然、思いつかない。自分独自(オリジナル)の言葉なんてものは。俺の心の中にあるのは、殆どが()()()ばっかりだ。16年間のオタク人生で吸収してきた、数多の娯楽作品の名言達。俺は手を替え品を替え、それを自分の言葉っ()()吐き出しているだけに過ぎない。

 そして今日も、俺の中にいるイマジナリー赤嶺陽彩君は返事をしてくれないので。

 別の世界の主人公(プロタゴニスト)に、力を借りるのだった。

 

 

「……お前さ。マクロスプラス観たことある?」

「……は?」

「いや、この際スパロボの知識でもいい。α外伝だけでもやってりゃ理解(わか)る筈なんだ、わざわざ声入りで再現したんだからな」

「……お父さんに勧められて、観たことあるけど……ど、どうして今そんな話を……?」

 

 

 ……グッド。

 良い趣味してますよ、お父様。前田利家呼ばわりしたことを深くお詫び致します。まるで前田利家が不名誉な存在みたいな言い方だなこれ。加賀百万石の租ぞ? 天下の五大老ぞ? でも槍の又座って言うと途端にアレな感じに聞こえるから不思議なもんだよな。槍(意味深)。

 そんな話はどうでもいい。

 真面目な話をしよう。

 

 

「だったら話は早い。……今の俺らの状況に、ぴったりの台詞があるだろ」

「……それって──」

 

 

 なんか、最近。

 ちょっと前に口にした言葉が、形を変えて戻ってくることが多いな、と思う。

 この台詞にしてもそうだ。確か昨日、ギーザーを相手に使ったばっかりだ。そして今度はこいつのために、そして何より──

 

 

 ──俺自身の、ために。

 この言葉を、使おうとしている。

 

 

 ……まったく。

 つくづくお前は、人類史上最悪のブーメラン使いだよ。赤嶺陽彩。

 

 

 

 

 

「……過ぎたことは、忘れようぜ。な?」

 

 

 

 

 

 ──俺の知る限り。

 こいつが世界最強の、()()()の台詞の筈だ。

 まあこう言っておきながら、俺はきっと一生、あのやらかしを引き摺るだろうし。

 お前もまた、俺の首を絞めたことを一生忘れないんだろうけど。

 お互いそれを承知の上で、()()()()()()にする。

 お前の()()()と一緒だよ、渡良瀬。

 そうすることでようやく、俺達の停滞(ステイシス)ってやつは終わりの時を迎えるんだ、きっと。

 

 

「────」

「あー……なんだ、これだと微妙に間違った意図で伝わってるかもしんないな。俺のやったことは忘れなくて別にいいんだけど、むしろ本当にごめんとしか言いようがないんだけど、それはそれとしてお前のやったことは忘れていいんだっていう話で──」

「……そういうところ」

 

 

 ぽつり、と。

 俺の蛇足じみた説明は、そのたった一言で、止まった。

 

 

「あなたの、そういうところが──好き」

「……!?」

「……ずっと、そうだった。私はいつも、何度も何度も、あなたに泣かされてばかりだったけど──その度にあなたは、あの手この手で私を泣き止ませようとしてくれた──そんな優しいあなたのことが、私は──大好き」

「わっ……渡良瀬、お前、これ、配信中……」

「……聞こえないんでしょ?」

「いや……そうなんだけど、その筈……なんだけど……」

 

 

 ……あまりにも。

 不意打ちが、過ぎる。

 ただでさえこっちは、ようやく気持ちを自覚したばっかりだっていうのに。

 こいつの感情は常に、俺の想像の遙か先へとぶっ飛んでいる。

 ……本当にこれ、釣り合いなんか取れるのか? 信じていいんだよな? ギーザー──

 

 

『──おい、ヒーロー! セリン! いつまでイチャコラやってんだ、もう始まるまで一分切ってんぞ! さっさと乗り込んで準備しろ!』

「──ふえ!?」

「うるせェ──!! なんかあったら責任取れおっさん!!」

『ああ!? 一体何の話──』

『あーもー、ギザさんまで乗っかってどうすんのこのすっとこどっこい! いいから二人ともさっさとダッシュ! ほら、ハリーハリー!』

「……行くか」

「う、うん……!」

 

 

 流石にこれで、二人揃って失格(リタイア)なんぞになったら洒落にならない。ただでさえ多くの野次馬共に観られているのだから。俺と渡良瀬は一斉に、全力で愛しの相棒の元へと駆け出していった。

 ちなみに今更ながら、WTの移動操作ってどうなってるのか説明するとだね。スティック型のコントローラーにボタンが付いてて、それを押しながら腕を振ると振りの速さに合わせて分身(アバター)が前へと進むんだよ。

 だから今、現実(リアル)の俺達を傍目から見ると──

 ゴーグルで目を覆われた二人のガキンチョが、それぞれ必死こいて全力で両腕ぶんぶん振ってる姿が拝めるわけ。

 これが俺達のプレイしている、『Wasteland Titans』の現実(リアル)。フルダイブ式でもなければゲームの中へと生まれ変わった訳でもない、令和最新型の精一杯の異世界の姿。

 まあ、それでもね。

 なんだかんだで楽しいですよ、こんなハリボテの異世界でも。

 

 

「──()()()!」

「え──」

 

 

 走りながら、呼んだ。渡良瀬(こいつ)のもう一つの名前を。

 それが一体何を意味するのかは、流石にこいつも理解る筈だ。なんだかんだ言って、元WT最強の女なんだから。

 赤嶺陽彩と渡良瀬凛音の時間は、もう終わり。

 ここからの俺達は──Bクラスリーグ戦に臨む、『イノセンス・モラトリアム』のチームメンバー。

 『REDHero』と、『serin』になる時だ。

 

 

「観たことありますかタイムpart2だ! 今度はロボット物じゃないし、アニメでもないけど──アベンジャーズってわかるか!? キャプテンアメリカとかアイアンマンとか出てくるやつ!」

「今度は一体何!?」

「このタイミングで言いたい台詞があったのを思い出したんだよ! ほらどっちだ!? イエスかノーかで答えろ今すぐ!」

「い──イエス!

「グッド!!」

 

 

 ダービー兄ばりの勢いでそう言って、隣を駆ける()()()へとサムズアップを決める。流石は天下のMCU、畑違いも目じゃないぜ。単独作品とかも観てるかな? そのうちじっくり語り合いたいな、じっくりと。

 別に焦る必要はない。何一つ。

 今の俺達には、いくらでもその時間があるのだから。

 先に()()の元へと辿り着いたのは、俺の方だった。王の前に傅く騎士の如く膝を着いている『プロタゴニスト』の前で足を止めて、メニュー画面(ウィンドウ)から『搭乗』を選択。

 『プロタゴニスト』の胸部ハッチが展開し、中の操縦席(コックピット)が露わになる。後は現実(リアル)の俺が近くに用意した椅子へと座り込めば、スーツの電極が反応して搭乗判定となり、分身(アバター)が自動で操縦席(コックピット)へと転移する仕組みだ。

 うーん、実に作り物(ゲーム的)

 ま、こんなもんですよ。()()()()()なんて。

 

 

「陽彩くん!? 結局何を──」

 

 

 で、話の途中で放置される格好になってしまったセリンとしては堪ったもんじゃない。俺の少し先で足を止めて、前方の『ヘルディン』と後方の俺とをちらちらと見比べている。律儀な奴。

 慌てんなよ。すぐに終わる。

 今のお前に必要なのは、本当に──この一言だけだ。

 元ネタの方は(レッド)じゃなくて、青い英雄(ブルーヒーロー)だけれども。

 それでも、主人公(プロタゴニスト)の如く──二つ指を指し、簡潔に。

 言った。

 

 

 

 

 

「──暴れろ(Smash)!!」

 

 

 

 

 

 ──さあ、見せつけてやろうぜ。

 絶対女王(ミス・パーフェクト)の帰還ってやつを、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 ……本当に。

 あなたはいつも、私に一番必要なものを与えてくれる。

 例えばそれは、涙を覆い隠すための上着だったり。

 肩を並べて荒野を駆ける、仲間(パートナー)の立場だったり。

 一度死に損なった私を、本当に殺してくれたり。

 そして──

 

 

 ……いいんだよね? お姉様。

 本当に、私──

 

 

 ──『()()』を、夢見ても──いいんだよね?

 

 

『セリン!? おいマジで時間ねーぞ、早くおめーも機体に乗り込め!』

『せ、セリンちゃん──』

 

 

 ……おっと。

 そうだよね──()()()()

 今は一旦、()()()()()に切り替えないと。

 皆が私を、呼んでいる。その名前で。

 だから──下がってなさい、臆病で泣き虫の私。

 恋する女の子の、私。

 今必要とされているのは、渡良瀬凛音(あなた)じゃないのよ。

 

 

「──了解」

 

 

 返答と共に踵を返して、走り出す。

 贋物の私(アバター)ではない、もう一つの──私の()()の元へと。

 幾度となくあなたと共に、電子の荒野(Wasteland)を駆けてきた。

 長い間待たせてしまって、ごめんなさいね。本当に。

 きっとこれが、()()あなたとの最後の戦いになるだろうけれど──

 

 

 

 

 

 ──私と一緒に、()()()()()()? 『ヘルディン』。

 

 

 

 

 

 (しろがね)の巨体の前で足を止めて、即座にメニュー画面(ウィンドウ)を開く。後はそのまま、手順通りに。

 何百回と繰り返した動作だ。忘れる筈もない。

 そしてまた──これからも、私はこの動作を繰り返す。

 繰り返せるように、してくれた。みんなが。

 

 

『──全機搭乗確認! 対戦の準備が整いました! 試合開始までもう間も無くです!』

 

 

 転送された操縦席(コックピット)の中で、その声を聞く。

 緊張はもう、ない。あるのはただ、使命感だけ。

 お姉様が、私の鎖を外してくれた。

 隊長さんが、私の罪を赦してくれた。

 そして、彼が。

 陽彩くんが、私を──

 

 

 ──『幸せにしてみせる』って、言ってくれた。

 

 

 だから今、私はここにいる。

 ()()()の元へと、帰ってくることが出来ている。

 さあ──今こそ。

 その恩を、返そう。

 私には他に、みんなに与えられるものなんて、何もないから。

 

 

 ただ一つ、約束しましょう。

 勝利を。

 

 

『──それでは時間です! Bクラスリーグ戦上半期第一試合、チーム『イノセンス・モラトリアム』対チーム『ニニン=Ⅳ』! 戦闘(バトル)──』

『戦闘モード、起動』

「──行くわよ、『ヘルディン』」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()へと指を掛け、私はじっと、その時を待つ。

 やることは変わらない。何一つ。

 私にとってはこの戦法(スタイル)こそが、最強(わたし)だから。

 思う存分、()()()()()。全力で、好きなだけ。

 きっとみんなは、そんな私を、今まで通りに──

 

 

 ──しっかりと、支えてくれる。

 期待でも、呪いでも、何でもなく。

 私はそう、()()()()()。みんなを。

 

 

 

 

 

『──開始(スタート)ォ!!』

 

 

 

 

 

 私は──走り出したら、止ま()ない女だから。

 故に今日も、最初から。

 リミッター解除(フルスロットル)で、飛ばしていきましょう。

 

 

 

 

 

 ──さあ。

 『()()』を、見せてやる。

 

 

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