VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで 作:Amisuru
──何が『serin』だ、馬鹿馬鹿しい。
チーム『ニニン
35歳、独身。忍者と特撮作品を愛する、ごく普通のサラリーマン。『Wasteland Titans』は発売日からプレイしており、去年には念願のAクラス昇格と、プレイヤーポイント20000到達による
「──万事整ったな? 弟者達よ」
『
『
『
「うむ」
兄者だの弟者だのと呼び合ってはいるが、当然彼らの間に血の繋がりなどない。チームを結成するにあたって、サスケが
我らはただ、忍びの道を征く同志。
サスケにとっては、それだけで充分だった。
「予想外の曲者こそ混じってはおったが、所詮彼奴らなど烏合の衆よ! 『serin』さえ仕留めてしまえば、たちまち彼奴らは元の弱小集団に元通り! 故に、我らの方針は──
『
『
『
「うむうむ」
この通り、意思の疎通も何一つとして支障が無い。
オタクとは
でも
『──全機搭乗確認! 対戦の準備が整いました! 試合開始までもう間も無くです!』
「──うむ」
『serin』。その名前はサスケにとって──否、リリース初期から『Wasteland Titans』を遊んでいる、全てのプレイヤーにとっての伝説だった。試合前に派手な啖呵こそ切りはしたが、正直未だに自分の実力は、4年前の彼女にすら遠く及んでいないとサスケは思っている。
が、しかし。
こちらにも、現役勢としての意地というものがある。
4年前には10000にすら満たなかったプレイヤーポイントを、上級者の証と言うべき
──俺の刻んできた4年間が、小娘のたった1年如きに劣ってたまるものか。
いや、そうじゃない。俺一人では劣っているんだろう。それは認めるしかない、どうしようもなく。
だとしても。
だとしても、だ。
そう──拙者の愛してやまぬ戦隊ヒーロー達が、絆の力で強大な悪をも討ち滅ぼしてきたように!
──それが今の、サスケを支える矜持の正体であった。
彼は完全に、『serin』ただ一人のみを自身にとっての脅威と見做していた。
結論から言ってしまうと。
この認識が原因で、彼はこの試合に敗れることとなる。
『──それでは時間です! Bクラスリーグ戦上半期第一試合、チーム『イノセンス・モラトリアム』対チーム『ニニン=Ⅳ』!
「覚悟は
「
「
「
『──
かくして火蓋は、切って落とされた。スティックを握る両の手に力を込めつつ、真っ先にレーダーへと視線を送り各機の位置情報を確認するサスケ。
さあ。
まずは全力で、『serin』を──
『さっ──サスケェ!!』
「!?」
あり得ない通信の内容に、サスケは耳を疑った。
この声は──
セイカイが──人の言葉を喋っている……!?
『あ──っとォ! これは驚きです、開始早々にserin選手の『ヘルディン』がSEIKAI選手の『イエローベアー』へと突っかけていったァ──ッ!!』
『
『
『
『
『
状況が混乱を極めている。あと
真っ先に目に付いたのは、尋常ならざる速度で飛び回る一つの赤い光点であった。それが味方の──
馬鹿な。仕掛けが早過ぎる。『Wasteland Titans』の
それに出だしから、この異常な機体の速度は一体何なのだ。確かに『serin』の機体に
正気の沙汰ではない、そうサスケは思った。これは
──舐めやがって!!
『Geezer選手の『ネバーランド』、並びにYUME選手の『フーフォン』がJIRAIYA選手の『ブラックフロッグ』と交戦開始! そしてSAIZO選手の『ブルーウルフ』が今、『イエローベアー』と合流! serin選手、いきなりの1対2です! やはり単独での突撃は無謀だったかーッ!?』
『
『
「ええい、言われるまでもない! いざ往かん──」
『──
唐突に。
直後。
昨年末以来、うんざりするほど耳にしてきた
カァオッ!!
「──むうッ!?」
咄嗟に機体を反応させ、画面外から飛んできた青の光弾を回避するサスケ。腐っても
たとえそれが、現環境を支配する人権武器の一撃であったとしても。
「ええい何奴! 不意打ちとは卑怯なり、正々堂々名乗りを上げぬかァ!」
『──そりゃ、忍者っていうより鎌倉武士の言い分だよ、兄者』
光弾の飛んできた方向へと機体を反転させ、そしてサスケは、
奇しくも自分の機体と同じ、全身真紅のカラーリング。
あたかも、それは。
ロボットアニメに出てくる、
『──そして残った2機も接触! 何の因果か赤対赤、実に血が滾る
「──『REDHero』……!」
『ま、そういうことですよ。雑魚の相手に付き合ってくれますか? 兄者殿』
「抜かせェ! おぬし如きに兄者呼ばわりされる筋合いはござらぬわァ!!」
三重の意味で、サスケは眼前の『REDHero』に対して怒りを覚えた。一つは急いで
……『
ふざけるなよ小僧。いや、お前が一体何歳なのかなんて知ったこっちゃないが──
──
──
「キェェェェェェェイ!!」
奇声と共にブーストを噴かし、『プロタゴニスト』へと斬りかかっていくサスケの『レッドモンキー』。しかし、『プロタゴニスト』は付き合う様子をまるで見せず、ひたすら自身の射撃兵装、KARASUMA-MKⅡによる引き撃ちに徹している。
こいつも
「ええいくだらん! 恥も外聞もない
『ただの
「黙られい!
逃げ回る『プロタゴニスト』を追い立て、
これによって相手のオーバーヒートを誘発し、足の止まったところを火炎将軍剣、もとい左腕のブレードで斬り刻むというのが、サスケと『レッドモンキー』の基本戦術である。あまり長時間火を放ち続けていると炎で自身の視界が塞がれるという欠点もあるのだが、サスケは長年磨き上げてきた自身の戦術にそれなりの自信を持っていた。
『当たらないッ! カラスマが悉く当たらないッ! 流石の
『うお、あっち……! なんでこのゲーム火炎放射食らうとガチでスーツに熱が籠もる仕様になってんの!? 馬鹿じゃないの!?』
「ぬはははははははは! 愚か者めが、
『クッソ、一々無駄に頷けること言いやがって……! ていうかアンタ普通に強いな!? もう少し
「笑止ィ!! ──おっと、これは拙者でなくサイゾウの十八番にござったわ」
いかんいかん、と口を滑らせた自身を律するサスケ。笑止、然り、隠密──これらの3単語を、それぞれの
そういえば、セイカイが然り然り以外の言葉を喋れなくなったのはあの時からでござったなあ……彼奴の言語障害は
と、心配事の一つが解消されたことに安堵したのも束の間。
『REDHero』の登場に気を取られて、すっかり忘れてしまっていた──新たなセイカイの
……あいや待たれい。
そもそも彼奴の
直後。
当のセイカイの
『
「──セイカイ!?」
──馬鹿な。
セイカイの
あり得ない。彼奴は確かに、サイゾウと二人掛かりで
そんなサスケの内心を嘲笑うかの如く、立て続けに。
『
「──サイゾウ!? な、何なのだこれは……!」
残っていたサイゾウの光点も消失し、瞬く間にレーダーに映る青い光点が二つだけになる。依然として二つの赤い光点に張り付かれている
『なんとォ────ッ!? 瞬殺! 瞬殺です! 『イエローベアー』並びに『ブルーウルフ』、一瞬にして『ヘルディン』の二刀によって斬って捨てられました! そしてserin選手止まらないッ! 返す刀で新たな獲物を求めて飛び立っていく──ッ!!』
『──あらら』
──前方の雑魚と
『今日のところは聞き納めかな? その
憎たらしい煽り言葉を吐く、飄々としたその口振りに。
自分は完全に、この赤色の男に踊らされていたのだと、サスケは今更になって理解した。
──残り二機。
近い方から片付けよう。頭でそう考えるよりも前に、指が勝手に動いていた。
見えるもの全てを、斬ればいいのだ。ただひたすらに。
『──隠密!? おォん、みつみつみつみつみつ……!』
『ギザさーん! さっきからこのひと壊れたラジオみたいに同じことしか言ってなくて怖いんですけどぉ!?』
『いいから鳴き声みてーなもんだと思っとけ! それよりもっと距離取れユメ、
『あいつって──』
──訂正。
今の私はもう、目に映る全てを闇雲に斬り捨てる
漆黒のタイタンの姿も、くっきりと。
「──動かないでね、お姉様」
『へっ』
「
宣言と共に
それに合わせて『ヘルディン』が動く。両腕の甲に取り付けられた弧線状の
──
空振りに終わる筈の斬撃。その刃が、最も鋭く振り下ろされる瞬間にブーストボタンを叩く。
その瞬間──空振りは、空振りでなくなる。
両の手甲が輝きを放ち、振るわれる勢いのまま、三日月状の光の刃が敵影目掛けて飛んでいく。ちょうどお姉様の機体──『フーフォン』の脇をすり抜けるように。
そうして刃は寸分違わず、黒いタイタンの胴を薙ぐことに成功していた。耐久値がまだ残っているから、そのまま真っ二つという訳にはいかなかったけれど。
今日も打率1.000。我が剣閃に一切の揺らぎ無し。
『──おォん!?』
『これはァ──ッ!? 『ヘルディン』のブレード光波が『ブラックフロッグ』を直撃! 驚きの命中精度、そして光波の発射精度です! この光波の持続距離、間違いなく最大効率! 更にはそれを、二刀のブレードで続けて成功させたのです! これがserin! これが
『うわおおお!? 今のやつどっから飛んできたの!? セリンちゃん!? セリンちゃんどこどこ!?』
「私セリン、今
すぐに追い抜いてしまうけれど。
両のスティックを前へと傾けて、最大戦速で機体を突撃させる。リミッターを解除した『ヘルディン』に、助走は一切必要ない。最初から
そういう話を、沢山したい。好きな映画の話でも、ロボットアニメの話でも、漫画でも小説でも何でもいい。
あなたの『好き』を、私は知りたい。私の『好き』を、あなたに知ってもらいたい。
そうやって、少しずつ──お互いのことを、知っていきたい。
きっとその度に、私は。
あなたのことを、より愛おしいと感じるようになるのだろう。
『そして突撃ッ! 銀色の流星が漆黒のタイタンへと襲い掛かるッ! さあどうするJIRAIYA選手、状況はかなり絶望的だぞーッ!?』
『お、隠密──』
『リミカなんざ切らせるかよ、ミスター
『ござるッ!?』
黒いタイタンの背中に灯りかけた青色の輝きが、
「ナイスアシスト、隊長さん」
『おーよ、決めちまえ』
サッカーに例えるとしたら、無人のゴールを前にぽんと置かれたボール。触るだけで得点になる、そんな感じ。
黒いタイタンの懐に飛び込み、刃を振るう。二刃。
右の一振りが相手の左腕を斬り飛ばし、左の胴薙ぎが今度こそ、黒いタイタンを真っ二つに両断する。千切れ飛んだ上半身と脚部だけで残った下半身が、立て続けに爆発を起こし消失した。
残り一機。さあ、エンドロールまで後僅かよ。
『お、隠密が足りなかったでござるわァァァァァ──ッ!!』
『またもや瞬殺ゥ──ッ! JIRAIYA選手ここで脱落! これで単独3得点、serin選手の勢いが止まらないッ!! 完全に戦場を支配していますッ! 『ニニン=Ⅳ』、残るは
『やった──! セリンちゃんさいきょ──!!』
『まだ終わってねーぞユメ。だがまあ──期待通りだぜ、
「それはどうも。あなたもよく
『ま、じゃじゃ馬を好きに走らせんのは慣れてっからな。こっちは』
「じゃじゃうま……」
ククク……酷い言われようね。まあ事実だからしょうがないけど。
そうだ。隊長さんとお姉様があの黒いタイタンを、そして
絶対的エースを自由に立ち回らせるために、他の三人が
一日二日で思いついた付け焼き刃の
私達は今、紛れもなく
──ああ、そうなのね。
こういう
これが私の知らないWT。私の知らない
……本当に。
「──隊長さん、お姉様」
『あ?』
『およ?』
「先に言っておきます。
だから、素直に。
ありのままの事実を、伝える。
「後詰をよろしく。それじゃ」
『──おーよ、任しとけ』
『すぐに追いつくからね! いけいけ、セリンちゃん!』
「ええ、お先に──」
──悪くない。
いや、むしろ良い。
誰かを頼るのも、頼られるのも、どっちも。
独りじゃないということは──こんなにも、心地良い。
だから行くわ、私。あなたの元へ。
たった一人で私のために、体を張ってくれた──
あなたの信頼に、応えるために。
「──行ってきます」
──待っててね、陽彩くん。
あなたの私が今、迎えに行くからね。
──勝負あったな。
開幕から4人掛かりで、
まあ、そうさせないように動いたんだけど。俺もギーザーもユメさんも。
『おっ──おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇぇぇぇ!!』
「慢心王の物真似か? 兄者。それともアンタも
『ほざけぇぇ! おのれ小童、雑魚の分際でよくも拙者を
「別に謀ったつもりはないんだが……」
だってなあ。
これが俺ら本来の
我らが『イノセンス・モラトリアム』の元エースこと『Liberta』嬢。イタリア語で『自由』を意味するその名に恥じないフリーダムっぷりは、戦場の中においても不変であった。
Bクラスにおいては飛び抜けた実力と引き換えに、自分のやりたいこと最優先で気ままに動き回る
ギーザーが趣味の一つにしているサッカーという競技において、『王様と10人の労働者』なる言葉がある。一人の絶対的エースをチームの軸に据えて、残りの10人──一人はキーパーだから厳密に言うと9人だがとにかく、その他のメンバーが
それに倣って、ギーザーもまたリベさんを我がチームの
で、今回俺らがしたのはリベさんの役をまんま
完成された素材に、余計な味付けを加える必要はない。
それがいつだか言っていた、ギーザーの
「少し考えりゃ気付けたと思うんだがな、俺みたいな雑魚が格上相手に正々堂々
『ええい黙れぇぇ! そもそも拙者の元ネタからして、
「ああ、やっぱり
『かくなる上は小僧! 貴様だけでも黄泉路への道連れとし、三途の川の駄賃代わりとしてくれるわぁぁぁ!!』
「歩きたいのか川渡りたいのかはっきりしろ」
「喋るなァァァァァ!!」
つれない返事だな兄者殿。
阪神王子好きなんだよ。何と言っても声が良いね声が。生まれ変わったら稲田徹か井上和彦か中村悠一の声になりたい。宮本充さんっていうのも捨て難いな。グリリバ? いや俺の名前でその声はまんまアレになっちゃうから……ほら……。
あと最近若手で俺と同じ名前の声優さんいるらしいですね。サムライトルーパーで初めて知ったよ。陰ながら応援しています。
『『ニニン=Ⅳ』最後の一人となったSASUKE選手! 追い詰められてもその方針に変化なしか、依然として目の前のREDHero選手を執拗に狙い続けますッ! 果たしてその執念は実るのか──あーっとォ!?』
「げっ、ヤバ……!」
『失速ッ! 『プロタゴニスト』失速ですッ! 『レッドモンキー』の火炎放射がついに『プロタゴニスト』のオーバーヒートを誘発しましたーッ! REDHero選手、最早カラスマには頼れませんッ!
『ぬははははははははァ! 追いかけっこもここまでよな小僧ぉぉぉぉ!!』
脳内声優談義で盛り上がってる場合じゃなかった。もしかして俺3戦連続オバヒ起こしてんのか? 前期の最終戦から数えて。熱量管理がカスにも程があるだろ。このザマでよく
そう、これが今の俺の実力。
ここから急に謎の力に覚醒して、兄者相手に逆転勝ちを収められるほど
それを狙うなら、オーバーヒートを起こす前に仕掛けるしかなかった。何なら兄者は、このまま遠巻きに俺を火で炙り続けるだけでも良いのだ。それだけで俺は
そう──
気付いてるかな、兄者。
俺との追いかけっこに興じていたせいで、すっかりと離れてしまった主戦場の中央居住区。そこからとんでもない勢いでかっ飛んでくる、青色の──
──アンタにとっては赤色の、レーダー上の光点にさ。
『散るがいい『REDHero』よ! そして烏滸がましいその名を捨てて、
あ、気付いてないですねこれ。
まったくもって仰る通り、俺には微塵も相応しくない。『REDHero』も『プロタゴニスト』も、どちらも俺には不釣り合いな重た過ぎる称号だ。
だからですね。
「助けてチェンソーマン」
『──は?』
完結おめでとうございます。
胸中でそう付け加えつつ、俺は眼前のその光景を、まるきり観客気分で眺めていた。
火炎将軍剣──もとい、左腕のブレードで猛然と斬りかからんとする、兄者の赤いタイタンが。
俺から見て2時の方向、貫通した
──二刃の光波に、土手っ腹をぶち抜かれるのを。
『ござるゥゥゥゥゥゥ──ッ!?』
「はい追撃」
『がっはああああああああああ!!』
追撃の
ようやく当てられたよこいつ。威力も判定のデカさも申し分ないんだけど、撃つのに一々
ま、俺の話はどうでもいい。どうせもう賑やかしにしかならん。下手に援護して誤射でもしたら最悪だからな。
まあとにかく。
後は万事、我らが
『待たせたわね、陽彩くん』
いや、今来たところだよ。
……こんな台詞もいつか言えるようになんのかね、俺。
今のところはさっぱり、想像が付かないけれど。
言えるようになる日が来ればいいとは、思ってるよ。
なあ、そうだろ──
『──
──渡良瀬。
本当にオールマイトになっちゃったな、お前。
俺のことヒロアカって呼んだ奴ぶっ飛ばすからな。一生有効だぞ、忘れんなよ。