VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで   作:Amisuru

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『私が来たわ!!』

 

 

 ──何が『serin』だ、馬鹿馬鹿しい。

 チーム『ニニン=Ⅳ(がし)』のリーダー、プレイヤーネーム『SASUKE』は、試合開始を待つ操縦席(コックピット)の中で独り、胸中でそう毒づいた。

 35歳、独身。忍者と特撮作品を愛する、ごく普通のサラリーマン。『Wasteland Titans』は発売日からプレイしており、去年には念願のAクラス昇格と、プレイヤーポイント20000到達による撃墜王(エース)の称号も手に入れた男。下半期には無念の降格こそ経験はしたが、まさしく今が充実期と言うべきプレイヤーであった。

 

 

「──万事整ったな? 弟者達よ」

ああ、いつでも行けるぜ(ククク……笑止!)

こっちもOKだ(隠密でござるなあ)

然り然り(然り然り)

「うむ」

 

 

 弟者達(チームメイト)の返答を耳にして、満足気に頷くサスケ。

 兄者だの弟者だのと呼び合ってはいるが、当然彼らの間に血の繋がりなどない。チームを結成するにあたって、サスケが隊員(メンバー)募集の広告に載せた一文──『求む、忍びの道に生きる者!』なる文言に惹かれて集まった、単なる野生の忍者狂い(バカ)達だ。彼らの顔も現実(リアル)での名前も、一切サスケは知らない。知る必要も感じない。

 我らはただ、忍びの道を征く同志。

 サスケにとっては、それだけで充分だった。

 

 

「予想外の曲者こそ混じってはおったが、所詮彼奴らなど烏合の衆よ! 『serin』さえ仕留めてしまえば、たちまち彼奴らは元の弱小集団に元通り! 故に、我らの方針は──理解(わか)っていような? 弟者達よ」

全力でセリン狙い、だな(ククク……笑止!)

雑魚には構わず集中砲火で行こう(隠密が足りているでござるなあ)

然り然り(然り然り)

「うむうむ」

 

 

 この通り、意思の疎通も何一つとして支障が無い。

 オタクとは構文(テンプレート)を愛する者。サスケの弟者達(チームメイト)もまた、彼ら独自の構文に取り憑かれて抜け出せなくなった者達である。しかし何も問題はない。彼らは皆、忍者魂(ニンジャソウル)を宿す魂の義兄弟(ソウルブラザー)。圧縮言語も何のそのであった。

 でも黄の弟者(セイカイ)、お前たまには然り然り以外のことも喋れよ。まさかお前、本当に心まで構文(テンプレ)に支配されてしまったんじゃ……それが最近のサスケの心配事である。本人に確かめてみたい気持ちはあるが、これで本当に然り然り(テンプレ)しか返ってこなかったらと思うと怖くて聞けない。アイエエエ狂人!

 

 

『──全機搭乗確認! 対戦の準備が整いました! 試合開始までもう間も無くです!』

「──うむ」

 

 

 実況者(DJアオシマ)の声が響き渡ったのを合図に、いよいよだ──と気を引き締めるサスケ。

 『serin』。その名前はサスケにとって──否、リリース初期から『Wasteland Titans』を遊んでいる、全てのプレイヤーにとっての伝説だった。試合前に派手な啖呵こそ切りはしたが、正直未だに自分の実力は、4年前の彼女にすら遠く及んでいないとサスケは思っている。

 が、しかし。

 こちらにも、現役勢としての意地というものがある。

 4年前には10000にすら満たなかったプレイヤーポイントを、上級者の証と言うべき撃墜王(20000)のラインまで積み上げた。たったの1シーズンとはいえ、Aクラスでの集団(チーム)戦も経験した。自分なりに成長はしてきたのだ、間違いなく。

 

 

 ──俺の刻んできた4年間が、小娘のたった1年如きに劣ってたまるものか。

 いや、そうじゃない。俺一人では劣っているんだろう。それは認めるしかない、どうしようもなく。

 だとしても。

 だとしても、だ。

 ()()ら4人の力が合わされば、たとえ相手が最強だろうと絶対だろうと関係はないでござる。

 そう──拙者の愛してやまぬ戦隊ヒーロー達が、絆の力で強大な悪をも討ち滅ぼしてきたように!

 

 

 ──それが今の、サスケを支える矜持の正体であった。

 彼は完全に、『serin』ただ一人のみを自身にとっての脅威と見做していた。

 

 

 

 

 

 結論から言ってしまうと。

 この認識が原因で、彼はこの試合に敗れることとなる。

 

 

『──それでは時間です! Bクラスリーグ戦上半期第一試合、チーム『イノセンス・モラトリアム』対チーム『ニニン=Ⅳ』! 戦闘(バトル)──』

「覚悟は()いな弟者達よ! いざ──参らん!!

応ッッッ(笑止)!!」

応ッッッ(隠密)!!」

然り然り(然り然り)!!」

『──開始(スタート)ォ!!』

 

 

 かくして火蓋は、切って落とされた。スティックを握る両の手に力を込めつつ、真っ先にレーダーへと視線を送り各機の位置情報を確認するサスケ。

 さあ。

 まずは全力で、『serin』を──

 

 

『さっ──サスケェ!!

「!?」

 

 

 あり得ない通信の内容に、サスケは耳を疑った。

 この声は──黄の弟者(セイカイ)だ。

 セイカイが──人の言葉を喋っている……!?

 

 

『あ──っとォ! これは驚きです、開始早々にserin選手の『ヘルディン』がSEIKAI選手の『イエローベアー』へと突っかけていったァ──ッ!!』

笑止(サイゾウ)! 隠密(ジライヤ)! 助けてくれェ! 『ヘルディン』が、『serin』が──うわっ、うわああああ!!

()セイカイ(隠密)──うおっ(おォん)!?

ジライヤ(笑止)!? 何があったジライヤ(ククク……笑止)!?』

クソッ、砲撃だ(隠密が足りない)! 戦車の奴に捕捉された(隠密が足りておらぬでござる)! うわっ(おォん)なんかふわふわ浮いてる奴まで寄ってきてる(隠密が足りておらぬでござるわあ)──駄目だ(おォん)カバーに入れない(隠密が足りない)! サスケ(おォん)サイゾウ(あォん)セイカイを頼む(隠密でござる)!』

りょ、了解(しょ、笑止)!』

 

 

 状況が混乱を極めている。あと黒弟者(ジライヤ)よ、お前に足りてないのは隠密じゃなくて構文(テンプレ)以外の語彙だよ。そう言いたくなる気持ちを抑えて、サスケは改めてレーダーによる状況把握に努めた。

 真っ先に目に付いたのは、尋常ならざる速度で飛び回る一つの赤い光点であった。それが味方の──黄弟者(セイカイ)を示す青い光点に纏わり付いて、見る見るうちにセイカイの耐久値を削っていっている。

 馬鹿な。仕掛けが早過ぎる。『Wasteland Titans』の集団(チーム)戦は、味方との合流を優先して陣形を組み、そこから4対4の形で会戦するのがセオリーだ。何しろ敵味方の距離が、歩いて5分で各々の機体に乗り込めるレベルで近いのだから。わざわざ突出して敵陣へと飛び込んでいくのはリスクが高いということで、このような開幕突撃は無謀と見做されているのがWT(ウェイタン)における集団(チーム)戦の現状だ。

 それに出だしから、この異常な機体の速度は一体何なのだ。確かに『serin』の機体に長距離航行用ブースター(アメイジング・ユニット)が積まれているのは確認済みだが、単なるOB(オーバーブースト)にしては継続時間が長過ぎる。まさか試合が始まった瞬間、即座にリミッターを解除したとでもいうのか……!?

 正気の沙汰ではない、そうサスケは思った。これは個人(ソロ)戦じゃない、集団(チーム)戦なんだぞ。いくらお前が『絶対』と呼ばれたプレイヤーであったとしても、リミッター解除の効果が切れるまでに俺達4人を纏めて墜とせるとでも思っているのか──

 

 

 ──舐めやがって!!

 

 

『Geezer選手の『ネバーランド』、並びにYUME選手の『フーフォン』がJIRAIYA選手の『ブラックフロッグ』と交戦開始! そしてSAIZO選手の『ブルーウルフ』が今、『イエローベアー』と合流! serin選手、いきなりの1対2です! やはり単独での突撃は無謀だったかーッ!?』

た、助かった(し、然り然り)……!』

よし、反撃だ(ククク……笑止)! サスケ、お前も早くこっちへ来い(笑止笑止笑止ィィィィィィィィ)!』

「ええい、言われるまでもない! いざ往かん──」

『──どこへ行かれるのですか(Domine, quo vadis)?』

 

 

 唐突に。

 弟者達(チームメイト)実況者(アオシマ)以外の新たな声が、サスケの耳へと飛び込んできた。

 直後。

 昨年末以来、うんざりするほど耳にしてきた()()()が、被照準(ロックオン)を告げる警戒音(アラート)と共に響き渡った。

 

 

 カァオッ!!

 

 

「──むうッ!?」

 

 

 咄嗟に機体を反応させ、画面外から飛んできた青の光弾を回避するサスケ。腐っても撃墜王(エース)の端くれである、何の捻りもない単発射撃に被弾するほど落ちぶれてはいない。

 たとえそれが、現環境を支配する人権武器の一撃であったとしても。

 

 

「ええい何奴! 不意打ちとは卑怯なり、正々堂々名乗りを上げぬかァ!」

『──そりゃ、忍者っていうより鎌倉武士の言い分だよ、兄者』

 

 

 光弾の飛んできた方向へと機体を反転させ、そしてサスケは、()()を見た。

 奇しくも自分の機体と同じ、全身真紅のカラーリング。英雄的(ヒロイック)なツインアイの頭部に、正統派(オーソドックス)な中量二脚の下半身。

 あたかも、それは。

 ロボットアニメに出てくる、主人公機(プロタゴニスト)のような──

 

 

『──そして残った2機も接触! 何の因果か赤対赤、実に血が滾る組み合わせ(マッチング)です! SASUKE選手の『レッドモンキー』対、REDHero選手の『プロタゴニスト』! 果たしてこの電子の荒野(Wasteland)で、最も熱く()()()()のはどちらの赤色だァ──ッ!?』

「──『REDHero』……!」

『ま、そういうことですよ。雑魚の相手に付き合ってくれますか? 兄者殿』

「抜かせェ! おぬし如きに兄者呼ばわりされる筋合いはござらぬわァ!!」

 

 

 三重の意味で、サスケは眼前の『REDHero』に対して怒りを覚えた。一つは急いで黄弟者(セイカイ)達の元へと駆け付けたいのを邪魔された怒り、一つは義兄弟(ソウルブラザー)でないにも拘らず自身を兄と呼ぶ馴れ馴れしさに対しての怒り。そしてもう一つは──

 

 

 ……『()()()()()()()』だと?

 ふざけるなよ小僧。いや、お前が一体何歳なのかなんて知ったこっちゃないが──

 ──()()()()はな。お前みたいな雑魚が背負えるほど、軽い名前じゃあないんだよ!!

 

 

 ──()()()()に憧れる、戦隊ヒーローを愛する者としての怒りであった。

 

 

「キェェェェェェェイ!!」

 

 

 奇声と共にブーストを噴かし、『プロタゴニスト』へと斬りかかっていくサスケの『レッドモンキー』。しかし、『プロタゴニスト』は付き合う様子をまるで見せず、ひたすら自身の射撃兵装、KARASUMA-MKⅡによる引き撃ちに徹している。

 こいつも()()()か──と、サスケの胸中に新たな怒りが追加された。カラスマ。カラスマ。どいつもこいつもカラスマ! 武士としての誇りはないのか!? いや俺は忍者だけど──などという、身勝手極まりない怒りではあったのだが。

 

 

「ええいくだらん! 恥も外聞もない()()()め! おぬしのような面白みのない機体構成(アセンブル)、拙者はもう飽きるほどに相手をしてきたわ! 見るがいい、拙者の真なるWT道というものを! 火炎旋風(つむじ)の術ゥゥゥゥゥゥゥ!!

『ただの火炎放射器(フレイムランチャー)ですやん』

「黙られい! 赤色(レッド)を通り越して炭屑にしてくれるわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 逃げ回る『プロタゴニスト』を追い立て、主兵装(メインウェポン)のWB-1994/BADLUCK(バッドラック)、通称『不運砲』を垂れ流す『レッドモンキー』。レッドヒーローが語った通りの火炎放射器で、相手の熱量──即ち、ENゲージの消費を大幅に増加させる効果を持った兵装だ。

 これによって相手のオーバーヒートを誘発し、足の止まったところを火炎将軍剣、もとい左腕のブレードで斬り刻むというのが、サスケと『レッドモンキー』の基本戦術である。あまり長時間火を放ち続けていると炎で自身の視界が塞がれるという欠点もあるのだが、サスケは長年磨き上げてきた自身の戦術にそれなりの自信を持っていた。

 

 

『当たらないッ! カラスマが悉く当たらないッ! 流石の撃墜王(エース)級ですSASUKE選手! 一方のREDHero選手、じわりじわりと不運砲によって機体の熱量が増加しています! ただでさえ燃費の悪いカラスマ使い、このままではオーバーヒートも時間の問題かァーッ!?』

『うお、あっち……! なんでこのゲーム火炎放射食らうとガチでスーツに熱が籠もる仕様になってんの!? 馬鹿じゃないの!?』

「ぬはははははははは! 愚か者めが、()()()()()WTは神ゲーなのであろう!? 極限まで進化した没入体験! 空前絶後の現実(リアル)感! それを楽しめずして何がWTプレイヤーか! 恥を知れい小僧ぉぉぉぉぉ!」

『クッソ、一々無駄に頷けること言いやがって……! ていうかアンタ普通に強いな!? もう少し()()()()()もんだと思ってたんだが──』

「笑止ィ!! ──おっと、これは拙者でなくサイゾウの十八番にござったわ」

 

 

 いかんいかん、と口を滑らせた自身を律するサスケ。笑止、然り、隠密──これらの3単語を、それぞれの()()()以外が口にするのは『ニニン=Ⅳ』における禁則事項(タブー)とされている。かつてそれで一度、然り(セイカイ)笑止(サイゾウ)に鬼の如く詰められていたのをサスケは思い出した。

 そういえば、セイカイが然り然り以外の言葉を喋れなくなったのはあの時からでござったなあ……彼奴の言語障害は心的外傷(トラウマ)によるものだったのでござるなあ……ショック療法とはいえ今日治って良かったでござるなあ……。

 と、心配事の一つが解消されたことに安堵したのも束の間。

 『REDHero』の登場に気を取られて、すっかり忘れてしまっていた──新たなセイカイの()()()が、サスケの脳裏に蘇った。

 

 

 

 

 

 ……あいや待たれい。

 そもそも彼奴の心的外傷(トラウマ)は、()によって解消されたのであったか……?

 

 

 

 

 

 直後。

 当のセイカイの()()が、サスケの聴覚を盛大に揺さぶりつけた。

 

 

あ、兄者ァァァァ(し、然りィィィィ)────ッ!!』

「──セイカイ!?」

 

 

 ──馬鹿な。

 セイカイの光点(霊圧)が……消えた……?

 あり得ない。彼奴は確かに、サイゾウと二人掛かりで()()へと挑んでいた筈。いくら一人の時に耐久値を削られていたとはいえ、こうも容易く撃墜(おと)される筈が──

 そんなサスケの内心を嘲笑うかの如く、立て続けに。

 

 

ば、化け物めぇぇぇぇ(しょ、笑止ィィィィィィ)────ッ!!』

──サイゾウ!? な、何なのだこれは……!」

 

 

 残っていたサイゾウの光点も消失し、瞬く間にレーダーに映る青い光点が二つだけになる。依然として二つの赤い光点に張り付かれている黒弟者(ジライヤ)のものと、そして──

 

 

なんとォ────ッ!? 瞬殺! 瞬殺です! 『イエローベアー』並びに『ブルーウルフ』、一瞬にして『ヘルディン』の二刀によって斬って捨てられました! そしてserin選手止まらないッ! 返す刀で新たな獲物を求めて飛び立っていく──ッ!!』

『──あらら』

 

 

 ──前方の雑魚と()()()()()()に興じてしまっていた、愚かな──としか言いようのない、自身(サスケ)の光点を残すのみとなっていた。

 

 

 

 

 

『今日のところは聞き納めかな? その()()()とやらは』

 

 

 

 

 

 憎たらしい煽り言葉を吐く、飄々としたその口振りに。

 自分は完全に、この赤色の男に踊らされていたのだと、サスケは今更になって理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 ──残り二機。

 近い方から片付けよう。頭でそう考えるよりも前に、指が勝手に動いていた。集団(チーム)戦だから多少は勝手が違うかなと思っていたけれど、なんてことはない。複数の敵を一度に相手取るシチュエーションなど、シナリオモードやミッションモードで山ほど経験している。

 見えるもの全てを、斬ればいいのだ。ただひたすらに。

 

 

『──隠密!? おォん、みつみつみつみつみつ……!』

『ギザさーん! さっきからこのひと壊れたラジオみたいに同じことしか言ってなくて怖いんですけどぉ!?』

『いいから鳴き声みてーなもんだと思っとけ! それよりもっと距離取れユメ、()()()の邪魔になんぞ!』

『あいつって──』

 

 

 ──訂正。

 今の私はもう、目に映る全てを闇雲に斬り捨てる狂戦士(バーサーカー)ではない。故にはっきりと捉えている。遥か前方で、私の大切な人達と撃ち合いに興じている──

 漆黒のタイタンの姿も、くっきりと。

 

 

「──動かないでね、お姉様」

『へっ』

()()()()()()()()()()()()()()──!」

 

 

 宣言と共に引き金(トリガー)を引く。左と右、立て続けに。

 それに合わせて『ヘルディン』が動く。両腕の甲に取り付けられた弧線状の光線剣(レーザーブレード)──LS-11/CRESCENT(クレッセント)、通称『三日月』を、虚空に向けて振り回さんとする。

 ──()()と、()()

 空振りに終わる筈の斬撃。その刃が、最も鋭く振り下ろされる瞬間にブーストボタンを叩く。

 その瞬間──空振りは、空振りでなくなる。

 両の手甲が輝きを放ち、振るわれる勢いのまま、三日月状の光の刃が敵影目掛けて飛んでいく。ちょうどお姉様の機体──『フーフォン』の脇をすり抜けるように。

 そうして刃は寸分違わず、黒いタイタンの胴を薙ぐことに成功していた。耐久値がまだ残っているから、そのまま真っ二つという訳にはいかなかったけれど。

 今日も打率1.000。我が剣閃に一切の揺らぎ無し。

 

 

『──おォん!?』

『これはァ──ッ!? 『ヘルディン』のブレード光波が『ブラックフロッグ』を直撃! 驚きの命中精度、そして光波の発射精度です! この光波の持続距離、間違いなく最大効率! 更にはそれを、二刀のブレードで続けて成功させたのです! これがserin! これが絶対女王(ミス・パーフェクト)ッ! 伝説はやはり本物だったァァァァァァ──ッ!!』

『うわおおお!? 今のやつどっから飛んできたの!? セリンちゃん!? セリンちゃんどこどこ!?』

「私セリン、今お姉様(あなた)の後ろにいるの──」

 

 

 すぐに追い抜いてしまうけれど。

 両のスティックを前へと傾けて、最大戦速で機体を突撃させる。リミッターを解除した『ヘルディン』に、助走は一切必要ない。最初から全力疾走(フルスロットル)、それが今の私達だ。

 ()()()()()。胸中で呟きつつ、お姉様の『フーフォン』を抜き去っていく。ええ、アベンジャーズ以外も勿論観たわよ? 陽彩くん。セバスチャン・スタン、格好良いわよね。例のナイフ格闘シーン、何度観返しても味がするわ。

 そういう話を、沢山したい。好きな映画の話でも、ロボットアニメの話でも、漫画でも小説でも何でもいい。

 あなたの『好き』を、私は知りたい。私の『好き』を、あなたに知ってもらいたい。

 そうやって、少しずつ──お互いのことを、知っていきたい。

 きっとその度に、私は。

 あなたのことを、より愛おしいと感じるようになるのだろう。

 

 

『そして突撃ッ! 銀色の流星が漆黒のタイタンへと襲い掛かるッ! さあどうするJIRAIYA選手、状況はかなり絶望的だぞーッ!?』

『お、隠密──』

『リミカなんざ切らせるかよ、ミスター(ブラック)ニンジャー』

『ござるッ!?』

 

 

 黒いタイタンの背中に灯りかけた青色の輝きが、戦車(タンク)型の両腕から放たれたプラズマ砲の直撃を受けて霧散する。これも私の時代には無かった装備だが、威力の程は()との対戦で確認している。黒いタイタンの耐久値が、一気に3割ほど削れて──確殺(リーサル)ラインが見えてきた。

 

 

「ナイスアシスト、隊長さん」

『おーよ、決めちまえ』

 

 

 サッカーに例えるとしたら、無人のゴールを前にぽんと置かれたボール。触るだけで得点になる、そんな感じ。

 黒いタイタンの懐に飛び込み、刃を振るう。二刃。

 右の一振りが相手の左腕を斬り飛ばし、左の胴薙ぎが今度こそ、黒いタイタンを真っ二つに両断する。千切れ飛んだ上半身と脚部だけで残った下半身が、立て続けに爆発を起こし消失した。

 残り一機。さあ、エンドロールまで後僅かよ。

 

 

『お、隠密が足りなかったでござるわァァァァァ──ッ!!』

『またもや瞬殺ゥ──ッ! JIRAIYA選手ここで脱落! これで単独3得点、serin選手の勢いが止まらないッ!! 完全に戦場を支配していますッ! 『ニニン=Ⅳ』、残るは隊長(リーダー)兼エースのSASUKE選手ただ一人ッ! 果たしてここから逆転の一手は残されているのかァ──ッ!?』

『やった──! セリンちゃんさいきょ──!!』

『まだ終わってねーぞユメ。だがまあ──期待通りだぜ、絶対女王(ミス・パーフェクト)

「それはどうも。あなたもよく()()()()くれたわね、隊長さん」

『ま、じゃじゃ馬を好きに走らせんのは慣れてっからな。こっちは』

「じゃじゃうま……」

 

 

 ククク……酷い言われようね。まあ事実だからしょうがないけど。

 そうだ。隊長さんとお姉様があの黒いタイタンを、そして()が敵のエースを引きつけてくれたおかげで、私が一度に相手取るのはたったの二機で済んだのだ。おかげで私はのびのびと、この戦場の中を駆け回ることが出来ている。

 ()()()()()のだ、本当に。隊長さんが試合前に言っていたことは、嘘でも冗談でも何でもなかった。

 ()()()()()()()()()()()

 絶対的エースを自由に立ち回らせるために、他の三人が()()()()を引き受ける。そうして(エース)が一対一で各個撃破を繰り返し、最終的な数的有利を作り出す。それこそが、『イノセンス・モラトリアム』本来の戦法(スタイル)なのだ。

 一日二日で思いついた付け焼き刃の戦術(それ)ではない。彼らはきっと何回も、こういう戦いを繰り返している。そんな確信がある。

 私達は今、紛れもなく4()()()戦っている。

 

 

 

 

 

 ──ああ、そうなのね。

 こういう()()()()()も、あるのね。

 これが私の知らないWT。私の知らない集団(チーム)戦の世界。

 仲間(チームメイト)を信じて、戦うということ。

 

 

 

 

 

『わからせるとか抜かしやがったな? 元王者。本当に教えを乞う羽目になんのはどっちか──すぐに判るさ』

 

 

 

 

 

 ……本当に。

 ()()()()()()のは、私の方だったわね、結局。

 

 

「──隊長さん、お姉様」

『あ?』

『およ?』

「先に言っておきます。()()()()()()()

 

 

 だから、素直に。

 ありのままの事実を、伝える。

 

 

 

「後詰をよろしく。それじゃ」

『──おーよ、任しとけ』

『すぐに追いつくからね! いけいけ、セリンちゃん!』

「ええ、お先に──」

 

 

 ──悪くない。

 いや、むしろ良い。

 誰かを頼るのも、頼られるのも、どっちも。

 独りじゃないということは──こんなにも、心地良い。

 

 

 だから行くわ、私。あなたの元へ。

 たった一人で私のために、体を張ってくれた──

 あなたの信頼に、応えるために。

 

 

 

 

 

「──行ってきます」

 

 

 

 

 

 ──待っててね、陽彩くん。

 あなたの私が今、迎えに行くからね。

 

 

 

 

 

 

 

 ──勝負あったな。

 開幕から4人掛かりで、()()()をボコる方向へと舵切れなかった時点でアンタらの負けだよ、兄者殿。

 まあ、そうさせないように動いたんだけど。俺もギーザーもユメさんも。

 

 

『おっ──おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇぇぇぇ!!』

「慢心王の物真似か? 兄者。それともアンタも構文使い(bot)と化したかな」

『ほざけぇぇ! おのれ小童、雑魚の分際でよくも拙者を(たばか)りおったなぁぁぁぁぁ!!』

「別に謀ったつもりはないんだが……」

 

 

 だってなあ。

 これが俺ら本来のやり方(スタイル)だもんなあ。

 

 

 

 

 

 我らが『イノセンス・モラトリアム』の元エースこと『Liberta』嬢。イタリア語で『自由』を意味するその名に恥じないフリーダムっぷりは、戦場の中においても不変であった。

 Bクラスにおいては飛び抜けた実力と引き換えに、自分のやりたいこと最優先で気ままに動き回るじゃじゃ馬娘(メイケイエール)。その制御不能っぷりに匙をぶん投げたギーザーは、いよいよ彼女の馬具を全解放──もとい、一つの決断を下した。

 ギーザーが趣味の一つにしているサッカーという競技において、『王様と10人の労働者』なる言葉がある。一人の絶対的エースをチームの軸に据えて、残りの10人──一人はキーパーだから厳密に言うと9人だがとにかく、その他のメンバーが王様(エース)のために汗水流して駆けずり回るという戦術。2022年W杯、アルゼンチン代表がこの戦術(スタイル)でフランスを下し世界を制したことは記憶に新しい。

 それに倣って、ギーザーもまたリベさんを我がチームの王様(メッシ)に認定した訳だ。お膳立てはいくらでもこっちで整えてやるから、とにかくお前は点だけ獲ってくれればいい。その割り切りが見事にハマって、我らが『イノセンス・モラトリアム』は、去年の上半期において破竹の10連勝を成し遂げることが出来たのである。

 で、今回俺らがしたのはリベさんの役をまんま渡良瀬(セリン)に変えただけ。だから事前に話し合うことは何もなかった。だって今までとやること何も変わらないんだもんよ。

 完成された素材に、余計な味付けを加える必要はない。

 それがいつだか言っていた、ギーザーの()()()のスタンスだそうだ。今思えば小説の話だったんだなこれ。プラモか何かのことだとばかり思ってたわ。

 

 

「少し考えりゃ気付けたと思うんだがな、俺みたいな雑魚が格上相手に正々堂々一対一(タイマン)挑む筈ないって。アンタ腕前の方はそれなりだけど、戦略眼とかそっちの方はイマイチだな? 兄者」

『ええい黙れぇぇ! そもそも拙者の元ネタからして、(レッド)ではあってもリーダーという訳ではなかったのだ! (鶴姫)さえいれば──WTのチーム戦が5人編成であったならああああああああ!!』

「ああ、やっぱり戦隊(アレ)が元ネタだったんだ……」

 

 

 5人(フルメン)揃ってないと真の実力を発揮出来ない、実によく聞く話である。そのうち絆みたいに8対8とか実装されるのを祈るんだな兄者。その時はその時で3人くらい追加戦士(メンバー)が必要になるけど。シュシュッと参上しそうな3人組でも連れてきます? 色被りまくるけど。

 

 

『かくなる上は小僧! 貴様だけでも黄泉路への道連れとし、三途の川の駄賃代わりとしてくれるわぁぁぁ!!』

「歩きたいのか川渡りたいのかはっきりしろ」

「喋るなァァァァァ!!」

 

 

 つれない返事だな兄者殿。煽り煽られ(レスバし)ながらの攻防こそがロボットチャンバラの醍醐味ってやつじゃないのか? もっと会話のドッジボールってやつを楽しもうぜ。ユニバァァァァァス!!

 阪神王子好きなんだよ。何と言っても声が良いね声が。生まれ変わったら稲田徹か井上和彦か中村悠一の声になりたい。宮本充さんっていうのも捨て難いな。グリリバ? いや俺の名前でその声はまんまアレになっちゃうから……ほら……。

 あと最近若手で俺と同じ名前の声優さんいるらしいですね。サムライトルーパーで初めて知ったよ。陰ながら応援しています。

 

 

『『ニニン=Ⅳ』最後の一人となったSASUKE選手! 追い詰められてもその方針に変化なしか、依然として目の前のREDHero選手を執拗に狙い続けますッ! 果たしてその執念は実るのか──あーっとォ!?

「げっ、ヤバ……!」

『失速ッ! 『プロタゴニスト』失速ですッ! 『レッドモンキー』の火炎放射がついに『プロタゴニスト』のオーバーヒートを誘発しましたーッ! REDHero選手、最早カラスマには頼れませんッ! 撃墜王(エース)のSASUKE選手を相手に、足を止めての格闘戦を挑むしかなァァァい!!』

『ぬははははははははァ! 追いかけっこもここまでよな小僧ぉぉぉぉ!!』

 

 

 脳内声優談義で盛り上がってる場合じゃなかった。もしかして俺3戦連続オバヒ起こしてんのか? 前期の最終戦から数えて。熱量管理がカスにも程があるだろ。このザマでよく渡良瀬(あいつ)に追いつきたいとか大口叩けたなお前な。

 そう、これが今の俺の実力。渡良瀬(セリン)や『Blade』どころか、プレイヤーランキングに名を連ねている訳でもない野良撃墜王(エース)の兄者にすら追い詰められる程度の雑魚(モブ)。それが今の俺だ。

 ここから急に謎の力に覚醒して、兄者相手に逆転勝ちを収められるほど現実(リアル)ってやつは都合良く出来ちゃいない。いや、親睦会(こないだ)みたく俺の集中力が限界突破してくれれば、一矢報いるくらいのことは出来るのかもしれないが──時既に遅しと言う奴だ。

 それを狙うなら、オーバーヒートを起こす前に仕掛けるしかなかった。何なら兄者は、このまま遠巻きに俺を火で炙り続けるだけでも良いのだ。それだけで俺は完封(パーフェクト)負けする。状況がそれを許さないだろうけれど。

 そう──()()の話だ。俺一人の力では最早、この窮地を脱することなど叶わない。故に俺は、こうなるまでに()()()()で作り上げた状況に頼る。

 気付いてるかな、兄者。

 俺との追いかけっこに興じていたせいで、すっかりと離れてしまった主戦場の中央居住区。そこからとんでもない勢いでかっ飛んでくる、青色の──

 ──アンタにとっては赤色の、レーダー上の光点にさ。

 

 

『散るがいい『REDHero』よ! そして烏滸がましいその名を捨てて、灰色通行人(グレーエキストラ)とでも名を改めるが良いわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

 あ、気付いてないですねこれ。

 まったくもって仰る通り、俺には微塵も相応しくない。『REDHero』も『プロタゴニスト』も、どちらも俺には不釣り合いな重た過ぎる称号だ。

 だからですね。

 ()()()()ってやつにそろそろ、お越し頂きましょう。

 

 

「助けてチェンソーマン」

『──は?』

 

 

 完結おめでとうございます。

 胸中でそう付け加えつつ、俺は眼前のその光景を、まるきり観客気分で眺めていた。

 火炎将軍剣──もとい、左腕のブレードで猛然と斬りかからんとする、兄者の赤いタイタンが。

 俺から見て2時の方向、貫通した()()が俺をも巻き込まないよう、配慮の上で角度を付けて放たれたであろう──

 ──二刃の光波に、土手っ腹をぶち抜かれるのを。

 

 

『ござるゥゥゥゥゥゥ──ッ!?』

「はい追撃」

『がっはああああああああああ!!』

 

 

 追撃のグランドヴァイパー(グレネードランチャー)でダメージは更に加速した。

 ようやく当てられたよこいつ。威力も判定のデカさも申し分ないんだけど、撃つのに一々構え(溜め)がいるから案外使い所ないんだよなこれ……今みたいにオバヒで足止まってカラスマも使えない時の迎撃用に積んでるような感じ。正直勿体無い使い方かもしれんね。

 ま、俺の話はどうでもいい。どうせもう賑やかしにしかならん。下手に援護して誤射でもしたら最悪だからな。親睦会(こないだ)みたいに……うっ、頭が……。

 まあとにかく。

 後は万事、我らが()()()にお任せするとしましょう。

 

 

『待たせたわね、陽彩くん』

 

 

 いや、今来たところだよ。

 ……こんな台詞もいつか言えるようになんのかね、俺。

 今のところはさっぱり、想像が付かないけれど。

 言えるようになる日が来ればいいとは、思ってるよ。

 なあ、そうだろ──

 

 

 

 

 

『──()()()()()!!』

 

 

 

 

 

 ──渡良瀬。

 本当にオールマイトになっちゃったな、お前。

 俺のことヒロアカって呼んだ奴ぶっ飛ばすからな。一生有効だぞ、忘れんなよ。

 

 

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