VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで   作:Amisuru

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御免(ごめん)

 

 

『──如何だったでしょうか? 『Wasteland Titans』Bクラスリーグ戦第一試合! 元プレイヤーランキング一位『serin』の復活劇もさることながら、その他の隊員達のいぶし銀な活躍も光る非常に見応えのある対戦だったのではないでしょうか! チーム『イノセンス・モラトリアム』、今後の活躍にも大注目です! それでは本日はここまで、実況は(わたくし)DJアオシマがお送りいたしました』

「Yeahhhhhhhhhhhhhhh!!」

「Fooooooooooooooooo!!」

「あーあー、うるせーうるせー。もう夜なんだから静かにはしゃぎやがれ、迷惑だろ迷惑。オレじゃなくておめーらの親に」

「……なかよし……」

「あ? なんか言ったかセリン」

「幻聴よ、隊長さん」

 

 

 控え室に戻るなり、23歳幼女と会心のハイタッチを決め合う俺であった。ちなみに決め合うと言っても分身(アバター)のユメさんと現実(リアル)のユメさんの手の位置に大幅なズレがあるので、実際のところは俺が差し出した手を栗毛パーマの幼女が一方的にばしばし叩いているだけだったりする。絵面的には空振りだし。

 これそのうち変な事故とか起こりそうで怖いよなあ……うっかり分身(アバター)ユメさんの頭上に手出しちゃった時とか。変なところに当たるな!(CV平松広和)って祈るしかないわ。具体的にどことは言わんけど。

 

 

「見た? ギザさん見た? わたしの渾身のラストシューティングを。あの一撃は間違いなくWT(ウェイタン)史に残るよね。チーム『イノセンス・モラトリアム』、最強伝説始まりの瞬間として」

「なーにが伝説だっつーの。あんなん9割方ヒーローの点みてーなもんだろ」

「ちっちっち、そういうのは関係ないのです。わたし達の栄光のロード、その幕開けの狼煙であることに変わりはないのです。ね? セリンちゃん」

「──ふえ?」

 

 

 唐突に話を振られた渡良瀬(セリン)の口から、凛々しさとは程遠い気の抜けた声が漏れた。試合終わって油断してたかなこいつ……。

 

 

「だってそうじゃない? 実況のひとが言ってたじゃん、あの忍者さん達はAクラスから落ちてきたチームの中でも最も多く勝ち点を稼いだチームだーって。そんなひと達に完全勝利しちゃったワケですよわたし達は! これはもうBクラスでは向かうところ敵なし、1試合にしてAクラス入り決定と言っても過言ではないのではないでしょーか!」

「調子に乗んなって言いてーとこだが……ま、確かにな。色々とトンチキな連中だったが、あれでもBクラスじゃ上積みの上積みに当たるのは間違いねえ。少なくとも隊長(リーダー)の野郎の腕前に関しちゃガチだったしな」

「……そうね。色々と迂闊なところもあったけれど、最後の粘りには私も少し驚かされたわ。まだ()()()余地が残っているかもしれないわね、あのお猿さんは──」

「お褒めに預かり恐悦至極でござる。ニンニン」

「──何奴ッ!?」

 

 

 いかん。()()の口調に引っ張られて俺のキャラまでおかしなことになった。完全に刺客に襲われた時の昔の偉い人みたいな感じなんよ。

 さておき、声のする方に視線を向けると──控え室の片隅、何故か4人揃って粛々と正座している『ニニン=Ⅳ』の皆様方の姿があった。いや、いつの間に入ってきたんだお主ら。無駄に忍者スキル発揮するのやめて頂けます? そういうゲームじゃねえからWT(これ)

 などと、突然の闖入者達を前になんだこいつらと戸惑いを隠せない俺らを前にして。

 

 

「井の中の」兄者(サスケ)

(かわず)(かわず)笑止(サイゾウ)

相対(あいたい)す」然り(セイカイ)

「真の蛙は」隠密(ジライヤ)

「「「「己なりけり」」」」全員。

 

 

 で、謎の一句を詠み終わった一同。

 徐に懐から一尺(30cm)ほどの脇差を抜き払ったかと思うと、各々それを()()()()()()()()()()()、そのまま一気に──

 

 

「「「「御免ッ!!」」」」

「ぎゃ────────!?」

 

 

 掻っ捌いた。

 ドバドバ出た。(エフェクト)が。ちなみに上がった悲鳴は我らが渡良瀬(セリン)嬢のものです。ああ、いかにもゴア表現(こういうの)耐性無さそうだもんなお前って……。

 

 

「ああああなた達、一体ななっ、何を……!?」

「かっ……介錯を……」

「いいいいいやそんな、介錯だなんて言われても……! ていうかその、おなか、おなかが──」

「見事なり」

「ゴハァ!!」

「いやあああああああ────!?」

 

 

 言われた通りに兄者(サスケ)の背中から忍者刀を掻っ払って、そのまま首をずんばらりん。当然の如く斬られた首からも赤いのがばしゃばしゃ吹き出しまして、ついでにぶった斬られたお首もポロリ──と思うじゃん? 流石にそこは自重してるんだなあ、『Wasteland Titans』。スタッフの中にはCERO引き上げてもいいから損壊(ゴア)表現解禁しようぜとか騒いだ過激派もいたらしいけど、お前らこれロボットゲームやぞと諭した正気の人達のおかげで事なきを得たのだとか。忍者刀実装時の開発インタビュー曰く。

 

 

「──数々の非礼、この首に免じてお許し頂きたい。『イノセンス・モラトリアム』の皆様方」

「わァ……ぁ……」

「あ、セリンちゃんがちいかわ(昨日のわたし)みたくなってる」

「あーそうか、昨日の話なのかあれ……今日一日で色々あり過ぎて10日くらい前の感覚だぜ……」

「ち……ちがぁ……ちがでてるよぉ……こんなのわたしのしってるWTじゃない……」

「おーよしよし、泣かない泣かないセリンちゃん。ほら、別にどこも斬れてないから。派手な演出(エフェクト)で誤魔化してるだけだから。ね?」

 

 

 幼女と化した渡良瀬(セリン)の頭を23歳の幼女が撫でていた。これがバブみを感じてオギャるってやつなんですかね? 有識者(シャア)はどう思う? サボテンが花を付けている……。

 

 

「──その反応(リアクション)、本当にずっと引退しておったのでござるなあ」

「……ぅえ?」

 

 

 と。

 憑き物が落ちたとでも言うのか──試合前の軽薄な様子とは打って変わった、しみじみとした口調の兄者である。

 

 

「3年前──プレイヤーランキング2位の『Blade』、そして1位のおぬしが立て続けに姿を消した時、界隈に暗澹とした空気が漂っていたのを覚えているでござる。拙者らの愛した、『Wasteland Titans』というゲームは──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と」

「────」

「しかしこうして、おぬしは再び電子の荒野(Wasteland)へと舞い戻ってきた。そこにどのような心境の変化があったのかは、拙者の知るところではござらぬが──いずれにしても」

 

 

 そう言って。

 忍者軍団の長を務める男は、かつて絶対と呼ばれた少女の前で傅き、続けた。

 

 

「よくぞ戻られた、絶対女王(ミス・パーフェクト)。おぬしの帰還を拙者は、心から歓迎するでござるよ」

「……ありがとう」

 

 

 そんな男の言葉に。

 帰ってきた『絶対』もまた、感謝の言葉で応えた。

 

 

「私──WT(ここ)に帰って来られて、本当に、良かった……」

 

 

 その声色にはまだ少し、震えが混じっていたけれど。

 その震えはもう、恐怖や怯えによるものではないと──この場にいる誰もが、理解っていた。

 

 

 ……良かったな、渡良瀬。

 確かに当時、お前の強さに張り合えるような存在はいなかったのかもしれないけど──

 それでも間違いなくお前は、愛されていたんだ。王者として。

 気付けたんならもう二度と、手放すなよ。その愛を。

 口にするまでもないことだから、言わないけどさ。

 

 

「ククク……笑止。まっこと見事な戦ぶりでござった、完敗です」

「隠密も実力も連携も足りなかったでござるなあ、拙者ら──対ありでした。また一から鍛え直します」

「然り然り」

「おお……ギザさん、このひとたち普通の言葉もちゃんと喋れたんだねえ……」

「そりゃそーだろ、人間なんだから。……なんか一人だけ構文使い(bot)のままの奴もいるけど……

 

 

 で、そんな兄者に続いて殊勝な言葉を吐き出すようになった弟者達である。試合が終わればノーサイド、健全で実によろしいことだと思います。

 何しろ俺らがやってるのは、単なる遊び(ゲーム)ですからね。

 遊びってのはいつだって、みんなで楽しくわいわいやるものなんですよ。

 

 

「──『レッドヒーロー』」

 

 

 と、そんな一同の様子を傍観者気取りで眺めていると。

 傅きを終えて立ち上がった兄者殿(サスケ)の視線が、俺の方へと向いていた。

 

 

「おぬしにもつくづく、してやられたでござる。……最後の鍔迫り合い、あれは狙って釣り出したのでござるか?」

「ま、ね。ビックリするくらい当たんなかったから、無理矢理にでも動き止めちまおうと思って仕掛けたんだよ。別にそのまま殴り殺せたらそれでも良かったんだけど」

「……おぬしに取り付かれた時点で、拙者の詰みでござったか──()は負けぬぞ、レッドヒーロー。来期も再び、おぬしらと相見(あいまみ)えることを願っているでござる」

「──ああ。Aクラスでね」

 

 

 自然と互いに、右手を差し出していた。

 試合中には色々と煽りあったりもしたが、知らん間に俺も兄者からのリスペクト点数(ポイント)を稼げていたようだ。いや、アンタも強かったよ本当。一対一(サシ)でやったら普通に負けてたわ、間違いなく。

 だけど、次にやる時は。

 アンタを一人で倒せるくらいの俺に、育っていたいもんだね。

 

 

「……ちなみに、つかぬことを訊ねるでござるが」

「はい?」

「おぬしのその、『レッドヒーロー』という名前──」

 

 

 それは思いの外、神妙な口振りで。

 嘘偽りや茶化しを許さない、問いかけだった。

 

 

「──おぬしもまた、()()()()のでござるか? 英雄(ヒーロー)に」

「────」

 

 

 故に俺は、とある赤い英雄(レッドヒーロー)の名を借りた男の言葉に。

 すぐに答えを返すことが、出来なかった。

 

 

「……そうだな」

 

 

 一言挟んで、改めて。

 じっくりと、考えてみる。

 単なる本名からの連想、それだけだと思っていた。そのつもりだった。しかし、よくよく考えてみれば本名がどうとか関係なしに痛い名前だ。赤い英雄(レッドヒーロー)なんてのは。むしろ俺は、赤嶺陽彩(自分の名前)を命名のための言い訳に利用してまで──

 名乗りたかったんじゃ、ないのか。

 『REDHero(その名前)』を。

 

 

「そういうことかも──しれない。『プロタゴニスト』にしてもそうだ。皆がさっさと捨てちまった最初()の名前を、未練がましくだらだら引き摺ってるのにしたって──」

 

 

 英雄(ヒーロー)主人公(プロタゴニスト)

 その他大勢(モブ)でいいなどと嘯いておきながら、結局のところ、俺は。

 

 

「──俺はずっと、なりたかったのかもしれない。()()()()()()に」

「……ふ」

 

 

 そんな小っ恥ずかしい俺の告白を耳にした、赤い忍者服(ニンジャレッド)の男は。

 人の本音を鼻で笑って、理解者ぶった口振りで。

 

 

「やはり拙者の見立て通り、()()でござったな。おぬし」

「うるさいよ、同じ穴の狢が。さっさと帰って中年奮闘編の続きでもしてろ」

「誰が中年でござるかあ! 拙者はまだ35でござる! れっきとした平成生まれでござる!」

「げっ、年下……ちょっと待て、平成生まれが35歳……?」

「あ、流れ弾でウチのおじさんがダメージ受けてる」

隊長さん(おじいちゃん)……」

「あああああやめろ! オレに醜い現実を見せるんじゃねえ! オラおめーら、いつまで人様の控え室でウロチョロやってんだ! いい加減さっさと忍びの里に帰れ里に!」

「ふはははは! 言われるまでもなし、長居は無用よ! 征くぞ、サイゾウ! セイカイ! ジライヤ!」

「笑止!」

「然り!」

「隠密!」

 

 

 あ、結局そこの返事は構文(テンプレ)なんですね。

 などと突っ込む暇もなく、野郎だらけの忍者戦隊は一斉に例の煙玉を抜き放ち、最後に。

 

 

 

 

 

()()()()()でまた逢おうぞ、チーム『イノセンス・モラトリアム』よ! ではこれにて──さらばっ!!

 

 

 

 

 

 そんな言葉を残して、白煙の中へと消えていった。

 普通に扉開けて出てけよ、兄者殿。

 

 

 ──また闘おう(遊ぼう)ぜ。

 アンタの言う通り、今度は荒野の高みってやつでさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 で、煙が晴れた後の我らがチーム『イノセンス・モラトリアム』控え室。

 部屋の中に残っているのは、()()()()()()()

 黒髪ロングのおかっぱ頭の少女と、困惑気味にきょろきょろしているそいつを眺めている俺の──二人だけ。

 ……やりやがったな、あの大人(バカ)ども。

 まさか兄者達の煙幕に乗じて、揃って部屋から出て行きやがるとは。連中なら絶対帰る時もまた同じことするって読んでいやがったのか? どっちが忍者だか分かったもんじゃないな、まったく。

 

 

「ひ、陽彩くん……え? えっ? お姉様は、隊長さんは──?」

「……忍びの里に帰ったらしいな、あいつらも。一体いつ思いついたんだか、こんなん……」

「そ──そう、そうなのね……そう、なんだ……」

 

 

 で、その事実を認識した途端に。

 目の前の渡良瀬(セリン)から、一瞬にして凛々しさが失われたのが判った。

 分身(アバター)越しであろうとも、声色と定まらない視線で察しが付く。今の渡良瀬(セリン)は──いや、最早脳内ルビ振りも不要だろう。

 今の渡良瀬は明らかに、落ち着きを失いかけている。

 本当に不思議な奴だよ、お前は。荒野の中(Wasteland)じゃ誰よりも冷静で最強なのに、タイタンから降りたらこれだもんな。かつて俺が抱いていた無感情クールの渡良瀬凛音とかいう幻想は、今や絶対女王(ミス・パーフェクト)『serin』のための人格(ペルソナ)へとすり替わってしまった感がある。

 けれど──

 

 

 

 

 

 ──そんなお前が浮かべていた、心からの笑顔に。

 俺は一撃で、心臓(コックピット)を撃ち抜かれていたんだ、きっと。

 

 

 

 

 

 ……コントローラーを握る手に、必要以上の力が入る。

 ここがWT(ウェイタン)の中で良かったなと、思う。きっと現実(リアル)の俺は今、渡良瀬ほどではないにしても緊張が顔に出ているに違いないから。

 そもそも、()()()()()()を伝えるのが現実(リアル)ではなくWT(ゲーム)の中という時点でどうなんだという気持ちもある。が、鉄は熱いうちに打てという諺もあるし、何より前にも言った通り、とある元懸賞金600億$$(ダブドル)の男も、こんな格言を残していたりするのだ。

 

 

 

 

 

 好きなら言っちゃえよ。

 早けりゃ早い程いいぜ、と。

 

 

 

 

 

 だから言うのだ。

 俺は言うのだ。

 俺は今から、絶対女王(ミス・パーフェクト)でもWT最強のプレイヤーでも何でもない、()()()渡良瀬凛音という、一人の女の子に向けて──

 告白を、するのだ。

 

 

 ……こういう言い方するなら、やっぱ現実(リアル)の方が説得力あったか?

 まあいいだろう、別に。

 俺の心の中なんて、誰が覗いてる訳でもあるまいし。

 支離滅裂になって当たり前なんだよ、人間なんだから。

 毎日がアドリブとその場凌ぎ、瞬瞬必生ってやつだよ。そんなもんじゃないのか? 誰だって。

 まあとにかく。

 そんな言い訳がましい前振りは、これくらいで終わりにしましてね。

 

 

 ──言うぞ。

 さあ、言うぞ──

 

 

「あのさ、渡良瀬──」

「ごめんなさいっ!!」

 

 

 フラれました。

 

 

 

 

 

 …………。

 ……えっ?

 

 

「私──私やっぱり、忘れられないわ。いくら頭の中がぐちゃぐちゃになっていたからって、私、あなたに、あんな──し、し──だなんて……」

「──はっ」

「更には直接、あなたを苦しませるようなことをして──試合が始まる時までずっと、あなたのことを無視までしてしまって……これだけのことをしておいて、無かったことにしてしまおうなんて私には出来ない──だから、言わせて下さい。ごめんなさい」

「……あ、ああ……なるほどな、そういうことね……?」

 

 

 ビックリした。

 死ぬかと思った。

 始める前に全てが終わってしまったのかと思った。

 心の中で安堵するのと同時に、気付かされる。

 たった今の俺が感じた、()()()()()()()()()()()()()。俺は一瞬の勘違いで済んだ。けれど、こいつは──渡良瀬は。

 本当の本当に、()()()()のだ。他ならぬ、俺自身に。

 その痛みはきっと、あの親睦(わからせ)会で俺がぶち込んだ──

 『灰頭(アッシュヘッド)』の何億倍にも、及んでいたに違いない。

 

 

 

 

 

『私──今なら言える。今まで生きてきた中で、今が一番──』

 

 

 

 

 

 ……本当に、クソみたいな話だ。

 俺はあいつの、()()()()を、なかったことにしたのだ。

 あいつに幸福(しあわせ)を与えるなどと宣っていた、張本人が。

 あいつの人生最高の瞬間を、粉々に打ち砕いたのだ。

 

 

 俺こそが渡良瀬に、人生最大の不幸を、齎したのだ。

 

 

 

 

 

 ……申し訳ない、ダイソン中尉殿。

 アンタの格言を借りておいてなんだが、やっぱり──

 ()()()()()には、出来そうにない。俺も。

 

 

「……俺こそ、ごめん」

 

 

 そう言って、頭を下げた。粛々と。

 兄者達のことを思い出す。己の立ち振る舞いを悔やみ、文字通り腹を切って詫びてみせた、その姿勢。いや、所詮単なるフリ(ごっこ)って言えばそれまでなんだけどさ。

 本来なら俺も、()()()()()()なんだろう。きっと。

 赤嶺陽彩、並びに鱗滝左近次、冨岡義勇が腹を切ってお詫び致します。それくらいのことをしたとしても、許されないほどの苦痛を、俺は渡良瀬に与えてしまったのだ。

 勝手に巻き込んじゃって悪いね、水の呼吸の御二方。

 

 

「俺──お前にとても、ひどいことをした。宇宙一のクソボケ野郎だった。どの口でお前を幸せにするなんて宣ってたのか、本当に──」

「……ううん。もういいの」

 

 

 そんな、たったの一言で。

 渡良瀬は俺の犯した罪を、無かったこと(イノセンス)にした。

 

 

「……あのね? 陽彩くん達が帰った後、部屋で泣いてた私にお母さんが言ってくれたの」

「……泣いてたのか……」

「あああごめんなさい! 違うの、そのことは忘れて! 忘れろー、忘れろー、忘れろビィィィム!!

 

 

 はああああ、と念破の如き何かを俺に向かって飛ばしてくる渡良瀬。お前好きだねその技使うの……一度たりとも効いた試しないけど……むしろ使われれば使われるほど海馬に強く刻まれていく感じがするわ。エピソード記憶ってやつはインパクトの強さが大切らしいからな。

 

 

「……とにかくね? お母さんはこう言ってたの。『リンちゃん、確かに彼の考えていたことは、()()()()()とは少しばかり違っていたけれど──それでも確かに、彼の言葉に嘘偽りは無かった筈よ』って」

「────」

「……だから私、信じてるの。あなたはきっと、私の思いも付かないような方法で──」

 

 

 そこで一度、言葉を切って。

 渡良瀬は一歩、俺の方へと。

 手を伸ばせば届くほどの距離まで、踏み込んできた。

 

 

「──私のことを、()()()()にしてくれるんだ、って」

「……渡良瀬──」

「ねえ──聞かせて? 陽彩くん。あなたは一体、どんな形で──私のことを、()()しようなんて思ったの?」

 

 

 ……よもやよもや。

 今になって、認められてしまったらしい。再トライのチャンスを。

 あのカスみたいな言い訳を、取り繕う機会を。

 どうなんだろうな、という気持ちは少しだけある。何しろこのやり方は、()()以外の手段を思いつかなかった時の俺が辿り着いた、今にしてみれば夢物語みたいな話だったから。

 WT(楽しむ)以外の方法で、俺がこいつに与えられるような幸せなんてある訳がないと、思っていた頃の話だから。

 とはいえ──聞かせてほしいと言うのなら、答えない訳にはいかないだろう。

 これがいわゆる、惚れた弱みというやつだ。

 

 

「……馬鹿みたいな話だけど、笑うなよ」

「笑わないよ。絶対」

 

 

 なんだか、少しだけ。

 言葉を返す渡良瀬の声は、楽しそうだった。

 あんまり期待するなよ、重苦しいから。かつての俺ならそう言って、うんざりした気持ちになっていたのかもしれない。

 けれど、今は──

 

 

 

 

 

 ──お前の寄せてくれる、期待になら。

 幾らでも応えてみせたいって、思ってるんだ。俺は。

 こんなこと言ったら本当に笑われそうだから、言わないけどさ。

 

 

 

 

 

「──もしもいつか、俺とお前が──」

 

 

 

 

 

 かくして俺は、語り始めた。

 朝方の俺が思いついた、渡良瀬凛音絶対幸福計画(プロジェクト)──その概要について。

 

 

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