VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで   作:Amisuru

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『クロガネの執行者』

 

 

『──()()()()()()()()()。進捗どうですかー』

「……んな簡単に書き始められたら苦労しねーっつーの」

 

 

 テレビと本体の電源を落として、スーツも脱いで寝巻きに着替えた自室の中。

 PCの前へと腰掛けたオレは、傍のスマホから聞こえてくる甘ったるい女の声に相槌を打った。

 いや書けねえ。マジで書けねえ。一文字たりともタイピングが進まねえ。

 一度筆を折った(エタった)話にもう一遍取り掛かるってのは、こんなにも気が進まねえもんだったのか……?

 

 

『もー、全然ダメじゃん。今までよりかはWT(ウェイタン)やる時間減らして、その分()()の方を頑張るんじゃなかったの? あんまり読者のこと待たせてると愛想尽かされちゃいますよー』

「うるせーな、今更大して残っちゃいねーよ。絵師ガチャとコミカライズが当たっただけで、大して面白い訳でもねえ原作(オレ)の読者なんて──」

『ちょうど今増えたばっかりだけど。ここに一人。web版だけどね』

「…………」

 

 

 ……読んだのか、ユメ。

 大昔ネット小説サイトに上げて、今もまだ残ってる──オレの商業デビュー作、『クロガネの執行者』を。

 

 

 

 

 

 

 

 セリンの家を後にして、心ここに在らずのヒーローを見送った後。オレとユメの二人は、同じ電車に乗ってそれぞれの駅へと帰っていった。京王線で。

 橋本で相模線に乗り換えて、相模原であいつと別れるまでの道すがら、色々なことを話した。小説家になるまでの成り行きとか、バンドマン時代の思い出話とか、昔付き合ってた女の話とか──いや、どれもこれもオレから喋り出したワケじゃねーんだよ。全部ユメのヤローが聞きたがったんだよ。殊更最後の話を。

 でもってその過程で、互いの連絡先も交換しとくかって話になって──長え長えこの一日がぼちぼち終わろうかっていう今になって、こうしてユメから電話が掛かってきやがったってワケだ。

 どういうつもりなんだかな、こいつ。おめー明日もバイトあんだろ、さっさと寝ちまえよ。オレ? オレは365日好きな時に寝て好きな時に起きてんのが許される立場だからよ……今日みてーな現実(リアル)の予定が入らなけりゃの話だけどな。

 

 

『おもしろかったよ。まだ最初の方しか読めてないけど、主人公と奥さんのいちゃついてるシーンが雰囲気いい感じで──だから奥さんがいきなり殺されちゃったのショックだったなあ。復讐もので行くんだね、これって』

「あーそうだよ。どこまで読んだか知らねーけど、基本的に終始くっらいくっらい雰囲気で進むから覚悟しとけよ。スカッとすんのは仇の奴らをぶっ殺す時くらいのもんだと思っとけ」

『うへえ、バイオレーンス……でも新しいヒロインの子とか出てきて続き気になるから読んじゃう。あ、本の方ももうポチったからね。ArmourZone(アーマーゾーン)で。私のお金が巡り巡ってギザさんの生活費になるのです。これはもうわたしがギザさんの生殺与奪を握ったと言っても過言ではありませんね?』

「過言も過言、ド過言だっつーの。おめーが1冊2冊買った程度でオレの生き死にに影響が出てたまるかってんだ」

『うわ、さいてー! そーゆー自分のファンを蔑ろにするような言動どうなんですか、わたしみたいな存在が積もり積もったおかげでギザさんは生きていられる自覚ありますか? 自分の創ったもの好きになってくれた相手に砂かけるようになったら人としておしまいだからね? そういう世界のお話、わたし本当に全然わかんないけど』

「……お買い上げいただき誠にありがとうございます」

『うむ。よろしい』

 

 

 なんで金をドブに捨てて満足気なんだろうなこいつ。いやまあ、オレの話はさておいてもイラストの方は普通に神だからそれだけで金落とす価値充分にあるけどよ。

 電車での帰り道すがら、当然話は現実(リアル)のオレ自身──と言っても大佛洸一郎ではないもう一つの顔、ライトノベル作家小佐内ガイについても及んだ。一体どんな話を書いているのか、ぶっちゃけどのくらい人気があるのか、最近は何か新しい本を出したりしたのか──こっちの口が渋くなることを、それはもう根掘り葉掘りだ。だからおめーらに知られたくなかったっつー話なんだよな。セリンのやつがヒーロー(クラスの連中)にWTの話しなかった理由がよく理解(わか)──

 ……いや、あいつの場合はまた違うよな、色々と。

 もう何もかも、終わった話だからいいけどよ。別に。

 

 

『でもさ、正直言ってビックリしたよわたし。あのちょいワル金髪おじさんのどこからこんなあまーいラブロマンスが出力されてるんだろうなーって。結局そのシーンも主人公が復讐者に(ああ)なるまでの前振りだったってのは理解るんだけど──いやホントに、ギザさんを見る目が変わるよね。これ読んだ後だと』

「……悪いんだけどよ、その辺のシーンについてはあんま言及しねーでくんねーか……オレ自身血反吐を吐く思いで書いてたからよ……心の中のクロコダインが悲鳴を上げてたからよ……」

『ダイの大冒険の話はわたし全然わかんないです。……だけど、そっか。お話作りって全部が全部、書いてて楽しいワケでもないんだね?』

「あー……ま、その辺はなんだかんだ言って筆自体は乗ってたんだけどな。詰まったのはむしろその後の──」

 

 

 そこまで言って。

 オレ自身の言葉もまた、詰まった。

 

 

『……ギザさん?』

「……よお、ユメ。おめーさっき、新しいヒロインが出てくるとこまで読んだっつってたろ、クロガネ」

『え、え、ちょっと待って下さいます? もしかしていきなり特大級のネタバレかまそうとしてません? 作者自ら読者にそういうことするのって一体どういう了見?』

「いや──ネタバレっつーか、今まさにそれを書くところで止まってるっつーかよ……」

 

 

 『クロガネの執行者』──主人公はとある組織の暗殺者を務める寡黙な男だったが、ある日敵対組織の報復に遭い子供を身籠ったばかりの妻を惨殺され、自身も瀕死の重傷を負ってしまう。最先端のサイボーグ技術によって一命を取り留めた男は、新たに手にした(クロガネ)の身体で妻の仇への復讐を決意する──といった感じのあらすじだ。

 ぶっちゃけ割とありがちな設定のハードSFアクション物だと思うんだが、何故だかそれがまあまあウケてコミカライズまで出して貰えた。エゴサで調べたファンの声曰く『今時珍しいシリアス全振りの空気感がいい』『描写が濃厚で読み応えがある』『油断してると即死人が出る緊張感がヤバい』などの評価を頂けたようだが、正直探せばいくらでもあんぜ、こういうの。そもそもクロガネからして元を辿れば鬼○街のパク……いや、何でもない。

 

 

「……そのヒロイン、ラストバトルの直前で死なせる予定だっつったら──どう思う?」

『え────っ!?』

 

 

 クソやかましい眼鏡女の声が、スマホのスピーカー越しに響き渡った。夜なんだから静かにしろって言っただろーがよ、1時間くらい前に。

 

 

『ない。ないないない。それはホントにありえないです。絶対燃えます。読むのやめます。評価0付けます』

「……おめーの読んでるとこ、まだヒロイン出てきたばっかじゃねーのか? そこまで入れ込む要素あったか?」

『だってめちゃめちゃいい子じゃんよぉー! 主人公さん助けてくれたし性格天使だしこの子自身も組織に酷い目に遭わされてるっぽいのに、それでもめげずに幸せ目指して頑張ってるんじゃん!? そんなけなげな女の子をぶっ殺そうだなんて人の心とかないんか! 鬼! 悪魔! 禪院直哉! 呪術廻戦のことはわたし全然わかんないけど!』

「最後のはそれ言った方だからな、一応。……でもまあ、そうだよな。読者目線でもそう思うよな、やっぱ」

『……え、なに。もしかして()()で詰まってるの? 自分でその展開思いついておいて?』

「いや……プロットの段階じゃ、絶対熱い展開になると思ってたんだが……いざ書こうと思ったら手が動かねえのなんのって……」

 

 

 ユメがたった今熱く語った、『クロガネの執行者』におけるヒロイン的存在。愛する妻を失ったことで冷え切ってしまった主人公の心を、献身的に寄り添い癒す慈母のような少女。妻の存在があるが故に、決して愛情を注ぐことはなかったものの、間違いなく主人公にとっての新たな守るべき対象──

 ──しかしその少女は、敵の親玉の手によって儚くも命を散らしてしまう。そうして今度こそ主人公は、身も心も完全に凍りついた(クロガネ)の塊と化し、ただ一つの目的のために敵地へと乗り込む執行者(エクスキューショナー)となる──というのが、今まさにオレが書こうとして止まっている巻の内容だ。

 勿論()()なる前に、これでもかというくらいに主人公とヒロインの心の距離は縮めておく。その方が読者にとっても、失われるヒロインの命の重みが増すからだ。そこらの脇役(サブキャラ)や名前も出ないその他大勢(モブ)がいくらくたばったところで、読者に衝撃を与えることなど出来ない。丁寧に丁寧に積み上げていったところで、盛大にそれを崩すからこそ()()()()()のだ。ドミノ倒しみてーなもんだな、つまるところ。

 で、ここに至るまでオレも必死こいて築き上げてきた。崩れることを前提にしたその関係(ドミノ)を。ヒロインの方はもう主人公のためなら死んでも良いくらいのレベルで入れ込んでいるし、主人公だってこの娘だけは命に換えても守護(まも)らなければならないと固く心に誓っている。実に尊い繋がりだ。美しい。

 で、後はそれを派手にドーン! 全部台無しです! ザマぁないわねぇ! するだけ──

 

 

 ……するだけだった、筈なんだがなあ。

 書けなくなっちまったんだなあ、これが。

 

 

「……『クロガネ』を書き始めた頃のオレは、人生のどん底みてーな感じでよ。ボーカルの野郎に女を寝取られて、そんでブチ切れてバンドを出てったのはいいが、なんかそれでもう音楽自体に嫌気が差しちまって……」

『え、急にどしたのギザさん。ていうかそれもう電車の中で聞いたんですけど』

「あー、そうだっけか……とにかくな、『クロガネ』っつーのはそういう当時のオレの心境が反映された話でもある訳なんだよ。ドロドロのぐっちゃぐちゃでよ、思い返すとよくこんな話書いてたな……? 当時のオレって何かしら病んでたんじゃねーか……? みてーな感じでよ。おめーも読んでて気分悪くなったりしたんじゃねーのか? 第一話とか特によ」

『あー……まあ、それはちょっとあったかもしんない。ていうかギザさんグロ描写無駄にがんばりすぎです。そこは力入れなくて良かったです。それこそArmourZoneって感じでした。さっきまで生命(いのち)だったものがあたり一面に転がるって感じでした』

ArmourZone(一期)じゃなくてDIE SET DOWN(二期)の歌詞だかんな、それ」

『アマゾンズの話なんて全然わかんないからね、わたし』

 

 

 嘘を吐くな、嘘を。

 ……本当に、たかだか一年ですっかりと()()()()()()()もんだな、こいつも。

 

 

『……つまるところ、この『クロガネの執行者』っていうのは──()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことなんです?』

「……病んでたって断言しちまうのもなんかアレだが、そういう側面はまあ、あったかもしんねーな」

 

 

 そう。

 当時のオレはそれこそ、何かに取り憑かれたように書き綴っていた。鋼の復讐者の物語を。しかしそれが世間に見つかって、何の間違いか書籍化の打診が来てしまって、世に出た本は大ヒットとまでは行かないにしろ、コミカライズの収益と合わせれば数年食うには困らない程度の収入が得られるようになって──

 

 

 ……そうしたら、いつの間にか。

 オレの指は、物語を書き綴る手を、止めていた。

 凄惨な描写を挟むことに、嫌悪感を抱くようになった。作品に茶らけた空気を取り込みたくなった。好きなアニメや漫画のパロディを捩じ込みたくなった。それに、何より──

 

 

 ──『クロガネ』を書き始める前から、絶対に殺すと心に決めていたヒロインを。

 どう足掻いても、殺せなくなってしまった。

 小佐内ガイという作家は、(クロガネ)の執行者には、成り切れなかった。

 結局のところ、オレは──いつまで経っても職業人(プロ)に成り切れない、幼い男(こどもおじさん)のままだったという訳だ。

 

 

「だからもう、今のオレに『クロガネ』の続きは書けねーのさ。仮に続きを書くとしても、きっとそれはもう読者が求める『クロガネ』じゃねえ。大人しくすっぱり諦めて、次の新作に取り掛かった方が賢明ってなもん──」

『……ちょーちょちょい。あのですねギザさん、わたしの話ちゃんと聞いてました?』

「……あ?」

『そもそもですね、ギザさんの書こうとしてたもの自体が求められてなかったって話をしてるんですよわたしは。別にいいじゃん、今からでも展開変えなよ。ヒロインちゃんのこと、きちんと()()()()()()()()()。別に主人公さんと無理してくっ付けろとは言わないけどさ、それはそれで筋通らなくなっちゃうし。でもさあ、()()以外にも幸せの形なんていくらでもあるでしょ? 主人公さんが義理の娘として引き取るとか、別の誰かと出会って新しい恋に目覚めるとかでも何でもいいからさ。とにかく死なせるのはなしです。なしなし』

「いや……おめー簡単に言うけどよ、既にそれ前提で完結までのプロット組んでるし、前の巻で一晩だけの約束っつって()()ところまで書いちまったし、これで生き残るってなったらそれこそ主人公が嫁に対してよ……」

『はああああああああー!? 何それ、どうせ死んじゃうならヤり捨ててもオッケーだろってこと!? そっちの方がよっぽどオトコとしてサイテーだと思うんですけど! ていうかわたし今特大級のネタバレ食らったよね!? 作者自らそういうことするのやめろやってさっきわたし言いましたよね小佐内センセイさあ!』

「や、ヤり捨てっておめーな……そこは主人公が命に換えてもヒロインを守り抜くことを誓う超重要な場面で……」

『それで次の巻でヒロインちゃんころころされちゃうんでしょー!? 何が守護るだよ何も守護れてねーじゃねーかですよ! はい最悪! 炎上待ったなし! ウルトラマンメビウスのことはわたし全然わかんないけど!』

 

 

 なんてヘタクソな戦い方(ウソ)だ……。

 だがまあ、確かに──ユメの言っていることは正しい。最後の戦いを前に、今度こそ主人公が真の『クロガネの執行者』になる──そうした作劇上の意図をもって想定していたヒロインの末路なのだが、主人公の失敗に厳しい昨今の創作界隈の空気から考えても、守ると誓ったばかりのヒロインをみすみす敵に殺されるというのは──テーマ的な物に従って話を進めるメリットよりも、主人公の無力感が際立ってしまうデメリットの方が大きいかもしれない。

 実際オレも、書きたくはない。そんな救いのない話は。

 ……いや本当に、当時のオレは何を思って書こうとしてたんだろうな? こんな陰鬱極まりない話をよ。

 別に世の中に山ほどある、()()()()()を否定したいって訳じゃない。転生物にしてもそうだが、人には合う合わないってやつがあるだけの話だ。

 そんでもって、今のオレは、どうやら──

 

 

「……わーったよ」

 

 

 ──最後まで筋が通った、一流の悲劇(バッドエンド)よりも。

 無理矢理にでも辿り着いた、三流の喜劇(ハッピーエンド)が口に合うらしい。

 ビデオレターは観なくて済みそうだぜ、アル坊よ。

 

 

「もう一遍、考え直すわ、今後の流れ。そんでもって──来年の8月末までには、完結させる。『クロガネ』を」

『────』

「それがオレなりの、()()()()ってやつだな。ようやく目標みてーなもんが出来たぜ、これでちったあ指も動き出しそうなもん──」

『……そっか』

 

 

 そうしてようやく上がり始めた、オレのテンションとは裏腹に。

 スピーカー越しに聞こえるユメの声が、僅かに沈み込んだのが、判った。

 

 

『来年になったら、本当に──()()()()なんだね、わたしたち』

「…………」

『なんだかなあ……ヒーローくんとセリンちゃんはあんな感じになっちゃったし、ギザさんもギザさんでやりたいこと見つけちゃったっぽいし、なんていうか──わたしだけじゃん。()()()()()()()

「……ユメ」

『来年の8月かあ……その頃にはもう25だよわたし。四捨五入したら30ですよ30歳。いやだなあ、アラサーなんて呼ばれたくないなあ……ホント、どうしようね? みんながWTやめた後。いっそのこと婚活とかはじめちゃう? なーんて──』

「……なあ、おめーよ。もし本当に、やりてーことが何も思い浮かばねーって言うんなら──」

 

 

 ……我ながら、その発想は。

 些か突拍子がないものだと、思わなくもない。

 だがしかし、思ったのだ。先の『クロガネ』に対する展開批判の件といい、こいつには充分物語を読み解くセンスが備わっている。読者ウケする内容だって理解っている。下手したらオレ以上に。

 だったら、後は。

 こいつ自身が()()()に、興味があるかどうかだけだ。

 

 

 

 

 

「──おめーもなんか、書いてみねーか? 小説」

『…………はい?』

 

 

 お前は何を言っているんだ、と。

 そんな思いが色濃く浮き出た、返しだった。

 

 

「別にいきなり、独自物(オリジナル)から書いてみろとは言わねーよ。おめーの好きなアニメや漫画の二次創作でいい。そんで、ある程度書いてくうちに自分の中の作家性みてーなもんが見えてきたら──それが一番活かせそうな題材を選んで、適当な賞か何かにでも応募してみりゃいいさ。当然、素人が一から書き始めるってなったらそれなりに時間は掛かるだろーが──」

『ちょ──ちょっと待ってねギザさん? 相変わらず勢いだけで喋りすぎっていうか、わたしまだ書きたいなんて一言も言ってないっていうか、そんなこと一度も考えたことないっていうか、そもそも──』

 

 

 当然のような困惑。それについては予想の範囲内だったが、続くユメの言葉は何というか、オレからしたら、それこそ──

 何言ってんだこいつって感じの、問いかけだった。

 

 

『──書いても、いいの? ……()()()()()()()? わたしでも』

「ああ、書けるね。誰でも書けるぜ、小学生でも書ける。出来栄え(クオリティ)は二の次としてもな」

『で、でもでも──わたし自分で文章書くとか作文くらいでしかやったことないし、一から自分でお話考えるなんてそんなの──』

「だからよ、最初は二次創作(モノマネ)でいいんだって。好きなキャラと好きなキャラがテキトーにくっ(ちゃべ)るだけの話でもいいし、カプ物だろーが夢小説だろーが何でもいい。オレの投稿してたサイトじゃオリ主物が主流だったが、カプ物(そっち)方向で書きてーんならPixieあたりで活動すんのもアリだ。とにかくな、おめーが思ってるほど始めるまでのハードルは高くねーよ、小説なんてのは」

 

 

 それはもう。むしろ低い。この世に存在する無数の創作物において、最もお手軽なのが小説だと断言してもいい。

 特別な機材も予算も必要ない。ペンタブも不要、カメラも不要、楽器もマイクもなんもかんも不要。オレはPCでかたかたと打ち込む派だが、今のご時世スマホで書いてるような作者もごまんといるだろう。指先一つで自分だけの物語を綴れる時代だ。創作者(クリエイター)に優しいことこの上ないね。

 

 

「ま、ただの思いつきだよ。オレはこれしか能がねーから勧めたってだけの話だ。まだ一年以上も時間あんだしよ、じっくり探してみりゃあいいさ。おめーの本当にやりてーことってやつをな」

『……本当に、何書いてもいいの? 誰かが書いたお話の、()()()の話とかでも?』

「おーif物か? いいじゃねーか、二次創作のド定番ってやつだぜ。未だに続きが読みたくて仕方ねーんだよなあ、もしも桐山のコインが表だったら──」

『……だったら、わたし──』

 

 

 今やその存在を知る者など殆どいないであろう、四半世紀前の伝説的二次創作の話は当然の如くスルーされ。

 代わりにこいつが口にしたのは、オレにとっては実に、想定外の──

 

 

『──『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「──は?」

 

 

 ──正気を疑う、主張だった。

 

 

『……さっき、言ったでしょ? 主人公と奥さんのいちゃついてるシーンがいい感じだったって。だからね、わたしは()()()()をただひたすらに読んでみたいわけ。奥さんが殺されるようなこともなくて、主人公さんがサイボーグになるようなこともなくて、二人は誰にも邪魔されることなく思う存分いちゃいちゃちゅっちゅし続けるワケですよ。素敵じゃない? ああ、どうせならお腹の中の赤ちゃんも産ませてあげたいなあ……そこまで書くかあ……』

「い、いや──ちょっと待て。好きなアニメや漫画の二次創作でいいっつっただろ? なんでわざわざオレの『クロガネ』なんぞを──」

『好きだからだけど。悪い?』

「────」

 

 

 ……あまりに堂々と、言ってのけられたものだから。

 流石にオレも、二の句が告げなくなってしまった。

 

 

『……正直ね? 他の読者さんと()()()()ポイントがズレてる自覚はあるよ。ギザさんのお話はきっと、主人公さんの戦ってるシーンとかわっるい悪役をころころしてスカッとする瞬間とか、そういうのがウケてるんだろうなって。わたしが書こうとしてるお話は、大して需要ないんだろうなって』

「…………」

『でもね、わたしはそれが書きたいの。というよりは──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自給自足ってやつ? ま、流石に何の下地もなしでいきなり書き出すつもりはないですけど。あれこれ調べてお勉強しますよ、しょーせつの書き方とかそういうのを』

「……本気(マジ)かよ……」

『……そんなにいや? やっぱり、書いたらだめ?』

「……駄目な訳あるかよ」

 

 

 そうだ。駄目な訳はない。悪意しかないヘイト創作の類ならともかく、こいつはただ純粋に、オレの話の中で魅力的に感じた要素をより膨らませてみたいと言っているだけなのだ。禁じるどころかむしろ、作者冥利に尽きるというものである。

 しかしまさか、よりにもよって──ユメ(こいつ)が『クロガネ』の二次創作を書きたいだなんて言い出すとは。

 人生何が起こるか分かったもんじゃねーな、マジで。

 

 

「──書きてーもんを好きに書いてこそ、物書きってのはおもしれーもんだ。一々読者の顔色窺うよりずっとな。いいさ、書けよ。書いちまえ。読んでて小っ恥ずかしくなるくらいに甘々なやつをな」

『ええ、書きますよ。書きましょうとも。出来上がったら真っ先にギザさんに送り付けてあげるから覚悟したまえ。当分はわたしWT漬けになるつもりだから、そこまで書く時間取れないとは思うけどね』

「……()()()も本気でやるつもりなんだな、おめーは」

『あったりまえでしょー? あんな啖呵切ったんだから、本気で遊び尽くさなきゃ面目立たないってなもんですよ。セリンちゃんにもおかーさんにも。生まれ変わったわたしと『フーフォン』ちゃんを見せてあげますから、楽しみにしてて下さいませ? 隊長(リーダー)どの』

「……おめーがもうちょい早くやる気出してくれりゃあ、前期も1勝2勝くれーは出来たんじゃねーかって思わなくもねーけどな」

『……それは言わないお約束でしょ、おとっつぁん』

 

 

 誰が親父(ちちおや)だ、誰が。

 それはさておき──WTね。

 触る時間を減らすとは言ったが、何も一日一時間とか極端なことをしようって訳じゃない。ヒーローが学校行ったりユメがバイト行ってる間も遊び呆けてた時間を削って、本来の()()()()姿()に立ち戻ろうってだけの話だ。チームの奴らが出てくる時間になったら当然顔を出すし、今後はチーム練習にだって力を入れていく予定だ。対戦相手の予習なんかも、組み合わせが決まり次第行なっていく。

 残り一年と4ヶ月。オレだって、見てみたいからな。

 ()()()の加わった『イノセンス・モラトリアム』が──一体どこまで昇っていけるのか、その果てを。

 

 

『……ね。()()()()()のかな、あの二人』

 

 

 そして、唐突に。

 ユメの話は、()()()()のことへと及んだ。

 忍者連中の煙幕に乗じて、ユメと二人でしれっとWTからログアウトしたのがかれこれ一時間前の話。おそらく、あいつらの滑稽な()()()()()()にも決着が付いたものとは思われる。

 しかし果たして、どんな決着(オチ)が付いたのかは──本人達に直接、問い質してみるしかないだろう。明日にでも。

 

 

()()んでしょ? するんだよね? ヒーローくん。流石にもう結婚詐欺師にはならないよね? もし再犯に及んだら今度こそわたしはあの子に極刑を下さなければならないです』

「……どうだろうな。何しろあの()()()()のことだから、きっちり決めるつもりが斜め上の結末に辿り着いてる可能性も……セリンのやつも大概ぶっ飛んだこと考えてそうだしなあ……」

『まっさかあ、ここまで来てこじれることないでしょー。だってもう両想い確定なんでしょ? そしたら後はくっつくだけじゃん。めでたしめでたし! 完! ってなものじゃない?』

「……ま、そーかもな」

 

 

 事実は小説よりも奇なり、なんて言葉があるが。

 奇なりと言うべきことなら、もう充分に起きた後だ。伝説の『serin』がヒーローのクラスメイトだったことも、そのセリンがオレの小説の読者だったことも、その小説のせいであいつの身に()()あったことも──全て。

 もういいだろ、どんでん返しは。ここまで来たら素直に終わってくれ。

 あいつら二人のどたばた騒ぎに巻き込まれた──一瞬だけ当事者にもなったが、ただの脇役Aとして。

 綺麗なオチが付くことを、祈ってるよ。ヒーロー。

 

 

「……そろそろ寝るわ。今日は色々あり過ぎて疲れちまったしな。おめーもあんま夜更かしすんなよ、明日も朝からバイトあんだろ?」

『えー、もうおしゃべり終わり? まだ10時にもなってないじゃん、もっとわたしの生声聴きたくない? ASMRごっことかやってあげよっか? ほら、ふーっ……ふーっ……』

「スピーカーで聞いてっから風の音しかしねーんだわ。──じゃーなユメ、楽しみにしてるよ。おめーの書く話」

『え、あ、ちょ、これで終わりなの!? なんかわたしが恥ずかしいオンナみたいじゃない!? そっちだけ最後にちょろっとデレて終わるとかズルいと思うんですけど! ホントそういうとこだよギザさん!? ギザさ──』

 

 

 はい、通話終了(ポチッとな)

 何がそういうとこなんだかな、まったく。ジジイをからかって遊ぶのも大概にしろってんだ、このおとぼけ女め。

 おめーもさっさと叶えちまえよ、おめー自身の結愛(ゆめ)ってやつ。

 一足先に叶えちまったかもしれない、何処ぞのガキンチョ二人みてーによ。

 

 

 

 

 

 ──そして、再び。

 オレの視線は、目の前のPCへと注がれる。

 今はまだ白一色の、真っ新なテキストエディタ。

 綴ろうと思っていた展開は全て、丸ごとゴミ箱へと放り込んだ。

 今のオレは果たして、どんな結末を用意出来るだろう。

 鋼の復讐者の物語に。

 

 

「……お、そーだ」

 

 

 不意に、一つ。

 ヒロインを殺すこともなく、タイトル回収も両立出来そうな展開を、思いついた。

 敵の親玉の手に掛かり、瀕死の重傷を負ったヒロイン。しかし彼女もまた、主人公と同じ改造手術を受けることによって奇跡的に一命を取り留める。そうして新たに、誕生するのだ。もう一人の『クロガネの執行者』が。

 かくして二人は力を合わせ、主人公夫妻の殺害を命じた敵の親玉を見事討ち果たす。残されたのは超人的な鋼の体を手に入れた、天涯孤独の男と女の二人きり。

 そして二人は誓うのだ。共に手に入れた力を活かして、世の中に蔓延る巨悪を裁く執行者(エクスキューショナー)になることを。最後は二人でバイクか何かにでも乗って、荒野(Wasteland)の彼方にでも走り去っていくシーンで〆ればいい。

 もしかしたら、読者は微妙に違和感を覚えるかもしれない。最後の最後で微妙にジャンルが変わったな、と。実際オレもそう思う。何せ最終的には主人公だって死なせる予定だったからな。元はと言えばおめーだって人殺し(暗殺者)なんだから、一方的に復讐果たしてはい満足ってのも違うんじゃねーか? きっちり纏めて滅び去る方が筋通ってんじゃねーか? みたいな考えがあったりしたのだ。

 けれど、己に与えられた力の使い道として、延々と戦い続ける末路というのもまた──ある種のハードボイルドというやつなのではないだろうか。大いなる力には大いなる責任が伴うってやつだよ。そうだろ? ベン叔父さんよ。

 ま、こういう終わり方もありだろ。オレの読者が求めるものとは、些かズレた結末かもしれねーが──

 

 

 

 

 

 ──ちょっとした、英雄譚(ヒーローもの)みてーでよ。

 案外悪くねーんじゃねーか? こんな斜め上の結末(オチ)も。

 

 






次で終わりです。

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