VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで   作:Amisuru

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『でも楽しかっただろ?』

 

 

 ──ああ。

 やっぱり、私は。

 WTのことになると、どうしようもなく、おかしくなってしまう。

 

 

 

 

 

 何様のつもりだったのだろう。

 過去の栄光を笠に着て、上から目線で、これ見よがしに力をひけらかすような真似をして。

 『タイタン乗りの何たるか』なんて、語る資格もないくせに、調子に乗って。

 その結果がこの有様だ。

 素敵な居場所を創ってくれたひとも。

 私を抱き締めて、受け入れてくれたひとも。

 私なんかと、友達になりたいと言ってくれたひとも。

 全部、全部。思うがままに、蹂躙してしまった。

 

 

 

 

 

 ──ああ、それなのに。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 結局のところ、私はそういう存在(いきもの)なのだ。

 

 

 

 

 

 一切の手加減をしなかった。

 最初から最後まで、思いっきり、全速力で走った。

 ただ、一つだけ。

 今日の朝に力尽きてしまった、渡良瀬凛音という女と、異なる点があるとするならば。

 

 

 今度の私(セリン)は意図的に、ペース配分を間違えた。

 この状況を作り出すために。

 

 

 

 

 

 隊長さんに語った動機、あれは紛れもない本音だった。

 私一人が思う存分、好きなように駆け回って。他のみんなは、そんな私の肩に黙って()()()()()()()()

 そんなのは、さみしい。一人で走っているのと変わりがない。身勝手な言い分にも程があるけれど、どうしようもなく、そう思ってしまう自分がいるのだ。

 ()のために荒野へと戻ってきた、渡良瀬凛音としての自分ではなく。

 かつて荒野を駆け抜けて、再び走り出そうとしている、『serin』としての私が。

 

 

 だから見せつけた。過剰なまでに。

 これが本当の私なんだ、と。

 ともすれば、彼の心さえ折りかねないやり方で。

 

 

 ──ねえ、()()()()

 私と友達になりたいって、言ってくれたわよね。

 その気持ちは、今でも本当に変わりがない?

 

 

 これが私なんだよ。

 単なるクラスメイトの私じゃない、本当の私。

 それをあなたに見てほしかった。知ってほしかった。

 私はどうしようもなく、愚かで強欲な生き物だから。

 赤嶺くん。

 私は、あなたに──

 

 

 ──『戦友(ともだち)』に、なってほしかったの。

 

 

 

 

 

 ──今の私は、彼の目の前で裸になって横たわっているに等しい。

 システムダウンを起こした『ヘルディン』。再起動して操作可能になるまでの時間は、約30秒。

 彼の手にしたレーザーライフルが、耐久力を削り切るには充分な時間だ。

 この無防備な私を前に、あなたは何を選ぶのか。

 散々弄ばれた怒りを糧に、容赦無く私を蹂躙するのか。

 それとも最早、憤る気力さえも残っていないのか。

 どちらでもいい。決定権はあなたにある。その全ての選択を、私は尊重する。

 心の中にささやかな、やるせなさを残して。

 

 

 ──けれど、もしも。

 胸の奥底に、とても馬鹿げた一つの夢想がある。

 あなたがその答えを、選び取ってくれるのなら。

 私は、きっと。

 心の底から、あなたを──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──俺、さあ。勝手にお前に、期待してた』

 

 

 そうして、彼は。

 ゆっくりと、言葉を紡ぎ始める。

 

 

『お前は凄い奴だから。誰よりも強い女だから。その強さで、俺を──()()()()()俺達を、どっかへ引っ張ってくれるんじゃないかって』

「……うん」

『でもな。……こうして選択を迫られてみて、気付いた』

 

 

 10秒。20秒。瞬く間に時が流れていく。

 引き金は、引かれない。

 

 

『お前に引っ張られてるだけじゃ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 30秒も、とうに過ぎた。

 引き金は、引かれない。

 

 

『きっと、自分の意志で走り出そうとしない限り──俺の中にある()()ってやつは、一生消えないんだろうなって』

「…………」

『いや、何の話してんだって感じなんだけどさ。要するに──』

 

 

 多分もう、1分は経った。

 私もまた、動かない。動けない。

 彼の紡ぐ言葉を、一言一句たりとも、聞き逃さないために。

 

 

『──俺は、お前のお荷物で終わる気なんざ更々ない』

「────」

『今は周回遅れだとしても、同じ集団(チーム)にいる者として、肩を並べて走れる仲間(パートナー)でありたい。だから──』

 

 

 そこで初めて、彼が動いた。

 機体を大きく遠ざけて、この催しが始まった時のように──遠い遠い彼方へと離れていく。

 助走を付けて飛び出さなければ、容易く近づけないほどに。

 

 

 

 

 

『──かかってこいよ、絶対女王(ミス・パーフェクト)。きっちり()()()()()くれるんだろ? ん?』

 

 

 それは、紛れもなく。

 遊びを楽しむ者(ゲーマー)特有の、下らない煽り言葉だった。

 

 

 

 

 

 ──ああ。

 ああ──ああ!

 信じられない。夢みたい。こんなことがあってもいいの?

 赤嶺くん。あなたは、私と。

 荒野の中でしか生きられない、(セリン)とも──遊び相手になってくれるというの?

 止まることが出来ない私の背を、追いかけてきてくれるというの?

 これだけ力の差を味わっても、挫けずに──立ち上がってきてくれるというの?

 

 

 ああ──なんて。

 何物にも、代え難い。

 私の胸に初めて芽生えた、この上なく尊いもの。

 その中心に間違いなく、あなたがいる。

 この気持ちの言い表し方を、私はまだ、知らない。

 

 

 だけど知りたい。知りたい。知りたい!

 この高鳴りの行き着く先を、私はこの目で見届けたい!

 明日も明後日も明明後日も、私はずっと、この感情の波に溺れていたい──!

 

 

「……その呼び方は好きじゃないって、言った筈よ。私」

『知ってるよ。煽りってのはそういうモンだろ』

「そう。なら今だけは私も、あなたをこう呼ぶわ。レッドヒーロー」

『ごめんマジで勘弁して下さい俺が悪かったです腹切って詫びます』

「照れることないのに。……あなたにとてもよく似合う、素敵な名前よ」

『わた──セリン、お前随分と皮肉がお上手だな……?』

 

 

 ──皮肉なんかじゃないよ、赤嶺くん。

 あなたは私をもう一度、荒野(ここ)へと連れ戻してくれた。

 私に好きなだけ走れって、言ってくれた。

 私と肩を並べて走れる、仲間(パートナー)でありたいって、言ってくれた。

 

 

 だから、あなたは紛れもなく。

 私の──英雄(ヒーロー)

 燦々と赤色(レッド)に輝く、太陽のようなヒーローだ。

 

 

「陽彩くん」

『……今度は何だよ湯婆婆様』

()()()()

 

 

 これだけで、充分。

 言葉はもう、不要だった。

 

 

『──おうよ』

 

 

 ──さあ、ケリを付けましょう。

 私達の親睦会(チークタイム)の。

 

 

 

 

 

『……ギザさん、わたし達の存在完全に忘れられてるよねこれ』

『ガキの盛り場にするつもりでチーム創ったワケじゃなかったんだがなあ……』

 

 

 小声で何か聞こえたような気もするけれど多分気のせいよね。

 ……気のせいよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──さて。

 状況は絶体絶命。こっちは味方二人ダウン、耐久値残り6割ほど。

 片や相手は未だ無傷、システムダウンからも回復済み。おまけに中身は超格上ときたもんだ。

 まあ、誰がどう見たって詰んでますよね。完全に。

 

 

 が、それはそれとして。

 せめて一矢は報いないと気が済まない。

 先の背中晒し、あれは中々に頭に来た。お前こうして隙見せれば引っ掛かるだろ? うん? みたいな感じで釣りかましやがって。そんな餌に全力で引っ掛かった俺自身に一番腹が立ってる訳ですが。つまり半分逆ギレでもある。

 タイタン乗りの何たるかがどうとかって言ってたな? 渡良瀬(セリン)。お前の中にあるものとはてんで別物だろうが、俺の中にもいわゆる標語みたいなものはあるぞ。みんな覚えてるかな、せーの。

 

 

 タイタン乗りの本懐とは!!

 舐められたら殺す!!!! それに尽きる!!!!!!

 

 

 という訳で、はい。

 

 

「『リミッター解除』」

 

 

 奇しくも、考えていることは同じだった。

 リミッター解除。対戦におけるこいつの発動は、暴発でない限り間違いなく『お前を殺す』という宣言と同義である。どうでもいいけど俺がこれ言うと絶対誰もがアレ連想するよな。実際ガチでアレが由来らしいよ俺の名前。直撃世代だったんだってさ。俺も去年ようやく観たよ、30周年で話題になってたから。

 で、だ。あっちのヒイロ君にこれ言われた奴は必ず生き残るってことで有名だが、俺の場合も『ヘルディン』は耐久値MAXで残っている。到底殺し切れる筈もない、それを承知でこのカードを切った。単なる最後っ屁に過ぎないということは、渡良瀬(セリン)の方も気が付いているだろう。

 その上で、絶対女王(ミス・パーフェクト)を相手にこちらの狙いを通す。

 策は思いついた。一つだけ。はっきり言って騙し討ち、非難轟々間違いなしの卑劣な策もいいところだが──

 

 

 だからこそ、やる価値がある。

 今の渡良瀬(セリン)にだからこそ、()()()()()策だ。

 

 

「V-MAX、()()()()()()──ってなァ!!」

 

 

 そうして、今。

 荒野の上で、銀と紅の弾丸が交差する。

 互いに全力でOB(オーバーブースト)を噴き散らかした、超高速高機動の空中大決戦。これこそが、『Wasteland Titans』最大の華だ。

 この戦場では最早、停滞(ステイシス)など許されない──!

 

 

 カァオッ!! カァオッ!!

 

 

 前進し続ける視界の中、右トリガーは引きっぱなし。リミッター解除によってEN消費の概念が取っ払われた今、カラスマ様も思う存分撃ち放題だ。一部プレイヤーからは凶悪過ぎるが故に禁止すべきとの声も出ている、現WT(ウェイタン)の最強戦法。

 それを渡良瀬(セリン)は、事もなげにすいすいと躱し続ける。

 

 

『馬鹿の一つ覚えね』

「ったく、その馬鹿に支配されてんのが今のWTだってのに……!」

『なら環境は私が変えるわ。そうして再び、荒野の上(Wasteland)に剣閃の煌めきを蘇らせるのよ!』

「お前もしかして単なるブレード厨なのか?」

遊び(ゲーム)で趣味に走って何が悪いかぁぁぁ!!』

「ぐうの音も出ねえわ」

 

 

 お前声でけえよ渡良瀬。お隣さんに迷惑だぞ。いや待て、確かこいつお隣さんとかより前にもっと気にしないといけない相手がいたような──などと考えている暇はなかった。

 光の刃が迫る。二刃。

 二発目は何とか反応が間に合ったが、初弾を避け切れずに貰ってしまう。耐久値が、残り半分を切った。

 

 

「ぐっ……! なんでこの動きまくりの視界の中で的確に光波当てられるんだ、この化け女が!」

『あなたこそどうしてその()()()()を当てられないのかしら? 画面はちゃんと()えていらっしゃる? ゴーグル買い換えた方がよろしいのではなくて?』

「まだ買って一年しか経ってないんじゃボケェ!! 大体今思い出したけどな、お前こそデバイス捨てたとか抜かしてた筈だろうが! 何当たり前のように戻ってきてんだ、このホラ吹き野郎め!」

『生憎だけれど、こんなこともあろうかと素敵な()()()を残しておいてくれた人がいるのよ──本当に使う日が来るとは思っていなかったけれ、どっ!』

「そりゃまた、随分と気前の良いパトロンがいたもんだな……!」

 

 

 また光波が飛んでくる。今度はどうにか二刃とも避け、お返しとばかりにカラスマをぶっ放す。光線剣(レーザーブレード)でカラスマと撃ち合える女なんて、世界広しと言えども渡良瀬(こいつ)くらいのものだろう。つくづく出鱈目染みている。本当にこいつ3年も引退してたのか?

 果たしてそれが嘘か真かは、今に明らかになるだろう。

 かち、かち、と右手から虚しい音が響き渡る。カラスマはもう、何の反応も示さない。

 リミッター解除でEN消費は撤廃されても、それとは別に武装の弾数設定は存在している。カラスマの総弾数は50発。その性能を思えば、破格とも言うべき数字であったが──一発たりとも当たることなく、とうとうその役目を終えることとなった。

 

 

 ()()()()()()()()()

 さあ、こっからが本番ですよ、お嬢さん。

 

 

『万策尽きたわね、陽彩くん!』

「──なあ。生きてるうちに一度でいいから言ってみたかった台詞、言ってもいいか」

『……は? 何よそれ、『こんなこともあろうかと』? ちなみに私は言えたわよ、まさについさっき』

「マウント取らないと生きていけない悲しいレスバモンスターなのか……?」

 

 

 生憎と俺はメカニック(ウリバタケ)じゃない。真田さんになるのが悲願じゃない。

 小さい頃から、ロボットアニメが好きだった。だが漫画はまた別だ。俺が好きなとある遅効性SF漫画に、こんな台詞がある。

 なんてことはない、あっさりとした一言。しかしその一言で、どんな予想外も起こせそうな気になる魔法の言葉。

 奇しくもWT(ウェイタン)と略称のアルファベットが被っている、ついでに言うと言った奴の名前(陽介)も微妙に(陽彩)と掠っている、W(ワールド)T(トリガー)な漫画の名台詞だ。

 

 

 万策尽きたって言ったな? 渡良瀬(セリン)

 だから言ってやる。

 

 

──と、思うじゃん? ってなァ!!」

 

 

 使用兵装をカラスマから右肩のミサイルに変更、ロックオンも掛けずに垂れ流す。弾薬の無駄遣いもいいところだが、所詮こいつは牽制に過ぎない。どの道全弾ぶち当てたところで、『ヘルディン』を落とすにはもう火力が足りない。

 本命はこいつだ。『プロタゴニスト』の左腕装備──槍の如く鋭く尖った一本の()と、そいつを勢い良く射出する(とっつく)ためのゴテゴテとした発射機構。

 

 

 PB-034M/ASHHEAD(アッシュヘッド)、通称『灰頭』。

 俗に言う()()()()()()()だ。

 

 

 俺とギーザーの対戦を途中から観たと渡良瀬(セリン)は言っていた。この灰頭もまた、10戦通して満遍なく存分に振るっている。戦車(タンク)型相手だと(カマ)掘れる機会も割と多いからな。近づき方間違えるとご自慢のバ火力で一気に耐久削られてこっちが死ぬんだけど。

 とにかく、カラスマ同様昨年末に実装された新装備ではあるが、こいつも渡良瀬(セリン)にとって未知の兵器という訳ではない。間合いや発生速度に関しては、既に把握されていると思っていいだろう。そうでなければ、あのカラスマの避けられっぷりに説明が付かない。

 それでも必ず、直撃させられる機会は訪れる筈だ。

 3周年のアップデートで追加された()()()()を、渡良瀬(セリン)はまだ、目の当たりにしたことがない筈なのだから。

 

 

(──最後に残った問題は、こいつだけだ……!)

 

 

 単純にして、最も越えるべきハードルの高い問題。

 渡良瀬(セリン)の繰り出す的確な光波を()()()()すり抜けて、杭の刺さる距離まで『ヘルディン』に近付けるかという問題だけだ。

 

 

「うお──ぐっ!?」

 

 

 小刻みに機体を揺らしつつ肉薄を試みるが、やはり抜けられない。一刃目を抜けたところに二刃目が引っ掛かり、カラスマとミサイルを積んだ右腕が肩から千切れ飛ぶ。

 耐久値残り2割。

 後一発でも貰ったら、そこで試合終了(ゲームセット)だ。

 

 

『さあ──今度こそ後がなくなったわよ、陽彩くん!』

「二度は言わねえよ、くどいからな……!」

 

 

 それに、()()()()()()()

 満を持して、俺の一発が届き得る全ての条件が整った。

 

 

 

 

 

 意識を集中させる。

 流れる視界の中、前方で舞う銀色の流星をただひたすらに追い続ける。

 なんて優雅に、楽しそうに飛び回っているのだろう。

 この荒野の上(Wasteland)で、渡良瀬(セリン)を縛るものなんて何もない。

 たとえ何者であったとしても、こいつが駆け回る自由を奪うことなど許されない。

 

 

 そんな渡良瀬(こいつ)の背に追いつくと、俺はもう誓ったのだ。

 だから──本気になれ、赤嶺陽彩(レッドヒーロー)

 上級者()()()で満足するんじゃない。上限を勝手に定めるんじゃない。

 俺の目の前にいるのは自称、止ま()ない女なのだ。

 だから──

 

 

「──だからよ、止まるんじゃねえぞ……!」

『言われるまでもないわ──よっ!』

 

 

 自分(おれ)に言ったんだよ、渡良瀬。

 お前は俺に止められる方だ。

 お前自身が、そう言ったんだから。

 

 

 

 

 

 瞬間。

 絶え間なく動き続けていた全てのものが、急に緩やかになったような気がした。

 全てが視える。2時の方向、こちらのやや上を取った位置から左腕を振るう『ヘルディン』の姿も。

 その左腕から放たれた、三日月状の光刃の軌道も、くっきりと。

 全力で機体を突撃させる。光波のダメージ判定と機体の当たり判定、その両者が交わるギリギリのラインをすり抜けて──

 

 

 全ての速度が戻ってくる。

 返しの右腕を振るわんとする『ヘルディン』が、目と鼻の先に映っていた。

 

 

『──見事……!』

 

 

 そうして、初めて。

 称賛の言葉が、最強(セリン)の口から漏れた。

 これで終わりだ。『プロタゴニスト』もまた、ただ一振りの杭を打ち込まんと左腕を振りかぶってはいる。しかし間に合わない。両機の攻撃が成立するタイミングは完全に一致している。

 相打ち──それでも確かに、一矢報いたことに変わりはない。50発のカラスマを放ち、グレネードやミサイルを駆使してもただの一発も当てることの叶わなかった渡良瀬(セリン)に、自分の死と引き換えと言えど一太刀を届かせたのだ。それだけで充分、こいつにとっては目を見張る結果だったんだろう。

 

 

 

 

 

 でもな、渡良瀬。

 本当に目ん玉ひん剥くのは、ここからだぞ。

 とくと味わえ。これがお前の知らない3年間、絶えず進化と発展を続けてきた──

 ──止まることのなかった、『Wasteland Titans』の行き着いた新たな境地(エンタメ要素)だ──!

 

 

 

 

 

 刹那。

 『ヘルディン』の振るう(ブレード)と、『プロタゴニスト』の突き出した左腕が交差──()()()

 刃と腕は運命の如く引かれ合い、勢いのままに衝突を起こし、そして──拮抗する。

 相打ちではなく、()()()()()

 近接武器の攻撃判定がかち合った時に発生する、3年前──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『──はあっ!?』

 

 

 そりゃそんな声も出るよな、うん。

 勝ったと思った遊び(ゲーム)がまだ続いてるんだから。

 

 

『ちょっ──え、待って、何よこれ、何なのよこれ!?』

「だーっはっはっはァ! 見て理解んないかセリン!? 鍔迫り合いだよ鍔迫り合い! さあ、押し負けたくなかったら張り切ってなんとかしろォ!」

『な、なんとかしろって言ったって──どうすればいいの!?』

「ブーストボタンをひたすらに連打するんだよ! ほら、びしばし叩け叩けェ!」

『連打って──こ、こんなの私の知ってるWTじゃない……!』

「ぶわははははははは!!」

 

 

 笑いが止まらない。さっきまで存分に強者の風格を漂わせていた渡良瀬(セリン)が、まるきり初心者か何かのように慌てふためいている。復帰初日の今日だからこそ通用する、三流プレイヤーによる絶対女王(ミス・パーフェクト)への奇襲だ。いや、この反応を拝めただけでもやった価値あったわ。わからん殺し最高ー!!

 でまあ、こんなこと言ってる間も俺は猿のように両の指でブースト叩きまくってる訳で。一方のセリンは俺の説明受けてからようやくボタンを弾き出した始末、当然勝負になる筈もない。

 『ヘルディン』の細腕が呆気なく弾き飛ばされて、引き換えに『プロタゴニスト』の左腕──正確に言えば、取り付けられた()()()()が、『ヘルディン』の胸元に押し当てられる。

 躊躇なく、俺は左のトリガーを引き絞った。

 

 

「プロタゴニスト、アァ──クションッ!!」

 

 

 ──衝撃(インパクト)

 機構が忠実に役目を果たし、(パイル)が押し出される。

 圧縮された空気が一気に押し出されて、排煙の如く機構の隙間から漏れ出している。

 そうして突き出された杭は、寸分違わず『ヘルディン』の胸部──コックピットの存在する位置を貫いていた。

 『ヘルディン』の背中から突き出した、灰色の一本杭。

 遠目から見れば、こう錯覚する者もいるだろう。

 銀色の巨人(タイタン)の背中に、灰色の頭(アッシュヘッド)が生えている──と。

 

 

『がっ、は……!』

 

 

 そしてどうやら、空気が漏れたのは『プロタゴニスト』の腕だけではなかったらしい。

 渡良瀬(セリン)の胸にもきっちり、ダメージ相応のフィードバックが刺さった筈だ。と言っても所詮は遊戯(ゲーム)、本気で心臓をぶち抜く程の衝撃が走る筈もない。そんなん売ったら速攻で回収騒ぎだよ。造った会社も潰れるわ。

 が、中身は無事でも機体の方はそうはいかない。『ヘルディン』の両目(カメラアイ)から光が失われて、両の腕がだらりと力無く垂れ下がる。散々斬撃を飛ばしてきた対の光線剣(レーザーブレード)も、今や単なる鉄の棒切れと成り果てていた。

 一撃、必殺。

 勝者、『REDHero』with『プロタゴニスト』────

 

 

「……と、思うじゃん? ってな」

 

 

 まったくもって、残念なことに。

 力尽きているのは、『プロタゴニスト』も同様だった。

 システムダウン──そう、『ヘルディン』が機能を停止したのは、撃破されたことが理由ではない。二度目のリミッター解除、その制限時間を迎えただけのこと。

 それを証明するように、役目を終えた『灰頭』がその()を引っ込めた途端、ぶち抜かれた筈の『ヘルディン』の胸元が何事もなかったかのように塞がっていく。

 耐久値が残っている限り、首を跳ねようが手足を捥ごうが撃破したことにはならない。

 だってこれ、対戦アクションゲームだからね。

 

 

『……変わってしまった……私の愛したWTは、変わってしまったわ……』

「まーだぐちぐち言ってるよ。いい加減切り替えらんねえのか」

『あなたに私の受けている悲しみが理解るの!? 連打合戦なんてWTの掲げていた硬派なイメージとまるで正反対じゃないの! そういうのはどっちかというとデモ○クの領分だわ!』

「でも楽しかっただろ?」

『それは────』

 

 

 『ネットミームだけで会話するのやめてもらえる!?』くらいのことは言われると思っていたのだが、予想に反して。

 

 

『…………うん』

 

 

 思いの外、素直な返事が返ってきたものだから。

 茶化し続けようと思っていた舌の回りが、そこで止まってしまった。

 

 

『私──こんな気持ち、ずっと忘れてた……いつからだろう、勝つことだけに夢中になって、相手のことをまともに見なくなって、ただ自分が気持ち良くなるためだけに没頭して──』

「…………」

『……完全に、()()()()()()のに。悔しいけど、それ以上に──楽しかったんだ、私……』

 

 

 そう語るセリンの──いや。

 渡良瀬の顔が、今の俺には映っていない。

 今の俺とこいつは、WTを通して向かい合っているように見えるけれど。実際に向かい合っているのは二体の巨人(タイタン)でしかなくて、本体はその胸にお互い収まっていて、更に言えばその身体も単なる分身(アバター)に過ぎなくて──

 本当の渡良瀬は今や、隣の席から遠く遠く離れた場所にいる。

 ……いや、言っても同じ学校だし、直接会おうと思えばいくらでも会える距離にはいるんだけど。

 

 

 とりあえず。

 『楽しかった』なんて言う割には、声に涙が混ざっているような気がしたので。

 そういうしんみりとした空気は、さっさと終わらせるに限る。

 

 

「──だったら、まだ続けようぜ。楽しい時間ってやつ」

『……ぅえ?』

「勝手に終わった感出してるけどな、まだ決着付いてないだろ。それともいいのか? もう再開して。システムダウン、とっくの昔に解除されてるぞ」

『な──わわっ、ちょ、ちょっと待って……!』

 

 

 焦ったような声と共に、再起動した『ヘルディン』がバーニアを噴かして遠ざかっていく。それに倣って俺もまた後方へ。助走を付けるには距離って奴が必要だからな。

 という訳で、三度目の正直になる立ち合いだが──もう何も俺に出来ることはない。『灰頭』を一発とはいえぶち込むことが出来たのは、渡良瀬視点で相打ち=決着という状況だったからだ。そうでなければあいつはきっと、呑気に二振り目の刃を振るおうだなんて思わなかったことだろう。絶対女王(ミス・パーフェクト)に一度見せた技は通用しない、これは最早常識。

 加えて言うなら──先の一撃を前に感じた、あの全てがスローモーションに思えた感覚。あれはきっと、神様が俺に用意してくれた一回こっきりの奇跡か何かだ。まったくもって再現性ゼロ、狙って起こせと言われても出来る気がしない。

 そういう訳で、今からやるのはただの特攻です。何秒持つかな。3秒経って生きてたら褒めてくれ。ABAYO。

 

 

『……こ、こほん。いつでもいいわよ、陽彩くん』

「おし、そんじゃ行くぞ。位置について、よーい──」

 

 

 ……ま、渡良瀬の調子も無事元に戻ったようだし。

 今日のところはこれで、ミッション達成ということにしておきましょうかね──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──何をやってるの!』

『え──』

 

 

 両のブーストボタンを押し込み、右トリガーを引こうとした指が。

 そのやり取りを耳にして、止まった。

 直後。荒々しい物音と、インカムからやや遠ざかった──

 

 

 悲鳴を、確かに聞いた。

 あいつの。

 

 

「……()()()?」

 

 

 声を掛ける。

 反応は何も返ってこない。視界に映る『ヘルディン』からも──

 それを操っている筈の、あいつの声も、何一つ。

 

 

「おい……どこ行ったんだ渡良瀬、何があった? おい、返事しろ渡良瀬! 渡良瀬!!」

『おい、ヒーロー落ち着け! しっかりしろ!!』

『……あちゃあ……』

 

 

 意味が理解らない。一体何が起こっている? だって、あいつは、渡良瀬は──

 いつでもいいって言ったじゃないか。

 続きをやるって、言ったじゃないか。

 悔しいけど、それ以上に──

 

 

 ──楽しかったって、言ったじゃないか。

 

 

 

 

 

 それらの言葉がまるで、夢幻か何かだったかのように。

 遠方に映る『ヘルディン』が、ブロックノイズの中に包まれて消失する。

 即座にメインシステムを切り替え、戦闘モードを終了させる。画面に一瞬映った『YOU WIN』の文字列を殴りつけたい衝動に駆られつつ、訓練室(トレーニングルーム)の使用を終わらせてチームルームへと舞い戻る。

 メニュー画面(ウィンドウ)を開き、『チーム』項目を選択。メンバー一覧を表示し、その最下段に確かに刻まれた──

 ──『serin』のログイン状況を、確かめる。

 

 

 ステータス、非接続(オフライン)

 最終戦績。VS『Geezer』『REDHero』『YUME』──

 

 

 ──敗北(LOSE)

 

 

「……なんだ、それ……」

 

 

 文字の内容が理解出来ない。現実を受け入れられない。

 それから暫く。同じように訓練室(トレーニングルーム)から戻ってきた、ギーザーとユメさんの二人に声を掛けられるまで──

 

 

 俺はその場から、一歩も動くことが出来なかった。

 ──『停滞』を、していた。

 

 

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