【再構成作業中】聖剣の勇者カリナ・クロスロード戦記 ―世界を救った少女は、鋼の未来でも人を救う―   作:美風慶伍

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■戦場の朝―天幕の中のカリナ―
Ⅰ:鋼の悪夢と、少女カリナと、精霊エリュシオ


 目を明けた瞬間、勇者の少女カリナは息を呑んだ。

 冷たい地面。鼻をつく金属の匂い。見たこともない暗がりの中に、仲間の姿はどこにもない。

 エルリックも、ミリアも、ソフィアも――、誰一人いない。

 自分ひとりであることに戦慄した。

 

「……ここ、どこ?」

 

 返事はない。

 胸の奥が嫌な音を立てる。何が起きたのか、何ひとつ分からない。

 

「エリュシオ、英霊召喚を!」

 

 すがるように呼びかけた。左腰の剣から返ってきた声から語られた現実は残酷だった。

 

『不可能です。英霊神命簿への接続がありません』

「そんな……」

 

 最も大切な力である英霊召喚が使えない。

 それは、カリナが〝勇者〟である力を奪われたのと同じだった。

 

 仲間もいない。

 状況も分からない。

 それでも、自分は指揮官なのに。

 心が折れそうになる、そのときだった。

 

【――目を覚ませ、カリナ・ウィングス――】

「誰……?」

【――すまない。私は、失敗した――】

 

 奇妙な声が脳裏に響いた。次の瞬間――

 

――ヴォオンッ――

 

 音のする方に視線を向ければそこには――

 

「赤い瞳? サイクロプス(1つ目巨人)?」

 

 巨大な赤い隻眼の1つ目の鋼の巨人がゆっくりと身を起こそうとしていた。

 カリナは反射的に聖剣を握りしめたが、その心には底しれぬ絶望が襲いかかろうとしていた。 

 

――そして、情景はそこで途切れた。

 

 

§

 

 

 次にカリナが感じたのは、天幕の中に満ちる朝の空気だった。

 固い寝台の感触。布越しに差し込む淡い光。

 そこは、野営中の軍用天幕の中――勇者である彼女のために設けられた簡易寝台だった。

 

 そこには一人の少女が寝息を立てている。

 体躯は比較的小柄で、髪は金髪、それも流れるような長い髪だ。色白な肌に夜着のシュミーズをまとっている。顔はほっそりとしており、まぶたはまだ閉じている。

 ただ、取り憑かれたようにうなされていたのだ。

 

「う……ううっ……」

 

 時折、苦痛を訴えるかのように寝返りを打っている。悪夢を見ているのだ。

 だが、その彼女の枕元には一振りのバスタードソード――、

 金色に輝く〝聖剣レギオンブレイド〟が横たえられていた。

 まるで、愛用のぬいぐるみのように。

 そのバスタードソードの十字唾の根本には光り輝く聖なるクリスタルが埋め込まれている。

 

『カリナ――、カリナ――、だいじょうぶですか?』

 

 それは女性の声、それも妙齢の成熟した大人の女性の声だった。

 その声は穏やかで、包み込むようにやさしかった。

 カリナが無意識のうちにすがってしまうのも無理はない。

 

『起きなさい、もう朝です。目を覚まして、悪夢から手を離すのです。さぁ、目を開いて』

 

 そのささやきかけに反応するかのように、カリナは目を強くしかめたかと思うと、ゆっくり、そして、徐々に――その目を開いていく。

 

「エリュ――シオ?」

『はい、ここに居ますよ』

「よかった――夢だった、本当じゃなかった」

 

 目を開くと同時にカリナの目には涙が滲んでいた。

 

『なにか、ひどい夢を見たようですね。でも、夢は夢、(うつつ)ではありません。もう大丈夫ですよ』

「うん……ありがとう、エリュシオ」

 

 エリュシオの言葉に答えるときのカリナの表情は、まさに母の言葉に安堵する〝娘〟そのものだった。

 

「おはよう、エリュシオ」

『おはようございます。カリナ』

 

 その言葉にカリナはようやく笑顔を見せた。

 その笑顔は、戦場に立つ勇者のものではなく、ようやく悪夢から解放された十代の少女のものだったのである。

 




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