Over the Horizon of Dawn.   作:榛桐 玲

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Series.11 『触らぬ神に祟りなし』

10台全車がコーナーを立ち上がり、大井のストレートへ。ここから空港北トンネル前の京浜島左高速コーナーまではストレートが続く。C2経由で都心方面へ向かう一般車がココで分岐し、東海JCTまでは勾配もなくフラットな事も加わって、暫しの間は再び最高速合戦となる。

 

もっとも、完全にクリアな状況は川崎浮島JCTでアクアライン方面へのクルマが分岐し、工業地帯へと向かうクルマも降りる扇島から鶴見つばさ橋までのストレートまで待たなければならないのだが。

 

先頭2台は大井PAの横を通過───PAに停車中の一般車のドライバーは、そのスピードに思わず目を剥かざるを得なかった。少し間隔を置いて、8台のマシン達もまるで暴風を思わせる風圧を伴いながら駆け抜けていく。休憩中のドライバーは思わず手元のコーヒー缶を両手で支え、テールランプの残光を呆然と見つめるしかなかった。一般のドライバーには、絶対に理解出来ない『イリーガル(非合法)』な領域に身を置く者達───それが彼ら彼女らだった。

 

「……あれが噂の『湾岸族』ってヤツか……?アブねぇよ、アイツら……一体、何km/h出してんだ……?」

「俺達トラック乗りにとっちゃ、あーいうのは良い迷惑だよ……こちとら夜を徹して90km/hの縛りを受けながら荷物を運んでるってのに、我が物顔で走り回りやがって……」

 

大井PAの片隅にある自販機コーナーで暫しの休息を挟んでいた、日本の物流を支える大型トラックドライバー達。彼らが深夜の夜空の下で嗜む、その僅かな憩いの時を───轟音と風圧で無作法かつ暴力的にぶち壊していった20台以上の『湾岸族』に、若手とベテランそれぞれ2人の男性トラッカーは驚きと同時に不快感を露にする。

 

「……ま、アイツらにゃそんな事もお構い無しでしょーけど。今度、幅寄せでもしてビビらせてやりましょーかね……?」

「───アホゥ!やめとけ、やめとけ!!それやって、飛ばしてる最中のアイツらに突っ込まれたって話はいくつもあるんだからな!突っ込んできたクルマは燃え上がって、突っ込まれた10t車は横転させられたって話もある。荷物満載の10tクラスでもそーなるんだから、車線変更もせずにじっとして、大人しく抜かれるのを待つのが懸命だ!」

 

苛立ちのあまり、思わず強気に彼らの進路を塞いでやろうといきり立つ若手トラッカーを、ベテラントラッカーが慌てて過去の事例を上げながら釘を刺す。

 

「ヒェッ、おっかねぇす……!……そーいや、その突っ込まれたって経験のあるベテランの1人は、前はよくイケイケでヤツらに幅寄せしてたけど、突っ込まれてからは嘘みたく大人しくなったって……その話、ホンネタなんすか?」

「あぁ、らしいな。確か『SEASIDE EXPRESS』の安さん、だったかな?突っ込まれて暫くは、うわ言のように怯えながら繰り返し呟いてたって言ってたな……」

 

5年以上前のとある夜、首都高速湾岸線・西行き 東京港トンネル前───そこで『蒼の初代フェアレディZ』に250km/hオーバーで突っ込まれたトラッカー『安さん』が震えながらも絞り出した言葉を、ベテラントラッカーは紡ぎだした……

 

『───あれはクルマなんかじゃない……あんな動きをするクルマなんていない……! まるで…… " 悪魔 " のような───!』

 

「───ほら、そろそろ行くぞ。夜明け前までに横浜の本牧まで荷物を届けねえと。あんな連中にちょっかい出した日にゃ、逆にこっちの寿命が縮んじまわぁ……触らぬ神に祟りなし、だよ」

「……あ、はい……」

 

───規則を守り、自分達や他人の生活を守る為に走る者達。その規則など『知った事か』とばかりの恐怖すら感じる猛スピードで、轟音を上げながら同じ道を駆け抜けていく『犯罪者』達……決して交わる事の無い者達の人生に、この深夜の湾岸で微かに接点が生まれようとし……すぐに消え去っていく。その後に残されたのは、一陣の『風』だけだった───

 

 

 

「……大井のPAの横を、通り過ぎた時───」

「……刺すような『視線』を、感じたわね───」

 

先頭を行く、漆黒のC62とビビッドピンクの35GT-R───そのステアリングを握るビスマルクとハロルドは、大井PAで休息を取っていた一般ドライバー達からの、まるで『異物』を見るような忌避感と嫌悪感を如実に感じ取っていた。Discordで通話をしていない筈の彼女2人を、見事にハモらせる程に。

 

「……だが、僕達がそういった目で見られるのも当然だ。やっている事は、明確な『犯罪』───僕達は『犯罪者』なんだ。一般車を絶対に事故に巻き込まない───僕達がそう心に誓っていようが、彼ら彼女らには関係ない事だ」

「冷静に考えれば、とんでもない運転をしてるからね……あたし達。300km/h───いや、200マイルなんて、E5系はやぶさ号と同じスピードを出して普通の高速道路を走り回ってるワケだからね……一瞬のミス、一瞬のトラブルで───自分だけじゃなく、無関係な他人の人生まで台無しにしかねない。そんな事をしてるんだよ……」

 

Discord越しにリオンの言葉に応じるナナリー。だが、その問答をリアラは自嘲を大いに交えて一笑に付す。

 

「───冷静? ハッ……笑わせるわね、何を今さら……それ以上の事、現在進行形で散々ヤってるクセに。私だって分かってる。分かりきってる───私達がただの『犯罪者』だって。だからこそ、余計な事は考えず───今はただ、踏み抜くだけ。一刻も早く、この汚く狂った時間を終わらせる為に、ね。反省は高速を降りて、終わってからすれば良い事よ……」

 

「……だな。一刻も早く、この狂った『空中戦』にケリつけて───無事に高速を降りて、ガレージに戻る───カイル、お前の親父さん……スタンさんや、お袋さんのルーティさんも、自分が罪に手を染めている事を自覚しながら、せめてものと守った『最後の誠実さ』が……ソレだろう」

 

リアラの言葉を受け、ロニもDiscord越しにカイルへと語り掛ける。ロニのアリストを先頭に、カイルのFD、リアラのNSX-Sという順で前7台の

後を追い、左に折れれば1号羽田線 / K1号横羽線の下りへと分岐する東海JCTを、迷うこと無く直進する。

 

「……うん、オレもそう思うよ。オレも湾岸を走りたい、そう言った時に───一番反対したのは、父さんだったから。母さん以上に反対して……優しい父さんには珍しく、殴られたりもしたよ。それでも、俺は結局……父さんにムリ言って譲ってもらったFDで、シャバに足を向けてココを走ってる。『血薔薇の魔女』ルーティ・カトレットの33GT-R共々、最前線を張ったRE使い───『黄金の鳳凰』スタン・エルロンが愛したFDに乗って、ね」

「……カイル……」

 

カイルの言葉を聞き、リオンは沈黙───直後、自身の心中で自問自答を始める。

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