Over the Horizon of Dawn.   作:榛桐 玲

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Series.12 『夜明け前が一番暗い』

カイルが語った、スタンからの鉄拳───結婚を機に首都高・湾岸から降りた義兄・スタンと実姉・ルーティを思い返し、リオンは思わず自嘲する。自分ももう三十路半ば───いつまで走る?いつまで走れば満足する?と……

 

(……この前に遊びに行った時───2人とも、穏やかな表情(カオ)をしていたな。僕の34GT-Rを2人は懐かしげに見て……ルーティが『あたしに運転させなさいよ!近所を流してくるだけだから!』なんて言って───)

 

(それに引き換え、僕は───36にもなって、相変わらず独身だ。こんな僕に想いを寄せてくれている、マリアンという女性はいるが───彼女も四十路……44だ。いつまでも待っていられないだろう……潮時か、僕も)

 

(───決めた。もう十分だ……今夜の『走り』が終わったら……僕のGT-Rはノーマルに戻して、マリアンと籍を入れよう……今夜限りで、『ジューダス』は首都高から消える……!)

 

───今夜でなければダメなんだ。同じ夜は……もう、2度とやってこない───

 

「……オーバー300km/h。その領域に僕が行く事は、今夜限り───もう、2度と無いッ!!」

 

 

 

「お、叔父さんッ!? どういう事だよ、いきなり! 今夜限り、オーバー300km/hの領域に行く事は2度と無いって……!!」

「───止めてやるな、カイル……リオンさんは、見つけちまったんだ。『降りる理由(ワケ)』をな……」

「ロニ……」

 

「───ココを走っている人間は、オーバー300km/hの景色に取り憑かれた中毒者(ジャンキー)よ……けれど、こんな1銭の足しにもならない非合法なヤクザ稼業を、いつまでも続けていられるワケがない……リオンさんは、それを悟ったの。貴方もわかるわよね、カイル?」

「リアラ……」

 

2人に諭されるように優しく、厳しく制止されたカイル。その言葉から伺えるリオンの胸中───それを知ってしまったカイルには、最早止める術などなかった。

 

「……すまないな、カイル。そして皆───ハタチの頃から湾岸に魅せられて、スタンやルーティ……フィリアやウッドロウと出会い……気が付けば、もう16年。僕は36───三十路を過ぎて四十路に入ろうとしている。スタンとルーティは結婚して降りた。ウッドロウも家業を継ぐべく降りた。仲間内で未だに残っているのは、フィリアと僕だ……だが、フィリアもじきに降りるだろう。敬虔なシスターが、いつまでもこんな場所で走ってはいられないからな。僕もそうだ……彼女を、これ以上待たせてはおけないんだ」

 

「叔父さん……彼女、って……マリアンさんの事?」

「───そうだ。容姿こそ今なお、20代後半と見紛うばかりに若々しく美しいが……彼女も来年で45だ。僕達2人が子供を作る為に、残された時間はそう多くない……」

 

マリアン・フュステル───リオンが見せてくれた写真に映る、彼の34GT-Rの傍らで穏やかな笑顔を湛えていた、黒髪のロングヘアが麗しい女性。母・ルーティとも仲が良く、リオンと共に何度も家へ遊びに来てくれた事をカイルはよく覚えている。

 

「……加齢すると、受精がしにくくなる……一般的には、そう言われているわね……」

 

リオンの言葉を受け、ハロルドが同じ女として感傷的(センチメンタル)な口調で返す。

 

「……子供、か……」

「……私達も、いつか───同じ決断を、迫られるのかしら……」

 

ハロルドの言葉を耳にしたナナリーとリアラは、噛み締めるように心中で繰り返していた───

 

「───すまないな、皆。せっかくのテンションに、水を刺してしまった。だが、僕が今夜きりでこのステージを去る気持ちは変わらない……この『空域』から明けの明星を見上げるのも───今夜で最後だ!」

 

 

 

リオンのその叫びと共に、一同は空港北 / 空港南トンネルを飛び出し、東京国際空港の真っ只中にある空港中央ストレートへと飛び出す。圧迫感のあるトンネルから解放され、夜空が広がったその時、一瞬後ろを振り返って東の空を見上げると───明けの明星が見えた気がした。

 

「───見えた。俺にも見えたよ、叔父さんッ!明けの明星……!」

 

カイルは一瞬左後ろへと首を向け、すぐさま前方へと向き直った刹那、Discord越しにチーム『Dunamis』の面々に伝える。

 

「……そうか。見えたか、カイル……お前にも」

 

リオンはカイルの言葉を受けて、僅かに口許を緩ませる。明けの明星───その星が見えた時、夜明けは近い。そして、夜の闇は───夜明け前が一番暗い。10台の『地上の戦闘機』達は多摩川トンネルへと雪崩れ込む。このトンネルを抜ければ、本牧JCTまで続く超高速の神奈川エリアだ───

 

「……『ジューダス』の選ぶライン、迷いが無くなりましたね」

 

彼の走りを、間近で見続けている2人の内1人───鳳翔は、Z32のコンディションに気を配りつつ、迷いを吹っ切ったリオンの34GT-Rが描く鋭いラインを見て、感嘆せざるを得なかった。

 

「Yep……でも、何故かしら。もう、彼とは2度とココで会う事はないような……そんな寂しさを、感じるの……」

「……お前もか、Iowa……私もさ。あの黒い34GT-Rの走りは───『降りる』事を決めたヤツの走りだ!」

 

アイオワとサウスダコタも、リオンの走りを見て───彼の『決意』を感じとり、それに応えるべくアクセルを更に踏み込んでいく。『悔いは一切残させない』と言わんばかりに───

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