Over the Horizon of Dawn.   作:榛桐 玲

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Series.13 『扇島ストレート』

多摩川トンネルを抜けると、そこは川崎浮島JCT。東京湾アクアラインへ向かう分岐路を一瞬横目に、僅かな時間ばかり覗いていた空に別れを告げ、再びナトリウム灯が照らす闇の中───川崎航路トンネルへと飛び込む。

 

緩やかな右カーブを描くトンネルを抜けた、その先は───扇島から鶴見つばさ橋と横浜ベイブリッジを経て、本牧JCTまで続く長大な直線───湾岸線・神奈川エリアだ。

 

「───関東エリアの公道最高速の聖地……それは東京湾アクアラインじゃない。ココ……第2湾岸、首都高速湾岸線・神奈川エリアよッ!」

 

ビスマルクのその叫びと共に、トンネルから飛び出したケーニッヒ・C62と35GT-Rがフラットアウト。後続の8台もそれに続く。上手い具合に追い風も吹いている───冬ほどではないが、春の空気ならば……とてつもない最高速が記録されるかもしれない。

 

320……325……330……スピードはどんどん伸びていく。ココでビスマルクが奥の手とばかりに、ブーストコントローラーのモードを変更。ブースト圧をカタログ記載の最大値である1.4kg/cm2にまで上げ、その心臓───930/60改は800psという超高出力を叩き出す。

 

「───Auf geht's!!」

 

ビスマルクは「行け」とドイツ語で叫ぶ。それに応え、C62はグイグイと962C譲りの低く構えた車体を前へと進め───ハロルドの35GT-Rと間隔を広げ始める。

 

「はんッ!やっぱり、ココまで来て大人しく後ろを着いてくるワケ無いと思ってたわ、ドイツのおねーさんッ!」

 

ハロルドは吐き捨てるように言いながら、車体中央のマルチ・ファンクション・ディスプレイを操作。『グランツーリスモ』でお馴染みのポリフォニー・デジタルがデザインしたモダンなUIが画面内に整然と並ぶ中、本来はスピードリミッター解除のメニューアイコンが位置する箇所をタッチする。そこに鎮座していたアイコンには───『CAUTION : SCRAMBLE Active』と表記されていた。

 

「───35GT-RのVR38は、1,000psオーバーにも容易に届くのよッ!」

 

ハロルドの35GT-Rが装着しているAbflug製 Ver.03フロントバンパーにインストールされた、IPF製ドライビングライトの閃光が───より一層、強まったようにビスマルクは錯覚した。

 

刹那───HKS製 GT II 8267タービンが膨大な量の空気を送り込み、ハロルドの35GT-Rは猛加速。1,100psという大出力と追い風の助けも受けて、ビスマルクのC62との間隔をジリジリと縮めていく。

 

「普段はピックアップの良さを重視して、800psに留めてるけど───ココまで来て、出し惜しみするワケにはいかないじゃん!!」

 

「───Unglaublich!!(信じられない)私のC62のフルブーストに追い付いて……いえ、差を詰めてくるなんて……!バケモノなの、日産・GT-Rは!?」

「ふふっ、多分メチャクチャ驚いてるでしょーね……! 私の愛機───日本最強、日産・GT-Rッ!!アンタの御先祖様のS54B(ゴーヨンビー)と、グループCで962Cと鎬を削ったR92CPの仇、ココで討つわよッ!!」

 

335……340……345……350……追い風の恩恵を受けて、まだまだ上がる2台のスピードレンジ。つばさ橋に差し掛かる頃には、湾岸最高速史上前人未到の360km/hオーバーに手を伸ばそうとしていた。

 

「───日産・GT-R、その凄さを私も痛感したわ……けどねッ!C62(このコ)を作り上げたウィリー・ケーニッヒの狂気と執念……私だって、ソレを無駄には出来ないのよッ!!」

 

ビスマルクの母国・ドイツが誇る、緻密かつ精密な『質実剛健』を旨とするクラフトマンシップ。それを狂気と執念として発現させた、西独・ミュンヘンに居を置くチューニング・メーカー……ケーニッヒ・スペシャルズ。同社の創業者、ウィリー・ケーニッヒが自社のスピリットを象徴する究極形として送り出したのが───ポルシェ・962Cベースの公道仕様車、ケーニッヒ・C62だった。

 

「シュトゥットガルトの誇る世界最高のスポーツカーメーカーのポルシェと、ミュンヘンの狂気・ケーニッヒ……その二者のタッグで産まれたC62(彼女)が、おめおめと敗北するなんて許せないッ!!それが例え、最新鋭のR35 GT-Rが相手だろうとねッ!!」つ

 

「───ドイツのおねーさん、やっぱりサイコーのライバルだわ……!ウィリー・ケーニッヒの執念が取り憑いたみたいじゃないッ!!けどねッ、水野さんと田村CPSの執念も負けてないと思うわよッ!!」

 

ハロルドは魂を震わせんとばかりにシャウトすると、ビスマルクのC62の左サイドへと並び掛ける。

 

「ここはドッティンガー・フーエでも、ユノディエールでも無い───日産のお膝元・横浜の……鶴見つばさ橋よッ!!」

 

つばさ橋を渡り終えた所で、2台は完全に横一線───サイドバイサイド状態となった。

 

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