Over the Horizon of Dawn. 作:榛桐 玲
「───並んだまま、大黒コーナーにターンインするつもり、か……上等じゃない!渾身のレイトブレーキング、見せてあげるッ!!」
「大井の時と違って、このチキンレースに勝った方が───このバトルの勝者よッ!!」
横一線のまま、2台は大黒JCTの分岐路を潜り抜ける超高速左コーナーへと飛び込んでいく。超高速コーナーとはいえ、360km/hというスピードレンジでは曲がりきれるはずが無い───
「───ッ、く……!」
「───っ、ふ……!」
ブレーキロック寸前の絶妙な踏力で、2台は同時にブレーキング。キィィィィィ───……と、耳障りなブレーキノイズと共に、メタル製のブレーキパッドを介して8POTキャリパーに挟み込まれたディスクローターが真っ赤に赤熱して周囲の空気を歪ませる───
360km/hから300km/hにまで減速し、ブレーキングを終えてからターンイン───インサイドを取ったのは、ハロルドの35GT-Rだった。
「───インはいただきよッ!」
「───まだ、まだよ……ッ!」
C62の絶大なダウンフォースが、35GT-RのアテーサE-TSが、遠心力によって路面から離れようとするタイヤを押さえ付け、食らい付かせる。
───だが、その時……
「……くっ、そぉッ……!」
───C62の右側のタイヤから、一瞬───ほんの一瞬ではあるが、微細なブレと共に接地感が減少。MOMO製ステアリングのキックバックを介してソレを感じ取ったビスマルクは、苦々しげに悪態をつく。
1985年と2007年───22年という基礎設計の年月差は、本物のレーシングマシンで市販品のスポーツカーを相手取ると云えども……簡単に覆せるモノでは無かった。日産製スタンバイAWDの最終進化形といえる35GT-RのアテーサE-TSは、0~100という幅広いトルク配分を4輪それぞれへと分配し、適切なグリップとトラクションを確保する。
その高精度なスタンバイAWDシステムに加えて、Abflug製 Ver.03フロントバンパーとリアウイング、VARIS製サイドステップとリアバンパーにディフューザーから得るダウンフォース。絶大な量とはいえ、アナログなダウンフォースのみに頼るC62には出来ない芸当だ。
そして、ケーニッヒ・C62……更に言えば、ポルシェ・962Cの薄いボディは───サスペンションのストローク量の少なさをカタチとして現していた。ストレートでは誤魔化しが効いても、旋回による横Gが掛かるコーナリングでは如実にソレが顔を出してくる。大部分で公道を使うサルト・サーキットもユノディエールをはじめとしたストレート区間が中心で、公道区間のコーナーもほとんどが直角型の低速タイプであった故、低く薄い車体のスポーツ・プロトタイプカーでも全速力で走り回る事が出来たのだ。
コーナーの脱出時は、ハロルドが僅かに前───だが、旋回中の僅かな失速……それはオーバー300km/hの世界において、大きな痛手となる。一瞬の吹けの悪さで数10mは離され、5回もソレが続けば2度と追い付けなくなる───
35GT-RとC62の間に、ポンと数mの間隔が生まれる。だが、ビスマルクは諦めない……ゴール地点はベイブリッジを渡りきった終端。スリップストリームで食らい付き、そこまでに僅かでも前に出られれば───!
「……諦めない、諦めないわよッ!ゴールまで、あと1km弱しかないけど───そこで諦める方が、C62(このコ)とウィリーの誇りを汚してしまうッ!!」
「───そーよね、おねーさん……アンタは見るからに、諦めが悪そうだもんねッ!!」
気流の隙間(エア・ポケット)へと潜り込み、ジリジリと35GT-Rと間隔を詰めるC62。だが、その加速は───虚しくも、短すぎる距離に喰われていく。
「───あぁ、ダメ……!距離が、距離が足りない……!もう500m……いえ、250m……!JCTまで、距離があったら───私のモノ、だったのに……!!」
「───紙一重、だったわね……アリガトね、おねーさん……ッ!!」
本牧JCTの標識ゲートを潜り抜け、ブレーキングで車速を殺しながら左へ分岐───K3号狩場線へと折れる。僅差ながら、先にフィニッシュラインを割ったのは───ハロルドの35GT-Rだった。
「───やら、れた……私と、C62が……」
「───っ、ふぅぅ……!!危なかったわ、ホント……ボンネット分の差でどうにか、先にゴールを切れたけど……あと200mも長かったら、逆転されてたわね……」
ハロルドの35GT-Rは、健闘を労うようにハザードランプを焚き───ビスマルクのC62は、パッシングからのハザードでソレに応じる。
先頭2台による極限の空中戦(ドッグファイト)は───ここに決着を迎えた。