Over the Horizon of Dawn. 作:榛桐 玲
先頭2台は、熾烈な激戦を演じた末に───決着を迎えた。だが、その後方───第2・第3集団においても、彼ら彼女らが『自らの走り』を示すべく『局地戦』を繰り広げていた。
大黒コーナーを立ち上がり、先頭を行くのは漆黒の34GT-R。そのすぐ背後には深紅のZ32と、赤のC34ステージア。日産が誇るモダンスポーツ2台と、ハイパフォーマンス・ワゴン。2基のRB26DETTと、1基のVG30DETTが咆哮を上げる。
「───このベイブリッジを渡りきった終端……それが、僕の『走り』の終着点!すまないが、譲るワケには行かないなッ!!」
リオンはステアリングに備え付けられた赤いボタンを押し込む。刹那、ブースト圧が2.0kg/cm2にまで上がり───お世辞にも空力が良いとは言えない34GT-Rのスクエアな車体を前に押し進めて行く。
無理やりに空気をEg内に押し込む力───過給圧を極限まで上げてパワーを得る、スクランブル・ブースト。2基のTD06-SH25Gタービンから、そのとっておきの『ドーピング』を受けたRB26改 2.8L仕様は、900psに迫る出力を叩き出した。
スリーワイドのフォーメーションから、頭1つ抜け始めるリオンの34GT-R。ナナリーと鳳翔も彼に続き、スクランブル・ブーストを発動させるが───巻き返しを図るには、遅すぎた。
「───っ、判断が遅すぎたわね……!!」
「コレじゃ、いくらか間隔は縮められたとしても……追い付けない、よッ……!!」
遠ざかっていく、4連の丸型テールランプ───フロントウィンドウ越しにソレを見送る鳳翔は、彼の走りから───『終わりにする決意』を感じ取っていた。
(───『ジューダス』……その走りから、感じました。貴方と一緒に走れるのは、今夜が最初で最後───なんですね……もっと早く、貴方と出会いたかったな……)
そして───鳳翔のZ32の後ろから、ナナリーもリオンの34GT-Rの後ろ姿を感慨深く見つめていた。
(───一度決めたなら、もう戻ってきちゃダメだよ……リオンさん。走り終わったら、ココでの思い出は全部過去のモノとして捉えな……そうすれば、必ずハッピーになれるさ!マリアンさんと一緒に、ね……!!)
本牧JCTまで、残り500m余り───フラットアウトし続ける34GT-Rのシートに身を預けながら、リオンはふとルームミラーに視線を移した。その中に映るZ32とステージアが、ハイビームを2回点滅させる。そのパッシングは、リオンが走り屋人生に幕を引く事を祝福し『お疲れ様』と労っているようでもあった……
「───ナナリー、鳳翔……ありがとう。走り屋人生最後の夜を、お前達と共に走りきれた事は───僕にとって、最高の思い出になるだろう……」
───リオンの34GT-R、鳳翔のZ32、そのすぐ側にナナリーのステージアという順で、第2集団はフィニッシュラインとなる本牧JCT手前の標識ゲートを通過。リオンの34GT-Rは、ハザードを点滅させながら減速して巡航速度へ───後続の2台も、同様にハザードを点滅させて後に続く。
「……今夜の『走り』は、ココまで……そして、彼と走るのも……共に走ったのは、今回が最初で最後になりますけど……貴方の『最後の夜』を共に出来た事を、私は光栄に思います……さようなら、『ジューダス』……」
───ペースを落としながら、万感の想いを込めた言葉を……通じないながらも、鳳翔は言葉として紡ぐ。ハッキリと、言葉というカタチで表現していくにつれ……熱いモノが込み上げると共に、鳳翔の視界は滲んでいく───
「……最高の幕引きだよ、リオンさん。あたしもいつか、こーいう風に……キレイに降りれると、いいな……カッコよすぎるよ、アンタっ……!」
未練は全て吹っ切り、出せるモノは出し尽くした───そんな雰囲気を出しながら、穏やかな巡航速度へとペースを落としていくリオンの34GT-R。そこにある種の『潔さ』を感じ取ったナナリーも、涙せずにはいられなかった───
「───今までの僕は、イリーガルなスピードレンジの中で『生きている実感』を求めて走っていた……だがソレも、もう終わりだ……」
そう、改めて表明するかのように───リオンは今の心境を言葉として表す。そう口にする彼の表情は……憑き物が落ちたかのように、穏やかだった。