Over the Horizon of Dawn. 作:榛桐 玲
「自分で言っちゃう、ソレ? ま、いつまでもココで駄弁ってるのもお店にメーワクだし、中に入りましょ。ビスマルクさんも、そのつもりで私達ナンパしたんでしょ?」
「ふふっ、そうよ……それに彼───今夜限りで、降りるんでしょう?空港中央辺りで走りが変わったのを見て、そんな気がしたのだけれど……」
ハロルドからの誘いを受けるついでに、ビスマルクはリオンが『降りる』事を察していた事を口に出す。
「───流石は現役のトップランナーだ。走りを見るだけで理解してしまうとはな。その通りだ……僕は今夜をもって、あのステージから身を退く。僕を想ってくれている『彼女』を、これ以上待たせるワケにはいかないからな」
「……現役で走っている私が言うのも何ですが……あんな所、何時までもいるような場所じゃありませんからね……降りられる理由があるのなら、そのまま降りてしまった方がいいんです。首都高───特に『湾岸』は」
リオンの告白を受け、鳳翔はそう言葉を紡いだ後───真剣な表情で、こう結んだ。
「あそこは一般ドライバーにとっては、ごく普通の高速道路ですが───私達のような人種から見れば『シャバ』じゃありません。『三途の川の向こう側』ですから」
「……三途の川の、向こう側……」
鳳翔が口にした結びの言葉を、カイルは復唱しながら思考を巡らせ……そして、父・スタンと母・ルーティの事を回顧する。両親は何故、彼処から降りたのか───少しばかりだが、理解出来た気がした。
(……父さんは、俺にこんな事を考えさせてしまうのが嫌だったから……殴ってまで、止めようとしたのかな……)
「───ハイハイ、能書き垂れるのは店ン中に入ってから!あたし、お腹ペコちゃんなんだからさ!」
少しばかり沈んだ空気を察してか、ナナリーが改めて入店を促した。
「───ンだな!さっきハロルドも言ってたけど、何時までも駐車場でしゃべくってたら怒られちまわァ!」
ロニも同調する。そして、2人の言葉を受けた一同は賑わいを取り戻しながら、店の入口へと歩いていく。
「この時間帯って、もうモーニングやってるのかな?」
「おいおいカイル、まだ4時だぞ?日も昇るどころか、水平線が白み始めた程度なんだ。やってるワケねーだろ!」
「あ、支払いはどうしましょうか?」
「ワリカンで構わないだろう。僕の引退日だからと気を遣わなくてもいい」
───そして一同は店内へと入る。今の時間帯では考えにくい大人数に、ウェイターは少しばかりギョッとしている。
「いらっしゃいませ……ぇ……?」
「すみません、10名で……少し騒がしくなるかもですが、大丈夫でしょうか?」
「あ、はい……お好きな席へどうぞ。海側の窓際ボックス席でしたら、皆様全員でお話も出来るかと……」
「───ありがとうございます。助かります」
鳳翔がにこやかに受付のやり取りを済ませると、一同は店の前の海がよく見える窓際のボックス席へ着席する。
「───わぁ……凄いわね、カイル!大さん橋がよく見えるわ!」
眼前に広がる大桟橋ターミナルの巨大さに、リアラは思わず少し興奮してしまう。
「うわぁ、ホントだ!あの建物の屋根、波打ってて綺麗だなぁ!」
「あれは客船ターミナルビルですね。彼処で船旅に出るのを待つんですよ」
「へぇ……鳳翔さん、よく知ってるね!」
「うふふ、伊達にこの街の鎮守府所属じゃありませんから」
「船旅、か……僕は船は苦手だ」
「あははっ、叔父さんって船酔いしやすいもんね!そういえば母さんが『サイコロ1のうれしーみたいだった』って言ってたなぁ。横になってダウンしてたって事?」
「……ルーティめ、余計な事を……誰が『シカでした』だ」
リオンが『マレーシアジャングル探険』での嬉野Dの台詞を引用して皮肉を言った途端、テーブルが笑いに包まれた。
「おいおいマジか!リオンさんも『どうでしょう藩士』だったのかよッ!!」
「───スタンの家へ遊びに行った時、ルーティに付き合わされて以来……何だかんだで気に入った。少し気分が沈んだ時に、あのバカバカしさがモヤモヤしたモノを晴らしてくれるからな。僕個人として気に入っている企画は『車内でクリスマス・パーティー』だ」
思わず本気で突っ込んだロニの言葉に、リオンは注文用端末を操作しながら平然とした態度で返す。
「それ、安田さんが海老アレルギーになったり、大泉さんとミスターが朝のニュース番組に乱入して放送事故になったヤツじゃない!『やめてくださいonちゃんを!やめてくださいそんなにいじめるのは!ひどい!』……どう?似てた?」
リアラもロニに続いて突っ込んでしまう───どうでしょう軍団に『早起きクマさん』に乱入された際の吉田みどりアナウンサーの物真似を付け加えた上で。
「フッ……やるじゃないか、リアラ。一言一句そっくりだったぞ、今の台詞」
「叔父さん、その落ち着いたテンションできっちり返してくるのやめてくれって!笑いすぎてお腹痛くなるから!」