Over the Horizon of Dawn. 作:榛桐 玲
───更に数十分後。話に花を咲かせながら食事を終えた一同は、会計を済ませて退店。駐車場へと歩く折、また各々で話が盛り上がる。
「いやぁ、それにしてもカイルのご両親まで乱入してくるとは思わなかったわよ。今回の打ち上げ!」
「そーそ!なんせ、あの『黄金の鳳凰』と『血薔薇の魔女』でしょ!15年以上前───2010年代前半当時の首都高の事情も聞けて、興味深かったわ!」
「当時はまだ外環道が高谷に繋がる前。湾岸アタックも交通量が多い市川からのフルコースには回帰してなくて、比較的空いている辰巳からのハーフルートだったりとか───」
「外環道の効果って、なかなかに大きいのねぇ~。当時はC1も、昔みたく攻められるような流れにはなってなかったって話じゃない!」
ハロルドとビスマルクは、スタンとルーティに同席出来た事を興奮気味に話している。
「おいおい、大袈裟だなぁ!今は普通に保育園やってるだけの中年のオッサンとオバハンだって!」
「あははっ、あたしもスタンもとっくに四十路だもんねぇ!」
自嘲気味に笑い飛ばす、スタンとルーティ。だが、その年齢の割に2人は若々しかった。容姿も、人となりも───
「───夜通し走って、走り続けて……走り終えてから、ファミレスの駐車場で夜明けを迎える。こーいう時、チューンドカーって『絵になる』わよね……」
「ああ、そうだよな……俺がカイルに譲ったFDも、様になってるよ」
───駐車場の一角に並ぶ、11台のチューンドカー。ルーティとスタンはソレを見渡して、満足げに呟いた。そして2人は、漆黒の34GT-Rの傍らでフロントウインドウと前後バンパーに貼られた「Dunamis」のステッカーを剥がしているエミリオとマリアンの姿に視線を向ける。
「……アイツも、遂に───迎えたんだな、この時を」
「……おかえり、エミリオ……」
「……半年前、チームを立ち上げたカイルから貰ったステッカーだ。出来る事なら、こうしてゴミとして丸めたりせずに台紙か何かに貼り直して、飾っておきたかったモノだが……」
「大丈夫よ、エミリオ……あのコ達も、きっと分かってくれるわ」
ステッカーの剥離作業を手伝いながら、ふとした折でエミリオが溢した言葉に、マリアンは優しく返す。
エミリオとマリアンが2人で行う、チームステッカーの剥離───その作業を眺めながら、鳳翔は心中で問答していた。自分もいつか、『降りる時』を迎えたら───似たような儀式を、『ケジメ』として行うのか、と。
彼女達、艦娘4人は『湾岸最高速』という共通した環境に身を置いているだけであり、決してチームを組んではいない。故にチームステッカーも無い。ならば、マシンをノーマルに戻していくか、手放してしまうか───ソレが『ケジメの儀式』になるのだろう。鳳翔は、そう予感した。
「……鳳翔?どうしたの……?」
押し黙ったままでいた彼女を心配したのか、ビスマルクが声を掛けてくる。それに対し鳳翔は、穏やかな表情と口調で言葉を返した。
「───私達もいつか、『あの場所』から降りる時……同じような『儀式』を経て、日常に帰っていくんだな……と。そう、考えていただけですよ」
「───そう、ね。私達もいつか、ああして穏やかに降りられる時が来るのかしら……」
「───もし、私達もそんな日を迎えられるなら……そう考えると、ちょっとしたExpectation(楽しみ)になりそうね……」
「───真の『Over the Horizon of Dawn』を迎えるのは、その時なのかもしれないな……」
ビスマルクの他にアイオワとサウスダコタも加わって、鳳翔が口にした言葉を各々で、噛み締めるように心中で復唱させていた。