Over the Horizon of Dawn. 作:榛桐 玲
隣り合って停めている互いのマシンを寸評しつつ道路状況や一般車の流れについてアイオワと鳳翔が話していると、1人の女性がそこに加わろうと歩み寄ってくる。鳳翔もアイオワもよく知っている相手だ。
「Hi, Iowa! 鳳翔!Good Evening!」
「Yep, Good Evening, Dakota!」
「こんばんは、サウスダコタさん」
彼女は木更津鎮守府所属の艦娘・サウスダコタ。アイオワと同じく、アメリカ出身の艦娘だ。外側を青く、内側を赤く染めた星条旗カラーのストレートロングヘアが人目を惹いている。
「~♪」
「サウスダコタさん、ずいぶんとご機嫌ですね?」
「へへっ、そりゃあな!私のバイパー、今夜はすっごく調子イイんだ!ココまで流してくる時にもハッキリわかるくらいにさ!」
自慢気にそう言うと、サウスダコタは自らの愛車───SR型 ダッジ・バイパー GTSに視線を向け、軽くうっとりとしながら見つめる。
「そういえばDakota, 今夜のメインゲストの登場はまだかしら?」
「ああ、Bismarckか?仕事がひいて遅れるって言ってたぞ。今頃ようやく習志野で折り返した所じゃないか?」
「もうすぐゴールデンタイムの2時なのに、間に合うでしょうか……」
3人がそう話していると、市川PAの流入路から漆黒に塗られた1台のクルマが姿を現す。特徴的なフラット6サウンドを響かせながら現れたそのクルマ───スポーツプロトタイプカーのポルシェ・962Cをベースに、西ドイツのチューニングメーカーであるケーニッヒ・スペシャルズが公道仕様に仕立て直した怪物コンプリートカー、ケーニッヒ・C62が、一同の近くに停車する。
「ははっ、やーっと来たな!」
「噂をすれば、なんとやら……ですね」
「彼女とC62、このコンビがいてくれなきゃ張り合いが無いものね!」
そして、C62の左ドアが開くと……今夜のメインゲストと3人が話していたドイツ艦娘・ビスマルクが姿を現した。
「Guten Abend! ごめんなさい、仕事が長引いて……」
「おっせーぞ、Bismarck!」
「だからごめんって言ってるじゃない!ダコタ、貴女も私と同じ鎮守府所属なんだから知ってるでしょ?」
「あははっ、悪い!からかいすぎた!」
「まったく、もう……」
やむを得ず少しばかり遅れてしまった事をからかってくるサウスダコタにビスマルクは反論すると、頬を膨らませてむくれる。
「ま、それはそうと……やっぱり集まるクルマは国産系チューンドが多いな。R35 GT-Rも何台かいる。日本車以外のクルマも911系をはじめとしたPorscheがメインで、他はFerrariとLambo、BMW(ベーエムヴェー)くらいか……私達みたいなアメ車や、Bismarckの乗るC62みたいな尖ったクルマは、ココでは少数派みたいだな」
サウスダコタは今夜の市川PAに集ったマシン達を見渡した後、寸評するように言葉に出す。だが、それで疎外感を感じる程に彼女は弱くはない。
「一応、私と同じVette乗りも何台かいるみたいね。Generation(型式)は違うけど……ただ、Viperは日本国内でのタマ数自体が少ないでしょうしね。962CベースのC62ともなれば、なおさらよ」
「おかげで私のクルマを獲物に据えているランナーも何人かいるみたいね……ほら、今もあそこの黄色いFDからそんな視線を感じたわ」
一同から少し離れた所に、仲間と思わしき5台のマシンと共に停車しているサンバーストイエローに塗られたFD3S型 マツダ・RX-7に視線を向け、ビスマルクはそう溢す。
「ビスマルクさんとC62は、あの『湾岸の黒い怪鳥・ブラックバード』の側にいる存在としても有名ですからね。『シュヴァルツェ・クレーエ(漆黒の鴉:ドイツ語)』なんて2つ名まで付けられてますし───もし貴女を撃墜する事が出来れば、名を売れる上に島さんへの挑戦権も得られる……と、一石二鳥な機会を逃しはしないでしょう」
「……ヘル・シマも、そんな御大層な条件を設定するような尊大な人じゃないわよ。彼の周りにいる『悪魔のZ』のアキオにしても、『Rのヴィーナス』のレイナにしても、自分の波長と合う走りをする相手なら走る───それだけでしょう」
鳳翔から『首都高・湾岸の噂話』を聞いたビスマルクは、呆れたようにそう言葉を返した。『FLATレーシング』代表の『タカ』こと黒木隆之と共に、走り以外のプライベートでも達也と顔を会わせている身として、仰々しい条件を突き出してくると彼らが評されるのは彼女としても本意ではないのだろう。