Over the Horizon of Dawn. 作:榛桐 玲
合流路終端と同位置にある千鳥町ランプから暫くは、アップダウンを繰り返しながらもほぼ真っ直ぐのストレートが南に向かって延びる。
アンジュレーション(高低差)に起因し、時折感じる車体の浮きに肝を冷やす瞬間もありながら、空力特性に優れる鳳翔のZ32、アイオワのC4ベット、サウスダコタのSRバイパー、リアラのNSX-S、カイルのFD、ロニの147アリストの順で、リアドライブ軍団がペースを上げ始める。
だが、浦安ランプを過ぎた先───舞浜ランプの手前に高速右コーナー……通称『ディズニーコーナー』が待ち構える。東京ディズニーランドのシンデレラ城の屋根がコーナー出口で見える事がその通称の起源とされている。
湾岸最高速黎明期には、このコーナーを250km/hでクリアする事が勲章とされていた。現在は技術の進歩によって300km/hオーバーでのクリアが当たり前となっているが、それでも脅威である事に変わりは無い。
「そろそろディズニーコーナーね~……先頭にいるC62は、レーシングマシンほぼそのままなダウンフォースがあるからクリアは朝飯前かしら?」
GT-R系トリオ3台を引っ張りながら先頭を追うハロルドは、前を行くC62がそのロー&ワイドなボディによってもたらす絶大なるダウンフォースを武器に、ディズニーコーナーを軽やかにクリアしていくビジョンがハッキリ浮かび上がっていた。
「けど、私も負けてられないわよね~……なんせ私のマシンは日産が世界に誇るスーパーカー、R35 GT-Rなんだからッ♪」
20台あまりのマシン達は一列に連なりながら、あるいは並走しながら東京ディズニーリゾートを左脇に眺める超高速右コーナー『ディズニーコーナー』へと突入する。
先頭を行くビスマルクのC62は、ハロルドの脳内シミュレーション通りに絶大なるダウンフォースを活かして容易くクリア。そこに、ビスマルクも予想自体はしていたが───ハロルドの35GT-Rが間隔を詰めてきた。
「……ッ、流石は現行GT-R……そのスタビリティ(安定性)は折り紙付きってワケね……!」
「ふふんっ♪ この天才、ハロルド・ベルセリオス様を舐めてもらっちゃ困るわよ!ドイツのおねーさんっ♪」
それに続き、リオンの34GT-Rもコーナーをクリア。ナナリーのステージアが車体をアウト側に寄せてアプローチを始めようとした瞬間───鳳翔のZ32が更にアウト側の路肩からノーズを差し込もうとする。
「ん、なっ……!?鳳翔さん、アンタ……気でも狂ったのかい!?」
「───ごめんなさいね、ナナリーさん……私もずっとココを走り続けているからには、簡単には譲れないのよ!」
路肩側に溜まったアスファルトの滓である小石や砂、埃をタイヤで巻き上げながら、鳳翔のZ32はナナリーのステージアとサイドバイサイドの状態でアプローチを開始。
この速度域でのオーバーステアは、ほんの微かな程度であろうと危険である事は鳳翔も承知の上。だが、Z32はTBK製フロントバンパーに埋め込まれたドライビングライトでイン側にいるステージアの左フロントフェンダーを煌々と照らしつつ、僅かにスライドアングルを付けながら前へ、前へと車体を進めていく。
ミリ単位のアクセルワークに加えて左足ブレーキも駆使し、絶妙な荷重バランスとトラクション・コントロールを保ちつつ鳳翔のZ32はナナリーのステージアと並走したままディズニーコーナーをクリア。
立ち上がった先───舞浜ランプを越えれば完全フラットな直線の荒川湾岸橋。空力特性に優れる鳳翔のZ32が、その伸びの差を活かしてナナリーのステージアの前へジリジリと出ていく。
「───ひとまずは撃墜よ、ナナリーさん……!」
「───ッ、このcd値の違いは……どうしようもない、か……!この先の区間、覚えてなよ……鳳翔さんッ!」
RB26DETT改 2.8L仕様の咆哮も空しく、荒川湾岸橋を渡りきった所でZ32はステージアをオーバーテイク。鳳翔は早速、リオンの34GT-Rを次なる獲物(ターゲット)と見定めた。
「MCRエアロの黒い34GT-R『ジューダス』……噂には聞いていたけれど、実際にツルんで走るのは初めてね……!」
「───ナナリーを撃墜(オト)したか、鳳翔……彼女もワゴン車のステージアで健闘したみたいだが、流石に空力の怪物・Z32との最高速合戦では分が悪かったな……だが、C2が合流してくる葛西から先は一般車の数も増える。このまますんなり行くとは思わない事だ───本気で僕を撃墜(オト)したいのなら、な!」
さらに後ろでは───サウスダコタのSRバイパーを先頭に、リアドライブ軍団がディズニーコーナーをクリアした所だった。バイパーの直後には、アイオワのC4ベットが続く。
詰まった重さの無いタイプの軽さが仇となり、カイルのFDが強烈な遠心力に車体を取られ掛けたものの、R.E.雨宮謹製のAD-GT II ボディキットとVOLTEX製 GT WING Type IVによるダウンフォース、そしてディフューザーが産み出すグラウンド・エフェクトによって路面を捕らえ、全開で立ち上がってリアラのNSX-Sの背後に迫る。
「───ふぅっ、ヒヤっとしたな……車体の軽さと重心の高さ、FD……いや、RX-7の弱点はココなんだよな……」
どうにかディズニーコーナーをクリアしたカイルは、一筋の冷や汗を滴しながら口にする。
「はぁ───っ……まったく、あの車体のブレ方を見た時は、一瞬イったかと思ったぜ……スタビリティって面を考慮するなら、この重さも悪くはないよな……」
車体の重さに加え、Abflug製フルエアロが産み出すドッシリとした安定感を活かして高いスピードでディズニーコーナーを抜けたロニのアリストが、前方を行くカイルのFDと差を詰める。
フロントバンパーにインストールされた、PIAA製 695ドライビングライトの閃光がルームミラー越しにカイルとリアラの視界に入ってきた───