機動戦士ガンダム:クォンタム・レゾナンス ―虚空の再演者―   作:F.M

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3話です!


第3章:蒼い雷鳴、赤い彗星

 大気を引き裂く熱線が、ガンキャノンの頭部をかすめて背後のコンテナを蒸発させた。

「っ……!?」

 モニターが警告を発する。センサー系が一時的に飽和し、視界が白濁する。

 ガンダム――白い悪魔と呼ばれたはずの機体が、あろうことか味方であるはずの俺に、殺意に満ちた銃口を向けている。

 

『システム・エラー。修正対象:カイト・シノザキ。排除レベル:最大』

 

 脳裏に浮かぶ無機質な文字列。それはアムロの意志ではない。この世界そのものが、歴史というレールを外そうとする俺を「バグ」と見なし、アムロという主役をデバッグプログラムとして上書きしているのだ。

 

「やめろ、アムロ! 目を覚ませ! 俺だ、カイトだ!」

 外部スピーカーで叫びながら、俺はガンキャノンのスラスターを吹かし、ジグザグに回避運動をとる。ガンキャノンの重厚な装甲も、ガンダムの放つビーム・ライフルの前では紙細工に等しい。直撃すれば、一瞬で原子の塵に変えられる。

 

「……カイト……邪魔だ……。ノイズは、消去……」

 通信機から漏れるアムロの声は、感情の起伏が削ぎ落とされ、冷たい氷の塊のようだった。

 アムロ・レイ。彼は本来、戦うことに怯え、戸惑いながらも立ち上がる少年だったはずだ。だが、今の彼は「世界の意志」の代弁者へと成り果てている。

 

(これが、歴史を改変しようとした報いか……?)

 一瞬、絶望が脳をよぎる。フラウの家族を助けようとした代償が、最強の戦士による粛清だというなら、あまりにも残酷だ。

 その時、戦場に割り込む「異物」があった。

 

「――面白い。連邦のモビルスーツ同士で殺し合いか」

 

 赤い影。

 シャアのザクが、ガンダムの側面から肉薄した。ヒート・ホークがガンダムのシールドに叩きつけられ、火花が散る。

「貴公、先ほどから様子がおかしいな。その『力』、持ち主を食い散らしているぞ!」

 シャアの介入。彼は戦術的な有利を得るためではなく、本能的な嫌悪感……ガンダムが放つ「人間性の欠如した圧力」を排除しようとしているようだった。

 

「シャア……!」

 俺は叫んだ。

「そいつを抑えてくれ! 殺すな、意識を戻すだけなんだ!」

「敵を助けろというのか? 甘いな、少年!」

 シャアは鼻で笑いながらも、ガンダムを翻弄する。ザクの機動力を極限まで引き出した、踊るような機動。しかし、ガンダムの「紫の目」が怪しく光り、予見的な反応でザクの動きを封じていく。

 

(今だ……今しかない!)

 俺は覚悟を決めた。

 ガンキャノンの操縦桿を押し込み、フル加速でガンダムへと突っ込む。

 武器は使わない。使うのは、俺の脳内に存在する「量子記憶」――現代日本で知った『機動戦士ガンダム』という物語の、最も熱く、最も人間的な記憶だ。

 

(アムロ、思い出せ! お前は機械じゃない! ガンダムを動かしているのは、お前の心なんだ!)

 

 俺はニュータイプとしての共鳴を、指向性の高い波に変えてガンダムへとぶつけた。

 それは通信ではなく、精神の直撃。

 俺が見てきたガンダムの歴史――アムロが苦悩し、成長し、やがて宇宙を越えて人々と分かり合おうとした未来の光景を、一気に彼の脳内へ流し込んだ。

 

『警告:不正なデータアップロードを検知……因果律に深刻な……エラー……』

 

 脳内のログが乱れる。

 ガンキャノンがガンダムの胴体へ組み付いた。鋼鉄と鋼鉄がぶつかり合い、コックピットに凄まじい衝撃が走る。

「アムロォォォッ!!」

 俺の叫びと共に、サイコ・レセプターが過負荷で白光した。

 次の瞬間、俺の意識は、真っ白な精神の海に投げ出されていた。

 

 そこには、膝を抱えて震えている一人の少年がいた。

 周囲には無数の黒い影……「歴史」という名の鎖が、彼の四肢を縛り付けている。

『怖いんだ。僕が動くんじゃない。何かが、僕の手を動かして、人を殺させるんだ……』

 アムロの思念が、涙のように溢れ出す。

「大丈夫だ、アムロ。お前を縛る鎖は、俺が断ち切る」

 俺は彼の元へ歩み寄り、その肩に手を置いた。

 転生者である俺が、唯一持っている武器。それは、この悲劇が「誰かが作った物語」であり、それを書き換える権利が、今を生きる俺たちにあるという確信だ。

 

「この世界は、誰にも支配させない。お前もお前自身の道を行け!」

 

 刹那。

 ガンダムを包んでいた禍々しい紫の光が弾け飛んだ。

 現実世界のサイド7。

 ガンダムのカメラアイが、いつもの、静かだが意志のある「緑色」に変わった。

「……カイト……? 僕、何を……」

 通信機から聞こえてきたのは、震える、だが紛れもない少年の声だった。

 

『システム・ステータス:正常に復帰。因果の修正を破棄……観測者による介入を一時的に容認』

 

 脳内の文字列が消えていく。勝ったのだ。俺は世界の強制力に、一人の人間の意志として勝利した。

 

「……信じられんな。人の意志が、これほどのプレッシャーを霧散させるとは」

 少し離れた位置で、シャアのザクがヒート・ホークを下ろした。彼は、今の共鳴を間近で「見ていた」。

「カイトと言ったか。貴公のような存在が、これからの時代を動かすのかもしれん。だが、今日はここまでにしておこう。このコロニーは、もう長くはない」

 

 シャアの言葉通り、コロニーのあちこちで誘爆が起きていた。ガンダムとザクの激闘、そして俺の干渉による余波が、サイド7の構造限界を突き破ろうとしていたのだ。

 

「シャア、待て!」

 俺の呼びかけに、赤いザクはスラスターを一吹かしして応えた。

「さらばだ。次に会う時、貴公が『敵』でないことを祈っているよ……今の私には、そんな奇妙な予感がある」

 赤い彗星は、宇宙の闇へと消えていった。

 

 俺は、激しく消耗した体でガンキャノンを支え、ガンダムの隣に立った。

 目の前には、炎に包まれるコロニーの街並み。

 歴史は変わった。アムロの暴走を止め、フラウの家族を死の運命から救い出した(トラックは大破したが、生存の反応がある)。

 だが、それは同時に、俺が「世界の敵」として観測され始めたことを意味していた。

 

「カイト、行こう。あそこに白い船が見える。あいつが、僕たちの居場所になるはずだ」

 アムロのガンダムが、ゆっくりと「ホワイトベース」の方へと指し示した。

 俺は頷き、重い足取りで歩き出す。

 

 転生という名の第二の人生。

 最初の戦いは終わった。だが、これは長い長い「希望への闘争」の序章に過ぎないことを、俺は本能的に悟っていた。

 宇宙の静寂の中で、俺は自分の中に芽生えた、今まで感じたことのない温かな拍動を感じていた。

 

(見てろ、宇宙世紀。俺がこの世界の絶望を、全部書き換えてやる)

 

 その時、ホワイトベースの陰から、一機のシャトルの残骸が流れてくるのが見えた。

 そこには、まだ誰も知らない「青い瞳の少女」が、眠るように閉じ込められているのを、俺のニュータイプ能力が捉えていた。

 

【第3章 完/第4章へ続く】




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