ゴブスレ世界に転生したら不動卿になってしまった件について。 作:這い寄る影
今度こそ続かない。
オーゼンは基本動かない。
王の依頼もほぼ終了しつつあるゆえだ。
辺境の冒険者の質の向上といういう依頼である。
システムさえ構築してしまえばホレこの通りと言った感じだ。
あと三年程度したら神々の深淵の自分のキャンプに戻ろうかとも思っている。
ここの牧場のチーズとミルクを食べれなくなるのは残念であるが。
キャンプを遺物で封印しているとはいえ、突破されないとも限らない。
それだけオーゼンのコレクションはやばいのだ。
一品で国家間のバランスが崩れ戦争が起きるほどに。
現に過去一国の冒険者集団がキャンプを強襲し返り討ちにした経験がある。
幾ら封印専用の遺物を使ってキャンプ自体に入れなくしているとはいえ不安な物は不安だ。
お礼参りは疲れるし国からの信頼も失い恐怖される故にだ。
それでも限度という物がある。
「私にどうしろってのさ・・・」
流石のオーゼンもそう言って眉間を揉んだ。
机を挟んで二人、東洋人風の民族衣装を着こんだ美男美女のカップルである。
これが普通の人間ならまぁ良い。
「汝なら落ち着ける場所を探せると聞いた」
美女が口を開く。
オーゼンは紹介できるわけねぇだろ!!と普段の口調を投げ捨てて内心叫んだ。
そう目の前の新婚風の男女は竜なのである。
長命竜と呼ばれるある種の超越種。
オーゼンでさえ交戦を避けるレベルだ。
前話で話した通り一度交戦し殺害したが重症を負ったレベルである。
あの時の長命竜より若いみたいであり、重症覚悟ならこの二匹をオーゼンでも殺害できるが・・・
それでは稼いだ信用が失われるしこの辺境の町が消し飛ぶ。
「なんで第七層の一つでありお前さんたちの領域である竜の巣からでてきたんだい・・・」
「最近派閥争いが酷くてですね・・・落ち着いて子育てを出来る場所に悩んでいましたところ外に居るオーゼンを頼れと言われまして」
男の方がそれを言った。
原因は卵を引き継いだ長命竜の一言だったらしい。
「ふぅむ・・・それなら人間の仕事をやってもらう事になるよ、出産は竜体でしなければならないだろうしねえ」
「妻と子が穏やかに暮らせるならなんでも!!」
「まず内容を聞いてからにしな・・・ まぁ牧場仕事だけどさ、ここいらの農場で一番土地を持っている奴を紹介してやるそれでいいね?」
「是非に!!」
もうゴブリンスレイヤーの伯父にぶん投げることにした。
人手ならぬ竜手も借りれるし、何なら土地の一部をこの夫婦の為に買い上げることもしよう。
戦えば勝てるが戦いたくないのも先ほど言った通りだ。
金で解決できるならそうする。
「帰ったぞ」
其処にゴブリンスレイヤー一党が帰ってくる。
丁度いいとばかりにオーゼンはゴブリンスレイヤーに話を持ちだした。
蜥蜴僧侶以外全員が吹いた。
「お、俺が出来るのは口添えだけだぞ」
さしものゴブリンスレイヤーも此れには動揺していた。
長命竜、通称アルタードラゴンは通常のドラゴン以上なのだ。
常時魔法無効化結界を張り、ミスリルよりも硬い鱗を持ち、一個大隊を薙ぎ払う力を持ち、ブレスは一撃で町を薙ぎ払う威力を持ち、人間に擬態し人間よりも知性がある超越種なのだからそうもなる。
「交渉には私も向かうさ・・・だから頼むよ」
「了解した・・・」
二人の背中が煤けていたと女神官、女魔法使い、妖精弓手の三人娘は後で語っていた。
「そう言われればウチで雇う事も吝かではありませんし土地の買い上げも金を出して貰っているんです、というか名誉過ぎていいのかとも思います」
なおゴブリンスレイヤーの伯父さんは意外にもたくましく潔く名誉な事だと了承してくれた。
これには全員が胸を撫で下ろした。
と言っても牧場仕事は素人なので研修が始まった。
教官役は牛飼娘である。
という訳で夫婦の日課は昼は牧場仕事、夜は夫の方が買い取った土地に巣を作るのが日課となったのであった。
オーゼンは多方に手紙で根回しをする必要があった、王国の王には無論の事、ギルドや三大黒社会などなどに牧場に住む長命竜には手を出すなと。
本当に定命の物にはきついよとここ数日は手続きに謀殺された。
国王も国王で長命竜とお話したいとかいう国王の妹と今代勇者パーティを抑えるので必死だったのを風の噂で聞いていたが。
アイツもアイツで10年前は向こう見ずだったから同情することはなかった
その半月後。
「困っている」
「なにがだい?」
「あの夫妻の事だ。俺が仕事を教えている事と見回りしているからと報酬を渡そうしてきてな・・・」
「大人しく受け取っておくんだね、連中は義理堅いのさ、裏切った時には酷い目に合わされるが」
「そうなのか?」
ゴブリンスレイヤーは困っていた。
あの夫婦事あるごとにゴブリンスレイヤーに報酬を渡そうとしてくるらしい。
幾ら買い取ったと言え彼らの巣は牧場の一部だった場所だから見回りもするし。
仕事も教えている。その返礼として巣作りで得たアイテムを渡そうとしてくるらしいのだ。
こまったゴブリンスレイヤーはオーゼンに相談している訳である。
だが連中は裏切らない限り義理堅いとオーゼンは諭し大人しく受け取っておいた方が良いという。
「マリッジブルーという言葉もある、不安なのさ二人とも。安心させてあげるんだねえ」
「わかった」
新天地で知人も少ない、すっかりゴブリンスレイヤー一党やゴブリンスレイヤーの伯父と牛飼娘にオーゼンとは打ち解けているがそれでも不安が残るのは当然の事である。
だから此処は二人のご厚意に甘えることによって敢えて不安にさせるなとオーゼンはゴブリンスレイヤーに助言した。
「それとだ・・・チーズやミルクの評判が良くて都や外縁都市にも伝わったらしく注文が殺到してな」
「・・・十中八苦、各国のその手の職と黒社会の手の物から漏れたんだろうね・・・」
「オーゼンが監視されているからか?」
「あの都市で銀等級になった奴らは必ずどこかしらかに監視されてるのさ、あっち育ちは銀でもこっちでは金さ」
そう神々の深淵に潜る冒険者等級はこっちと評価基準が違う。
向こうでは白磁級であっても実際の実力は黒曜級だ。
第一白磁になるにしても試験が課せられるのである。
故に五大旅団のトップは金等級、こっちでは事実上の白金等級であり。
オーゼンや神秘卿、黒騎士などは白金とすら評価しきれない超越者なのである。
最も黒騎士は素行が悪いがゆえに向うでも金等級止まりではあるけれど。
オーゼンと互角にやり合える怪物である。
それはさて置き。
「お陰で伯父さんが頭を抱えている、生産数が追い付かないとな」
「・・・それは私のせいでもあるねえ、トップ共には釘刺しておくよ」
「すまない助かる」
「君に対する貸し借りは長命竜の件でチャラさ・・・」
需要と供給が釣り合っていない故にゴブスレの伯父さんは頭を抱えていた。
オーゼンが来る前は供給が辺境の町だけだったので需要と供給が釣り合っていたが。
オーゼンが御贔屓にしていることが各国に漏れた上に。その質は職人魂入魂の品なので王族にも愛されてしまう結果となり。
各国からの注文が殺到、生産数が追いつかないという結果となってしまったのである。
今は牛飼娘や時折依頼の無い時のゴブリンスレイヤーやら最近入った長命竜夫妻で何とかしているが。
これ以上はパンクしかねない。
そこでオーゼンの人脈である。
此処のミルクやチーズ食したけりゃ王族以外こっちに来て直接購入しろと釘を刺すことにした。
それに対しまた貸を作ってしまったと思い頭を下げるゴブリンスレイヤーだったが。
今までの貸しはオーゼンの中で長命竜夫妻を引き取ってもらったことで全部帳消しにしている。
それだけ厄ネタなのだ長命竜は。
「しかし野良ゴブリンもゴブリン依頼も見なくなった」
「そりゃ君が新人引き連れてゴブリンを教材にしたからねえ、全滅したんじゃないか?」
「オーゼン的にはどう見る?」
「向こう2か月は出てこないと思うが用心に越したことはないだろう、まぁ君は精々牧場の手伝いか一党で冒険するんだね」
幾ら全滅させたと言っても外部から入ってくるのだ。
オーゼンの見立てでは二か月は野良ゴブリンすら見ないと予想を立てるが。
神々の深淵では良くスタンピードしては新人たちの教材になるので油断はできないと言った予想だ。
だが一時的な凪ゆえに牧場の手伝いをするか一党との冒険を楽しめとオーゼンはゴブリンスレイヤーに言う。
精神的セラピーも兼ねているがゴブリンスレイヤーはゴブリン以外の事に興味が無さすぎる。
故にゴブリン退治に関しては神々の深淵を潜るどの探索者よりも上であろうが。
それ以外の魔物と出会った場合特化している性質ゆえに死ぬ可能性が高い。
だが発想力は武器だ。知識さえ身に着ければ神々の深淵を攻略する旅団の参謀としてやっていけるほどにはだ。
五大旅団の一つである崖の壁旅団の参謀役なんか良いだろう、あそこは参謀役が90超えてぽっくり逝きそうだし本人も後継者を欲しがっていた筈だから。
「ゴブリンスレイヤー。これは一つの道なんだが。崖の壁旅団の参謀の弟子に成るつもりは無いかい?」
「俺があの崖の壁旅団の参謀の弟子?」
「ああそうさ、今は君の知識はゴブリンに偏っちゃいるが、発想力は素晴らしい、翁の元で鍛えれば十分向こうでやっていけるよ。君が望むなら紹介状を書くさ」
「・・・無理だ」
「なぜ?」
「俺は今を変えたくない、いや変えられん」
「そうかい」
これで話はお終いだ。名誉や給料よりもゴブリンを殺し多少の冒険を楽しみつつ今の平穏を過ごしたい。
それがゴブリンスレイヤーの自覚していない渇望だとオーゼンは見抜いたからだ。
「さてと年寄りの野暮はここまでにして。私は少しばかり遠出するさ」
「町を去るのか?」
「馬鹿言うな、後此処に三年は居るよ。ただ昔の教え子から手紙が来ててね無視する訳にも行かないのさ三日程度で戻ってくるよ」
そう言ってオーゼンは三角笠のような幅広の円形兜を被りギルドを後にしたのだった。
オーゼンは基本馬車とかを使わない食料を詰めたリュックサックを背負って徒歩だ。
徒歩というよりもフルマラソンだ。
何故なら彼女は早馬より走れる。伊達に規格外やってないのだ。
そして半日で水の都に到着。
すぐ様、料理屋に入り持って来た超高カロリー食材を料理人に手渡して料理にして貰い食らう。
それほどまでに燃費が悪いのだからしょうがない。
水の都ですらお目に掛かれない超高級食材の前に料理長も面食らったが。
其処はプロ、きちんと調理して見せた。
「おいおい、アイツ何キロ食ってんだよ」
「馬鹿かお前!! あの黒衣と三角笠!! 動かざるオーゼンだろうが!!」
「でも彼女は死んだって・・・」
「情報古いんだよ!! 今は王命で辺境で冒険者兼教導員やってるってのが、常識だろうが!!」
「ええ!」
「ええも糸瓜もあるか!! 彼女を怒らせたら壁の染みだぞ!!」
何度も言うがオーゼンは死んでいる物と思われている。
実年齢70過ぎだし、10年前の死の迷宮騒動以降。
王に命じられるまで神々の深淵第四層でキャンプ張って暮らしていたというのだから死んで当然とも思われるのが当然であったが。
今は辺境で流している。
徐々に彼女の武勇を思い出す人々は居るのだ。
それに誹謗中傷も気にしてはいなかった。
そんな物、最後の仲間が死に最初の千人楔を打ち込み。
ドンドン人外化していく自分は分かっていたからだ。
そしてモニュ、ナポ、ガリと大概の料理を一口で収めた彼女は会計を済ませ神殿へと向かった。
「先生、お久しぶりです」
「年寄りになるのと神々の深淵で過ごしていると時間間隔が狂う、私にとっては昨日のように感じるよ」
「先生は長命種になったのでは? 千人楔をそんなに打ちこんでその若さですもの」
「馬鹿言うじゃないよ、現にこの髪型だって神々の深淵の魔力にやられて皮がねじれたからそう見えない様に取り繕ってるだけさ」
そして神殿で会っていったのは剣の乙女である。
10年前にオーゼンが手ほどきをして迷宮の主を滅ぼした偉業を成し遂げた徒党の一角を担った神官だ。
「相変わらず先生は火酒がすきですのね」
「コレばっかはやめらんないねえ、君もやりたまえよ」
「私、これでも今は大神官なのですのよ?」
「なら私は君たちを導いた不動卿さ」
「ふふこれは負けますわね」
グラスではなく瓶に入った火酒を一口飲みながら。
テーブルの上をスライドさせ剣の乙女に手渡す。
自分は大神官だから飲めないと言い訳するが、オーゼンの舌弁には勝てないと分かっているので。
オーゼン流に飲んだ。
「良いのですか? このお酒・・・」
「ああ、最後の一本さ」
オーゼンの故郷は人間式火酒が名産な故郷だった。
それには目が無かった。
競売に出れば千人楔すら超える値段で競り落とすこともあった。
もう何十年も前の話しである。
「まあ遠慮せずにやりな」
「では失礼して」
剣の乙女もボトルに口をつけ飲む。
「ああ、美味しい」
「私が最後に誇れる故郷のさけさ、美味しくて当然。それで全部お前が仕組んだ物なんだろう?」
「ッッ」
手紙にはゴブリン退治を願いたいという物だけだった。
「下手人が居たら、まず君がぶち殺すだろうさね」
「ええ・・・ですが」
「勇者様が下手人をやっちまい、システムだけが残されゴブリンどもが地下で暴れているってところか・・・惨殺死体も大方、ゴブリンではなく君の使徒である沼竜が取り逃がした混沌の馬鹿共ってところかねえ」
不動卿、故に動かず場を動かす。
手紙で見抜かれていたと剣の乙女は戦慄する。
あの死の迷宮すら温いと言った観察眼はいまだなお衰えていない。
「まぁ丁度いいのが居る」
「丁度いいのですか?」
「ああきっと君の拠り所にもなってくれるさ、小鬼殺しの銀等級の噂は聞いているだろう?」
「聞いておりますが、先生が評価する程の人物ですの」
「少なくとも崖の壁の参謀に弟子入りさせても良いかと考えるレベルではあるし、ゴブリン退治に掛けては神々の深淵を潜るどの冒険者よりも優れている」
そう評価するオーゼンに失明寸前の目を目隠し越しに剣の乙女は見開いた。
「先生は私の助けになって下さらないのですね・・・」
「ゴブリンに掻っ攫われた女の末路は見てきたさ、故に助けられない私はそっち側じゃないからねえ、知っているだろう?私は子供だましが嫌いなんだよ」
オーゼンは何もゴブリン退治の専門家ではない。
依頼さえあれば受けるがその程度である。
故に寄り添えないし気持ちを分かると言ったら不誠実だから。
そして子供だましが嫌いが故にそう言う。
「まぁ物は試しさな、ゴブリンスレイヤーに依頼を出してみるんだね、アイツ最近暇しているし」
「辺境のゴブリンを殲滅したというのは本当なのですか?」
「ああ当初は私も手伝ったがね」
そう言いつつオーゼンは火酒を飲む。
「じゃあ、後は自分で決めるんさね」
「先生は本当に手厳しいですねいつも・・・」
「いったろ本気でやんなきゃ教導にならない、子供だましがきらいだってさ」
そう言って火酒を置いてそのままオーゼンは神殿を後にした。
オーゼンが水の都に立ち三日目ごろ
ゴブリンスレイヤーは困惑していた。
今や新人たちからは先生と呼ばれる立場である。
ゴブリンスレイヤーの教えを守ればまずは死にはしないと新人たちの間で噂だった。
それで新人引き連れてゴブリン退治していたら、辺境周辺のゴブリンが一時的な全滅状態と相成った。
最もゴブリンは外部から入って来て直ぐ数を増やす油断はならない。
「シッ」
そしてゴブリンスレイヤーは空き地に立てた案山子に向かって右手を振るった。
案山子に数cmの裂傷ができる。
「なぁ今の何やったんだ?」
その様子を見ていた重戦士が尋ねる。
「ブレードだ、オーゼンから習った」
「ブフゥオ!!」
ブレード、腕の振るう速度と指先の動きで真空波を発生させる奥義とも呼べるスキル。
オーゼンはドラゴンの爪の様に巨大な真空波を発生させるドラゴンブレード、指先を弾くことによって真空波を飛ばすコメットブレードを会得している。
噂ではオーゼンとも引き分けたとされる冒険者の黒騎士はストラトブレードという暗殺剣を習得しオーゼンからコメットブレードを見て盗んだともされている。
無論、近接職の奥義でありブレードを習得した後に各々独自のブレードを作り上げる。
故に重戦士が吹いた。
高が数メートル離れた先の案山子に数cmの傷を付けたとはいえ。
ゴブリンスレイヤーは奥義に指を掛けているという事に他ならぬからだ。
「だが全然だめだ咄嗟に目つぶしくらいにしか使えん、もっと練習せねばな」
「いやお前さん地味に凄い事やってのけてるからな?」
重戦士は思わず突っ込む。
ブレードを使える=両手を武器化するという事に他ならないのだから。
格闘家系の冒険者の憧れである。
「ところでよぉ、礼を言わせてくれ」
「何のことだ」
「大分前の話になるが・・・ほら俺の故郷にゴブリンが現れた時。オマエが救ってくれただろう。その礼だ」
「気にするな、ゴブリンを殺すことが俺の仕事だからな」
「それでもだ改めてありがとう助かったよ」
「そうか・・・所で」
「なんだ?」
「あの壁際でウズウズしている女騎士を止めてはくれないか?俺の技量では彼女と打ち合えない、今はブレードの習得に集中したい」
「・・・わかった」
ゴブリンスレイヤーの言いように重戦士はため息吐きつつ応じた。
女騎士の悪い癖が発動しようとしていたからだ。
腕の立つ物と戦いたがっているのとゴブリンスレイヤーからブレードを盗みたがっているのである。
ゴブリンスレイヤーからは勘弁してくれというのが感想だった。
その願いを聞き届けた重戦士は身を張って女騎士を説得する羽目になった。
そして午後。
「珍しいな」
「今チーズとかの売れ行きが良いからね、夫妻さんと一緒に来ちゃった」
ゴブリンスレイヤーが根城にしている牧場のチーズとミルクの売れ行きは良い。
故に午後であっても配達をお願いされることはよくある話だった。
今は長命竜夫妻が荷下ろししている。
長命竜が守護する牧場というのも中々アレである。
「そうか・・・伯父さんは牧場を拡大する気はないのか?」
「人手が足りないからね、しょうがないよ」
「そうか・・・それとこれで三人でなんか食べていくと良い」
「良いの?」
「ああ・・・俺も様子を見たら帰る」
「うん分かった、じゃ気お付けてね!!」
「ああ」
そう言ったやり取りをしてゴブリンスレイヤーは休憩がてらにギルドの隅の席に座る。
ゴブリン討伐依頼は無いが妖精弓手とか槍使いに重戦士に誘われ懐も温かい。
今は大丈夫なはずだと思っていたところに。
「あのぅ先生」
「どうした?」
新米戦士と見習い聖女が申し訳なさそうに訪ねてきた。
「実は、大鼠の討伐依頼を失敗しまして」
「原因は?」
「剣が引き抜けなくてジャイアントローチに対応できなくて・・・」
「だが連日のゴブリンスレイントレインで十分な支度金が入ったと思ったが・・・」
「防具を買いました。だけど水薬の購入の時に町でお得だったので・・・」
「だから言っただろう、そう言う物はギルド公認の店で買えと」
ゴブリンスレイヤーは度々説いていた。多少値が張っても水薬や解毒剤の類はギルド公認の店から買えと。
如何にお得だからと言って民生品を買うと外れを掴まされる可能性が高いのだと。
「「はい」」
「それで俺から武器でも借りたいのか?」
「はい」
「駄目だ」
「ええ、なんで!?」
「それは悪癖に成りかねん。第一俺の武器はゴブリン特化だ、使い捨て前程かつ閉所での取り回し重点と言ったはずだろう」
「ですよね・・・」
ゴブリンスレイヤーは武器を貸すつもりは毛頭なかった。それは悪癖に成りかねん。
なくしてしまったからまた他の物から借りればいいという甘えに繋がるからだ。
そもそもゴブリンスレイヤーの武器は対ゴブリン用である。大鼠狩るにも苦労する品であった。
「他に相談は?」
「槍使いさんと魔女さんに相談を・・・で筋力足りないから武器は借りれませんでしたから、代わりにこの蝋燭を・・・」
「物探しの蝋燭か・・・ならこん棒だな」
「こん棒ですか?」
「ああこん棒だ。ギルドの武器屋で最も安いし素人が振っても相手を殺しやすい。何より剣と違い刃毀れせず適当に振り回してもダメージになる」
打撃武器というのは技量が無くても多少の筋力で威力を出せる代物だ。
最も巨人殺しとかの超重量級となると筋力特化にしないといけないが。
まぁここでは触れる機会も無いし普通のこん棒程度なら彼らでも扱えるだろうとゴブリンスレイヤーは判断したのだ。
「あと俺みたいなスタイルで無ければ、こん棒の柄尻に紐を通し手首に巻き付けすっぽ抜け対策にすると良い」
「ありがとうございます先生!!」
「当然の事だ。武運を祈る」
ゴブリンスレイヤーがそう言うと新人二人は早速と言った様子で大鼠の依頼を再度受け。
下水道に向かっていった。
ふぅっとため息を吐きつつ今日もゴブリン退治の依頼は無いのかとギルドから牧場へと帰ろうとした時である。
「あのーゴブリンスレイヤーさん」
「なんだ? ゴブリンか?」
「いえ違います」
「ともすると俺にできることはないぞ?」
「あの等級審査の立会人をして貰いたいのです」
「俺よりも適格者が居るだろう?」
「皆さん冒険に出てしまいまして。あと本来立会人に来られる方が怪我してしまいまして。それでゴブリンスレイヤーさんにお願いできないかと・・・」
「俺でよければ」
「はい!! お願いします」
そうして立会人となった訳であるが。
―こいつやったな―
というのがゴブリンスレイヤーの第一印象だった。
ソファに座る圃人斥候の装備は真新しい。
廊下で待つ彼の一党よりもだ。
それを受付嬢に指摘されると実家からの仕送りとかほざいたが無論、監督官の奇跡で見破られる。
資料は事前に読んだともすれば逆上するかもしれないとして腕を組みつつ臨戦態勢を整える。
「アナタは白磁級に降格の上でこの町での冒険者業禁止ですね」
受付嬢が死刑宣告染みた事を言う。
冒険者としては致命的だからだ
「なぁ助けてくれよゴブリンスレイヤー、同じ冒険者じゃないか」
「それ以前の問題だ。神々の深淵に潜る冒険者がそう言う事をしたら、後で始末されるらしい。むしろ王都あたりにでも行って再出発できるのだから温情だろう」
「ゴブリンスレイヤーさんの言う通りですね、あくまで此処での冒険業禁止ですし」
ゴブリンスレイヤーはオーゼンから聞いている。
向こうでがめた真似すれば、粛清されるのが常だと。
故に今回の裁きは十分に温情であると思うのだ。
「それに短刀に手を伸ばすのもよせ。俺だから忠告で済んでいるが。オーゼンが居たらお前は壁の染みだ」
そしてゴブリンスレイヤーは圃人斥候が懐の短刀に手を伸ばすのを見逃してはいなかった。
ブレードの準備は出来ている逆恨みで受付嬢か監督官か自分を襲おうとすれば未完成のブレードで両目を断ち切り。
拳を叩き込む予定だった。
だがオーゼンがこの場に居れば違う理論整然と追い詰め相手を暴発させ正当防衛の名のもと圃人斥候を粛清しただろう。
「くそ!! 覚えていろよ!!」
そんな小物染みた負け台詞を吐きながら圃人斥候は部屋を飛び出していった。
「遠慮します~」
ニコニコと受付嬢はその負け惜しみを一蹴する。
その時である。
「あの大変なんだよ!!」
牛飼娘がこの応接室に飛び込んできた。
いま下で受付嬢の同僚と共に。
「なにがあった?」
「長命竜の妻さんが産気づいちゃって・・・竜体でないと産めないって、このままだと流産しちゃうって。牧場の巣までは間に合わないの!!」
「「「――――――――――」」」
ゴブリンスレイヤー、受付嬢、監督官絶句。
まさかのここに来てのトラブルであるさっきの圃人斥候の小金稼ぎの事なんざどうでもよくなった。
「受付嬢!! 今すぐ手の空いている奴らを動員して人払いと町の中央広場を封鎖しろ!!」
「わ、わかりました!!」
「オマエは長命竜夫妻を竜体に戻して中央広場に行くように伝えろ!!あそこなら広い!! 出産するだけなら十分な広さがある!!」
「わ、わかった!!」
ゴブリンスレイヤーがテキパキと指示を飛ばす。
ともあれまさかこんなことになるなんてとは思っても居なかった。
もうギルドも騒然である。
それで冒険者によって野次馬が排除され中央広場は一時封鎖。
長命竜のお産が始まった。
ここは牛などのお産を手伝ったこともある牛飼娘とゴブリンスレイヤーが立ち合い手伝っている。
万が一にも備え蜥蜴僧侶と女神官も待機している。
「うぐっぐぐ」
長命竜妻が本来の姿に戻って唸る。
夫も竜に戻り寄り添っている。
ゴブリンスレイヤーと牛飼娘は卵を壊さぬように引っ張り出していている。
女神官は必死に小癒を唱えていた。
「もう少しだ。もう少し!!」
ゴブリンスレイヤーも焦っていた。如何に竜種とはいえ卵は脆いからだ。
慎重に事を運ぶ必要があった。
「ふぁ~」
「よし出たぞ!! ゆっくりと降ろせ!!」
「蜥蜴僧侶さん、私達じゃ重くて手に余るから手伝って!!」
「無論!!」
そうして排出された卵を三人がかりでゆっくりと降ろす。
「お前はすぐ様、卵を巣に持って行け」
「だが妻が・・・」
「ここは街中だ。卵を放置するわけにも行かん、その上、お前の妻は出産疲れをしている、しばらくは飛べんだろう」
「わかった気づかい感謝する」
ゴブリンスレイヤーの気づかいにそう長命竜夫はそう言って卵を抱えて巣まで飛び立った。
「・・・疲れた」
「私も同意」
ゴブリンスレイヤーの言葉に牛飼娘は同意する。
女神官と蜥蜴僧侶はあの卵が無事孵化する様に祈りつつ。
出産疲れの長命竜妻に癒しを掛けていた。
それからさらに半日。
動けるようになった長命竜妻も巣に戻りこれから卵を守るとの事。
そして、皆でその新たな命に乾杯し宴会が始まり終わって一晩過ぎて。
何時もの依頼張り出しが始まるころ。
「ゴブリンだ」
相変わらずのゴブリンスレイヤーだった。
水の都からの依頼だというのだ。
しかもゴブリンスレイヤーを指名している。
一党はため息を吐きつつ苦笑し。
水の都へと向かったのだった。
長命竜
通称アルタードラゴン
オーゼンが交戦したのは2000歳級で指し物オーゼンも重症を負った。
牧場に住み着いたのは1000歳級のカップルで若造の部類。
通常は神々の深淵の第七層の一角である竜の巣とか人知の及ばぬ秘境とかに生息している
人知を超える存在であり卵盗難事件ではオーゼンが対応できなかったら外縁都市が壊滅しているレベルである。
また知性や学習能力も人を凌駕しており人間への擬態能力も持つ。
万を超える竜は龍とも呼ばれ神々にも匹敵する存在である。
三大黒社会
所謂所のマフィア、勢力としては砂の国、東方、北方の三勢力が鎬を削っている。
西方にも手を伸ばそうとしたが金剛石の騎士に戦力足らずでフルボッコされている。
ただし外縁都市では戦力や腕利きが集中しているため逆に金剛石の騎士をフルボッコに出来るとか。
外縁都市での等級。
基本的に外での階級のワンランク上と見なされる。
それだけ実力主義な事がうかがえる。
現に白磁級になるにも試験という依頼を何件か熟さねば神々の深淵では成れない
逆にこの都市でオーゼンや神秘卿と言った白金級になるという事はもう人間の形をしたナニカであるという事である。
五大旅団
神々の深淵に挑む外縁都市屈指の徒党の事。
人数も多く、100人規模が普通
徒党の長は金等級であるが上記で述べた通りワンランク上判定なので白金級レベルの実力者たち。
黒騎士
オーゼンや神秘卿の実力に匹敵する二刀流の使い手。
快楽主義者かつ自由人である為、下手したらならず者とも言えるかもしれない。
真正面から不意打ちする魔技を何手も使える。
外縁都市を基本拠点にしているが仕事で他の国々にも出没し真っ向から舐めプして金等級を再起不能とかにしている。
モデルは凸助。
ブレード
指先から真空波を発生させる一種の奥義、魔術とか奇跡ではないため連発可能。
オーゼンは持ち前のパワーでドラゴンブレードとも呼べる真空波を発生させ。対象をぶった切る。
黒騎士は打ち合い中に人差し指からこれを発生させる暗殺特化のストラトブレードの使い手。
まだ未熟ではあるが本作のゴブスレさんもオーゼンから習い自らのブレードを開発中である。
なお威力は本人の筋力、技量に依存するし射程も短い。
モデルは北斗の拳の南斗迫破斬とFSSの七音剣。