[永瀬 里沙]
「いや、大丈夫なら良いんだけど。 それともやっぱ、忘れちゃった?」
ゾッ……。
[朝蔵 大空]
「え……」
まただ、私が何か忘れてるって。
私が一体、何を忘れているって言うの?
私の前にミギヒロが現れてから、私の記憶がおかしくなってる。
なんで? 例のミギヒロが言ってた、" 名前の無い呪い " のせい?
あの呪いは、私が『忘れん坊になる呪い』だったりするの?
でも授業の内容とか、勉強したことが覚えられないとか、そう言うんじゃないって言うのは、さすがに分かる。
私が今まで生きてきて、起こった出来事の一部が、欠けている。
都合良く覚えてない気さえして、私は不安になる。
[朝蔵 大空]
「……副作用」
私はふと、あの不可解な夜を思い出す。
[永瀬 里沙]
「大空?」
[朝蔵 大空]
「あ……ううん」
こんな変なこと、里沙ちゃんには言えないよ。
あの日私、ほんとに何してたっけ?
思い出せない、気付けばベッドで寝てたし。
ミギヒロはあの夜、変な寝言言ってたし。
[永瀬 里沙]
「色々あったけどさぁ……あいつのことは、もう忘れたほうが良いよ」
[朝蔵 大空]
「え、あいつって……?」
[永瀬 里沙]
「だから刹那くんのこと、アレ許されることじゃないから」
許されないこと?
思い出してみれば私は、五木くんにひとつ怒りたいことがある。
小学校を卒業をした頃、五木くんが私に何も言わずに、引っ越して行っちゃったこと。
あの時は凄く悲しかった。
それからはもちろん、彼とは音信不通。
親同士も仲良かった、五木くんのお母さんとよく、カフェなどに遊びに行ってたらしいのに、それも今は一切無い。
そして私は、あの頃から孤独になった。
今まで私は、ずっと五木くんに支えられてきたのだ。
それから中学で、私は里沙ちゃんと出会った。
[朝蔵 大空]
「うん、分かってるよ」
もう今じゃ、顔すらよく思い出せないな。
もう忘れたかと思ってたけど、名前だけはしっかり覚えてた。
まさか高校生2年生になって、こんな形で彼を思い出すことになるなんて。
[永瀬 里沙]
「ねえ、またあいつと話したいとか……思ってたりする?」
[朝蔵 大空]
「えっ、どうかな……もう何年も話してないし、さすがに気まずいかな。 五木くんは私のこと、覚えてないだろうし」
[永瀬 里沙]
「うーん、それはどうかな。 だってあいつ、大空のこと好きだったし。 てか、両思いでしょ?」
[朝蔵 大空]
「む、昔の話でしょ!」
五木くんは明るくて、運動も出来て、皆の人気者だった。
だから、私のことが好きだったって言うのもよく分からない、付き合ってはなかったし。
それにあの彼なら、もう彼女のひとりやふたり、いてもおかしくない。
今も私のこと好きかも? なんて、期待しちゃいけない。
キーン♪ コーン♪
カーン♪ コーン♪
午後の授業も終わって、今は昼休み。
[巣桜 司]
「よし……く、狂沢くん! 一緒にご飯食べませんか?」
司くんが弁当を手に、勇気を出して狂沢くんに話し掛ける。
[狂沢 蛯斗]
「え……ごめんなさい、ボクお弁当持ってないです」
[巣桜 司]
「えっ」
そう言ってあっさり、狂沢くんは手ぶらで教室から出て行ってしまった。
[巣桜 司]
「ガーン!!」
取り残されて、その場に立ち尽くすことしか出来ない司くん。
うちの学校では、昼食は皆食堂に集まるのが主流なので、お弁当を持って来ている人は、この学校では逆に珍しいまである。
[朝蔵 大空]
「司くんはお弁当なんだね?」
狂沢くんに断られて、ひとりで泣きそうになってる司くんに、私は優しく声を掛ける。
[巣桜 司]
「は、はい! 皆さんご飯は……」
[朝蔵 大空]
「知らない? うち、食堂あるんだよ。 全品500円なんだけど」
[巣桜 司]
「そ、そうなんですか?」
司くんが驚いた顔をした。
私も始めは知らなかったもんな、お母さんに相談して、昼食は学食にするようにしたけど。
お母さん、お弁当作らなくて良いようになって楽になるだろうし。
でも困ったな、司くんがひとりになっちゃう。
転校初日に、ぼっち飯は可哀想。
[文島 秋]
「巣桜くーん! こっち来なよ」
前のほうの席から、手を振って司くんに呼び掛ける文島くん。
文島くんと木之本くんは、いつもお互い席をくっ付けて、昼食を取る弁当組だ。
[巣桜 司]
「あ……えと」
司くんは呼ばれてもモジモジしてるけど、ここは私が後押しをしてあげなきゃ。
[朝蔵 大空]
「文島くんと、木之本くんだよ。 良かったね、行ってきな」
[巣桜 司]
「は、はい!」
ふたりの元に、お弁当を持って真っ直ぐ駆けて行く司くん。
[木之本 夏樹]
「巣桜だっけ?」
木之本くんがいつもより、慎重に話し出す。
[巣桜 司]
「は、はい! よろしくお願いします! 文島くん!」
木之本くんに文島くんの名前を呼びつつ頭を下げる司くん。
[木之本 夏樹]
「お、おう。 文島はこいつだけど……」
と言って木之本くんは、文島くんの顔に目を向ける。
それに対し、司くんはハッとして……。
[巣桜 司]
「へ!? ご、ごめんなさい! 間違えちゃいましたっ……」
焦ってふたりに謝罪をする司くん。
真面目だなぁ。
[文島 秋]
「あはは! よろしくね、文島秋です。 で、こっちが木之本夏樹」
[巣桜 司]
「は、はい! よろしくお願いします!」
司くんは今日は、木之本くん達と食事を取るようだ。
[永瀬 里沙]
「文島くんは良いとして、木之本か……」
[朝蔵 大空]
「うん……」
その時、私は卯月くんの席のほうを見る。
[永瀬 里沙]
「どうしたの?」
[朝蔵 大空]
「卯月くん、どこ行ったのかなって」
[永瀬 里沙]
「さ、さぁ?」
卯月くん、ちゃんとご飯食べてるかな?
卯月くん、休み時間の度に居なくなる気がする、それもいつの間にか。
私の見てない間に、居なくなる。
なんだか不思議だよね。
……。
──その頃、学校の裏庭にて。
[嫉束 界魔]
「よお、吉鬼」
ベンチに座って、食事を取っている笹妬の隣に、許可無く座りに来る嫉束。
[笹妬 吉鬼]
「……なんだよ」
笹妬はとても嫌そうにして、嫉束から距離を置く。
[笹妬 吉鬼]
「……お前メシは?」
[嫉束 界魔]
「え? 僕お昼は食べないよ。 前も言わなかったっけ?」
横目に、笹妬のほうを見る嫉束。
それを無視して、笹妬は弁当のおかずを
[嫉束 界魔]
「今日もひとり?」
嫉束は、ニヤつきたいのを我慢しつつ聞く。
[笹妬 吉鬼]
「分かり切ってるようなこと聞くなよ、
笹妬が嫉束の挑発的な質問に、食い気味で答える。
[嫉束 界魔]
「おー、
嫉束はフフンと笑った。
[笹妬 吉鬼]
「別に来なくて良い。 さっさと、ファンの所にでも戻ったらどうだ?」
嫌味に嫌味を重ねる笹妬を、睨む嫉束。
[嫉束 界魔]
「……嫌だよ。 あの子達めんどくさいし」
うんざりした表情で、腕を頭の後ろで組んで、ベンチの背に持たれる嫉束。
[笹妬 吉鬼]
「俺の所に来るのも謎だけどな、帰れよ」
笹妬は嫉束に、そう冷たく言い放つ。
[嫉束 界魔]
「吉鬼、大空ちゃんって子と喋ったでしょ?」
[笹妬 吉鬼]
「は?」
単刀直入に出された話に、戸惑う笹妬。
[笹妬 吉鬼]
「……俺が知ってる大空って、朝蔵のことか?」
[嫉束 界魔]
「あ、ごめんね。 そうそう、そうだよ。 朝蔵大空ちゃん」
嫉束の口から、朝蔵大空の名前が出てきて、複雑な心境の笹妬。
[笹妬 吉鬼]
「なんだよ、知り合いだったのかよ」
[嫉束 界魔]
「ん〜。 知り合いと言うより、友達。 この前彼女と喋ったら、吉鬼の名前出てきたから、吉鬼には友達いないのに、どうしてかなーって?」
マウントを取る勢いで答える嫉束。
案の定、イラッとした様子の笹妬。
[笹妬 吉鬼]
「だから何? 初めて会った時、あいつが泣いてたから、慰めただけだけど?」
[嫉束 界魔]
「……へぇ、優しいじゃん。 吉鬼のくせに」
[笹妬 吉鬼]
「はぁ? 別に泣いてる奴が居たら、普通声掛けるだろ」
嫉束の発言にムカついて、声を少し荒らげる笹妬、そしていくつも
[嫉束 界魔]
「それで? あの子、なんで泣いてたの?」
ニヤニヤするのを辞め、真剣な表情で聞く嫉束。
[笹妬 吉鬼]
「知らないよ。 俺だって聞いたけど、なんか言いたくないみたいな感じだったし」
笹妬の言葉に、一瞬黙り込む嫉束。
[嫉束 界魔]
「ふーん……悪いんだけどさ、もうあの子に近付かないでくれる?」
そう言う嫉束にびっくりして、箸を止める笹妬。
[笹妬 吉鬼]
「なんでだよ。 なんでお前が、俺のこと決めるんだ?」
[嫉束 界魔]
「別に、1回喋っただけでしょ。 ね、僕からのお願い?」
嫉束は不敵な笑みを浮かべる、そして不満を抱く笹妬。
[笹妬 吉鬼]
「言っちゃ悪いけど、それお前が日頃あいつらにやられてることと、一緒じゃないか?」
[嫉束 界魔]
「……そうだね、でも」
[笹妬 吉鬼]
「俺は! 喋りたい奴と喋る。 良いだろ?」
そう言い残して、裏庭から去って行く笹妬。
それを、憎しみを込めた目で見つめる嫉束。
[嫉束 界魔]
「……捕まればいいのに」
……。
[巣桜 燕]
「まあ! 司、さっそくお友達が出来たのね! 司が学校楽しんでくれてるみたいで、ママ嬉しいわ〜!」
──放課後。
家に帰る途中、巣桜さんの家の前でお話する私と、司くんと燕さん。
[巣桜 司]
「友達……」
司くんは嬉しいのか、微笑んでいる。
[朝蔵 大空]
「木之本くんとは……どう?」
木之本くん、
[巣桜 司]
「木之本君! はい、始めはちょっと怖かったんですけど……」
そうだよね、木之本くんは初対面、少し凶暴そうに見える。
私は1年間、同じクラスだったからもう慣れたけど、彼は日常で人より大きい声を出すから……。
[巣桜 司]
「でも優しいですよ!」
[朝蔵 大空]
「そっかぁ」
あ、意外と大丈夫なもんなんだ司くん、ああ言うの。
基準が微妙に分からないなぁ……。
司くん、きっと気が強くて、引っ張ってくれそうな人には弱いんだろうなぁ、狂沢くんとか。
今日見た感じ、狂沢くんと司くんってすっごく相性良さそう。
でも狂沢くんは学食で、司くんはお弁当だから、昼食は一緒に過ごせないね。
なんか良い方法無いかなぁ……。
[巣桜 司]
「……」
何やら真剣な表情の司君。
[朝蔵 大空]
「司くん? どうしたの? 難しい顔してるけど……」
[巣桜 司]
「あ、ちょっと……」
[朝蔵 大空]
「……? まあいいや、じゃあねー」
私は燕さん達とバイバイして、家に帰る。
……と言っても隣だが。
[朝蔵 大空]
「んー、この手紙ほんとになんなんだろ」
私は昨晩届いた、怪しい封筒を気にする。
[朝蔵 大空]
「魔王試練って……?」
私がパートナー? 誰の?
うーん……。
ミギヒロ?
[朝蔵 大空]
「よく分からない……」
その時、急に眠気が襲って来た、夕飯もまだなのに、私の瞼が私の意思とは関係無く、下がってくる。
[朝蔵 大空]
「寝ちゃ……ダメ……」
私は眠気に耐えることが出来ずに、結局そのまま眠ってしまった。
……。
[謎の声]
「ソラ様」
誰?
誰かが、私の名前を呼んでいる。
[謎の声]
「ソラ様、聞こえますか?」
返事をしたくても、目が開かない、体も動かない、口も……。
誰? 知らない声……。
[謎の声]
「ソラ様?」
知らない声が、ずっと私のことを呼んでいる。
[謎の声]
「ああ、今日はここまでのようですね。 またお会いしましょう、それまでどうかご無事で…………」
つづく……。