悲恋の大空   作:暴走機関車ここな丸

14 / 47
第7話「バイバイメモリー」後編

 ──見えますか?

 

 

 ここは、主人公達の住む世界ではない、どこかの神秘的で、白く明るい世界。

 

 

 

[部下A]

 「リン様ー! 彼女、目覚めたようです!」

 

 

[リン]

 「分かりました、ありがとうございます」

 

 

[部下A]

 「はい! では、失礼致します!」

 

 

 

 これが毎朝のルーティン。

 

 

 

[リン]

 「シン……一体、何をしているのですか」

 

 

 

 ……。

 

 

 なんだろう、狂沢くんが昨日からずっと、カリカリしてる気がする。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「カリカリ」

 

 

 

 私は、後ろの席に座っている司くんに、声を掛ける。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ねぇ、アレどうしたの?」

 

 

[巣桜 司]

 「え……あー、多分カメラを壊されたからだと」

 

 

[朝蔵 大空]

 「えー!」

 

 

 

 あんな、高そうなやつを!?

 

 

 まさか例の、五木くんがやったって言うの?

 

 

 

[巣桜 司]

 「ぼくも狂沢くんが怖くって……話し掛けられないんです……」

 

 

 

 そりゃあんな見るからに、攻撃的な態度取ってたら、恐ろしくもなるよね。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「ボクの悪口でも言ってるんですか?」

 

 

 

 気付くと、私達の近くに狂沢くんが立っていた。

 

 

 傍に居る司くんも怯えた表情をしている。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ひっ……!? い、いや違うよー。 狂沢くん、今日なんか機嫌悪いなー、って話してて」

 

 

[巣桜 司]

 「ふへへ……」

 

 

 

 私と一緒に、気まずそうに笑う司くん。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「そうそう! あの人、刹那五木に壊されたんです!」

 

 

 

 やっぱりそうなんだ……。

 

 

 

 

 

 ──狂沢の回想。

 

 

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「刹那五木くん。 ボクのカメラ、持って行きましたよね? 返して下さい」

 

 

[刹那 五木]

 「えっ! あ、君……ごめん」

 

 

 

 狂沢にカメラを返せと言われ、額に汗をかいて、後ろめたいことでもあるかの様な刹那五木。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「なんですか?」

 

 

[刹那 五木]

 「じゃ……ジャーーン」

 

 

 

 ボコボコになった原型の無いカメラが、狂沢の前に用意される。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「ぎゃああああ! ボクのカメラが!!」

 

 

 

 他所(よそ)のクラスで、大声で悲痛な叫びを披露する狂沢。

 

 

 

 

 

 ざわ……ざわ……。

 

 

 

 

 

 他の生徒も、狂沢と刹那にざわざわと、騒ぎながら大注目。

 

 

 

[刹那 五木]

 「ごめん! 友達と追い掛け回ってたら、蹴飛ばしちゃったみたいで……か、必ず弁償するから!」

 

 

 

 土下座でもするかのような勢いで、狂沢の前で地面に膝を着き、上半身を前に倒して謝る刹那。

 

 

 刹那五木は2年からサッカー部のキャプテン、その足からは尋常じゃない威力のキックが繰り出される。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「それで……許されると思わないで下さいね!! 失礼します!!!」

 

 

 

 狂沢は、『もういい』と言わんばかりの顔で、2年1組の教室から出て行こうとする。

 

 

 " 絶対に許さない " と、心に怒りの炎を燃やしながら……。

 

 

 

[刹那 五木]

 「あっ、ちょっと待ってよー……!」

 

 

 

 それを、マズイと思った刹那が追い掛けるが、狂沢は振り向きもせずに行ってしまう。

 

 

 

 

 

 ──狂沢の回想終了。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「酷すぎます! この前、嫉束界魔にやられたやつも、修理に出す羽目になったって言うのに! あれはもう、完全に死にました! 修復不可能なんですー!」

 

 

 

 あ、嫉束くんにやられた時もなのね。

 

 

 それはそれは、大変な不幸が重なりましたなぁ……。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「あの人達……超人気者とか、(すっご)いモテるとか知らないですけど! あのふたりは最低です! 許せません!」

 

 

 

 嫉束くんの時は、貴方も貴方でなんか、変だったよ……??

 

 

 結局この時、狂沢くんのイライラはまだ治まらなかった。

 

 

 ……。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「大空ー、行こ〜」

 

 

[朝蔵 大空]

 「今行くー」

 

 

 

 今は2時間目が終わったところで、これから体育の授業を受けに、運動場まで向かうところだ。

 

 

 私達は、昇降口から運動靴に履き替えて、屋外に出て来る。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「日焼けしちゃーう……」

 

 

 

 天空を眺めて、日光を嫌がる里沙ちゃん。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「里沙ちゃん、充分肌白いじゃん」

 

 

 

 光に当たって輝いてる里沙ちゃん、可愛い♪

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「いやいや……。 って言うか、肌白いってそれなら、あんたのほうが白いでしょ?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「そ、そうかな?」

 

 

 

 それは私が、休日も外に出ないことが多いから、陽の光を浴びる機会が少ないからであり……。

 

 

 『白さ』を保つ秘訣はずばり、" 引きこもり " なのです。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「……あっ」

 

 

 

 その時、見覚えのある男子生徒が、運動場のほうから歩いて来るのが、見えた。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「……」

 

 

 

 ──笹妬くんっ!!

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「……はぁ」

 

 

 

 笹妬くんだと確信した私は、気付くと彼に向かって駆け出していた。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「え、ちょっと! あっ、あれは……」

 

 

 

 突然駆け出す大空に驚く里沙が、何かの異変に気付く。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「笹妬くん! 笹妬くーん! 笹妬くーん!!」

 

 

 

 あの時の、お礼がしたい!

 

 

 彼に気付いてほしくて、笹妬くんの名前を何回も呼んでみる。

 

 

 そうすると狙い通り、笹妬くんの目が、私の姿を(とら)えた。

 

 

 彼は、タオルで自分の頬の汗を拭きながら、その場に立ち止まる。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「笹妬くん!」

 

 

 

 久し振りに姿を見たけど、やっぱり笹妬くんはカッコ良いなぁ……。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「……あ、大空か?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「うん! あっ、覚えててくれたんだ?」

 

 

 

 私は、笹妬くんに名前を呼ばれて、嬉しい気持ちになる。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「うん、まあ……」

 

 

 

 笹妬くんは、ちょっと照れたように一瞬、視線を逸らした。

 

 

 きっと、さっきまで笹妬くんも体育だったんだ、クラスのメンツからして……3組かな?

 

 

 笹妬くん、3組の人だったんだ!

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「え、えっと……」

 

 

[朝蔵 大空]

 「この前は、ありがとう。 色々と面倒見てもらっちゃって……笹妬くんには、感謝してるよ!」

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「お、おう。 それなら、良かった? けど、うん……」

 

 

[朝蔵 大空]

 「えへへっ」

 

 

 

 私は、自然と笑顔になる。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あっ……」

 

 

 

 私は、里沙ちゃんを置いて来てしまったことを、思い出す。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「じゃあ、じゃあね!」

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「あぁ、うん」

 

 

 

 やばい、里沙ちゃん怒ってないと良いけど……。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「里沙ちゃーん! ごめーん!!」

 

 

 

 私は里沙ちゃんを見つけて、急ぐ。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「ね、ねぇ?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「うん?」

 

 

 

 グラウンドに、先に着いていた里沙ちゃんの様子が、なんだかおかしい。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「し、知り合いだったんだ?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「え? あ、笹妬くんのこと? そうだよー。 あっ、そうだ! 助けてもらったって言う人、あの人なんだぁ実は……」

 

 

[永瀬 里沙]

 「あ……あれそうなんだ。 うんと……な、仲良いの?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「えっと特に、仲良いとまでは言えないかもー……」

 

 

 

 まだ、話して2回目だよ。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「そ、そう……」

 

 

 

 あれ?

 

 

 本当に里沙ちゃん、どうしたんだろ?

 

 

 どこか、怯えている様にも見える。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「ま、まあ所詮(しょせん)噂だし……」

 

 

[朝蔵 大空]

 「えっ?」

 

 

[女性体育教師]

 「集まってますか? 授業始めますよー」

 

 

 

 里沙ちゃんとの話の途中で、授業が始まってしまった。

 

 

 里沙ちゃんが言ってた噂って、なんの噂だったんだろ?

 

 

 笹妬くんについての噂ってこと?

 

 

 里沙ちゃん、言いにくそうな雰囲気だったし、私からは聞きづらいな。

 

 

 ──私は、聞かないことにした。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「あのことなんだけどさ……あれから、あいつのファンから、何も攻撃されてない?」

 

 

 

 今は各組で準備体操中。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「いや? 特に何も無いよ? なんか、誤解があったみたいで。 嫉束くんが、誤解を解いてくれたんだってー」

 

 

[永瀬 里沙]

 「へ、へぇ……そうなんだ。 ねぇ、嫉束くんと付き合うの?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「えっ!? うっ、ごほっごほっ……」

 

 

 

 私は驚いて声を出した時に、変な所に唾が入ってしまったのか、激しくむせる。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「だ、大丈夫?」

 

 

 

 里沙ちゃんが、私の背中を(さす)ってくれる。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「はぁはぁ。 う、うん……」

 

 

 

 私は、なんとか息を整えようとする。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「え? もしかして、そう言うのじゃなかった?」

 

 

 

 ……そ、そんな訳無いよー。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ち、違うよー! あれはまあ、なんと言いますか……」

 

 

[永瀬 里沙]

 「な、何よ?」

 

 

[女性体育教師]

 「ちょっと、永瀬さん達! ちゃんとやって!」

 

 

 

 大きな声が聞こえてきた。

 

 

 

[大空&里沙]

 「「は、はい!!」」

 

 

 

 サボってる様に見えたんだ、喋ってたら先生に怒られた。

 

 

 ──そして、あっという間に昼休みの時間になった。

 

 

 

[巣桜 司]

 「狂沢くん!」

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「は、はい?」

 

 

 

 あれ?

 

 

 司くん、また狂沢くんに声掛けてる……。

 

 

 しかも今、司くんにしては大きな声だったなぁ、誰かと思ったよ。

 

 

 

[巣桜 司]

 「あの、これ……」

 

 

 

 狂沢くんに司くんが、恥ずかしそうに何かを差し出した。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「……これは?」

 

 

 

 司くんの手には、ふたり分のお弁当袋。

 

 

 

[巣桜 司]

 「く、狂沢くんのお弁当です!」

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「え、ボクのって……」

 

 

 

 司くん、もしかしてあのお弁当……。

 

 

 

[巣桜 司]

 「はいっ! 作って来ました! め、迷惑じゃなかったら……お願いします」

 

 

 

 ほー!

 

 

 司くんったら、狂沢くんの為にわざわざ、お弁当を作って来たんだ?!

 

 

 昨日、チラッと見た司くんのお弁当、美味しそうだったな。

 

 

 てっきり、燕さんに作ってもらってるのかと思ってたけど、司くん料理出来たんだ!?

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「あら〜」

 

 

 

 戸惑いながらも、司くんからお弁当を受け取る狂沢くん。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「あ、ありがとうございます……」

 

 

 

 狂沢くんと司くん、今日は教室で一緒にお弁当を食べるみたい。

 

 

 ……私は何かふたりに、大きな可能性を感じた。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「里沙ちゃん? 行かないの?」

 

 

 

 私もいい加減お腹が空いたので、里沙ちゃんを食堂に誘おうとする。

 

 

 だが、里沙ちゃんは……。

 

 

 窓側の前から3番目の狂沢くんの席で、お弁当を一緒に食べる司くん達を見つめたまま、その場から動こうとしない。

 

 

 

[文島 秋]

 「へぇ、やるね」

 

 

 

 あとよく見たら、近くで座ってる文島くんの表情も、なんだか微笑ましそうだ。

 

 

 

[木之本 夏樹]

 「ムシャムシャムシャっ!!」

 

 

 

 対して木之本くんは、それに一瞥もくれず弁当にガッツいている。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「行こーよ……」

 

 

[永瀬 里沙]

 「嫌よ! 私、一生ここから動かない!!」

 

 

 

 うわ、めんどくさいなぁ……!

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ほら行くよー」

 

 

[永瀬 里沙]

 「イヤー!!」

 

 

 

 この日の昼は、私が無理やり里沙ちゃんを引っ張って行った。

 

 

 ──そして時は過ぎ、あっという間に放課後。

 

 

 

 

 

 ポツ……ポツっ……。

 

 

 

 

 

 帰りの準備をしていたところ、前触れも無く雨が降ってきた。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「やば……」

 

 

 

 急に雨なんか降って来られても、今日は傘持って来てないよ〜。

 

 

 ……最悪。

 

 

 家までそんな遠くないけど、濡れて帰るのやだなぁ。

 

 

 私は嫌だなと思いつつも、とりあえず昇降口に向かう。

 

 

 外まで出てきた時だった、入口で印象的な赤髪の男子生徒が、立っているのに気付く。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あっ……」

 

 

 

 私が本能で感じる、この人もしかして……。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「い、五木くん? 刹那くん……」

 

 

 

 私はその男子に向かって、両方の名前を呼んでみた。

 

 

 

[刹那 五木]

 「え……あ、はい?」

 

 

 

 私に名前を呼ばれた彼が、こちらに振り返った。

 

 

 当たってた!

 

 

 たとえ成長してたって、この私が五木くんのことを、忘れる訳無いもん!

 

 

 それにしても……体格とかもそうだし、背とか高くなってる!

 

 

 めっっっちゃカッコ良くなってる、凄い!

 

 

 こりゃあ、モテますわぁ〜。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「私のこと、覚えてる?」

 

 

 

 私からは名乗らなかった、だって覚えてないならそれで、もう良いもん。

 

 

 

[刹那 五木]

 「お前……!? な、なんで話し掛けてくんの?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「えっ!?」

 

 

 

 私のことを、覚えてる覚えてない以前に……『話し掛けてくんの?』って、何??

 

 

 何その言い方……。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「え……。 私だよ? 朝蔵大空だよ? 覚えて……ない?」

 

 

 

 私は悲しくなって、つい自分から自分の名前を、言ってしまった。

 

 

 

[刹那 五木]

 「えっ、違っ……覚えてる、覚えてるよ」

 

 

 

 五木くんが、私のことを覚えていると聞いて、ホッとした。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「よかった……あのっ、私達さ! 小学校振りだね!」

 

 

[刹那 五木]

 「……え」

 

 

 

 五木くんは、眉をひそめた。

 

 

 

[刹那 五木]

 「中学振りだろ……?」

 

 

 

 私の記憶が、否定された。

 

 

 

 

 

 「バイバイメモリー」おわり……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。