[朝蔵 真昼]
「アサノヨゾラさんじゃないですかー」
街灯の光に照らされて、シルエットだけだったものが、その内
[朝蔵 大空]
「お兄ちゃん!?」
私は、夜の中叫ぶ。
私と真昼は、目の前に現れた人が誰なのか分かってしまった。
[朝蔵 千夜]
「おっ、大空ー! 真昼ー! おひさー♪」
キャリーケースを引いて、こちらに手を振りながら、向かって来る私達のお兄ちゃん。
[朝蔵 真昼]
「やっぱり、アサノヨゾラだ」
朝蔵千夜、芸名アサノヨゾラが今、ここにいる。
[朝蔵 大空]
「なんで……」
真昼とふたりで、夜の散歩をしていただけなのに。
なんでこのタイミングで、お兄ちゃんが私達の所に現れるの?
なんの前触れも無い……。
[朝蔵 千夜]
「なぁに、ふたりとも? お兄ちゃんのこと、迎えに来てくれたの? きゃー嬉しい〜♡」
わー……話し方が凄い。
ギャル、オネエ? みたい。
それでも昔から、男子にしては可愛い顔をしていた千夜お兄ちゃん。
ここまで、
[朝蔵 大空]
「あ、あははは……」
私の口から、乾いた笑いが出る。
かつての、私達の千夜お兄ちゃんとはもう……何もかもが違うよ。
髪に
髪の長さだって、もうちょっと短かった。
服装だって、そんな可愛いフリフリしたブラウスと、ミニスカ履いてなかったよ?
サブカル系ってやつ……?
[朝蔵 千夜]
「でも、ダメだよぉ。 若くて可愛い子が、夜道を歩くなんて! 絶対ダメ! めっ!!」
[朝蔵 真昼]
「その " 若くて可愛い子 " に、僕を含みますか?」
そう真昼に言われて、お兄ちゃんは人差し指を、可愛いらしく横に振る。
どう言う意味かは分かんないけど、あざといことだけは分かる。
それに実際、真昼は若くて可愛い子に余裕で入ると、私も思う。
[朝蔵 真昼]
「な、慣れねぇ……」
最愛の我が弟との、ふたりきりの夜の散歩を、強制中止にされて家に引き戻される。
[朝蔵 葵]
「あーら! 千ちゃんおかえり〜」
お母さんは、久し振りにお兄ちゃんが帰って来たと言うのに、割と普通にしていた。
[朝蔵 千夜]
「お母さん♪ ただいまっ」
この雰囲気、お母さんさては……。
[朝蔵 大空]
「お母さんもしかして、お兄ちゃん帰って来るって知ってたの?」
[朝蔵 葵]
「そうなのよ、ごめんなさいね。 だって、千ちゃんが内緒にしてって言うから〜」
[朝蔵 千夜]
「そゆことっ♡」
この親子……揃って、そう言うことしやがる。
私達は家族揃って、リビングの食卓で座って話すことになる。
[朝蔵 真昼]
「千兄、仕事はいいの?」
[朝蔵 千夜]
「んー?」
確かお兄ちゃんには、ファッションデザイナーの仕事があったはず。
あとテレビ出演とか、その他メディア関係の仕事なんかも、あるんじゃなかったけ。
[朝蔵 千夜]
「ああっ、しばらく活動休止するのー♪ だから久し振りに、里帰りーってワケ!」
[朝蔵 葵]
「お疲れ様、千ちゃんっ♪」
お母さん、千夜お兄ちゃんが久し振りに家に帰って来て、めちゃくちゃ嬉しそうだな〜。
私も嬉しいけど、嬉しいんだけど……なんか、雰囲気に慣れないよ。
変わり果てた兄の姿に、妹の私は複雑な気持ち。
そして弟の真昼も、きっと同じ気持ちだと思う。
お兄ちゃんって昔はもっと真面目で、硬派な感じだったのになー。
[朝蔵 千夜]
「あっ、ちなみに1年は休むつもりだから〜、よろしく!」
[朝蔵 真昼]
「そんなに? アサノヨゾラさんは相当、稼いでるんだね」
[朝蔵 千夜]
「えへへっ。 もー、そう言う嫌らしいこと言わないの真昼っ! 大空もそう思うよねー?」
お兄ちゃんが笑顔で、私に同意を求めてきた。
[朝蔵 大空]
「う、うん……」
[朝蔵 千夜]
「あと、ここではアサノヨゾラじゃなくて。 君達の兄、千夜きゅんだから。 オフん時はオフだから、アタシ」
アタシ??
一人称まで変わってる……前まで『俺』とかじゃなかった?
本当に一体どこで、『男の娘になろう』って思ったんだろう?
謎は深まるばかりです。
……。
──その日の夜。
ブー! ブー!
リビングのテーブルに置いてあった大空のケータイから、着信音が鳴らされる。
[朝蔵 千夜]
「ん?」
千夜はお風呂上がりにソファで寝転がって雑誌を読んでいた。
[朝蔵 千夜]
「誰のケータイ?」
[朝蔵 葵]
「それは……大空のね」
しかし、大空はもう部屋で休んでしまっている。
[朝蔵 千夜]
「そうなんだっ」
千夜は大空のケータイ画面を、チラッと見る。
[朝蔵 千夜]
「……は?」
──『五木くんからメールが1件届いています』。
……と、画面に1つ表示されている。
[朝蔵 千夜]
「……」
千夜は、大空のケータイを操作し、刹那から届いたメールの内容を見る。
そこには……。
真昼くん体調良くなった?
お前も気を付けろよ!
おやすみ
……刹那の言葉で書いてあった。
[朝蔵 千夜]
「チッ……」
千夜は舌打ちをした、千夜は刹那に対して思うところがある。
[朝蔵 葵]
「千ちゃん? どうしたの?」
朝蔵母が、千夜の異変に気付く。
[朝蔵 千夜]
「ううん! なんでも無いよーん♪」
すぐさま、ご機嫌を装ってみせる千夜。
[朝蔵 葵]
「あらそう? お母さんもう寝るわね」
[朝蔵 千夜]
「うん! おやすみ!」
[朝蔵 葵]
「電気消しといてねー」
そう言って、リビングから出ていく朝蔵母。
[朝蔵 千夜]
「はーい♡…………」
そして静かになった、千夜ひとりのリビング空間。
[朝蔵 千夜]
「あいつ……俺との約束、破りやがったな」
千夜は、大空のケータイの画面を閉じて、拳を握り締めた。
その足で、大空の部屋に向かう千夜。
[朝蔵 千夜]
(どう言うつもり? あいつも、大空も……)
ジャー! ガチャ。
[朝蔵 千夜]
「あっ……大空?」
その時、2階のトイレから何者かが用を終わらせて出て来た。
[加藤 右宏]
「フわぁ……んァ?」
ミギヒロが眠そうに、
[朝蔵 千夜]
「えっ、だ……」
千夜がミギヒロに、『誰!?』と言おうとしたところ。
[加藤 右宏]
「誰だお前はーーー!!?」
ミギヒロが、千夜より大きな声で先手を打った。
[朝蔵 千夜]
「こっちのセリフだー!!」
廊下
[朝蔵 千夜]
「ふ、不法侵入でしょ?!」
自分の知らない人が、家に居てまともに怯える千夜。
[加藤 右宏]
「モしかして、アナタが……千夜お兄ちゃんっテやつですカ?」
ミギヒロが先に落ち着きを取り戻し、千夜との会話を
[朝蔵 千夜]
「君にお兄ちゃんって呼ばれる筋合い無いよ、辞めてくれるかな? じゃなくて……君ほんと誰なの? 警察呼ぶよ?」
[加藤 右宏]
「よくぞ聞いてくれタ! オレ様は、魔法使いミギヒロ! なのダー!」
[朝蔵 千夜]
「……は? もう警察呼ぶから」
ミギヒロのノリノリな自己紹介は、千夜の目には異常者にしか映らなかった。
[加藤 右宏]
「ウわー! 警察っテ、なんか怖いとこなんダろー? 頼むかラ、それだけはやめてくレー!」
ミギヒロが、千夜の『警察』と言う言葉に反応して、千夜の元へと迫る。
[朝蔵 千夜]
「ちょっと……寄らないでくれますか?」
露骨に、嫌そうな顔をする千夜。
ガチャ。
[朝蔵 大空]
「もーお兄ちゃん! ミギヒロ!! うるさい!」
[朝蔵 真昼]
「お姉ちゃんもうるさいよ……」
廊下でのふたりの掛け合いに、痺れを切らした大空と真昼が、自室から出て来る。
[朝蔵 千夜]
「ああ! ふたりとも、家に不審者がいるよ! やばいよ!」
[大空&真昼]
「「不審者? どこ?」」
大空と真昼は、ふたり揃って周りをキョロキョロする。
[朝蔵 千夜]
「えっ……ここ! ここにいるじゃん!」
千夜はミギヒロを、右手で指さす。
[加藤 右宏]
「ヘケ?」
[大空&真昼]
「「あー……」」
兄が言いたいことを、やっと理解しだす妹と弟。
[朝蔵 千夜]
「え、何その反応……どう見たって、朝蔵家の人間じゃないのがいるでしょ!?」
[朝蔵 大空]
「ミギヒロの、ことね……」
[朝蔵 真昼]
「もう慣れたし」
大空は真昼の顔を見て笑い、真昼はそれに真顔で返す。
[朝蔵 大空]
「じゃあ……おやすみー」
[朝蔵 真昼]
「おやすみ」
[加藤 右宏]
「おやすみ〜」
各自、自分の部屋へと寝に帰る。
[朝蔵 千夜]
「えんっ?」
説明もされないまま、ひとり寂しい廊下に取り残される千夜であった。
グッドナイト……★
……。
[朝蔵 大空]
「行って来ます!」
[加藤 右宏]
「行って来ますなのダ!」
それから朝になって、今日はミギヒロと登校する時間が重なった。
[朝蔵 千夜]
「……」
玄関に立ったまま、ミギヒロのほうを見ているお兄ちゃん。
[朝蔵 大空]
「お兄ちゃん?」
[朝蔵 千夜]
「あっ、うん! いってらっしゃいねっ♪」
[朝蔵 大空]
「うん!」
[加藤 右宏]
「はーい!」
バタンっ……。
出掛けて行く私とミギヒロ、玄関にまたひとり残される千夜お兄ちゃん。
[朝蔵 千夜]
「……これ、気にしたら負けってやつ?」
千夜は、『新・朝蔵ファミリー』に順応した。
……。
──朝のホームルームにて。
[二階堂先生]
「皆おはよう、もうすぐ文化祭だな。 という訳で……」
先生が黒板に、カリカリと何か書き始めた。
[二階堂先生]
「うちのクラスは、
騒然とするクラス。
[永瀬 里沙]
「きょ、強制?!」
[二階堂先生]
「劇は代々、その年の『2年2組』がやるって、決められてるんだ」
そんな伝統聞いたことねーよ。
[文島 秋]
「劇って言っても、なんのでしょうか……?」
文島くんが、二階堂先生に問い掛ける。
[二階堂先生]
「いや、それは自由だ。 本来これも、話し合いで決めるものだが……面倒だし、ひとりずつ紙に書いて抽選にしよう!」
……な、何書こうかな!?
劇って言ったらロミオとジュリエットだけど……ちょっと定番すぎるかな?
[朝蔵 大空]
「うーん」
[卯月 神]
「面倒臭い……」
横に座っている卯月くんが、ボソッと不満を呟く。
[朝蔵 大空]
「卯月くん、何書くか決まった?」
私は思い切って、卯月くんに話し掛けてみる。
[卯月 神]
「えと……僕はなんでも良いので、『白紙』で出そうかと」
[朝蔵 大空]
「え、それはちょっと……」
こう言う場で、白紙を出すのは良くない気がする。
[卯月 神]
「良くないですか?」
[朝蔵 大空]
「あ、うん。 せめて、何か書かないとだけど……」
卯月くん、絵本とかあんまり読んだこと、無いのかな?
[卯月 神]
「では、そう言う貴女は何にするんですか?」
[朝蔵 大空]
「えっとー、私は【白雪姫】!」
私は小さい頃、白雪姫の絵本をよく読んでいた。
時にはお母さんや、お兄ちゃんが読み聞かせしてくれた。
[卯月 神]
「シラユキヒメ? ふーん……」
白雪姫って、割と有名なお話だと思うんだけど……この反応、卯月くん知らないのかな?
[卯月 神]
「僕も同じにしても良いですか?」
[朝蔵 大空]
「え? いいけど……」
私と同じにするのか……特に希望が無いみたいだし、私からはなんも言うこと無いや。
[卯月 神]
「……お、教えてほしいんですけど。 そのシラユキヒメって、どう言う " 漢字 " ですか?」
[朝蔵 大空]
「え、漢字? 漢字は、『白』い『雪』のお『姫』様で、白雪姫だよ」
[卯月 神]
「なるほど……?」
ピンと来てない様子……卯月くんもしかして、意外と漢字に弱い?
頭良さそうに見えるのに。
[朝蔵 大空]
「書いてあげようか?」
[卯月 神]
「お、お願いします」
私は卯月くんの紙に、代わりに文字を書いてあげる。
そんなに難しい漢字じゃないよね……?
[二階堂先生]
「結果発表ー!!」
つづく……。