悲恋の大空   作:暴走機関車ここな丸

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第12話「ヨコドリデイト」後編

[朝蔵 大空]

 「私、トイレ行って来るね!」

 

 

[卯月 神]

 「はーい」

 

 

 

 私は近くのトイレで、事を済ましに行く。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ふぅ……」

 

 

 

 用が済んだ私は、通路へと出て来る。

 

 

 ──そこで、私は人物と出会す。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「……?」

 

 

 

 あれ? あの人……。

 

 

 

[サングラスの男]

 「……あ! 大空ちゃんだ〜」

 

 

 

 サングラスを掛けた、白髪(はくはつ)の若い男の子に、私は声を掛けられる。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「うっ、うぇっ……!?」

 

 

 

 一瞬誰? と思ったけど、私は声で気が付いた。

 

 

 この人、嫉束界魔くんだ。

 

 

 ……なんで、こんな所に?

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「やほ、偶然だね?」

 

 

 

 そう言って彼はサングラスを外し、綺麗な金色の瞳を見せた。

 

 

 やっぱり、嫉束くんだ……。

 

 

 私服の嫉束くん! 超レア!!

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ほんと偶然! 嫉束くんは……友達と?」

 

 

 

 見た感じ、近くに嫉束くんの知り合いっぽい人は、居なさそうだけど……。

 

 

 まさかこんな所に、ひとりで来てる訳じゃないよね?

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「んーまあ、そんなところかなっ」

 

 

 

 彼は、しばらく考えてからそう答えた。

 

 

 なんだ嫉束くん、友達いるじゃん!

 

 

 もしかして、笹妬くんと来てるのかな?

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「そうなんだ……あっ」

 

 

 

 いけない、いけない、向こうで卯月くんを待たせてるんだった!

 

 

 嫉束くんと、会ったばかりですぐ退散は、少々失礼な気がするけど。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「わ、私もう行くね。 じゃあね」

 

 

 

 早く戻らないと、『大』だと思われちゃう!

 

 

 そんなの私は! 乙女的には嫌すぎる!

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「あ! ちょっと」

 

 

 

 私が歩き出そうとすると、嫉束くんは私を呼び止めて来た。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「……何?」

 

 

 

 私は、なんだろうと思って後ろを振り返る。

 

 

 早く戻りたいんだけど……。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「僕にも、もう少しだけ……」

 

 

 

 嫉束くんが、あんまりにも真剣な眼差しで言うものだから、私はどこにも行けない。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「え?」

 

 

 

 『僕にも』……?

 

 

 どう言うこと、なんの話?

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「おいでっ」

 

 

 

 嫉束くんが私と手を繋ぎ、そのまま私を引き連れて行く。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「わっ……!」

 

 

 

 戸惑う私にはお構い無しに、嫉束くんは通路を突き進んで行く。

 

 

 手を握られている私は、彼に着いて行くことしか出来ない。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ちょ、ちょっと! 私、人を待たせてて……」

 

 

 

 途中で私がそう訴えかけても、彼は聞く耳を持ってはくれなかった。

 

 

 嫉束くん、どうして私の話を聞いてくれないの?

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「ごめんね」

 

 

 

 彼は、謝罪の言葉をひとつだけ。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「えっと……」

 

 

 

 辿(たど)り着いた先は……。

 

 

 哺乳類コーナー?

 

 

 食品サンプル……と言う言い方は違うか。

 

 

 有るのは、色んな種類の剥製?

 

 

 迫力あるなぁ……。

 

 

 

 

 

[アナウンス]

 『まもなくイルカショーが始まります!』

 

 

 

 

 

 どこからか、放送が聞こえてくる。

 

 

 へぇ、イルカショーなんてものもあるんだ……。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「大空ちゃん! 行こうよ!」

 

 

[朝蔵 大空]

 「え、うーん……」

 

 

 

 イルカショーか……私も、それは気になるけど。

 

 

 でも今は、卯月くんとデート中なのに。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「迷ってるなら行こっ!」

 

 

[朝蔵 大空]

 「あっ……」

 

 

 

 私は嫉束くんに背中を押され、強引に屋外へと連れ出される。

 

 

 もう……この人は。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「まあ……ちょっと見て行こうかな」

 

 

 

 少し見たら戻ろう、と私は思っていた。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「可愛いね! イルカ!」

 

 

[朝蔵 大空]

 「う、うん!」

 

 

 

 バッシャンバッシャンと、飛沫(しぶき)を立ててアピールするイルカ達。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「……」

 

 

 

 可愛い?

 

 

 さっきは思わず、『うん!』と言ってしまったけど……。

 

 

 なんだろう、イルカって実物はあんま可愛くないな。

 

 

 イラストとかだと可愛いけど……。

 

 

 

[嫉束 大空]

 「大空ちゃんさ」

 

 

[朝蔵 大空]

 「ん? 何?」

 

 

 

 嫉束くんが、私の髪に結んであるリボンにそっと触れる。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「今日の髪型、めっちゃ可愛いよ!」

 

 

 

 嫉束くんはそう言って、愛らしく笑う。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あ、ありがとう……」

 

 

 

 私絶対、今ほっぺた赤くなってる。

 

 

 恥ずかしいから、嫉束くんから目を反らしておこう。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「……お母さんにやってもらったの」

 

 

[嫉束 界魔]

 「あ、そうなんだね。 お母さんと仲良いんだ?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「うん!」

 

 

 

 そう言えば卯月くんは、私のこの頭のことに、なんにも触れてくれなかったな……。

 

 

 あの人私に、関心が無いのかな?

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「……気に入らなかったかな?」

 

 

 

 私は、つまらなそうな顔をしていたのだろう、嫉束くんに勘づかれてしまった。

 

 

 一緒にいるのに退屈そうな顔してたら、嫉束くんだって悲しいよね。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あっ、ううん! 凄いね! イルカショー! 私、もう何年振りだったか……」

 

 

 

 私は無理して、感動したフリをする。

 

 

 まあ素直に、人間に従うイルカ達のパフォーマンスは凄いと思う。

 

 

 でも、どこかの時間でラインを引かないと……。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ごめん、楽しかった。 私やっぱり、そろそろ戻るねっ!」

 

 

 

 私はそう言って、出入口を探す。

 

 

 けど……。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あ……塞がれてる」

 

 

 

 周りに人が多すぎる、しかも出口でさえも人で塞がれてしまっている。

 

 

 皆そんなにイルカが好きなの?

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「……戻れる?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「ちょっと……無理そうかな」

 

 

 

 困ったな……せめて、卯月くんにメールを……。

 

 

 私はカバンから、ケータイを取り出す。

 

 

 ……あ! しまった!

 

 

 私、卯月くんの連絡先知らないよ〜。

 

 

 終わった……。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「大丈夫?」

 

 

 

 卯月くん、これじゃ呆れて帰っちゃったよね?

 

 

 あと、一瞬でも卯月くんの頭の中で、私がトイレに『大』をしに行ったと言う風に、思われてるかもと言うのが恥ずかしい!

 

 

 軽率に死にたい……。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「こ、これ何分ぐらいやるのかな?」

 

 

 

 あ、これ『早く終われ』って言ってるようなもんだよね。

 

 

 でもほんとに嫌なんだもん!

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「さ、さぁ? 最低でも30分ぐらいあるんじゃないかな?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「30分……」

 

 

 

 たった30分も、今の状況だと凄く長いものに感じる。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「はぁ……」

 

 

 

 私は、嫉束くんには聞こえないように、小さくその場でため息を吐いた。

 

 

 そりゃ……嫉束くんのほうが、顔はカッコ良いかもしれないけど。

 

 

 私は、卯月くんが良いな。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あっ……」

 

 

 

 って言うか、忘れてたけど!

 

 

 近くに同じ学校の人とか、居ないよね!?

 

 

 そんな運悪く居ないと思いけど、私は急に不安になってきた。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「凄かったね! 水飛んで来て、ちょっと服濡れちゃったよ〜」

 

 

 

 私は、濡れた服の裾をパタパタと仰ぐ。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「ねぇ、大空ちゃん」

 

 

[朝蔵 大空]

 「ん? 何?」

 

 

[嫉束 界魔]

 「大空ちゃんと一緒に居た人ってさ、誰?」

 

 

 

 私と一緒に居た人?

 

 

 ああ、卯月くんのことか!

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「えっと……同じクラスの人なんだけど」

 

 

[嫉束 界魔]

 「え? うん」

 

 

[朝蔵 大空]

 「知ってる? うちらのクラス、来月の文化祭で劇やるんだ〜」

 

 

[嫉束 界魔]

 「ああ……なんか聞いたかも」

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「実は私達、主役になったんだけど。 私と卯月くん、あんまお互いのことよく知らないから、今日みたいにふたりで出掛けたら、どうだーって友達に言われて……」

 

 

 

 里沙ちゃんの提案なんだよね。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「あっ、卯月くんって言うんだね?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「そうそう! じゃあ私、その子待たせてるからもう行くね」

 

 

 

 私は今度こそと思って、嫉束くんに背を向ける。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「うん……じゃあね」

 

 

[朝蔵 大空]

 「じゃあね!」

 

 

 

 私は早歩きで、元居た場所へ。

 

 

 嫉束くん、トイレの前で偶然会ったと思ってたけど。

 

 

 卯月くんと私が、一緒に居るところ見てたんだ?

 

 

 なんか、結構前から見られてたみたい。

 

 

 でもどこから?

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「で、デート中……見られてた?」

 

 

 

 人生初デートを、知り合いに見られたことによって、私の顔がカーっと熱くなる。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あれ……卯月くん?」

 

 

 

 フードコートの元々ふたりで座っていた席に、卯月くんが座っていない。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あ……あ…………」

 

 

 

 そうだよね、『トイレ行ってくる』とか言って相手が、30分以上も戻って来ないんだもんね。

 

 

 私が、勝手にバックれたと思って卯月くん、きっと自分も帰っちゃったんだ!

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「はぁ……こんなの大失敗じゃん。 ……あれ?」

 

 

 

 私はふと、室内の隅のほうにある、ひとり席に目が行く。

 

 

 

[卯月 神]

 「……」

 

 

[朝蔵 大空]

 「あ、あれ」

 

 

 

 居るじゃん、しかも寝てるし……。

 

 

 席、移動してただけかーい!

 

 

 焦って損した、さっきの絶望を返せー!

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「お、おーい……卯月くーん」

 

 

 

 私は、寝ている卯月くんの肩を揺すり、そっと起こしてみる。

 

 

 

[卯月 神]

 「あ……朝蔵さん?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「ご、ごめん! 遅くなりました!」

 

 

[卯月 神]

 「……」

 

 

 

 卯月くんが、顔を上げて壁に掛かっている、大きな時計を見る。

 

 

 

[卯月 神]

 「遅かったですね」

 

 

[朝蔵 大空]

 「べべべ別に、『大』じゃないからね! 小さいほうだからね!」

 

 

[卯月 神]

 「大……? 小さい? は、はぁ?」

 

 

 

 あ、意味分かってないやつだこれ。

 

 

 しまった、自分で自分の首を絞めてしまった気がする。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「も、もういいよ!」

 

 

[卯月 神]

 「はぁー……」

 

 

 

 眠そうに、大きく欠伸(あくび)をする卯月くん。

 

 

 卯月くん、帰らないで待っててくれたんだ!

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「眠い?」

 

 

[卯月 神]

 「ん……」

 

 

 

 コクっと(うなづ)く、卯月くん。

 

 

 そうだな、帰るのも良いけど……。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あの! 最後にさ、砂浜だけ歩いて帰ろうよ」

 

 

 

 海辺デートだもん!

 

 

 やっぱり、海を見に行かないと帰れないよ!

 

 

 

[卯月 神]

 「砂浜? 良いですよ」

 

 

[朝蔵 大空]

 「やったー! 寝起きでごめんだけど、すぐ行くよ!」

 

 

 

 私は卯月くんの腕を引っ張って、早速海の近くに向かう。

 

 

 

[卯月 神]

 「ひとりで歩けますよ」

 

 

 歩いてる間、私はずっと卯月くんの腕に、手を添わせていた。

 

 

 彼のすぐ左側を、私は歩く。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「えっと……良いのっ!」

 

 

 

 そう言って私は思い切って、彼の腕に引っ付いてみる。

 

 

 

[卯月 神]

 「!?」

 

 

 

 彼は、私の行動に狼狽(うろた)えていた。

 

 

 ちょ、ちょっと積極的すぎるかな私……!

 

 

 

[卯月 神]

 「あ、あの……」

 

 

[朝蔵 大空]

 「嫌?」

 

 

[卯月 神]

 「……嫌じゃないです」

 

 

 

 やった! 受け入れてもらえた!

 

 

 これ! 傍から見たら私達、絶対カップルだと思われてるよね?

 

 

 そうだよね!?

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「……」

 

 

 

 あー……でもここからどうしよ、自分でやっといてだけど、恥ずかしくなってきたし。

 

 

 なんか話そうにも、話題が見つからなくて……卯月くんの顔も、顔が下向いちゃって見れないよ……。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「……」

 

 

 

 でもなんでだろう、卯月くんと浜辺を歩いていると、何故だか懐かしい気持ちになるの。

 

 

 あれ?

 

 

 何を思い出してるの、私……?

 

 

  

[卯月 神]

 「あ……雲が」

 

 

[朝蔵 大空]

 「え? あー、雨が降りそうだね」

 

 

 

 急に辺りが暗くなったかと思うと、空に雨雲が出てきていた。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「どっか、雨が来ないとこ行こうか」

 

 

[卯月 神]

 「はい」

 

 

 

 もう雨め!

 

 

 せっかくふたりで良い感じだったのに、邪魔しないでよー!

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あーん。 これから一晩中土砂降りって……ついてないなぁ」

 

 

 

 ケータイのニュースに、そう書いてあった。

 

 

 こんなことなら、ちゃんと天気予報見とけば良かった……。

 

 

 

[卯月 神]

 「どうしますか?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「うーん、帰ろっか」

 

 

 

 残念だけれど、大雨じゃしっかり楽しめないもんね。

 

 

 潮時だぁ。

 

 

 

[卯月 神]

 「そうですか……」

 

 

[朝蔵 大空]

 「!?」

 

 

 

 あ、あの卯月くんが心()しか、寂しそうにしてくれている。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あの! もし良かったら、いつかまた私とデートして下さい!」

 

 

[卯月 神]

 「えっ」

 

 

 

 うわ〜、これもうほぼ告白だよね?

 

 

 いいや、言っちゃえ私!!

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「だから! 私と、恋人になって下さ〜い!」

 

 

 

 ひゃ〜、言っちゃった私っ!

 

 

 

 

 

 「ヨコドリデイト」おわり……。

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