──前回、私は家に帰る途中。
水路に落ちている車椅子を見つけた。
[朝蔵 大空]
「あ、あ……」
……た、大変!!
車輪が溝に、落ちたんだ!!
[朝蔵 大空]
「い、今助けまーす!!」
私はすぐに、道路の反対側へと渡る。
[車椅子の男]
「……?」
助けを求めていた男の子と、私は目が合う。
[朝蔵 大空]
「大丈夫ですか!?」
[車椅子の男]
「あー、大丈夫じゃないっす」
割と落ち着いてる!!
私は、傾いて沈んだほうの車輪を持って、力いっぱいに引き上げる。
[朝蔵 大空]
「ふんっ!!」
私は、出せる力を振り絞った。
[車椅子の男]
「おー……」
私は車椅子を、平坦な所へと戻す。
[朝蔵 大空]
「ふぅ……」
私は息を吐いて、左手で額の汗をひと拭き。
うふ、良いことしたわね!
[車椅子の男]
「ウッス……」
男の子は私に向かって、軽く会釈をした。
[朝蔵 大空]
「あ、あのー? 怪我は……?」
こう言う時、まずは
[車椅子の男]
「あ? あー、腕挟んだ」
[朝蔵 大空]
「え! 嘘!?」
男の子は自分の右腕を、私に見せてきた。
[車椅子の男]
「少しね」
腕は軽傷なようで、目立った外傷も見当たらなかった。
後から大きめの痣が、ブワッと出てきそうだ。
[朝蔵 大空]
「あぁ……あー、どうしよ……」
これ、絶対知らんぷりしちゃいけないやつだよね!?
そ、それなら私が補助を……!
[車椅子の男]
「あざす、じゃ……」
[朝蔵 大空]
「あの! ご自宅はどこですか? 送って行きます!」
そう言って私は、車椅子の持ち手を握る。
[車椅子の男]
「えっ、マジで?」
[朝蔵 大空]
「マジです!」
私がそう言うと、男の子は少し驚いたような顔をしていた。
[車椅子の男]
「あんたが引いてくれるの?」
私に、車椅子を引けるのか? と、言うことだろう。
こう言ったことが、やり慣れてるわけではないけど、多分大丈夫。
[朝蔵 大空]
「はい! 昔、体験学習で!」
[車椅子の男]
「あ、そーゆうやつね……」
記憶の中で、大昔にそんなような体験を、やらせてもらった気がする。
言うて、持ち手を持って押して行くだけなので、そんなに難しくなかったはずだ。
あとは、通る所や足場にさえ気を付ければ……。
[車椅子の男]
「次、左ね」
[朝蔵 大空]
「はい」
私は男の子の指示通りに、右へ曲がったり左へ行ったりして、車椅子を押して行く。
──あれからしばらく歩いた。
[車椅子の男]
「へー、結構快適じゃん」
[朝蔵 大空]
「そ、そうですか?」
良かった、問題無い感じだ!!
それにしてもこの子、服装的にうちの高校の男子だよね?
ネクタイが青色だし、後輩だ!
[朝蔵 大空]
「あ、あのー……?」
[車椅子の男]
「何?」
そう言って、男の子はこちらに首を回す。
わぁ……よく見たらこの子、綺麗な顔!
ベージュの髪に、藤色の瞳なんて珍しー!
[朝蔵 大空]
「土屋高の子だよね?」
[車椅子の男]
「そうだけど」
間違い無かった!
どうせならこのまま、名前とかも聞いてみちゃおっかな?
[朝蔵 大空]
「名前、なんて言うの?」
[車椅子の男]
「え、聞いてどうすんの?」
やべっ。
[朝蔵 大空]
「えっ!? えぇ、いやぁ……! なんでも無いけど……ごめんなさい」
そうだよね、いきなり知らない女の先輩に名前聞かれたら、怖いよね!!
[不尾丸 論]
「…………まぁ、いっか。 苗字、
[朝蔵 大空]
「え? ふお……何?」
私は、あまりよく聞き取れなかった。
[不尾丸 論]
「不尾丸、論。 よろしく、先輩」
[朝蔵 大空]
「せっ……!?」
なんだろう、この気持ち!!
今この子、私のこと『先輩』って呼んでくれたよね!?
なになに、この気持ち!!
きゅんと来るような、嬉しい気持ち!!!
[朝蔵 大空]
「せ、先輩かぁ……」
『先輩』……良いね。
[不尾丸 論]
「……あんたは?」
[朝蔵 大空]
「へ!? わ、私は朝蔵大空……」
[不尾丸 論]
「ん? あー、あんたが大空先輩なんだ?」
[朝蔵 大空]
「え?」
不尾丸くんが今言ったこと、どう言う意味?
私のこと、『誰かからよく聞く』……かのような、そんな言い方に聞こえる。
[不尾丸 論]
「あ、着いた着いた」
[朝蔵 大空]
「ん? お
どこに家があるの?
どこにも家っぽいものは無いけど、まさか……。
[朝蔵 大空]
「こ、この建物!?」
着いた先は、【アサガオこども院】。
ここって確か、孤児院のはずだけど……。
この子、ここが家なの!?
[朝蔵 大空]
「……」
想定していなかったことに、私は言葉を失ってしまった。
[不尾丸 論]
「ありがと、ここまでで良いや」
不尾丸くんは、自分の力で前へと進んで行く。
[朝蔵 大空]
「あ、うん。 じゃあ……」
『ここで帰ります』と、言おうとした時だった。
施設の自動ドアが開いて、中から人が出て来た。
[施設の人]
「あら! もー、論ちゃん良かったぁ。 いつもより遅かったから、心配したんですよ? 事故にでもあったのかと……」
おー、手厚いお出迎え……。
[不尾丸 論]
「あー。 まあ、事故っちゃあ事故」
溝にバッチリ、車輪がハマってたもんね。
[施設の人]
「あ……」
[朝蔵 大空]
「……!」
恐らく、施設の人間であろう女の人の目が、私に向けられる。
[施設の人]
「もしかして……うちの子をここまで?」
[朝蔵 大空]
「あ! はい、偶然通り掛かって……」
私がそう言うと、女の人が満面の笑顔になる。
[施設の人]
「まぁ! それはありがとうございます! ほら論ちゃん、ありがとうは?」
随分と幼稚な感じに扱われてるんだなぁ……。
一応、もう高校生だよね?
うちの真昼だったら、絶対嫌がるだろうなぁ。
[不尾丸 論]
「さっき言ったし、もう良いよ」
[朝蔵 大空]
「じゃ、じゃあ私はこれで……」
そう言って私は、施設に背を向けて歩き出そうとした。
[施設の人]
「あっ! 待って下さい! 疲れたでしょーう? お茶でも1杯飲んでって下さい! お菓子もありますから〜」
お菓子!!
[朝蔵 大空]
「えと……じゃあ少しだけ」
そう言われるがまま、私は自動ドアから施設内に案内された。
中は空調が効いていて、とても快適だった。
微かに、子供達の声も聞こえる。
[施設の人]
「はい! どうぞお座り下さい! 今、色々持ってきますからー」
そう言って施設の人は、廊下のほうに歩いて行ってしまった。
私は今、ロビーのふかふかのソファに座っている。
[朝蔵 大空]
「良いソファだ……」
黒色の皮のソファ、フェイクか本物かは私には分からないけど、とても質が良い。
[不尾丸 論]
「オレ、着替えて来て良い?」
あれ……いつの間にか不尾丸くん、今度は車椅子じゃなくて、杖で立ってる。
今気付いたけど、身長はあんまり高くなさそう!
[朝蔵 大空]
「あ、どうぞどうぞ……」
私が断ると不尾丸くんは、少しおぼつかない足取りで、近くのエレベーターに乗った。
[朝蔵 大空]
「はぁ……なんか凄いとこ来ちゃったなぁ……」
こう言うとこ、普段絶対入らないし、縁が無いからなぁ。
それからしばらくして……。
[施設の人]
「すみません、今は緑茶しか無くて……」
[朝蔵 大空]
「あー、大丈夫です! 私、緑茶は毎日5杯飲むぐらい、大好きなんで!!」
私の目の前のテーブルに、緑茶1杯と色とりどりのブランド菓子が置かれた。
[朝蔵 大空]
「ジュルリ……」
有名なお高いお菓子ばっかり!
ど、どれも美味しそうだけど……こう言う時に、ガッツいたら下品だよね!
1、2個で……いや、3個ぐらいで我慢しておこう!
うん、絶対に!
……。
[不尾丸 論]
「お菓子好きなんだな」
私の向かいのソファには、不尾丸くんが座っている。
杖も、その近くに立て掛けてある。
結局、6個も食べちゃった……どれも美味しくて、予定より倍の数食べちゃったよ!
[朝蔵 大空]
「ちょ、ちょっと恥ずかしくなってきた……」
テーブルの上で散らかっている、お菓子の包み紙を見ると、少しばかりの羞恥心を感じる。
[不尾丸 論]
「別に、もっと食べたければ食べれば?」
そう言う訳にもいかないんだよな……。
私、部外者だし。
[朝蔵 大空]
「いや……ちょっとこれ以上は、ほんと無理」
[不尾丸 論]
「……? お腹いっぱい?」
そっちの意味じゃない。
これ以上食べたら、印象悪い気がするから無理……。
[朝蔵 大空]
「う、うん。 そー、いっぱい!」
私はこの時、嘘をついてみた。
だけど、ほんとはもっと食べたい!!
[朝蔵 大空]
「……はぁ」
お菓子で喉が乾いた私は、緑茶をグイッと飲み干す。
喉がカラカラ過ぎて、チビチビなんて飲んでいられなかったよ……。
[不尾丸 論]
「あいつがいればなぁ……会えたのに」
私は、湯呑みをテーブルへと置いた。
[朝蔵 大空]
「はぁ……え?」
不尾丸くん、なんの話してるんだろ?
なんか今言ってた気がするけど、ひとり言??
[不尾丸 論]
「ねぇ、あんた。 今日は、いつ頃帰る予定?」
[朝蔵 大空]
「え、えとー……晩御飯までには帰りたいから……」
ケータイの画面を見ると、もう夕飯近い時間だった。
[朝蔵 大空]
「うん、そろそろかな!」
[不尾丸 論]
「だよね。 じゃあ、また今日みたいなことあったら、よろしくー」
不尾丸くんは、ソファからだるそうに立ち上がった。
あ、不尾丸くん……右足を引きずってる。
[朝蔵 大空]
「あ……う、うん。 OK……?」
そして不尾丸くんは、エレベーターで姿を消した。
よくハマるのかな? 溝に。
あの子、ドジっ子??
[朝蔵 大空]
「……帰ります」
そして私以外、人が誰も居なくなったロビー。
[受付]
「はーい! ありがとうございました!」
私はソファから立ち上がって、自分が出したゴミだけ持ち帰って施設を出た。
最後に、受付の人にだけ挨拶とお礼を言って、建物を後にした。
……。
[不尾丸 論]
「……」
大空が帰った後、不尾丸は自室でまったりしていた。
ガチャ……ドン……。
[不尾丸 論]
「……!」
隣の部屋で、扉を開け閉めする様な音に、不尾丸は気付く。
[不尾丸 論]
「おっ、
寝転がっていた不尾丸は、ベッドから立ち上がる。
[不尾丸 論]
「朝蔵先輩か……」
[不尾丸 論]
(ただのお人好し、って感じの人だったなぁ)
不尾丸は廊下に出て来て、隣の部屋の扉の前へと立つ。
不尾丸は、ノックをしようと構えた。
コンコンっ……。
[???]
「……何?」
部屋の中で、素っ気無い返事が聞こえてくる。
[不尾丸 論]
「洋助ー? 風呂行かね?」
洋助と言う男の名前を呼んで、風呂に誘う不尾丸。
[洋助と言う男]
「ああ、後で行く」
[不尾丸 論]
「オッケー」
[不尾丸 論]
(ほんと、学校にいる時とキャラ違いすぎだよな)
不尾丸は、先にお風呂セットを持って、風呂場に向かって歩いて行くのであった。
つづく……。