前回に引き続き私は、卯月くんに強く抱き締められている。
[朝蔵 大空]
「…………卯月くん?」
怖い、どうしてこの子は私にこんなことを?
なんで私に抱き着いてきたの??
[卯月 神]
「あっ、ごめんなさい」
しばらくすると彼は我に返ったようで、すぐに私を離してくれた。
その後の彼は、一度も私と目を合わせない。
私も何も声を掛けることが出来なかった。
[卯月 神]
「忘れて下さい」
卯月くんは空気に耐えられなくなったようで、自分だけ先に会議室から出て行ってしまった。
[朝蔵 大空]
「なんなの……」
私は卯月くんを追い掛けることはしなかった。
あの子、『忘れて』って言ってたけどほんとに忘れて良いのかな?
教室に戻るにもきっと卯月くんが居るだろうし、気まずくて私はひとりで食堂に向かうことにした。
[朝蔵 大空]
「何にしようかな?」
私は本日のメニューが書いてある立て看板を見つめる。
──数分後。
[朝蔵 大空]
「モグモグ」
このカレー美味しい〜。
やっぱりカレーは豚、絶対ポークカレー。
そしてにんじんが甘くて最高、ジャガイモは少し苦手だけど……。
[永瀬 里沙]
「はぁ、はぁ……あっ、あー! 居たぁー!!」
私を見つけた里沙ちゃんがこちらに
[朝蔵 大空]
「はむはむ……ふぅ、どうしたの?」
[永瀬 里沙]
「あんた! 何しでかしたの!?」
何やら里沙ちゃんは凄く焦っているようだ。
[朝蔵 大空]
「え?」
私何かしたかな。
いや私は何もしてない。
もし里沙ちゃんが卯月くんとのことを聞いているのだとしたら、先に妙なことをしたのは卯月くんのほうだ。
[永瀬 里沙]
「その……卯月くんがさ、もの凄い雰囲気でひとりで戻って来たから何かあったのかなーって……あんたは教室に戻って来ないし」
[朝蔵 大空]
「えとー……」
でも『抱きしめられた』なんてド正直に言っちゃダメだよね?
私は返答に困っていた。
[朝蔵 大空]
「私にも分かんないよ?」
だから私は諦めて
[永瀬 里沙]
「えっ」
[朝蔵 大空]
「卯月くん、急に走って行っちゃったから……」
[永瀬 里沙]
「えぇ……」
私だってよく分からない、だって私はただ普通に校内案内をしていた。
そう、それだけなのだから。
[朝蔵 大空]
「トイレかなんか我慢してたんじゃない?」
ここで私は面白いセリフをひと言。
[永瀬 里沙]
「ぷっ……あはっ、そう言うことなの?」
私の言葉に狙い通り、里沙ちゃんは吹き出し笑いをした。
私の渾身のギャグ、
[朝蔵 大空]
「あははっ! そーそー」
これは上手くいったと、私も一緒に笑いだす。
[永瀬 里沙]
「って、そんなわけ無いでしょ」
[朝蔵 大空]
「ありゃ」
まあこれで誤魔化せるなんて私だって思っていなかったさ。
[永瀬 里沙]
「ちゃんと本当のこと、聞かせなさいよ」
食堂は人で溢れかえっている、ここで話したら必ず誰かの耳に入る。
私は内緒話に良いところが無いかと窓のほうに目を向ける。
[朝蔵 大空]
「あっちの隅で話そ?」
[永瀬 里沙]
「外?」
私達はグラウンドの
[永瀬 里沙]
「で?」
日陰に着いた瞬間里沙ちゃんが食い気味で聞いてきた。
[朝蔵 大空]
「案内してる途中に、会議室で……」
[野球部]
「「「「「部活ッ!!!」」」」」
[永瀬 里沙]
「え、なに?」
[朝蔵 大空]
「だ」
その時だった。
[サッカー部員A]
「いくぞ!全力〜シューートっ!!」
パンっっっっっ!!!!!
向こう側からもの凄い勢いでサッカーボールが飛んで来て……。
[朝蔵 大空]
「なに……」
あ、私のほうに飛んで来る。
[朝蔵 大空]
「やっ……!」
飛んできたボールを
[永瀬 里沙]
「ちょっと! ……大空! 大丈夫?」
[朝蔵 大空]
「
[永瀬 里沙]
「足! 切れてるよ!?」
[朝蔵 大空]
「あ……」
私は転がっていた尖った石で
血がぶわっとダラダラと流れ出てきている。
[朝蔵 大空]
「うっ、なんでこうなるの……」
不運だ。
こんなことなら、外になんか出て来なきゃ良かった。
[永瀬 里沙]
「保健室行かなきゃ……」
[朝蔵 大空]
「うん」
[永瀬 里沙]
「着いて行こうか?」
[朝蔵 大空]
「ううん、大丈夫。行ってくるね」
里沙ちゃんには先に教室に戻ってもらうことにして、私はひとりで保健室に向かう。
って言ってもひとりで保健室は意外と緊張しちゃうなぁ。
コンコン。
私は保健室に入る前に2回ノックをした。
[???]
「あっ、はーい!」
中の人の返事が聞こえた。
[朝蔵 大空]
「失礼します」
私は部屋の中には、保健室の先生が居ると思っていたのに。
…………あれ?
[嫉束 界魔]
「こんにちは」
" 純白の天使 "
それが静かに座っていた。
[朝蔵 大空]
「…………」
なんで。
[嫉束 界魔]
「……え? どうしたの?」
[朝蔵 大空]
「しっ……嫉束くんですか?」
偽物かと思って、私は思わず本人確認をする。
[嫉束 界魔]
「えっ…………うん、そうだけど」
どう言うことどう言うこと、どうして彼がここに居るの!?
もしかして、保健委員!?
とにかく逃げなきゃ……。
[朝蔵 大空]
「ご、ごめんなさい! なんでも無かったです!!」
[嫉束 界魔]
「え、なんで」
私は彼から逃げる為、保健室から出ようと後ろを振り返る。
[嫉束 界魔]
「ちょっと待って……!」
彼が私の腕を掴んで私を引き止める。
[嫉束 界魔]
「理由は……分かるけど。 怪我してるから来てくれたんだよね?」
嫉束くんが傷口から血の垂れた私の足を見た。
[嫉束 界魔]
「大丈夫?! 痛そうだね、とりあえず座ろ? はい! ……ここに座って良いよ」
私の目の前に椅子がひとつ用意された。
[朝蔵 大空]
「……うん」
私は開いていた保健室の扉を閉めた。
[嫉束 界魔]
「転んだの?」
[朝蔵 大空]
「う、うん」
嫉束くんを相手に、私はまともに話せない。
単なる同級生相手なのに、相槌を打つのだけでも必死だ。
[嫉束 界魔]
「……とりあえず、消毒するね。 はい、
嫉束くんが消毒液の染み込んだコットンを私の傷口に当てる。
確かに沁みるが、別にそれほど痛くはない。
[嫉束 界魔]
「歩く時痛くなかった?」
[朝蔵 大空]
「んー、そんなに?」
[嫉束 界魔]
「そっか」
と言ってる内に私の足にはもうガーゼが巻かれていた。
嫉束くんの傷の手当ては本当に手際が良かったです。
[嫉束 界魔]
「その様子だと
ニッコリ笑顔を見せる彼。
やばい、
[朝蔵 大空]
「ありがとうございます」
その
やばい、私もファンになりそう?
絶対ファンクラブのほうには入らないが。
[嫉束 界魔]
「あの……」
[朝蔵 大空]
「ん?」
[嫉束 界魔]
「朝さ、目が合った子だよね?」
[朝蔵 大空]
「えっ!?」
覚えられてたのか……嫉束くんを見つめる子なんていっぱいいるよね?
なんで私に?
[朝蔵 大空]
「そ……人違いじゃない?」
学校イチのモテ男の嫉束くんとこれ以上話したら罰が当たりそうだ。
ここは適当に流してさっさと退散しよう。
私が社会的に死なない為に。
[嫉束 界魔]
「えっ……でも」
私は嫉束くんに失礼覚悟で知らないフリをした、私は自身のことを守った。
私の発言に嫉束くんは困惑した。
その困った表情ですら彼は魅力的だと思った。
[朝蔵 大空]
「あっ、あー! あの時か! 思い出しました!」
次第に困らせてしまったことに申し訳なくなり、私はもう少しだけ会話を続けることにした。
[嫉束 界魔]
「あっ、よかった……」
嫉束くんはほっとした後、素直な笑顔を見せた。
あっ。
時計を見ると、もう昼休みが終わるまであまり時間が無かった。
[朝蔵 大空]
「えっと、私そろそろ……」
[嫉束 界魔]
「名前、聞いても良いかな?」
『帰ります』と言い掛けたところだった。
[朝蔵 大空]
「えっ? 朝蔵ですけど……」
[嫉束 界魔]
「下の名前は?」
[朝蔵 大空]
「下の名前は……大空です」
[嫉束 界魔]
「そっか! じゃあ大空ちゃんだね」
[朝蔵 大空]
「大空ちゃっ……?!」
良いの? 皆んなのアイドルの嫉束界魔くんに名前で、しかも『大空ちゃん』と呼ばれても?!
[嫉束 界魔]
「あっ、ごめん……馴れ馴れしいよね、僕」
私が動揺した表情を見せると、嫉束くんは悲しそうに俯いた。
[朝蔵 大空]
「あーそんなこと無いですー!」
可哀想なので必死に釈明した。
[嫉束 界魔]
「あははっ、よかったー」
なんなのこの魔性の王子は、私の乙女心を見事に顔だけで掻き乱してくる……。
[嫉束 界魔]
「自分語りしちゃって悪いんだけさ。 僕さ……ほら、友達少ないんだよねっ、ある理由で」
彼が言いたいであろうある理由とは、やっぱり嫉束くんにまとわり付いているファンのことだろう。
[朝蔵 大空]
「……ファンクラブ?」
[嫉束 界魔]
「うん……だから僕に近付いてくる子はなんか、怖い
高嶺の花ってやっぱり孤独になる運命なんだな。
可哀想だと思う、この子はきっと普通の高校生活がしたかったはず。
持て余すほど恵まれた容姿も望んで持って生まれてきたわけじゃない。
本当に彼は、観賞用動物みたいに……。
[朝蔵 大空]
「嫉束くん! 私が友達になろうか!?」
気付くと私はそんなことを口走っていた。
[嫉束 界魔]
「えっ……ほんとに?」
[朝蔵 大空]
「うん!」
[嫉束 界魔]
「あっありがとう……嬉しい。 女の子の友達なんか、初めて出来た……」
そりゃあ嫉束くんに寄って来る女の子なんて、『友達』だけじゃ満足出来ないだろうね。
[嫉束 界魔]
「あ、そうだ。 大空ちゃんって、クラスどこ?」
[朝蔵 大空]
「え? 私、2組……」
[嫉束 界魔]
「そうなんだ! じゃあクラス隣だね」
[朝蔵 大空]
「嫉束くんは3組でしょ」
[嫉束 界魔]
「わっ、よく知ってるね?」
[朝蔵 大空]
「まあ、有名だもん……」
3組の王子として有名だもんね。
[嫉束 界魔]
「……そ、そっか。 うん、僕は確かに有名だ」
[朝蔵 大空]
「うん?」
[嫉束 界魔]
「でもそう言うの辞めてほしい。 皆が言ってる嫉束界魔じゃなくて、大空ちゃんには僕のことちゃんと見てほしい……!」
それはつまり、嫉束くんの外見ではなく、内面を見てほしいと言うこと?
[朝蔵 大空]
「分かったよ、友達だもんね?」
[嫉束 界魔]
「やった」
キーン♪ コーン♪
カーン♪ コーン♪
昼休み終了のチャイムが鳴る。
[朝蔵 大空]
「戻らなきゃ……」
[嫉束 界魔]
「うん、そうだね。 行こっ、大空ちゃん」
彼はどうやら私と一緒に教室に戻ろうとしてるらしい。
[朝蔵 大空]
「あっ……でも」
嫉束くんといる場面を他の人に見られたら噂になるかも……。
そう考えてしまう私は、嫉束くんの事を日頃避けている人達と全く思考が一緒だ。
[嫉束 界魔]
「あっごめん、辞めとこうか。 じゃあ……僕こっち側から行くね」
嫉束くんが向かおうとしている道は遠回りだ。
[朝蔵 大空]
「ごめん……」
[嫉束 界魔]
「あ……謝らないで、君のせいじゃないから」
[朝蔵 大空]
「う、うんっ」
[嫉束 界魔]
「じゃあね!!」
嫉束くんは私に手を振って廊下を歩いて行ってしまった。
私が行くのはすぐ近くの階段から行く道。
まさかの急接近だったな……。
[朝蔵 大空]
「私、勢いでヤバいことしちゃってない?」
今日から、私と嫉束くんは、友達!?
つづく……。