悲恋の大空   作:暴走機関車ここな丸

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第3話「大天使リンちゃん」後編

 ──そうして、放課後。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あのー! 卯月くーん! 朝のあれは……」

 

 

 

 帰ろうとしている卯月くんを、私は引き止める。

 

 

 

[卯月 神]

 「あぁ……その件はもう良いです。 リンのことでしょう?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「えっ?」

 

 

 

 リンって、リンさんのこと?

 

 

 一体これは……。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「えー!? 知り合いなの?」

 

 

[リン]

 「はいっ!」

 

 

 

 リンさんが、卯月くんの隣で満面の笑みを浮かべている。

 

 

 

[卯月 神]

 「はい。 一応、友人です」

 

 

 

 対して、冷めている卯月くん。

 

 

 私は卯月くんに、朝の話の続きをしようとしていた。

 

 

 しかしその前に、卯月くんの機嫌は既に戻っていた。

 

 

 

[リン]

 「一応って……! ソラ様ぁ! 酷いと思いませんかー!?」

 

 

[卯月 神]

 「耳元で大きな声出さないで下さい」

 

 

 

 へぇ、知り合いだったのかこのふたり。

 

 

 前から思ってたけど、リンさんって天然……いや、ちょっとおバカさんっぽいよね!

 

 

 言っちゃ悪いけど。

 

 

 

[卯月 神]

 「しばらく、人間界(ここ)に居るみたいですので」

 

 

[リン]

 「よろしくお願いします! ソラ様!」

 

 

 

 こう並んで見ると……同じ天使でも、やっぱり性格に個性があるみたい。

 

 

 そこら辺は、私達人間と変わらないんだな。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ほう……い、良い旅行? に、なると良いですね!」

 

 

 

 人間界旅行と言うものなのか、なんかこの人達自由だな……。

 

 

 もしかして天使やら悪魔って、意外とそこら(じゅう)に居たり……?

 

 

 と言う、変な妄想を私はしてしまう。

 

 

 

[リン]

 「あ、そうだ!」

 

 

[朝蔵 大空]

 「……?」

 

 

 

 思い出したかのように、リンさんが私の目の前まで一歩出てくる。

 

 

 

[リン]

 「ソラ様に、お願いしたいことがあるのですが……」

 

 

 

 リンさんは、私から目線を逸らしつつ、申し訳無さそうにモジモジと手弄(ていじ)りをする。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「な、なんでしょう……」

 

 

 

 この時、なーんか嫌な予感がしたんだよね。

 

 

 

[朝蔵 葵]

 「まあ!! 大歓迎よ! リンちゃん、って呼ばせてもらうわね♡」

 

 

 

 デレデレと、嬉しそうな我が母親。

 

 

 

[リン]

 「ありがとうございます!」

 

 

[朝蔵 真昼]

「いや、誰〜?」

 

 

 

 塾から帰って来たばかりで、状況がイマイチ飲み込めていない様子の真昼。

 

 

 私が、リンさんを急に家に連れて来たから。

 

 

 

[リン]

 「リンと申します!」

 

 

 

 リンさんが丁寧に、真昼に自己紹介。

 

 

 

[朝蔵 真昼]

 「そう言うことではなくて……」

 

 

[朝蔵 大空]

 「滞在は、少しで良いみたいだから……」

 

 

 

 先ほどリンさんには、(うち)にしばらく泊めてほしいと頼まれた。

 

 

 

[朝蔵 葵]

 「良い! 良い!! 良いわよ! なんならリンちゃんみたいなイケメンだったら、永住(えいじゅう)でも()!」

 

 

 

 それはさすがに無理があるでしょう!!

 

 

 

[リン]

 「うわぁ〜、有り(がた)きお言葉です! お母様!!」

 

 

 

 お母さんってば……相変わらずイケメンに甘いんだから。

 

 

 

[加藤 右宏]

 「むーっ……」

 

 

 

 部屋の隅から、ミギヒロがリンさんを睨んでいる。

 

 

 ミギヒロ、何か言いたげだな……。

 

 

 

 ……。

 

 

 

[卯月 神]

 「良かったですね、受け入れてもらえて」

 

 

[リン]

 「シン……」

 

 

 

 日が沈む頃、朝蔵家の家の前で話す卯月とリン。

 

 

 

[卯月 神]

 「見ていたのなら、知っていると思いますが、僕と朝蔵さんは今……」

 

 

[リン]

 「本気、なんですね?」

 

 

 

 ふたりの間に流れる空気が、ピンと張り詰めて静かになる。

 

 

 

[卯月 神]

 「はい」

 

 

 

 リンの言葉に、卯月は素直に頷く。

 

 

 

[リン]

 「……はぁ、仕方無いですね。 そこまで言うなら、私はもう何も言えないです」

 

 

[卯月 神]

 「!! ……では」

 

 

[リン]

 「その代わりみてるまんじゅう、下さい」

 

 

 

 卯月に向けて、眼光を鋭くさせるリン。

 

 

 

[卯月 神]

 「そしたら、例の件は黙っててもらえますか?」

 

 

[リン]

 「はい! 天使に、『二言(にごん)』……は、ありません!」

 

 

 

 リンは、慣れない言葉を使う。

 

 

 

[卯月 神]

 「……どう言った意味かは分かりませんが、分かりました」

 

 

 

 対して、意味は分かっていない様子の卯月。

 

 

 

[リン]

 「使い方、合ってるでしょうか……確か元の文は、『男に二言は無い』! です!! シン、知ってますか?」

 

 

[卯月 神]

 「……ちょっと国語は」

 

 

 

 ……。

 

 

 ──その日の夜。

 

 

 私が、リビングでくつろいでいた時。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「えっ、バイト?」

 

 

[リン]

 「はい! 生活費、稼ぎます!」

 

 

 

 目を輝かせて、やる気な様子のリンさん。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「まぁ、すれば良いと思うけど……」

 

 

 

 天使が、人間界で()()

 

 

 

[リン]

 「それであの……シンから聞いたのですが。 名前が欲しいらしいんです、私の……」

 

 

 

 どう言うこと?

 

 

 いきなり、名前が欲しいって……。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「名前? リンさんの?」

 

 

[リン]

 「えと、ミョージ……苗字です! 一緒に考えてくれませんか? どうしても難しくて、人間に()けれるように!」

 

 

 

 つまり、一緒に日本で使える名前を考えてほしい……って、こと?

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あ、あーそうですね。 良いですよ、ちょっと待って下さい」

 

 

 

 私はケータイを操作し、検索画面を出す。

 

 

 

[リン]

 「おお! 『ハイテク』ですねっ!」

 

 

 

 リンさんが、私のケータイの画面に興味津々。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「え、天界には無いとか?」

 

 

[リン]

 「無い……ですね!」

 

 

 

 『物珍しい』って、感じの目線だ。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ほー」

 

 

 

 話を聞くに、天界って意外と不便そうだなぁ……。

 

 

 私、人間に生まれて良かった。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「リン……リン……じゃあ、この漢字とかどうですか?」

 

 

[リン]

 「これは……はい! 良いかもです!」

 

 

[朝蔵 大空]

 「苗字……苗字かぁ……この中で、好きな漢字とかありますか?」

 

 

 

 私はリンさんに、漢字一覧の画面を見せてみる。

 

 

 

[リン]

 「……」

 

 

 

 覗き込んで、真剣に選んでる……。

 

 

 

[リン]

 「こ、これ」

 

 

[朝蔵 大空]

 「ん? ああ、『月』か。 月が付く苗字は……これとか、どうですか?」

 

 

[リン]

 「……それにします!!」

 

 

[朝蔵 大空]

 「は、はい……じゃあ、よろしくお願いします。 【如月(きさらぎ) (りん)】 さん?」

 

 

 

 案外、サクッと決まってしまった。

 

 

 

[如月 凛]

 「きさらぎりん……如月、凛……はい!! 覚えました!」

 

 

 

 リンさん、名前が決まってめっちゃ嬉しそう。

 

 

 まあ……人間如きの私が、力になれて良かったです。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あ、じゃあ私もう寝ますねー」

 

 

[如月 凛]

 「はいっ!! おやすみなさいませ、ソラ様!」

 

 

 

 ……。

 

 

 ──翌朝。

 

 

 

[如月 凛]

 「るんるんるーん♪ 人間界はたっのしいなぁー♪」

 

 

 

 リン改めて如月凛は、外へ出て辺りをウキウキとした様子で、ひとり徘徊(はいかい)していた。

 

 

 

[如月 凛]

 「あっ!! ヒトの方! おはようございます!!」

 

 

 

 リンが大きな声で、誰かに声を掛けた。

 

 

 

[巣桜 司]

 「ひゃっ!? え? あ、はい、おはようございます?」

 

 

 

 それは、登校途中の巣桜司だった。

 

 

 突然、知らない人に挨拶をされて、巣桜は戸惑っている。

 

 

 

[如月 凛]

 「失礼ですが、お名前を聞いても?」

 

 

[巣桜 司]

 「え? いや……えっと、巣桜ですけど」

 

 

[如月 凛]

 「スザクラ様っ!! 素敵なお名前ですね! スザクラ様は、これからどこに行かれるのですかぁー?」

 

 

[巣桜 司]

 「へ……?」

 

 

[巣桜 司]

 (こ、この人なんかヤバい人かも……に、逃げる!)

 

 

 

 巣桜はリンから、背を向けて逃げることにした。

 

 

 

[巣桜 司]

 「す、すみましぇん! ぼく、もう行かないとなので!」

 

 

[如月 凛]

 「おおっ!! そうなのですね! 行ってらっしゃいませ〜!」

 

 

 

 リンは巣桜を追い掛けず、手を振って巣桜を見送った。

 

 

 

[如月 凛]

 「……?」

 

 

 

 その時、凛は地面に何か落ちていることに気付き、ソレを拾い上げる。

 

 

 

[如月 凛]

 「こ、これは……! ジャパニーズ、オ・ト・シ・モ・ノっっっっ!! すぐに届けなくてはー!!」

 

 

 

 全速力で、走り出すリンであった。

 

 

 ……。

 

 

 

[巣桜 司]

 「はぁはぁ、けほっけほっ……」

 

 

 

 教室まで、走って逃げて来た巣桜はむせていた。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「は? なぁーんですか? 朝から、騒々しい……」

 

 

 

 狂沢は、床に膝を付けて息を整えている巣桜を、上から見下ろす。

 

 

 

[巣桜 司]

 「そ、そのっ……ち、近くで不審者が出て……」

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「はぁ? 言い訳は良いですから、静かにして下さ……」

 

 

 

 狂沢が、言い掛けた時だった。

 

 

 

[如月 凛]

 「スザクラ様ー! オトシモノを届けに来ましたよー!!」

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「なっ……」

 

 

[巣桜 司]

 「で、出たぁ……」

 

 

 

 オトシモノ、それは巣桜が置いて行った、弁当箱のことである。

 

 

 リンが、それをここまで届けに来たのだ。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「……? あれっ!」

 

 

 

 あれは……リンさん!!?

 

 

 なんで学校に居るの……?

 

 

 

[卯月 神]

 「朝蔵さん、とりあえず他人のフリです」

 

 

 

 横に座っている卯月くんが、小さな声で話し掛けて来た。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「は、はい。 分かりました……」

 

 

[卯月 神]

 「存在感も消して下さい、得意でしょう?」

 

 

 

 け、貶してる!?

 

 

 

[巣桜 司]

 「あ、それ……」

 

 

[如月 凛]

 「スザクラ様、オトシモノです!」

 

 

 

 リンさんが、司くんにお弁当箱を突き出す。

 

 

 

[巣桜 司]

 「あ、ありがとうございます。 わざわざ……」

 

 

[如月 凛]

 「申し上げにくいのですが……その中から、美味しそうな匂いがしたので! 中身を全て、食べてしまいました!!」

 

 

[巣桜 司]

 「は、はい!?」

 

 

 

 何やってんのあの人……。

 

 

 

[如月 凛]

 「ですが、ご安心下さい! 代わりの物を用意致しましたので……どうぞ!」

 

 

 

 リンさんは、(ふところ)から何かを取り出した。

 

 

 

[巣桜 司]

 「何これ……」

 

 

 

 リンさんから、司くんの手に渡されたのは……あの有名な " みてるまんじゅう " だった。

 

 

 しかも1個。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「これが代わり……?」

 

 

[巣桜 司]

 「ふえぇ……」

 

 

[如月 凛]

 「任務完了っ!! では、私はこれで!」

 

 

 

 嵐のように去って行った、リンさんであった。

 

 

 

[狂沢 蛯斗]

 「理解が追い付かないんですけど」

 

 

[巣桜 司]

 「ぼくにも分かりましぇーん……」

 

 

 

 あの人、やばいな……。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「リンさん、私達に気付かなかったね?」

 

 

[卯月 神]

 「馬鹿ですから」

 

 

 

 あ、やっぱり馬鹿なんだあの人。

 

 

 

[二階堂先生]

 「今朝、校内に不審者が出たそうだ。 お前ら、怪しい人物には近付かないように。 気を付けて帰れよ〜」

 

 

 

 あんなことがあった後でも、あっという間に放課後。

 

 

 校内では、今朝のリンさんの話題で持ち切りである。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「なんか、早速やらかしてない? リンさん」

 

 

[卯月 神]

 「そうですね。 他人(ひと)のこと、言えませんよあの人」

 

 

 

 リンさん、喫茶店のバイト受かったとか言ってたけど、大丈夫かなぁ……。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「ちょっと、ちょっと!! 今朝のイケメン誰よー!?」

 

 

[巣桜 司]

 「ぼ、ぼくにもよく分からないんですってば……」

 

 

 

 これは……しばらくは、うるさそうだな。

 

 

 

[卯月 神]

 「朝蔵さん、ちょっと」

 

 

[朝蔵 大空]

 「んー? あれ、卯月くん! それ!」

 

 

 

 卯月くんが、片手に黒いケータイのような物を持っている。

 

 

 

[卯月 神]

 「バイト代で買ったんですが、イマイチ使い方が分からなくて……」

 

 

 

 そっか、天使だからケータイ持ってなかったんだ!

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「えー、ほんと!? 連絡先交換しよー!」

 

 

 

 やっとだ!!

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あ……」

 

 

 

 見れば卯月くんのケータイには、カバーのような物が着けられていなかった。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「卯月くんそれ、ケータイカバー着けたほうが良いよ!」

 

 

[卯月 新]

 「けいたいかば? ……そうなんですか?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「うん! 今度、一緒に買いに行こう!」

 

 

 

 ……。

 

 

 ──その夜、ミギヒロは……。

 

 

 

[加藤 右宏]

 「大天使の野郎が、降りて来やがっタ!」

 

 

[アリリオ]

 「ふーん、ややこしいことになってきたね。 あんまり大勢で下界に降りて来ると、上から怪しまれるよ」

 

 

[加藤 右宏]

 「ムムっー! バレる訳にはいかないノにー!」

 

 

 

 

 

 「大天使リンちゃん」おわり……。

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