悲恋の大空   作:暴走機関車ここな丸

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第4話「持つべきもの」前編

 ──それは、早朝。

 

 

 まだ校舎に、生徒が誰も居ない時間。

 

 

 そんな時間から、学校に着いている少年ふたりが居た。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「おいこれ、分かりにくくね? 普通に名前書いたら?」

 

 

[嫉束 界魔]

 「んー、念の為にね。 無いとは思うけど、バラ撒かれたら嫌だし」

 

 

 

 嫉束と笹妬は、大空達のクラスである2年2組の教室に、忍び込んでいた。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「怪しまれて、捨てられんじゃね」

 

 

[嫉束 界魔]

 「えー、それは困るなぁ」

 

 

 

 そう言って嫉束は、" 永瀬 里沙 " の机の中へと、手紙をひとつ忍ばせていく。

 

 

 嫉束は両手を合わせて、パチンと鳴らす。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「上手くいきますよーに!」

 

 

 

 ──その時だった。

 

 

 

 

 

 カツ……カツ、カツ……。

 

 

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「……?」

 

 

 

 静寂も(つか)()、廊下のほうから誰かが、階段で上がって来る音が聞こえてくる。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「やべ」

 

 

 

 先に笹妬がその音に気付き、嫉束を置いて自分だけそそくさと、2組の教室から出て行く。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「あ……! ちょっと待ってよー」

 

 

 

 嫉束が笹妬の後を追い、2組の教室には誰も居なくなった。

 

 

 

[刹那 五木]

 「……あれ、なんだ今の?」

 

 

 

 急いで逃げるふたりの後ろ姿を、後から登校して来た刹那が発見してしまった。

 

 

 

[刹那 五木]

 「あの子達……」

 

 

[刹那 五木]

 (やっと、動いたのか)

 

 

 

 刹那はその瞬間、全てを察した。

 

 

 

[刹那 五木]

 「ふっ」

 

 

[刹那 五木]

 (じゃあ、おれも)

 

 

 

 ……。

 

 

 ──数10分後。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あっ、里沙ちゃんおはよー」

 

 

 

 

 

 パンパカパーン!!♪

 

 

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「は〜い♪ 始まりました〜、永瀬里沙のイケメンPR(ピーアール)のコーナー! 実況は(わたくし)、永瀬里沙がお送り致します!!」

 

 

 

 まずはこの男、エントリーNo.1……『嫉束界魔』!!

 

 

 2年3組、保健委員、去年までテニス部に所属していた。

 

 

 身長は176㎝あり、平均より高めの細身の男である。

 

 

 白い髪に白い肌が印象的な美少年、加えて金色の瞳に長いまつ毛がチャーミング。

 

 

 性格は穏やかで、基本的に誰にでも優しいと思われる。

 

 

 勉強と運動、彼はどちらかと言うと勉強の方が出来、常に文句無しの成績をキープしている。

 

 

 そんな彼が、日々鬱陶しいと感じているモノが、ひとつだけある。

 

 

 それは、『SFC(エスエフシー)』と言う存在だ。

 

 

 あの団体については、ここで語ると長くなるのでよしておこう。

 

 

 そんな皆の憧れ、嫉束界魔にも欠点がある。

 

 

 それはどこか、彼に常識の無さを感じるところだ。

 

 

 まあ……私が何を言いたいかって言うと、イケメンは皆サイコー!!

 

 

 欠点までも、魅力にしてしまうのだから。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ちょっと里沙ちゃん、聞いてるー?」

 

 

[永瀬 里沙]

 「ぐふふ……」

 

 

 

 私の名前は永瀬里沙、麗しい高校2年生の女子なの!

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ねぇ〜!!」

 

 

 

 三度の飯より、イケメン・美少年が好き!

 

 

 横から、何か大声が聞こえてきた。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「あー、もう大空ー! 私の妄想を邪魔しないでよー!」

 

 

 

 それは私を呼ぶ、大空の声だった。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「知らないよそんなの……」

 

 

 

 今日も懲りずに♪ 元気に妄想中♡

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「でも大空、貴女には感謝してるの」

 

 

[朝蔵 大空]

 「えっと、何が?」

 

 

 

 この子は親友の朝蔵大空ちゃん、同じく高校2年生の女子♡

 

 

 見た目こそ、地味で大人しそうに見えるけど、その生まれながらの天然振りで毎日、色々な刺激をくれるめちゃめちゃ面白い女。

 

 

 まさに、私の理想の " 少女漫画の主人公 " なの!

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「だって貴女の周りには……」

 

 

 

 朝は大空と登校して、今日初めて教室に入って自分の机を見ると、昨日揃えて帰ったはずの椅子がズレていた。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「……?」

 

 

 

 私はそれに違和感を感じて、すぐに自分の机の周りや、中を調べた。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「こ、これは……!! ら、ら、らららららラブレター!?」

 

 

 

 なんと驚くことに、私の机の中から1通のお手紙が出てきたのだ。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「え〜!? 凄ーい!!」

 

 

 

 大空も、目を丸くして後方から驚いてくる。

 

 

 そんなっ!!?

 

 

 現在、モテ期の大空の所に来るのなら分かるけど、なんで私の所なんかに……?

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「……何かフラグ立てたかしら?」

 

 

[朝蔵 大空]

 「ねーねー! 見せて見せてー!」

 

 

 

 私はその場で、手紙を開いて見てみる。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「えと……永瀬さんへ、昼休みに学校の裏庭に来て下さい。 大事なお話があります……」

 

 

 

 私は小声で、手紙の内容を読み上げる。

 

 

 女子か! と思うほどに、綺麗な字で書いてある。

 

 

 普通に、女の私より字が上手い。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「すっ、凄い凄い! これ絶対告白だよ、やったね!」

 

 

 

 隣に居る大空が、本人の私よりも喜んでいる。

 

 

 胸が高鳴らないかと言ったら嘘になる、でも私は……。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「ふん、大空……分かってるでしょ。 私は、イケメンにしか興味が無いの! もちろん、フツメン以下なら容赦無く、振ってやるわ!!」

 

 

 

 私はそう言って、いつもの如くキメ顔を決める。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「もぅ、里沙ちゃんすぐそうやって言うんだから……って言うか、誰から?」

 

 

 

 大空が呆れた様な顔をしつつ、そう聞いてくる。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「……『S,S』って、書いてある」

 

 

 

 手紙の隅に目をやると、そう書いてある文字が見えた。

 

 

 S,Sとは……?

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「S,Sって、ことは……佐藤翔(さとうしょう)、とかそんな感じ?」

 

 

 

 佐藤、翔??

 

 

 …………いや、聞いたこと無いわね。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「うーん、誰だろ。 思い当たる奴も、特に居ないし」

 

 

[朝蔵 大空]

 「じゃあ、行ってみないと分かんないね」

 

 

[永瀬 里沙]

 「そうね」

 

 

 

 ……。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「てか、あんた達ちゃんとデートとかしてるの? ……卯月くん!!」

 

 

 

 私は、大空の隣の席でボーッと座っているだけの、卯月くんに呼び掛ける。

 

 

 

[卯月 神]

 「は、はい」

 

 

 

 寝ボケているのか、意識が飛んでいるのか……。

 

 

 魂が抜けているのか、死んでんのか分かんないけど。

 

 

 大空の彼氏なんだったら、もう少しちゃんとしてほしいのよね。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「行ってるよー。 この前だって、動物園行ったもん。 ねー!」

 

 

[卯月 神]

 「うん……」

 

 

 

 大空と卯月くんが、互いに微笑みながら顔を見合わせる。

 

 

 そりゃ、お似合いって言ったらお似合いだし、思ったより仲良さそうに見えるけど。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「いつの間に!? しかも動物園って……」

 

 

 

 この前は水族館だったし、動物園とか、悪くは無いんけど、なんか小学生みたい!

 

 

 まあ、これが初めて同士のふたりのペース、ってやつなんだろうけど……。

 

 

 私としては、自分達が付き合ってることですら、なかなか認めないし……色々もどかしい。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「ん? 里沙ちゃん!」

 

 

[永瀬 里沙]

 「ん、まあ良いんじゃない?」

 

 

 

 私は、大空に名前を呼ばれて、とりあえずそう答える。

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あ、でもでも〜。 里沙ちゃんにも彼氏が出来たら、ダブルデートとかやってみたいよね!」

 

 

[卯月 神]

 「だぶ……?」

 

 

[永瀬 里沙]

 「えっ、私まで!?」

 

 

 

 ダブルデート、ですって!?

 

 

 まさか、大空の口からそんな言葉が出てくるなんて!

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「うん! だってなんかそう言うの、漫画でよくあるじゃん? だから、頑張ってね里沙ちゃん!」

 

 

 

 大空が私に、にこやかな笑顔を見せる。

 

 

 そう、この子春頃に比べて……だいぶ明るくなったよね。

 

 

 それでも大空は、今でも私の完璧なヒロインよ。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「……頑張ってみようかしら」

 

 

 

 大空がそんなに言うなら、私がひと肌脱いでやらないとね。

 

 

 フツメンはギリギリ許すけど、ブサメンだったら最悪ご勘弁よ……。

 

 

 ──そして、昼休み。

 

 

 静かな裏庭。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「これって、俺も居なきゃダメなの?」

 

 

[嫉束 界魔]

 「え!? だって、吉鬼も受けるんでしょ? オーディション!!」

 

 

 

 ベンチに並んで腰掛けるふたりの美少年、嫉束と笹妬。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「えっと……お前が前に、俺に『朝蔵とは喋るな』……って、言ってたんじゃん」

 

 

[嫉束 界魔]

 「あっ」

 

 

 

 笹妬の言葉に、そのことを思い出す嫉束。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「……?」

 

 

[嫉束 界魔]

 「その通り、大空ちゃんに近付かないで」

 

 

 

 そう言って、笹妬の肩を押す嫉束。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「お前……意味分かんねぇ」

 

 

[嫉束 界魔]

 「そうだね」

 

 

 

 嫉束は、開き直る。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「って言うか、俺やっぱその()()()()()()()()()辞めるよ。 文化祭とか目立ちたくないしぃ、当日は休むかも」

 

 

[嫉束 界魔]

 「え。 そう……」

 

 

 

 そう言って嫉束は、気まずそうに俯くのであった。

 

 

 ……。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 (とりあえず、ここまで来てみたけど……)

 

 

[永瀬 里沙]

 「あれ? あれは……」

 

 

 

 辿り着いた裏庭。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「ねぇ、ガチで帰って良い?」

 

 

[嫉束 界魔]

 「帰っても行くとこ無いでしょ?」

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「どう言う意味だよ」

 

 

 

 そこで私は、思い掛け無い者達に出会(でくわ)してしまった。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「え? ちょっ……」

 

 

 

 嫉束くんと、笹妬吉鬼ですって!?

 

 

 ……こ、こんなの聞いてない!!

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「あ! 永瀬さーん! こっちこっち〜」

 

 

 

 私の存在に気付いた嫉束界魔が、こっちに笑って手を振っている。

 

 

 私、永瀬里沙は今……心の中で、パニックになっている。

 

 

 私を、ここに呼び付けたって言うのは、こいつらだって言うの!?

 

 

 てか嫉束界魔、マジ顔良すぎ!!

 

 

 あと、いつしか大空が絶賛してた笹妬も……。

 

 

 

 

 

 ──1ヶ月程前。

 

 

 

 

 

[朝蔵 大空]

 「あ〜! 笹妬くん、カッコ良いよ〜!」

 

 

[永瀬 里沙]

 「ま、まあ顔は良いかもしれないけど……」

 

 

[朝蔵 大空]

 「顔だけじゃないよ! 性格もめっちゃ良い! あんな優しい人いないよ!?」

 

 

[永瀬 里沙]

 「あんま良い評判、聞かないけどね……」

 

 

[朝蔵 大空]

 「里沙ちゃん! そう言うの良くないよ! 私は、彼の良いとこちゃんと知ってるもん! 顔しか見ない里沙ちゃんには、分からないかもだけどね!」

 

 

[永瀬 里沙]

 「失礼な……あんた、いつかダメな男に捕まりそうね」

 

 

[朝蔵 大空]

 「も〜! なんで分かってくれないのー!」

 

 

 

 まったく……あの子、1回優しくされたぐらいで惚れて、どうすんのよ。

 

 

 まあ、あの子が今夢中なのは……卯月くん、なんだけど。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 (どどどどうしよ、逃げ出そうかしら……!)

 

 

 

 私がそう考えてる内に、嫉束くんのほうから、こちらに近付いて来ていた。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「あれ、永瀬さんだよね? 手紙、見てくれたんだよね?」

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「は、はいっ!! 見ました!」

 

 

 

 嘘でしょー!!!

 

 

 私、まさか嫉束界魔に告白されちゃうのー?!

 

 

 私と嫉束が付き合って、もしそれがS F Cの連中にバレたりでもしたら……。

 

 

 ゴクリ…………敵を作るどころの話じゃないわ……。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「良かった!」

 

 

 

 ……それと、この学校で一番敵対してはいけない、あの " 剣崎 芽衣 " にどんな仕打ちをされるか、分かったもんじゃない!

 

 

 そんなのダメよ、元々私の好みはクール系だし、ここはしっかり断らないと!

 

 

 大空、ダブルデートしてあげられなくてごめん……!!

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「ごめっ」

 

 

[嫉束 界魔]

 「永瀬さん!! お願いします! 僕を、王子様にして下さい!」

 

 

 

 へ?

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「えっと……嫉束くんは既に、皆の王子様なのでは?」

 

 

 

 『土屋高のプリンス』って、言われてるし……。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「え?」

 

 

[永瀬 里沙]

 「え?」

 

 

 

 私と、嫉束くんの会話が噛み合ってない。

 

 

 

[嫉束 界魔]

 「待って、待って!! なんの話??」

 

 

[永瀬 里沙]

 「えとー、逆になんの話でしょうか?」

 

 

[嫉束 界魔]

 「なんのって! ……文化祭だよっ!! 王子役がどうとか、言ってたやつ!」

 

 

 

 文化祭……王子役……?

 

 

 ……あ!

 

 

 あー、なるほど。

 

 

 

[永瀬 里沙]

 「あぁ王子って、今度やる劇のことかぁ〜。 すっかり、忘れてましたなぁ♪」

 

 

[嫉束 界魔]

 「忘れてたって……」

 

 

 

 嫉束が後ろを振り向き、少し離れた所で座る笹妬と話し始める。

 

 

 

[笹妬 吉鬼]

 「テンポ悪すぎだろ」

 

 

[嫉束 界魔]

 「……」

 

 

[永瀬 里沙]

 「お?」

 

 

 

 ……って、そんな訳無いよね。

 

 

 なんの接点も無いのに、急に告白してくる訳無いしー。

 

 

 と言うか、もしかしてこの人……。

 

 

 

 

 

 つづく……。

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