──それは、早朝。
まだ校舎に、生徒が誰も居ない時間。
そんな時間から、学校に着いている少年ふたりが居た。
[笹妬 吉鬼]
「おいこれ、分かりにくくね? 普通に名前書いたら?」
[嫉束 界魔]
「んー、念の為にね。 無いとは思うけど、バラ撒かれたら嫌だし」
嫉束と笹妬は、大空達のクラスである2年2組の教室に、忍び込んでいた。
[笹妬 吉鬼]
「怪しまれて、捨てられんじゃね」
[嫉束 界魔]
「えー、それは困るなぁ」
そう言って嫉束は、" 永瀬 里沙 " の机の中へと、手紙をひとつ忍ばせていく。
嫉束は両手を合わせて、パチンと鳴らす。
[嫉束 界魔]
「上手くいきますよーに!」
──その時だった。
カツ……カツ、カツ……。
[笹妬 吉鬼]
「……?」
静寂も
[笹妬 吉鬼]
「やべ」
先に笹妬がその音に気付き、嫉束を置いて自分だけそそくさと、2組の教室から出て行く。
[嫉束 界魔]
「あ……! ちょっと待ってよー」
嫉束が笹妬の後を追い、2組の教室には誰も居なくなった。
[刹那 五木]
「……あれ、なんだ今の?」
急いで逃げるふたりの後ろ姿を、後から登校して来た刹那が発見してしまった。
[刹那 五木]
「あの子達……」
[刹那 五木]
(やっと、動いたのか)
刹那はその瞬間、全てを察した。
[刹那 五木]
「ふっ」
[刹那 五木]
(じゃあ、おれも)
……。
──数10分後。
[朝蔵 大空]
「あっ、里沙ちゃんおはよー」
パンパカパーン!!♪
[永瀬 里沙]
「は〜い♪ 始まりました〜、永瀬里沙のイケメン
まずはこの男、エントリーNo.1……『嫉束界魔』!!
2年3組、保健委員、去年までテニス部に所属していた。
身長は176㎝あり、平均より高めの細身の男である。
白い髪に白い肌が印象的な美少年、加えて金色の瞳に長いまつ毛がチャーミング。
性格は穏やかで、基本的に誰にでも優しいと思われる。
勉強と運動、彼はどちらかと言うと勉強の方が出来、常に文句無しの成績をキープしている。
そんな彼が、日々鬱陶しいと感じているモノが、ひとつだけある。
それは、『
あの団体については、ここで語ると長くなるのでよしておこう。
そんな皆の憧れ、嫉束界魔にも欠点がある。
それはどこか、彼に常識の無さを感じるところだ。
まあ……私が何を言いたいかって言うと、イケメンは皆サイコー!!
欠点までも、魅力にしてしまうのだから。
[朝蔵 大空]
「ちょっと里沙ちゃん、聞いてるー?」
[永瀬 里沙]
「ぐふふ……」
私の名前は永瀬里沙、麗しい高校2年生の女子なの!
[朝蔵 大空]
「ねぇ〜!!」
三度の飯より、イケメン・美少年が好き!
横から、何か大声が聞こえてきた。
[永瀬 里沙]
「あー、もう大空ー! 私の妄想を邪魔しないでよー!」
それは私を呼ぶ、大空の声だった。
[朝蔵 大空]
「知らないよそんなの……」
今日も懲りずに♪ 元気に妄想中♡
[永瀬 里沙]
「でも大空、貴女には感謝してるの」
[朝蔵 大空]
「えっと、何が?」
この子は親友の朝蔵大空ちゃん、同じく高校2年生の女子♡
見た目こそ、地味で大人しそうに見えるけど、その生まれながらの天然振りで毎日、色々な刺激をくれるめちゃめちゃ面白い女。
まさに、私の理想の " 少女漫画の主人公 " なの!
[永瀬 里沙]
「だって貴女の周りには……」
朝は大空と登校して、今日初めて教室に入って自分の机を見ると、昨日揃えて帰ったはずの椅子がズレていた。
[永瀬 里沙]
「……?」
私はそれに違和感を感じて、すぐに自分の机の周りや、中を調べた。
[永瀬 里沙]
「こ、これは……!! ら、ら、らららららラブレター!?」
なんと驚くことに、私の机の中から1通のお手紙が出てきたのだ。
[朝蔵 大空]
「え〜!? 凄ーい!!」
大空も、目を丸くして後方から驚いてくる。
そんなっ!!?
現在、モテ期の大空の所に来るのなら分かるけど、なんで私の所なんかに……?
[永瀬 里沙]
「……何かフラグ立てたかしら?」
[朝蔵 大空]
「ねーねー! 見せて見せてー!」
私はその場で、手紙を開いて見てみる。
[永瀬 里沙]
「えと……永瀬さんへ、昼休みに学校の裏庭に来て下さい。 大事なお話があります……」
私は小声で、手紙の内容を読み上げる。
女子か! と思うほどに、綺麗な字で書いてある。
普通に、女の私より字が上手い。
[朝蔵 大空]
「すっ、凄い凄い! これ絶対告白だよ、やったね!」
隣に居る大空が、本人の私よりも喜んでいる。
胸が高鳴らないかと言ったら嘘になる、でも私は……。
[永瀬 里沙]
「ふん、大空……分かってるでしょ。 私は、イケメンにしか興味が無いの! もちろん、フツメン以下なら容赦無く、振ってやるわ!!」
私はそう言って、いつもの如くキメ顔を決める。
[朝蔵 大空]
「もぅ、里沙ちゃんすぐそうやって言うんだから……って言うか、誰から?」
大空が呆れた様な顔をしつつ、そう聞いてくる。
[永瀬 里沙]
「……『S,S』って、書いてある」
手紙の隅に目をやると、そう書いてある文字が見えた。
S,Sとは……?
[朝蔵 大空]
「S,Sって、ことは……
佐藤、翔??
…………いや、聞いたこと無いわね。
[永瀬 里沙]
「うーん、誰だろ。 思い当たる奴も、特に居ないし」
[朝蔵 大空]
「じゃあ、行ってみないと分かんないね」
[永瀬 里沙]
「そうね」
……。
[永瀬 里沙]
「てか、あんた達ちゃんとデートとかしてるの? ……卯月くん!!」
私は、大空の隣の席でボーッと座っているだけの、卯月くんに呼び掛ける。
[卯月 神]
「は、はい」
寝ボケているのか、意識が飛んでいるのか……。
魂が抜けているのか、死んでんのか分かんないけど。
大空の彼氏なんだったら、もう少しちゃんとしてほしいのよね。
[朝蔵 大空]
「行ってるよー。 この前だって、動物園行ったもん。 ねー!」
[卯月 神]
「うん……」
大空と卯月くんが、互いに微笑みながら顔を見合わせる。
そりゃ、お似合いって言ったらお似合いだし、思ったより仲良さそうに見えるけど。
[永瀬 里沙]
「いつの間に!? しかも動物園って……」
この前は水族館だったし、動物園とか、悪くは無いんけど、なんか小学生みたい!
まあ、これが初めて同士のふたりのペース、ってやつなんだろうけど……。
私としては、自分達が付き合ってることですら、なかなか認めないし……色々もどかしい。
[朝蔵 大空]
「ん? 里沙ちゃん!」
[永瀬 里沙]
「ん、まあ良いんじゃない?」
私は、大空に名前を呼ばれて、とりあえずそう答える。
[朝蔵 大空]
「あ、でもでも〜。 里沙ちゃんにも彼氏が出来たら、ダブルデートとかやってみたいよね!」
[卯月 神]
「だぶ……?」
[永瀬 里沙]
「えっ、私まで!?」
ダブルデート、ですって!?
まさか、大空の口からそんな言葉が出てくるなんて!
[朝蔵 大空]
「うん! だってなんかそう言うの、漫画でよくあるじゃん? だから、頑張ってね里沙ちゃん!」
大空が私に、にこやかな笑顔を見せる。
そう、この子春頃に比べて……だいぶ明るくなったよね。
それでも大空は、今でも私の完璧なヒロインよ。
[永瀬 里沙]
「……頑張ってみようかしら」
大空がそんなに言うなら、私がひと肌脱いでやらないとね。
フツメンはギリギリ許すけど、ブサメンだったら最悪ご勘弁よ……。
──そして、昼休み。
静かな裏庭。
[笹妬 吉鬼]
「これって、俺も居なきゃダメなの?」
[嫉束 界魔]
「え!? だって、吉鬼も受けるんでしょ? オーディション!!」
ベンチに並んで腰掛けるふたりの美少年、嫉束と笹妬。
[笹妬 吉鬼]
「えっと……お前が前に、俺に『朝蔵とは喋るな』……って、言ってたんじゃん」
[嫉束 界魔]
「あっ」
笹妬の言葉に、そのことを思い出す嫉束。
[笹妬 吉鬼]
「……?」
[嫉束 界魔]
「その通り、大空ちゃんに近付かないで」
そう言って、笹妬の肩を押す嫉束。
[笹妬 吉鬼]
「お前……意味分かんねぇ」
[嫉束 界魔]
「そうだね」
嫉束は、開き直る。
[笹妬 吉鬼]
「って言うか、俺やっぱその
[嫉束 界魔]
「え。 そう……」
そう言って嫉束は、気まずそうに俯くのであった。
……。
[永瀬 里沙]
(とりあえず、ここまで来てみたけど……)
[永瀬 里沙]
「あれ? あれは……」
辿り着いた裏庭。
[笹妬 吉鬼]
「ねぇ、ガチで帰って良い?」
[嫉束 界魔]
「帰っても行くとこ無いでしょ?」
[笹妬 吉鬼]
「どう言う意味だよ」
そこで私は、思い掛け無い者達に
[永瀬 里沙]
「え? ちょっ……」
嫉束くんと、笹妬吉鬼ですって!?
……こ、こんなの聞いてない!!
[嫉束 界魔]
「あ! 永瀬さーん! こっちこっち〜」
私の存在に気付いた嫉束界魔が、こっちに笑って手を振っている。
私、永瀬里沙は今……心の中で、パニックになっている。
私を、ここに呼び付けたって言うのは、こいつらだって言うの!?
てか嫉束界魔、マジ顔良すぎ!!
あと、いつしか大空が絶賛してた笹妬も……。
──1ヶ月程前。
[朝蔵 大空]
「あ〜! 笹妬くん、カッコ良いよ〜!」
[永瀬 里沙]
「ま、まあ顔は良いかもしれないけど……」
[朝蔵 大空]
「顔だけじゃないよ! 性格もめっちゃ良い! あんな優しい人いないよ!?」
[永瀬 里沙]
「あんま良い評判、聞かないけどね……」
[朝蔵 大空]
「里沙ちゃん! そう言うの良くないよ! 私は、彼の良いとこちゃんと知ってるもん! 顔しか見ない里沙ちゃんには、分からないかもだけどね!」
[永瀬 里沙]
「失礼な……あんた、いつかダメな男に捕まりそうね」
[朝蔵 大空]
「も〜! なんで分かってくれないのー!」
まったく……あの子、1回優しくされたぐらいで惚れて、どうすんのよ。
まあ、あの子が今夢中なのは……卯月くん、なんだけど。
[永瀬 里沙]
(どどどどうしよ、逃げ出そうかしら……!)
私がそう考えてる内に、嫉束くんのほうから、こちらに近付いて来ていた。
[嫉束 界魔]
「あれ、永瀬さんだよね? 手紙、見てくれたんだよね?」
[永瀬 里沙]
「は、はいっ!! 見ました!」
嘘でしょー!!!
私、まさか嫉束界魔に告白されちゃうのー?!
私と嫉束が付き合って、もしそれがS F Cの連中にバレたりでもしたら……。
ゴクリ…………敵を作るどころの話じゃないわ……。
[嫉束 界魔]
「良かった!」
……それと、この学校で一番敵対してはいけない、あの " 剣崎 芽衣 " にどんな仕打ちをされるか、分かったもんじゃない!
そんなのダメよ、元々私の好みはクール系だし、ここはしっかり断らないと!
大空、ダブルデートしてあげられなくてごめん……!!
[永瀬 里沙]
「ごめっ」
[嫉束 界魔]
「永瀬さん!! お願いします! 僕を、王子様にして下さい!」
へ?
[永瀬 里沙]
「えっと……嫉束くんは既に、皆の王子様なのでは?」
『土屋高のプリンス』って、言われてるし……。
[嫉束 界魔]
「え?」
[永瀬 里沙]
「え?」
私と、嫉束くんの会話が噛み合ってない。
[嫉束 界魔]
「待って、待って!! なんの話??」
[永瀬 里沙]
「えとー、逆になんの話でしょうか?」
[嫉束 界魔]
「なんのって! ……文化祭だよっ!! 王子役がどうとか、言ってたやつ!」
文化祭……王子役……?
……あ!
あー、なるほど。
[永瀬 里沙]
「あぁ王子って、今度やる劇のことかぁ〜。 すっかり、忘れてましたなぁ♪」
[嫉束 界魔]
「忘れてたって……」
嫉束が後ろを振り向き、少し離れた所で座る笹妬と話し始める。
[笹妬 吉鬼]
「テンポ悪すぎだろ」
[嫉束 界魔]
「……」
[永瀬 里沙]
「お?」
……って、そんな訳無いよね。
なんの接点も無いのに、急に告白してくる訳無いしー。
と言うか、もしかしてこの人……。
つづく……。