[大空&里沙]
「「う、うわぁ……」」
開幕から、申し訳無いのですが……。
私達の目前で、地べたに土下座している嫉束くんがおります。
[嫉束 界魔]
「お願いします! 僕を王子役にして下さい! なんでもしますから!」
こんなみっともなくて、情けない姿の嫉束くんを、見ることになるなんて……。
幸福なのか、不幸なのか。
[永瀬 里沙]
「な、何こいつ、きっつ〜……さ、さっき断ったでしょ! 行くよ、大空!」
里沙ちゃんが、嫉束くんには構わず走り去ろうとする。
[朝蔵 大空]
「え、え、でも……」
私は突然のことに、足を動かせないでいた。
[永瀬 里沙]
「ほら、行くよ!」
里沙ちゃんが、私の手を取って引っ張っていく。
[朝蔵 大空]
「あ、う、うん」
[嫉束 界魔]
「大空ちゃん!」
後方から、私の名前を呼ぶ声がした気がするけど。
振り返ることは無く、私と里沙ちゃんは理科室へと逃げた。
[嫉束 界魔]
「そんな、ここまでしてもダメなんて……」
──『嫉束くんがいると、部活になんないよ』。
[嫉束 界魔]
「はぁ……ううん、諦めないよ」
……。
[永瀬 里沙]
「
あれから私達は、嫉束くんを避けていた。
そして、劇の練習を終わらせてのやっとの放課後。
疲れた、嫉束くんに見つからないように過ごしてたから……。
[永瀬 里沙]
「ねぇねぇ! 部活も無いしさ、街行こうよ! まだ体力あるっしょ?」
対して、まだまだ元気が溢れていそうな里沙ちゃん。
さすが、運動部は違うなぁ。
[朝蔵 大空]
「あー、たまには良いかもね〜」
里沙ちゃんと放課後デートか、超久し振りだな。
入学当初、以来?
[永瀬 里沙]
「服買う〜」
[朝蔵 大空]
「私はまた、バスボムが欲しいなー」
この前買った入浴剤も、もう無くなっちゃったし。
[永瀬 里沙]
「いいね、あのカフェの新作も飲みたいし」
[朝蔵 大空]
「あー、あのスイカのやつね」
そうして私と里沙ちゃんは、電車を使って街へと向かった。
──駅近の、カフェにて。
[朝蔵 大空]
「スイカ下さい」
[カフェ店員]
「はーい」
私は期間限定の、スイカフレーバーのドリンクを注文する。
[永瀬 里沙]
「私、パイナップルで!」
里沙ちゃん、新作のスイカ飲むんじゃなかったの?
──数分後。
[朝蔵 大空]
「美味しいね」
[永瀬 里沙]
「うーーん♡」
私と里沙ちゃんは、ドリンクを飲みながらゆっくり席で過ごす。
その時だった……。
[嫉束 界魔]
「ここ、一緒に良い?」
女ふたりの席に、男の影が現れたのである。
[大空&里沙]
「「ぶっ!!!?」」
私と里沙ちゃんは、揃って飲み物を吹き出す。
[嫉束 界魔]
「良いよね??」
嫉束くんは、私達が許可を出す前に、一緒のテーブルに座ってくる。
[朝蔵 大空]
「ゴホッ! ゴホッゴホッ……! ゴホッ……」
私はびっくりしすぎて、激しく
[永瀬 里沙]
「ケホッ、ケホッ……あんた、ほんとにヤバいからね? こんなとこまで、追いかけて来て。 その執着心、狂沢の受け売りだったりしない!?」
この前の水族館の時にも思ったけど、もしかしてこの人……ズレてる?
あの時も、私が卯月くんと過ごしてる時に、勝手に割って入って来たもんだし。
[嫉束 界魔]
「すごーい! どうして分かったの?」
……あ、当たってたー!
狂沢くんの影響なの、当たってたー!
だよね〜、私もなんかそんな気がしてた。
[永瀬 里沙]
「い、いいから……あっち行ってくんない? 今、私達デート中だから…………」
嫉束くんは、バニラのドリンクを注文したようで……。
彼はそれを、ストローでひと口飲んだ。
[嫉束 界魔]
「へぇ! 甘くて美味しい、飲む? 大空ちゃん」
嫉束くんが私に、自分のドリンクを飲むように提案してきた。
[朝蔵 大空]
「えっ!///」
ちょっと待ってよ!!
彼氏持ちである私に、ナチュラルに関節キスさせようしないで!?
[永瀬 里沙]
「バニラ飲むんだ……なんだか解釈一致ね」
確かに、嫉束くんにはバニラが似合う。
[嫉束 界魔]
「店員さんのオススメだよ! 僕、こう言う所あんまり来ないから。 選んでもらっちゃった」
[永瀬 里沙]
「ふーん、あっそ」
里沙ちゃんは、興味無さそうに突き放す。
[嫉束 界魔]
「大空ちゃん! 今度は、僕とデートしてね?」
[朝蔵 大空]
「えっ! ちょっとそれは……」
そんなの、色んな意味で無理だよ!
それに私は既に、卯月くん以外の男の子とは、デート出来ない体になっているのです……。
[永瀬 里沙]
「……もう良い。 大空、外行って歩きながら飲も」
[朝蔵 大空]
「あっ。 ちょっと待って、里沙ちゃん……! 外暑いよ〜?」
私は嫉束くんを置いて、荷物を持って里沙ちゃんを追い掛けようとする。
[嫉束 界魔]
「また……僕だけ、仲間外れなの?」
その時、嫉束くんの酷く悲しそうな声が、
[朝蔵 大空]
「嫉束くん?」
嫉束くんの目から、涙が溢れそうになっている様に見えた。
[永瀬 里沙]
「し、嫉束……?」
外に出ようとしていた私達は、一旦立ち止まって嫉束くんの様子を見る。
[嫉束 界魔]
「……」
──『悪いんだけどー、さ……辞めることも考えといて』
[朝蔵 大空]
「……ちょっと外、行こっか」
私は嫉束くんの傍まで戻って、彼に呼び掛ける。
[嫉束 界魔]
「えっ?」
それから私達3人は、近くの公園まで移動して来た。
とりあえず嫉束くんは、ベンチにでも座らせといた。
[永瀬 里沙]
「ちょっと、ちょっと……! なんで連れて来ちゃったのよ?」
[朝蔵 大空]
「ごめん、ほっとけなくて」
[永瀬 里沙]
「そうかもしんないけど、危険よ?」
[朝蔵 大空]
「うん……」
私達は、暗い顔で俯きながら座る、嫉束くんのほうに目をやる。
[嫉束 界魔]
「……」
このとおり、すっかり大人しくなってしまった。
[永瀬 里沙]
「しかも、あいつ。 さっきから、なんにも喋らないじゃない」
[朝蔵 大空]
「とりあえず、話聞いてあげようよ。 もしかしたら、謝ったほうが良いかもしれないし」
気付かずに私達が、彼の気に触るような言動をしたのかもしれない。
[永瀬 里沙]
「うーん……分かった」
[朝蔵 大空]
「いける?」
[永瀬 里沙]
「うん…………嫉束ー?」
まずは里沙ちゃんが、嫉束くんに話し掛けて行く。
[嫉束 界魔]
「ん、何?」
すると嫉束くんは、
あ……無理してる、嫉束くん。
今は、辛い思いしてるはずなのに。
[永瀬 里沙]
「さっきは、冷たくしてごめん。 私らも、びっくりしちゃってさー」
[嫉束 界魔]
「……? いや、僕がごめんだよ。 空気読めてなかった、って言うか……」
里沙ちゃんと、嫉束くんがお互いに謝り合う。
[永瀬 里沙]
「う、うん」
[朝蔵 大空]
「それで、どうして嫉束くんはここまで?」
私達、ここまで電車で来たんだけど……。
狂沢くんの受け売りだとは言え、行動力が鬼の域だよ〜。
[嫉束 界魔]
「……!! その……僕、諦められなくて」
[永瀬 里沙]
「諦められないって……王子役を、ってこと?」
[朝蔵 大空]
「どうしてそこまで?」
[嫉束 界魔]
「やっぱり、楽しそうだから? 分かんない、僕にもあんまり……」
そう言う嫉束くんは、自信無さげだった。
[永瀬 里沙]
(大空目的じゃないの?)
『楽しそう』……そっか、嫉束くんも文化祭を楽しみたいんだ。
そうだよね、嫉束くんも男子高校生だもん。
嫉束くんって、普段から周りに気を使ってそうだし。
人気者として、誰かの期待に応えようと頑張っているんだよね。
そんな嫉束くんが王子をやったら、きっと皆んなが喜ぶし、本人も楽しいだろうし。
" そうなったら私も嬉しい "。
[朝蔵 大空]
「分かった、良いよ!」
嫉束くんの想いを、理解した私は笑顔で応える。
[嫉束 界魔]
「あっ……い、良いの?」
[永瀬 里沙]
「大空!? ど、どう言うことか分かってるの?」
里沙ちゃんは、私が一足先に許可を出したことにより動揺する。
[朝蔵 大空]
「うん。 それに、里沙ちゃん。 本音はこう思ってるんじゃないの?」
[永瀬 里沙]
「な、何よ?」
私は知ってる、里沙ちゃんの本当の気持ちを。
[朝蔵 大空]
「『イケメン来たー! イケメン最高ー!』……って、ね?」
本当は今すぐにでも、嫉束くんの王子姿を見たいくせに。
[永瀬 里沙]
「はっ?」
[嫉束 界魔]
「永瀬さん! 僕、頑張ります!!」
[永瀬 里沙]
「…………やられた。 あんたが、ここまで情熱的な男だなんて、思ってもみなかったわ。 良いよ。 あんたがそこまで言うなら、仲間に入れてあげる!」
[永瀬 里沙]
(こいつを入れるのは、怖くてしょうがないけど。 まあ……SFCの奴らも、なんだかんだ言って喜ぶでしょ、多分)
[嫉束 界魔]
「……!! ありがとうございます!」
その時の嫉束くんの笑顔は、今まで見たこと無いような、自然さがあった。
[永瀬 里沙]
「少しでも言うこと聞かなかったら、即刻外すからよろしく」
[嫉束 界魔]
「えっ!」
[朝蔵 大空]
「里沙ちゃん! 意地悪しちゃダメだよ」
この日は、これで街で遊ぶのは終わりにして。
私と里沙ちゃんは、自分達の家の近くまで帰って来ていた。
[永瀬 里沙]
「
[朝蔵 大空]
「大丈夫だよ、
[永瀬 里沙]
「うん……」
[朝蔵 大空]
「それに今回は、本人がやりたいって言ってるんだし。 それを言い訳にすれば良いよ」
[永瀬 里沙]
「あははっ、そうだね! むしろ、感謝してほしいぐらいだわっ!」
そうそう、無駄に怖がらず、ポジティブに考えていこう。
[永瀬 里沙]
「じゃあここで、じゃあね!」
[朝蔵 大空]
「うん! またね〜」
そう言って里沙ちゃんは、別の道を歩いて行こうとする。
[???]
「里沙さーーん!!」
声と共に遠くから、誰かが走ってくる……。
[永瀬 里沙]
「きゃっ!?」
その誰かが、里沙ちゃんの体に抱き着いて来たのだ。
[朝蔵 大空]
「あら、真昼……」
なんと、里沙ちゃんに抱き着いたのは我が弟の真昼。
真昼はきっと、今塾から帰って来たのであろう。
[朝蔵 真昼]
「里沙さん好き好き好き好き好き」
[永瀬 里沙]
「あっ……ちょっと大空、助けて?」
里沙ちゃんは、真昼に強く抱き締められて、身動きが取れなくなってる。
[朝蔵 真昼]
「里沙さんもっと会いに来てよ、里沙さん里沙さん里沙さん」
あのドライな真昼が、里沙ちゃんに対してはこの様に、ウルトラゾッコンである。
ち、ちくしょー! 姉の私を差し置いて!
あの真昼に、ここまで好かれて正直言って羨ましい、私は悔しさのあまり泣きながら家に帰った。
助けを求める里沙ちゃんを置いて。
……。
──その夜、SFC緊急会議が行われた。
[杉崎 アンジェリカ]
「ウッ、ウン……では始めましょうかね。 ……えー、皆様。 本日は、急な呼び出しに応じて頂きありがとうございます。 既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、一応名乗らせて頂きます。
[剣崎 芽衣]
「……ゴクリ」
一瞬の静寂の中、生唾を飲み込む剣崎。
[杉崎 アンジェリカ]
「どう思いますか、芽衣様っっっ!!?」
即行、剣崎に話を振る杉崎。
[剣崎 芽衣]
「何が!?」
[杉崎 アンジェリカ]
「2年2組の出し物、についてです!」
[剣崎 芽衣]
「あ、劇だよね? 何人かでたまに、体育館で練習してるみたい。 ふふっ、すっごく楽しそうだった」
[会員B]
「はい!」
[杉崎 アンジェリカ]
「Bさんどうぞ」
[会員B]
「その劇には、嫉束くんも出演するらしいです!」
ざわざわ……ざわざわ……。
周囲から、『えっ、嘘ー?』、『やばくね?』などの、驚きの反応が見られる。
[杉崎 アンジェリカ]
「その通り。 私達の嫉束くんが、勝手に
[剣崎 芽衣]
「使用って……嫉束くんも物じゃないんだから」
[杉崎 アンジェリカ]
「しかも、王子役でっっっ!!」
ピリつく、部屋の空気。
[剣崎 芽衣]
「で……でも、皆。 嫉束くんの王子姿、見たくない?」
[会員一同]
「「「……見たいっっっっっ!!!」」」
[杉崎 アンジェリカ]
「では、ここは泳がせてみましょうか」
[剣崎 芽衣]
「ふぅ……」
[剣崎 芽衣]
(なんとかなった……)
つづく……。