一方、大天使リンの様子は……。
[如月 凛]
「本日から、お世話になります!
リンは周りの人間に、元気良く自己紹介をする。
パチパチパチっ!!
何人かによる、歓迎の意味を込めた拍手の音が、喫茶店内に響く。
[喫茶店オーナー]
「一応、短期とは聞いてるけど。 今日からよろしくね」
[如月 凛]
「はい! めいいっぱい頑張ります!」
今日は、リンの初出勤の日。
[喫茶店オーナー]
「丁度、
大きな声をあげて、誰かに手招きをしているオーナー。
[如月 凛]
(ニノオカ……?)
リンは、オーナーの視線の先を見てみる。
そこに居たのは……。
[仁ノ岡と言う男]
「は、はい! なんでしょう」
暗い紺色のサラサラした髪に、赤紫色の瞳の切れ長の目の男。
それが、こちらに小走りして来る。
リンは仁ノ岡を見て、衝撃を受ける。
[如月 凛]
(おおっ! すっごくハンサムな方!)
[喫茶店オーナー]
「悪いけど。 俺これから、別の店舗に行かなくちゃいけないから。 仁ノ岡くんが、彼のこと見といてくれる?」
[仁ノ岡と言う男]
「はい! 分かりました」
[喫茶店オーナー]
「任せたよ」
仁ノ岡が返事をすると、オーナーは荷物を持って店から出て行く。
[如月 凛]
「ニノオカ様ですね! 早速、お仕事色々教えてほしいです!」
リンのほうから仁ノ岡に、人懐こく歩み寄って行く。
[仁ノ岡]
「はい。 えっと、じゃあまずは……」
新人であるリンを前に、仁ノ岡は考え込む素振りをする。
カラン、コロン♪
その時、出入口のベルが鳴った……。
[如月 凛]
「あっ!」
[如月 凛]
(早速、最初のお客様なのです! よーし……)
リンは、
[如月 凛]
「おかえりなさいませー! ご主人様、何になさいますかー?」
リンの接客は、まるでメイド喫茶の様な接客だった。
[不尾丸 論]
「は、はぁ?」
店内に入って来たのは、いつしかの車椅子の少年、不尾丸論である。
[如月 凛]
「おっと……?」
[如月 凛]
(この、乗り物のような物体は一体……?)
リンは、車椅子に乗る不尾丸のことを、不思議そうに見つめる。
[不尾丸 論]
「……?」
そして不尾丸も、リンの " 目 " を見る。
[如月 凛]
(驚きました。 この様な物、天界には無いのです……)
[不尾丸 論]
「……何? " 身体障害者 " が、そんなに珍しい訳? あんま見ないでくれる? 嫌いなんだよね、その目」
リンの態度が気に触ったのか、不尾丸は少し強い口調で、そう言い放った。
[如月 凛]
「えっ……? あ、い、いえ…………」
[如月 凛]
(怖い、シンみたいに冷たい方なのです。 それに、なんだか棘のある……)
不尾丸の言葉を受けて動揺しつつも、一歩後ろに下がって道を開けるリン。
そのタイミングで、不尾丸も前方へと進んで行く。
[不尾丸 論]
「てか、
車椅子に乗ったまま、誰かを呼ぶ不尾丸。
[如月 凛]
(ルイ? ルイって、誰のことでしょう……?)
[仁ノ岡 塁]
「貴様……また来たのか」
仁ノ岡が、不尾丸の進行を後ろから止める。
そしてそのまま、車椅子のグリップを握って、不尾丸を席のほうへと案内して行く。
[如月 凛]
「……!?」
店を
不尾丸が言う『塁』とは、この男
[如月 凛]
(に、ニノオカ様!? 急に、お怒りになった
さっき、リンやオーナーと喋っていた時とは、違う口調の仁ノ岡であった。
[仁ノ岡 塁]
「如月さん、こう言う時は……」
[如月 凛]
「は、はい!」
[仁ノ岡 塁]
「元々ある椅子が邪魔になっちゃうから、移動させてといてもらえますか? あそこの、隅のほうに……」
[如月 凛]
「かしこまりました!」
リンは席にある椅子を外して、店の壁際へと置いて行く。
[不尾丸 論]
「なんだ、居るじゃん。 コーラで良いよ、持って来て」
不尾丸は、車椅子のままテーブルに向かい、オーダーは仁ノ岡に要求する。
[仁ノ岡 塁]
「……分かった」
仁ノ岡はそう応えて、キッチンに入って行った。
[如月 凛]
「あ、ニノオカ様……」
[如月 凛]
(どうしましょう。 何をしたら良いのか、分からなくなってしまいました……)
仕事を教える人が居なくなり、その場で立ち|往生(おうじょう)してしまうリン。
[不尾丸 論]
「何、突っ立ってんの? 新人?」
[如月 凛]
「あっ、はい!
凛は、こうやって大空から貰った自分の名前を、度々口に出したがるのだ。
[不尾丸 論]
「はいはい、無駄に丁寧な挨拶どうも。 てか、急に名乗られても困るんだけど」
[如月 凛]
「そ、そうですか……」
不尾丸に冷たい対応をされて、シュンとなって落ち込んでしまうリン。
[不尾丸 論]
「……暇ならキッチン手伝ったら? ほら、あっちのほうにあるでしょ?」
動けないでいるリンを気にした不尾丸は、キッチンの入口のほうを指さす。
[如月 凛]
「あ! そうですね! では、行って来ます!」
リンは、不尾丸にそう宣言して、キッチンの中へ走って行く。
[如月 凛]
「ニノオカ様ー! 何か、お手伝い出来ることありますかー!?」
リンはキッチンに入るなり、また大きな声を出す。
──次の瞬間。
パリンっ!!
[如月 凛]
「!?」
[仁ノ岡 塁]
「あっ」
床には、コーラだと思われる
[如月 凛]
「あっ! ニノオカ様! 大丈夫ですか!?」
リンはすぐに、仁ノ岡の元へと駆け寄る。
[仁ノ岡 塁]
「あ、あ、どうしよ……どうしよ」
割れたガラスとコーラを見て、
[如月 凛]
(ニノオカ様、酷く慌ててらっしゃる!)
[仁ノ岡 塁]
「ま、まずは拾わなきゃ……その後拭いて……」
仁ノ岡は
[如月 凛]
(ハッ……! 私が大きな声を出しちゃったからだ……!)
[如月 凛]
「ごめんなさい! 私も手伝います!」
加えてリンも床に膝を着き、破片を一緒に拾っていく。
[如月 凛]
「ニノオカ様、怪我は無かったですか?」
破片を拾いながら、仁ノ岡のことを心配するリン。
[仁ノ岡 塁]
「…………」
リンの呼び掛けに、何も応えてはくれない仁ノ岡。
[如月 凛]
(あれっ?)
リンの言葉を無視して、仁ノ岡はひとりで床を片付ける。
[如月 凛]
(ニノオカ様……私の声、聞こえていらっしゃるんでしょうか?)
何か仁ノ岡に、不審なものを感じてしまうリンであった。
……。
[如月 凛]
「お客様、お待たせ致しましたー! こちら、コーラでございまーす!!」
凛は、トレーにコーラとストローを乗せて、不尾丸のテーブルまで運んで行く。
[不尾丸 論]
「ん、ありがと。 でも、うるさい」
すかさず不尾丸は、リンに声が大きいことを指摘する。
[如月 凛]
「ハッ……! ごめんなさい!」
リンは素直に謝り、不尾丸に対して深く頭を下げる。
[仁ノ岡 塁]
「……」
[不尾丸 論]
「コーラ用意するだけなのに。 随分、時間掛かってたね」
不尾丸は、奥で立っている仁ノ岡に向けてそう言う。
[如月 凛]
(あっ、それは床を片付けてたから……)
[不尾丸 論]
「……何かあった?」
[仁ノ岡 塁]
「うん? 別に……」
仁ノ岡は、ぶっきらぼうにそう答えた。
[如月 凛]
(このおふたりはご友人……知り合いなんですよね?)
[不尾丸 論]
「ジー……」
気付くとリンは、不尾丸に顔をじっと見られていた。
[如月 凛]
「な、なんでしょう……?」
[不尾丸 論]
「ごめん、あんた邪魔」
不尾丸はリンの顔を見て、笑顔でそう言い放つ。
[如月 凛]
「えっ、エッーーー!?」
[如月 凛]
(ガーンっ……!!)
分かりやすく、ショックを受けるリアクションをするリン。
[仁ノ岡 塁]
「あ……じゃあ、如月さん。 床の掃除の続きを、しといてくれますか? 細かい破片とかが、まだ落ちてないか見て来てほしいです」
[如月 凛]
「あっ、はい! お任せ下さい!」
[仁ノ岡 塁]
「お願いします」
そう言うと、リンはまたキッチンのほうに走って行った。
[不尾丸 論]
「へぇ、珍しく気が利くじゃん。 客も少ないし、今暇でしょ? ちょっと話しようよ」
[仁ノ岡 塁]
「……仕事中なので」
しばらく沈黙が続いた後、不尾丸から再び口を開く。
[不尾丸 論]
「お前、なんでバイトなんて始めたの?」
[仁ノ岡 塁]
「…………出る為だ」
ふたりの間には、重い空気が流れている。
[不尾丸 論]
「出るって、施設を?」
[仁ノ岡 塁]
「ああ」
不尾丸は、その言葉を聞いて仁ノ岡に対して、悲しみを含んだ目で見つめる。
[不尾丸 論]
「なんで? 18になるまで、居れば良いじゃん」
[仁ノ岡 塁]
「いや、もう充分だ」
きっぱりとしている仁ノ岡。
[不尾丸 論]
「……9歳からの仲じゃん、オレら」
[仁ノ岡 塁]
「すみません。 お客様と話しすぎるのも、良くないので」
[不尾丸 論]
「寂しいじゃん」
微かに口元だけで、無理して笑おうとする不尾丸。
不尾丸のその言葉を最後に、仁ノ岡はさっさと業務に戻って行く。
そしてそのまま、数時間が経った。
[喫茶店オーナー]
「お疲れ! ふたりとも、上がって良いよ〜」
[仁ノ岡 塁]
「あ、はいっ! お疲れ様です」
[如月 凛]
「はい! お疲れ様なのです!!」
[喫茶店オーナー]
「如月さん、初日から頑張ってたね。 愛想も良くて、良い感じだよ〜」
[如月 凛]
「わぁ、ありがとうございます!」
オーナーから褒められて、嬉しそうなリン。
退勤したリンと仁ノ岡は、帰る準備をしていく。
[仁ノ岡 塁]
「お疲れ様、如月さん」
[如月 凛]
「お疲れ様です! あのっ! 先ほどいらっしゃったお客様は、お知り合いですか?」
[仁ノ岡 塁]
「先ほど……?」
[如月 凛]
「はい! あの、何か凄い乗り物に乗っていました、あの方なのですが……」
[仁ノ岡 塁]
「あ、あー……知り合いですね、俺の友達です。 不尾丸論って言うんです、あいつ」
[如月 凛]
「フオマル……ロン様! それで、あの方が乗っていた不思議な乗り物。 あれって、一体なんなんですか?」
[仁ノ岡 塁]
「えっ、あれって……如月さん、車椅子見たこと無いの?」
仁ノ岡は、リンのことを『まさか』と、でも言う様な顔で見る。
[如月 凛]
「車、椅子?……分かりません」
リンは天界育ちで、天界には無い車椅子についての知識が無い。
[仁ノ岡 塁]
「そうなんですか……説明すると、あれは足が不自由な人にとって無くてはならない物で。 足で歩く代わりに、なる物です」
[如月 凛]
「歩く代わり? ですが、ロン様にも足がありましたよ?」
不尾丸にも、普通の人と変わらない見た目の両足が、一応ある。
[仁ノ岡 塁]
「生まれつき、歩行が困難みたいで……。 俺も、あいつに初めて会った時から、車椅子でしたし……」
[如月 凛]
「歩行が困難……ほぉ。 なるほど、そうなんですか。 それと、ロン様が御自分のことを、確か " シンタイショウガイシャ " と、おっしゃっていました。 あれも、なんですか? 私が初めて聞く、言葉なのですが……!」
[仁ノ岡 塁]
「……凄い、ズカズカ聞いて来るんですね」
[如月 凛]
「へ?」
[仁ノ岡 塁]
「あっ、なんでも無いです。 じゃあ、俺は帰ります! お疲れ様でした」
それだけ言って仁ノ岡は、外へ出る扉から荷物を持って出て行ってしまった。
[如月 凛]
「あっ……」
[如月 凛]
(行ってしまわれた……何かまずいことを、聞いてしまったのでしょうか?)
そしてリンも仮の住まい、朝蔵家へと帰って行く。
[朝蔵 葵]
「リンちゃんお帰りー、バイトお疲れ様。 お腹空いたでしょ?」
[如月 凛]
「はい! もうペコペコです!」
食卓には、リンの分だけの皿が用意されている。
[朝蔵 真昼]
「はい〜、またぼくの勝ちー!」
[加藤 右宏]
「ア! チクショまた負けター!」
勝ち誇った様な表情の真昼と、心底悔しそうな様子のミギヒロ。
子供達は、楽しくトランプをしている。
[朝蔵 千夜]
「右宏ちゃん、よわよわだね♡ 真昼くんつっっよーい! さすが、あーしの弟きゅん!」
[朝蔵 大空]
「さすが! 私の弟様!」
[朝蔵 真昼]
「そう言うの良いから」
「和解の狂執」おわり……。