──少年の日の思い出。
あれは、なんでもない日のことだった。
なんの前触れも無く、オレと同い歳のお前は、
[不尾丸 論(幼少期)]
「その子は?」
[施設の人]
「あら、論ちゃん! お外に来るなんて珍しいわね! こちら、今日から
[仁ノ岡 塁(幼少期)]
「は、はい! えっと……あっ、ぁぁ」
[不尾丸 論(幼少期)]
「……?」
いくら待っても、目の前の奴は自分の名前を、喋り出すことは無かった。
恥ずかしそうに口元を堅く閉じて、ただ黙って
名前を言うだけなのに、何がそんなに恥ずかしいんだろう。
[施設の人]
「……緊張してるみたいね。 論ちゃん、この子と仲良くしてね? 塁くん、って言うから!」
オレは、塁の『お世話係』を命じられた。
[不尾丸 論(幼少期)]
「うん、分かったけど……」
あの時は……まあ絶対仲良くなれない、と思っていた。
塁は、いつもひとりで居た。
[仁ノ岡 塁(幼少期)]
「……」
皆と遊ぶ時間も、大部屋の隅であいつは……。
見た目も、暗い色の髪も
塁には、誰も寄り付かない。
[不尾丸 論(幼少期)]
「お前もテストあったんだろ? 何点だったの?」
塁とオレは、
オレが、塁にテストの点数を聞くと……。
[仁ノ岡 塁(幼少期)]
「……っ!」
塁は無言で、オレにテストの用紙を見せてきた。
[不尾丸 論(幼少期)]
「おおっ、凄いじゃん」
そこには、100点満点の文字が……。
塁はよく、成績面で最高の評価を出す。
言葉数が少なく見えたけど、勉強は出来るみたい。
[不尾丸 論(幼少期)]
「凄っ、お前1位じゃん……」
[仁ノ岡 塁(幼少期)]
「う、うん」
年に1回のマラソン大会だって、こいつはしれっと1位とかだった。
運動も出来るのか……良いなぁ。
オレは産まれてから、体育なんか一度も参加出来たことが無い。
塁の奴は、勉強も運動もそつ無く出来る。
[仁ノ岡 塁(幼少期)]
「ふん、ふんっ!」
[不尾丸 論(幼少期)]
「何描いてんの?」
[仁ノ岡 塁(幼少期)]
「うわぁ!?」
案の定、塁は器用で絵も上手い。
[不尾丸 論(幼少期)]
「何これ?」
[仁ノ岡 塁(幼少期)]
「み、見ないでよ!」
[不尾丸 論(幼少期)]
「ごめんごめん」
塁は時々、独創的な一面も見せる。
何やってもパッとしないオレと違って、塁はなんでも出来る。
おまけに成長するに連れて、顔も出来上がっていき……。
[不尾丸 論(幼少期)]
「お前、モテんのな」
[仁ノ岡 塁(幼少期)]
「モテる……?」
塁がまた、クラスの女子に告白されたらしい。
でも、『よく分かんない』とか言って、告白からはいつも逃げてるっぽい。
このとおり、塁は
羨ましいぐらい、完璧人間になりやがって。
でも塁は相変わらず、人とのコミュニケーションを取らなかった。
[男子A]
「仁ノ岡って、めっちゃキモくね?」
[男子B]
「ね! 喋ってても、『あー』とか『うん』とかしか言わないし。 無駄に女子にモテてて、むかつく」
[男子A]
「そこなんだよなー。 何考えてるか分かんないし、気味悪い。 たまーに、変なこと言ってるし」
[男子B]
「キモいし、無視しようぜ!」
友達も、オレ以外居ないっぽいし。
仕方無いからオレが付いててやろう、そう思った。
だってこいつ、多分
一緒に過ごしてく内に、段々塁について察してくる。
だから、理解してやれる人間が必要なんだ。
……。
[不尾丸 論]
(塁、今何やってんだろ……?)
[不尾丸 論]
「……? あれ、洋助?」
不尾丸の横に立っていたはずの原地は、いつの間にか居なくなっていた。
[不尾丸 論]
(どっか消えた……)
……。
[永瀬 里沙]
「ま〜、素人の演劇なんて。 こんなもんよね!」
劇の終わり、里沙ちゃんは速攻開き直っていた。
[朝蔵 大空]
「と、とりあえず皆お疲れ!」
後方には、萎えに萎えまくった男子達が大人しくしている。
[嫉束 界魔]
「最悪、黒歴史だ……」
[笹妬 吉鬼]
「恥でしかない」
[巣桜 司]
「狂沢くーん!! お疲れ様ですー!」
水のペットボトルを持った司くんが、こちらに駆けて来る。
[狂沢 蛯斗]
「ストーップ!!」
[巣桜 司]
「!?」
司くんは、狂沢くんの言葉に
[狂沢 蛯斗]
「今、ちょっと気が立ってるんで。 近付かないほうが、身の為ですよ?」
[巣桜 司]
「そ、そんなぁ……」
[刹那 五木]
「お……おれ、悪くないだろー?」
[狂沢 蛯斗]
「ホモの方は黙って下さい!」
[刹那 五木]
「ホモって……ちょっと待ってよ! だって、そう言うシナリオだろ〜?」
狂沢くん、五木くんから大きく距離を取って、威嚇している。
[狂沢 蛯斗]
「シャー!」
え、猫ちゃん……?
その姿は、まるで猫だ。
[文島 秋]
「ふふぅ……でも、楽しかったよね?」
[木之本 夏樹]
「まあ。 思い出、ってやつだよな?」
[朝蔵 大空]
「あはは!」
[木之本 夏樹]
「……!」
この奇妙な空間に、私の口から笑い声が漏れてしまう。
[木之本 夏樹]
(やっぱり、可愛い……)
木之本は大空に見惚れ、自らの頬を赤く染めてしまう。
[文島 秋]
「お、どうした木之本? 告るのか?」
そこで文島が、すかさず茶化しに行く。
[木之本 夏樹]
「は!? 告るのか、って……こ、告る訳無いだろ馬鹿ッ!!」
木之本は、真っ赤な顔で文島に怒鳴りつけた。
[文島 秋]
「お前、そんなにマジになるなよ〜」
[朝蔵 大空]
「……?」
木之本くん、急におっきな声出してどうしたんだろう?
その時……。
[???]
「あ! 先輩ーー!!」
[朝蔵 大空]
「……!」
声のしたほうを見ると、見知らぬ男の子が、こちらに駆けて来ていた。
[永瀬 里沙]
「あっ! おー、原地くんじゃーん。 お疲れ〜」
誰だろ? ん?
今……里沙ちゃん、原地って言わなかった?
[原地 洋助]
「里沙先輩、劇! 素晴らしかったです!! めちゃくちゃ感動しました!」
声の大きい子だなぁ、いちいち語尾に『
これが、里沙ちゃんがずっと言ってた、原地洋助くん?
私のこと、何故か知ってるって言う……。
[永瀬 里沙]
「ありがと、ありがと。 ま、そんなに褒められるものじゃ、ないと思うけどね〜」
[原地 洋助]
「あははっ!」
原地くん、見るからに元気系な感じの子。
オレンジ色の髪に、濃い緑色の瞳で表情も豊か。
爽やかで、THE・体育会系男子って感じ……。
原地洋助くん、多分……私の苦手な人の部類だ。
[朝蔵 大空]
「よいしょっと……」
怖いからちょっとだけ、里沙ちゃん達から一歩下がった所に居よう。
[永瀬 里沙]
「いやぁ〜、それでも。 ここまで大変だったんだよー、ほんとに。 イケメン集めるのもだし、何よりSFCの監視がさぁ……」
[原地 洋助]
「へぇー、そうですかー…………」
[朝蔵 大空]
「……!」
あれ、なんか原地くんが一瞬、こっちをチラッと見た?
なんてこった私、視界に入っちゃってるのかも。
……め、
私は後ろを振り返る、もっと離れた場所に移動しよう。
[原地 洋助]
「あの」
[朝蔵 大空]
「……!? あ、わ……私?」
私に声を掛けて来た!!?
私はビクつきながらも、なんとか返事をする。
[原地 洋助]
「大空先輩ですよね?」
[朝蔵 大空]
「……ぅん」
上手く言葉が出せずに、私はただ彼に
[原地 洋助]
「…………」
怖い、怖い! 無言が怖い。
なんかこの子、目付き鋭い……
[原地 洋助]
「ずっと好きでした、ボクと付き合って下さい!」
!?
[朝蔵 大空]
「うぇっ!?」
[一同]
「「「……!!!??」」」
[狂沢 蛯斗]
「っ! ……むぶぶぅっっ!!」
その時、ペットボトルの水を飲んでいた狂沢くんも、びっくりしたのか口の水を吹き出してしまう。
[嫉束 界魔]
「……っ!?」
吐き出されたものが、水鉄砲のように嫉束くんに掛かる。
[巣桜 司]
「あぁっ! 狂沢くん、大丈夫ですかー?」
[笹妬 吉鬼]
「すげぇ……狂沢」
[嫉束 界魔]
「うわ! ちょっと、もー最悪なんだけど!!」
[狂沢 蛯斗]
「ご、ごめんなさい……」
[刹那 五木]
「き……汚いよ〜、狂沢くんっ!」
五木くんは、その様子を見て爆笑している。
[木之本 夏樹]
「なんっ!?」
[文島 秋]
「おーっと! まさかの先越されたかー!」
[卯月 神]
「!?」
[卯月 神]
(僕の、目の前で……)
[永瀬 里沙]
(彼氏の、目の前で!?)
[朝蔵 大空]
「……」
今、私……この子に告白されたの?
いきなり、は? 初対面だよね??
え、はい?
私は酷く
[永瀬 里沙]
「ちょ、ちょっと待って!」
そこで、私と原地くんの真ん中に入って来たのは、里沙ちゃんだった。
[原地 洋助]
「……?」
[永瀬 里沙]
「この子、彼氏います!」
[原地 洋助]
「彼氏……」
ちょ! 里沙ちゃん!!
卯月くんと私は、一応付き合ってないことになってるのに!
[原地 洋助]
「……彼氏、彼氏は誰ですか?」
ほら、こう言うことになる。
もうやだ、里沙ちゃんに任せてずっと黙っていよう。
[永瀬 里沙]
「ほら、先輩。 聞かれてるよ?」
[朝蔵 大空]
「私!?」
私は気付かれないように、卯月くんと目を合わせる。
[卯月 神]
「……」
こちらを見て、黙っている卯月くん。
その、次の瞬間。
[卯月 神]
『絶対に言ったらダメですよ、朝蔵さん』
卯月くん!? く、口動いてないのに。
卯月くんまさか、腹話術!?
あれれ、でもおかしいな……卯月くんの声が、凄くはっきり聞こえる。
はっ! もしかして、これ……。
『脳内に直接』って、やつ!?
って! そんなこと出来るの!?
[朝蔵 大空]
「すみません。 里沙ちゃんが言ったことは、嘘です。 彼氏なんていません。 でも、貴方とは付き合えません! ごめんかさい!」
最後、ちょっと噛んだーっ!
その場に居られなくなった私は、それだけ言い残して逃げた。
[原地 洋助]
「……」
[永瀬 里沙]
「ちょっと、原地くん!」
里沙が、原地に声を掛けようとする。
[原地 洋助]
「失礼します」
原地は、それを無視して前に走り出す。
[永瀬 里沙]
「あっ」
[刹那 五木]
「あ、追い掛けて行った……足早ぇ〜」
[嫉束 界魔]
「何、あの子? 変な子」
[笹妬 吉鬼]
「分からん」
[巣桜 司]
「また、濃い人だなぁ」
[狂沢 蛯斗]
「変な人ですねぇ」
男子達はそれぞれ、原地の第一印象について語る。
[文島 秋]
「……君が追い掛けるべきじゃないの?」
文島は、卯月のほうに視線を送る。
[卯月 神]
「……」
……。
[朝蔵 大空]
「はぁはぁ……」
……に、逃げて来ちゃった!!
[朝蔵 大空]
「はぁはぁ……ゴホッゴホッ」
その時、前方から人影が見えた。
[原地 洋助]
「せーんぱい!」
なんで前から来るの!!?
[朝蔵 大空]
「……!?」
逃げられてなかった!!!
原地くんは私の前に、ニコニコ笑顔で立ちはだかる。
[朝蔵 大空]
「さ、さっきのは……冗談ですよね? 原地くん?」
[原地 洋助]
「え?」
[朝蔵 大空]
「……あ、ほら! 嘘! そう、
じゃないと、いきなりすぎるって!!
[原地 洋助]
「……」
なんて、タチの悪いことするの!!
ここは先輩として、ちゃんと注意しておかないと!
[朝蔵 大空]
「せ……先輩を
[原地 洋助]
「罰ゲームじゃないです」
[朝蔵 大空]
「!!」
『やめてほしいな』……と、私が言葉を言い切る前に、原地くんがバッサリと否定してきた。
罰ゲームじゃなかったら、何〜!?
「先輩、風邪?」おわり……。