おや?
嫉束と笹妬が、また裏庭で話しているようです。
一体、ふたりは何を話しているのでしょうか?
[嫉束 界魔]
「ねー、吉鬼! あの、めちゃくちゃ調子乗ってる1年いるじゃん?」
[笹妬 吉鬼]
「はぁ、誰?」
眠い笹妬は、
[嫉束 界魔]
「もー、原地くんだよ。 この前、大空ちゃんに公開告白してた!」
[笹妬 吉鬼]
「あぁ、うん」
この話題に、笹妬は全く興味が無い。
[嫉束 界魔]
「んもぉーう! 吉鬼は相変わらず、人に興味無いよねー。 大空ちゃん以外には……」
[笹妬 吉鬼]
「は?」
[嫉束 界魔]
「
[笹妬 吉鬼]
「そんなの、お前が言えたことじゃない。 それに、人間誰でも裏はある……」
笹妬は、しみじみと語る。
[嫉束 界魔]
「そう言うの良いからさ。 ちょっと、ちょっかい掛けてやろうよ。 先輩である僕達が、生意気な1年坊主をビビらしてやろう!」
イタズラ笑顔な、嫉束。
[笹妬 吉鬼]
「えぇ……お前、性格悪〜。 ほっといてやれよ」
[嫉束 界魔]
「いいから、いいから。 ほら、行こ行こっ!」
嫉束が笹妬の背中を押して、無理やり連れて行く。
[笹妬 吉鬼]
「……返り討ちに遭いそう」
……。
[嫉束 界魔]
「あ、嘘告の子
[原地 洋助]
「は……?」
原地は、突然話し掛けて来た嫉束に警戒する。
[笹妬 吉鬼]
「ごめん」
嫉束の暴走を止められなかった笹妬が、先手で原地に謝る。
[原地 洋助]
「……? なんか用ですか?」
[嫉束 界魔]
「用、って言うか……君! 最近、大空ちゃんにつきまとってる、ストーカーくんだよね?」
嫉束が直球な言葉で、喧嘩を仕掛ける。
[原地 洋助]
「はぁ? なんですか、いきなり?」
丁寧な演技をやめた原地が、嫉束のことを睨む。
[嫉束 界魔]
「君こそ。 急に出て来て、なんなのさ!」
[原地 洋助]
(はぁー、めんどくさ)
心底、面倒そうな様子の原地。
[嫉束 界魔]
「君のせいで、大空ちゃんが大迷惑してるの! 悪いことは言わないから。 痛い目見る前に、引いたほうが良いよ!」
嫉束が喋り切った後、原地が少しの間を置いて……。
[原地 洋助]
「あ、あのボク……」
原地は潤んだ瞳で、嫉束を見つめる。
[嫉束 界魔]
「……?」
[原地 洋助]
「ごめんなさい! ボク……謝りますから、だからもう……怖いこと言うのは、やめて下さい!」
原地は周りに聞こえるように、頭を下げて謝罪する。
[嫉束 界魔]
「な……なんだよ、素直じゃないか」
[笹妬 吉鬼]
「素直……?」
[笹妬 吉鬼]
(嫌な予感がする)
ざわざわ……。
[女子A]
「ねぇ、あれ酷くない?」
[女子B]
「先輩が後輩に、頭下げさせてんだけど〜」
[女子C]
「へぇー。 嫉束くんって、言う人だったんだぁ?」
周りの女子が、嫉束達のことを見ていた。
[女子D]
「ねぇ、やめなよ。 この子、泣いてんじゃん」
その内の勇気ある女子生徒が、嫉束に声を掛ける。
[嫉束 界魔]
「えっ……」
嫉束は慌てて、横から来た女子と目を合わせる。
[女子A]
「そうだよ! 先輩のくせに、大人気ないじゃん!」
[女子B]
「そうだ、そうだ!」
次々と、声を上げていく女子達。
[嫉束 界魔]
「ち、違う! この子が、毎日のようにある女の子に、ストーカーしてるから……」
[女子D]
「原地くんは、一途なの!」
[女子E]
「ストーカーじゃない!」
また次々と、女子達が原地のことを庇っていく。
[女子F]
「彼女を、取っかえ引っ変えしてそうな、アンタとは違う!」
[嫉束 界魔]
「はい? 取っかえ引っ変え……? してないけど……」
嫉束は、予想外の言葉を投げ掛けられ、呆気に取られる。
[笹妬 吉鬼]
「あれもう、
と言い、笹妬は苦笑いをする。
[嫉束 界魔]
「まさか……HFC……?」
[笹妬 吉鬼]
「どう言う意味?」
3つ並んだアルファベットの意味が分からず、嫉束に問い掛ける笹妬。
[嫉束 界魔]
「『原地洋助のファンクラブ』」
[笹妬 吉鬼]
「違うだろ」
笹妬はツッコミつつ、我慢出来ずに口から笑いを
[嫉束 界魔]
「は? な……なんで皆、ぽっと出の1年の味方すんの?」
[笹妬 吉鬼]
「お前、多分文化祭の時のでちょっと、評価下がってんだよ」
鋭い考察をする笹妬。
[嫉束 界魔]
「そんな……自分で言うのも難だけど、天下の嫉束界魔くんだよ! 僕は〜!」
[笹妬 吉鬼]
「お前の奇行、結構噂になってるみたいだぞ。
[嫉束 界魔]
「ど、どう言うこと〜? 『高嶺の花の、儚げ美少年』って言うのが、僕のコンセプトでしょー?」
[笹妬 吉鬼]
「……まっ、皆。 お前のこと、ちょっとは身近に感じてくれた、ってことじゃねーの?」
[嫉束]
「……!」
笹妬の言葉に、嫉束はハッとしたような表情を見せる。
[嫉束 界魔]
「……ふん。 そう言うことに、しといてあげる」
ツンケンしているようで、どこか嬉しそうな嫉束。
[笹妬 吉鬼]
「もう、気は済んだか?」
[嫉束 界魔]
「全然! てか、絶対わざとだよね!? 性格悪っ!」
[笹妬 吉鬼]
「お前も、変わんねぇよ……」
[嫉束 界魔]
「あれ!? 原地くんは?」
[笹妬 吉鬼]
「居ない……」
嫉束と笹妬が、そんな会話をしている時には既に、その場に原地の姿は無かった。
[原地 洋助]
「チョロいなー、先輩方ほんと……楽勝じゃん」
[原地 洋助]
(でも、先輩もやっぱり。 可愛くて、若い男の方が好きだよね!)
……。
──放課後。
今日は、卯月くんのバイト先に初めて行く。
卯月くんとリンさん、実は同じ所でバイトしているらしく……。
喫茶店だったよね?
[原地 洋助]
「あ! せんぱーい!!」
[朝蔵 大空]
「……うっ」
私は、後ろから聞こえてくる声を無視して早く歩く。
でも、早歩きなんかで逃げれる訳も無く……。
[原地 洋助]
「せーんぱい、待って下さい!」
あれ、この子……里沙ちゃんと同じ、水泳部だよね?
なんで、外に出て来てるの……?
[朝蔵 大空]
「君、部活は?」
[原地 洋助]
「えっ? 良いじゃないですかー、別に」
え、まさか部活サボったのこの子?
[朝蔵 大空]
「……サボる子は嫌いだよ」
[原地 洋助]
「サボらない子は、好きですか?」
[朝蔵 大空]
「え……うん」
よく分かんないけど、肯定してしまった。
[原地 洋助]
「ごめんなさい! 明日からは絶対、サボりません!」
[朝蔵 大空]
「素直〜……」
[原地 洋助]
「じゃあ、付き合って下さい」
[朝蔵 大空]
「……!! 君、何が目的?」
初めて会った時から、そればっかり!
[原地 洋助]
「大空先輩の彼氏に、なりたいからです!」
[朝蔵 大空]
「なんで、そうなるの? てか、着いて来ないでくれる……? 私、この後用事があるから。 バイバイ」
[原地 洋助]
「あ……」
私は、原地くんを置いて走り出す。
[朝蔵 大空]
「……?」
[原地 洋助]
「……」
チラッと後ろの様子を伺うと、寂しそうな目で原地くんは、こちらを見つめていた。
あー、ちょっと可哀想になってしまう。
[朝蔵 大空]
「……ちゃんと部活、行きなよー!」
[原地 洋助]
「……!!」
私は、原地くんに手を振る。
今度こそ、卯月くんのバイト先に向かおう。
[原地 洋助]
「先輩……やっぱり優しい」
……。
[如月 凛]
「いらっしゃいませー! お客様、何名様ですか……あっ、ソラ様!」
[朝蔵 大空]
「あははー、来ちゃいましたぁ」
店に入ると、リンさんが出迎えくれた。
[卯月 神]
「あぁ、朝蔵さん……」
[朝蔵 大空]
「卯月くん!」
わぁい!
やっと、卯月くんのウエーター姿が拝めた!
フォーマルな姿も、めちゃくちゃカッコ良いね!
[卯月 神]
「まあ、とりあえず座って……何か飲みますか?」
[朝蔵 大空]
「えー、どうしよっかなー。 卯月くんのオススメでっ!」
私は一切迷わず、そう答える。
メニューブックにも触れずに。
[卯月 神]
「調子良いですね」
卯月くんが、厨房の中へと入って行った。
卯月くん、何持って来てくれるのかなー。
──数分後。
[???]
「お待たせ致しました、いちごミルクでございます」
[朝蔵 大空]
「あ……」
頼んでないやつ……これが、卯月くんのオススメ?
[???]
「……」
あれ、全然違う人だ。
卯月くんに運んで来てほしかったのにぃ……。
[朝蔵 大空]
「ありが……?」
[???]
「……はい?」
あれ、この店員さん……。
暗めの青い髪に、切れ長の目。
[朝蔵 大空]
「……?」
相手の胸に付いている、ネームプレートを読んでみると、『
仁ノ岡さん、って言うんだ……。
[如月 凛]
「ルイ様〜! お会計お願いしまーす!」
[仁ノ岡 塁]
「……!! あ、はい! 失礼します」
仁ノ岡さんは私に頭を下げて、すぐにレジのほうに飛んで行ってしまった。
ちょっと待って、あの人絶対どこかで見たことある!
いつだったかな……。
もうちょっと、よく観察してみよう。
[仁ノ岡 塁]
「ありがとうございます、またお越し下さいませ」
!!?
ビジュアル爆発、って感じ!?
あのクールな顔立ち、まさに完璧……。
って、何まともに見とれてんのよ私!
[朝蔵 大空]
「……」
これじゃまるで私、里沙ちゃんみたい。
[仁ノ岡 塁]
「お客様?」
[朝蔵 大空]
「あっ」
そりゃ、店員さんの顔まじまじと見てたら、何かあったと思われるよね……。
あー、でもほんとにこの人誰だっけ〜。
[仁ノ岡 塁]
「何かお困りですか?」
[朝蔵 大空]
「あ、いやあの…………私達、どこかで会ったことありませんか?」
[卯月&リン]
「「!!?」」
会話をこっそり聞いていた、卯月とリン。
何言ってんだろ、私!
これじゃまるで、ナンパじゃない!?
[仁ノ岡 塁]
「え……お客様すみません、今は業務中ですので……あれ」
[朝蔵 大空]
「……?」
[仁ノ岡 塁]
「もしかして、土屋高の生徒さんですか?」
そう言えば私、学校終わってそのまま、制服で来たんだった。
[朝蔵 大空]
「はい……」
[仁ノ岡 塁]
「あ、なら俺も同じですよ。 1年です」
やばい! 話続いちゃった。
て言うか、この子1年なんだ……他の1年生に比べて、大人っぽく見える。
[朝蔵 大空]
「あ! 思い出した」
[仁ノ岡 塁]
「はい?」
[朝蔵 大空]
「文化祭の時、お化け屋敷で助けてくれた人ですよね?」
[仁ノ岡 塁]
「!!」
この反応、やっぱりあの時の人なんだ!
[朝蔵 大空]
「あの時は、本当に助かりました! お礼が言いたくて……ありがとうございます!」
[仁ノ岡 塁]
「あ……あぁ、あの時の人?」
[朝蔵 大空]
「うん!」
この人、もしかしたら彼女とかいるかもしれないけど……
だってこの人、絶対里沙ちゃんのタイプ!
[朝蔵 大空]
「あの! 名前、聞いても良いかな?」
本気でナンパだと思われそー。
でも、この人なら……理想の高すぎる里沙ちゃんの彼氏になってくれそう!
そして、夢のダブルデートが叶う!!
[仁ノ岡 塁]
「えっ……? 仁ノ岡塁ですけど……」
相手に名前を聞く時は、自分も名乗らないといけない、って言う約束があった気がする。
[朝蔵 大空]
「あ、あのごめん。 私は、朝蔵大空って言うんだけど……」
[仁ノ岡 塁]
「朝蔵大空……」
仁ノ岡くんの口が、そこで止まる。
[朝蔵 大空]
「ん?」
[仁ノ岡 塁]
「あ、いや……俺の友達? が、よく名前を出すので……2年の、" 大空先輩 " ですよね?」
ん?
[朝蔵 大空]
「え?」
その……『大空先輩』って言う単語、今トラウマ気味になってるんだけどね。
まともな後輩だったら普通、苗字
[客A]
「あのー、すみません」
[仁ノ岡 塁]
「あ、はい! すみません、お伺いします!」
仁ノ岡くんはすぐに、お客さんの所に走って行った。
[朝蔵 大空]
「……」
ちょっと察しちゃったんだけど、まさか。
私の知ってる原地くんと、あの仁ノ岡くんも知り合い?
なんか、世間って狭いんだなぁ……。
[卯月 神]
「随分、楽しそうでしたね」
[朝蔵 大空]
「あ、卯月くん! ち……違うんだからね、これは。 私じゃなくて、里沙ちゃんの恋人候補に……ダブルデートしよう、って話してたじゃん?」
乗り気なの、私だけみたいだけど……。
[卯月 神]
「それ、本当にやろうとしてたんですか……」
[朝蔵 大空]
「も、もちろんだよ!」
[卯月 神]
「従業員の仕事の邪魔になるようなことは、
[朝蔵 大空]
「あー、今その呼び方しないでー!」
待って!!?
初めて卯月くんに、下の名前で呼んでもらえた!
[朝蔵 大空]
「ね! ね! もう1回、名前で読んでみて……?」
[卯月 神]
「うるさいですよ、騒ぐならお帰り下さいね」
卯月くんに、冷たくあしらわれる私。
[朝蔵 大空]
「え、ちょっと待って。 まだ、いちごミルク全然飲んでない!」
[如月 凛]
「ソラ様が飲まないなら、私が飲んでも良いですかー?」
リンさんが光る目で、私のいちごミルクを狙っている。
あげない!!
[仁ノ岡 塁]
「以上でよろしいでしょうか?」
[客A]
「はーい」
[仁ノ岡 塁]
「失礼致します」
注文を受けた仁ノ岡が、客席から離れる。
[仁ノ岡 塁]
「……」
[仁ノ岡 塁]
(あの女が、朝蔵大空……確かに、他の
「魔の手」おわり……。