[朝蔵 大空]
「ダブルデートしよう!」
私って案外、影響されやすい人間なんだなぁ〜、って思う。
[永瀬 里沙]
「『ダブルデートしよう!』って、言われても……」
里沙ちゃんは、大きく息を吸い込んだ。
[永瀬 里沙]
「私! 今、彼氏いないんだってばーー!!」
唾が天井に届く勢いで、里沙は叫んだ。
[朝蔵 大空]
「大丈夫! 里沙ちゃん!」
嘆く里沙ちゃんを落ち着かせる為、私はグッドポーズをした。
[永瀬 里沙]
「な、なんなの、その手は……何が大丈夫なのよ?」
[朝蔵 大空]
「私、見つけたの! 里沙ちゃんに、相応しい相手!」
" あの子 " なら……きっと里沙ちゃんも、認めてくれるはず!
[永瀬 里沙]
「私に、相応しい相手? って、誰のことよ?」
[朝蔵 大空]
「あのね! 1年生の、仁ノ岡塁くん! 知ってる?」
得意げに話してる私は、つい最近彼の存在を知ったんだけどね。
[永瀬 里沙]
「仁ノ岡、塁くん……? はぁ、聞いたこと無い名前ね」
里沙ちゃんが、カバンをガサゴソと漁りだす。
[朝蔵 大空]
「ね! 同じ学校なのに。 あんなにカッコ良い男子がいるって、どうして気付かなかったんだろー!?」
あの顔面なら、嫉束くんみたいに……。
ファンクラブのひとつや、ふたつあってもおかしくないのにね。
あれ絶対、1年
[永瀬 里沙]
「……? この学校のイケメンなら、全員把握してるつもりだったけど……あれぇー?」
里沙ちゃんはとてもとても分厚い、自作のイケメンノートを……。
[朝蔵 大空]
「中学の時から、書き溜めてたよねー。 それ……」
里沙ちゃんが持っている本には、過去のイケメンについての情報が、たくさん書き記されている。
[永瀬 里沙]
「あれれー、どこにも載ってないぞー」
[朝蔵 大空]
「まあ。 聞くより、見るのが早いよ! 行こ行こっ!」
[永瀬 里沙]
「あちょ、行くってどこよー?」
私達ふたりは、急いで1年生の教室に向かった。
[永瀬 里沙]
「その子、1年って言ってたわよね? クラスはどこ? 知ってんの?」
[朝蔵 大空]
「分かんない! でも、顔は覚えてる。 すっごくカッコ良いから、見れば分かるよ」
こうなったら……よし、クラス1個ずつ覗いて回ろう。
[不尾丸 論]
「あれー、朝蔵先輩?」
杖をついた不尾丸くんが、1年2組の教室から出て来る。
[朝蔵 大空]
「あ、君は……」
不尾丸くんか……なんか久し振りに見たな。
[不尾丸 論]
「
ゲゲッ……洋助って確か、原地くんのことだよね。
[朝蔵 大空]
「そ、その子に用事はありませんが」
誰があんな危険な子に、自分から会いに来るもんですか!
[不尾丸 論]
「ふぅーん?」
なんなんですか、その物言いたげな表情は……。
[永瀬 里沙]
「そぉーう言えば、あの子。 最近、あんま絡んで来なくなったわよねー。 大空、寂しいんじゃな〜い?」
里沙ちゃんの言うとおり。
数日前まで、毎日の様に付きまとって来た原地くんが、私達の教室にも来ないし。
朝登校する時も、放課後も、彼の姿を見ない……。
おかげで、今は平穏な日々を過ごせている。
[朝蔵 大空]
「……」
[不尾丸 論]
「先輩〜?」
聞く話によれば、狂沢くん達が色々注意をしてくれたらしい。
原地くんも、素直にその注意を聞いたんだね。
[朝蔵 大空]
「そそ、そんなことより! 不尾丸くん、仁ノ岡塁くんって子、知らない? 今、探してるんだけど……」
[不尾丸 論]
「……!」
私の言葉を聞いた不尾丸くんが、眠そうだった目を見開く。
[朝蔵 大空]
「……?」
不尾丸くんのこんな冴えた目、初めて見た。
眠そうな顔しか、見たことが無かったから……。
[不尾丸 論]
「なんであんたの口から、塁の名前が出てくるの? あんたが塁に、なんの用があるって言うの……?」
不尾丸くんの雰囲気が、また変わった。
彼は声を震わせながら、私に問い掛けてくる。
[朝蔵 大空]
「用? 用、って言われると……」
うーん、用ね……。
なんて言えば良いんだろ?
『ダブルデートの相手になってほしい』……とか?
いや……何も知らない不尾丸くんからしたら、意味不明でしょう。
[不尾丸 論]
「てか、どうやってあいつの存在を……学校にも滅多に来ないのに」
え、仁ノ岡くんってまさか……
でも、この前の文化祭の時には、間違い無く学校に来てたよね。
あの時会えたのは、奇跡?
喫茶店で働く彼の姿は、とても真面目そうだった。
それなのに仁ノ岡くんってば、意外と不良?
[朝蔵 大空]
「えっ! 来てないの?」
[永瀬 里沙]
「だから私の、スーパーウルトライケメンスペシャルファイルにも、掲載されてなかったんだ……」
うーん、不良属性が里沙ちゃんに刺さるのか、どうか……。
なんか、不安になってきた。
学校に来ないんじゃ、仲良くなれないし、里沙ちゃんに紹介することすら出来ない!
完全に詰んだ、ゲームオーバー!!!
[不尾丸 論]
「……?」
あの時、喫茶店で会ったのもきっと奇跡だ。
……ん? いや、奇跡じゃない。
バイト先なんだから、また働きに来るに決まってる。
つまり、仁ノ岡くんとはあそこで会える!
よし、今日もいちごミルクを飲みに行こう!!
[不尾丸 論]
「それで……なんで塁に」
今度は、里沙ちゃんと一緒に!
キーン♪ コーン♪
カーン♪ コーン♪
授業開始のチャイムが鳴る。
次の授業は理科……やばい、移動教室なの忘れてた!!
[朝蔵 大空]
「ごめん、ありがとう! じゃあね! お
私は、不尾丸くんとの会話を中断させた。
[永瀬 里沙]
「あっ! ちょっと、待って大空〜!!」
[不尾丸 論]
「……」
大空達が去った後、不尾丸の表情が曇ることになる。
[不尾丸 論]
(あの人……どう言うつもりなの?)
……。
[永瀬 里沙]
「はぁはぁ……ごめん。 ちょっと部活、長引いた……」
部活を終えた、里沙ちゃんの髪は半乾きだった。
[朝蔵 大空]
「いいよ、早く行こう!」
[永瀬 里沙]
「わ……私、こんな髪濡れてるけど大丈夫かな」
[朝蔵 大空]
「そんなの走ってれば乾くっ! 行こうっ!」
放課後、私は部活を終わりの里沙ちゃんを連れて。
また、例の喫茶店に行ってみることにした。
[朝蔵 大空]
「えっと、仁ノ岡くんは……」
私達は店に入るなり、席に座って周囲を見渡す。
もちろん、注文そっちのけで。
周りの店員は、私達を怪しむ様に見てくる。
[永瀬 里沙]
「うーん、店員。 皆、顔面偏差値65って、感じじゃない? 正直、微妙〜。 私は、
そんなこと、まあまあ大きな声で言わないでよ、里沙ちゃん……。
[如月 凛]
「あ! ソラ様! いらっしゃってたんですね!」
すると、厨房のほうからリンさんが出て来た。
[朝蔵 大空]
「あぁ、リンさん」
リンさん、ちゃんと働けてるようで良かった。
[永瀬 里沙]
「いたっ! いつしかの、1千万!!」
里沙ちゃんが、勢い良く立ち上がったかと思えば、リンさんのほうに指をさした。
[如月 凛]
「およ?」
リンさんは、指をさされてキョトンとしている。
里沙ちゃん、この人は違う!!
人じゃないけど! 天使だけど!
[永瀬 里沙]
「あの! 前に、うちの学校に来てた人ですよね?」
思い出せば里沙ちゃん、一時期は一度見ただけのリンさんに、夢中になってたね。
確かに、リンさんはパッと見……凛として見える、『凛』だけに。
でも、この人全然クールじゃないんだよ!
ものすごーく、お馬鹿なんだよ!!
[朝蔵 大空]
「あ、あの里沙ちゃん……」
里沙ちゃん、貴女のタイプには当てはまらないと思う。
[永瀬 里沙]
「大空! 私、この人とデートしたい!!」
[朝蔵 大空]
「えぇ〜?」
[如月 凛]
「〜?」
リンさんは私の横で、ただ困惑している。
[朝蔵 大空]
「ごめんなさい、リンさん。 仁ノ岡くん、今日居ないですか?」
[如月 凛]
「えっ、ルイ様? ルイ様なら今日は、シフト入ってなかったと思いますけどー」
マジかー……。
無駄足だった。
……。
ガチャ。
[不尾丸 論]
「ちょっと良いー?」
[仁ノ岡 塁]
「……ノックをしろ」
仁ノ岡は机に向かい、教科書を開いてシャープペンシルを動かしている。
[不尾丸 論]
「あ、ごめんごめん。 でも良いじゃん、オレらの仲じゃん。 昔はよく一緒に、お風呂にも入ってたしぃ……」
[仁ノ岡 塁]
「それで、なんの用だ」
仁ノ岡は不尾丸の言葉を無視し、ペンを持つ手を動かしながら、要件を聞き出す。
[不尾丸 論]
「……2年の、朝蔵先輩って分かるでしょ?」
一旦手を止めた仁ノ岡が、不尾丸の話を聞こうとする。
[仁ノ岡 塁]
「……? あぁ、知っているが? それがなんだ?」
[不尾丸 論]
「今から、重要なことを言うね。 1回しか言わないから、ちゃんと……」
[仁ノ岡 塁]
「早く言え」
[不尾丸 論]
「……その先輩が、何故か。 お前に会いたがってる」
[仁ノ岡 塁]
「えっ」
不尾丸の思いも寄らない言葉に、仁ノ岡は声を出しながら、後ろを振り返る。
[仁ノ岡 塁]
(あの女が、俺に……?)
[不尾丸 論]
「オレの知らない内に。 お前と先輩の間に、何かあったみたいだけど?」
[仁ノ岡 塁]
「何が言いたい?」
[不尾丸 論]
「あの先輩は、洋助のものだから。 手、出しちゃダメだよ」
[仁ノ岡 塁]
「そんなのは知っている」
冗談を言う不尾丸に、仁ノ岡は冷たく返す。
[不尾丸 論]
「てーか……塁にはオレだけ、でしょ?」
[仁ノ岡 塁]
「……」
仁ノ岡は再度ペンを持ち、机の上のノートに視線を移す。
[不尾丸 論]
「……塁」
ゆらゆらと近付いて来た不尾丸が、仁ノ岡の背中にピタッとくっ付く。
[仁ノ岡 塁]
「っ……! 気色悪いぞ!」
ドンッ……!!
立ち上がった仁ノ岡が、不尾丸を突き飛ばした。
不尾丸は、壁際へと倒れ込む。
[不尾丸 論]
「うっ」
[仁ノ岡 塁]
「……あぁっ! 論!!」
『やり過ぎた』と自覚した仁ノ岡が、心配して不尾丸に駆け寄る。
[不尾丸 論]
「あっ、久し振りだ。 名前で、久し振りに……呼んでくれた」
不尾丸は喜ぶ様な笑みを、小さく零す。
[仁ノ岡 塁]
「ごめん、ごめんっ……」
[不尾丸 論]
「……いいよ」
不尾丸は息を整えつつ、立ち上がろうとする。
[仁ノ岡 塁]
「……」
[不尾丸 論]
「その……先輩のことだけど、良い人だと思う」
[仁ノ岡 塁]
「……良い人」
[不尾丸 論]
「うん……」
不尾丸が、仁ノ岡の机を見る。
そこには、たくさんの勉強道具が広げられていた。
[不尾丸 論]
「偉いよな、お前は。 天才なのに、努力も怠らないなんて」
[仁ノ岡 塁]
「ん、まあ……」
[不尾丸 論]
「学校……もっと来てほしい、オレも」
仁ノ岡は、不尾丸の切実な眼差しに、応える様に真っ直ぐ見つめる。
[不尾丸 論]
「お前のこと、理解してくれる人が絶対いるから。 ね、お願い……」
不尾丸が、仁ノ岡の手を大事そうに握る。
[仁ノ岡 塁]
「……ありがとう、ごめん」
バンっ!!
[原地 洋助]
「おい、塁!! 脱いだモン床に置くな、つってんだろ!!」
[不尾丸&仁ノ岡]
「「あっ」」
身を寄せ合うふたりを、部屋に入って来た原地が発見する。
[原地 洋助]
「何やってんの?」
……。
──その夜、SFC会議が開かれた。
[杉崎 アンジェリカ]
「今日の議題は……」
ドドドドド……。
どこからか、ドラムロールが流れる。
やがて大きなスクリーンに、大空の姿が映し出される。
[杉崎 アンジェリカ]
「通称、『魔性の女』……朝蔵大空さんについて、です!!」
スクリーンに視線が、一斉に集まる。
[女子A]
「劇では、確かに良いものが見れた。 でも!」
[女子B]
「許せない! ひとりで校内のイケメンを、独占するなんて!」
[女子C]
「2年のS級イケメンは、みーんなこの子が取っていっちゃったわ!」
いつの間にか、陰で増殖していた大空アンチが、次々と叫び散らかす。
[剣崎 芽衣]
「か、可愛いもん! モテて当然……」
大空に同情した剣崎が、気を利かせて庇おうとする。
[杉崎 アンジェリカ]
「ご存知ですか、ミス剣崎」
[剣崎 芽衣]
「は、はい?」
[杉崎 アンジェリカ]
「1年……1組の、仁ノ岡塁氏。 2組の、不尾丸論氏。 3組の、原地洋助氏」
[剣崎 芽衣]
「だ、誰〜……?」
杉崎に名前を聞かされても、剣崎は誰のことだか分からない。
[女子D]
「仁ノ岡塁、って?」
[女子E]
「ほら。 あんまり学校来ない、レアイケメンの子だよ」
[女子F]
「あー。 あの子もめっちゃ、カッコ良いよね〜」
[剣崎 アンジェリカ]
「私は、予言します。 この3名……近い内に、朝蔵大空に夢中になるでしょう!!」
根拠も無く、宣言する杉崎。
[剣崎 芽衣]
「何言ってるのアンちゃん……?」
[杉崎 アンジェリカ]
「……それでは、これで会議を終わりにしたいと思います。 皆様、お気を付けてお帰り下さいませ」
[女子G]
「お疲れっした〜」
杉崎の掛け声で、ぞろぞろと帰って行く会員達。
[剣崎 芽衣]
「か、勝手に終わらないでよ〜」
そうして……剣崎と杉崎以外、誰も居なくなった部屋。
[杉崎 アンジェリカ]
「ん〜〜〜〜っ、芽衣っっ!!」
[剣崎 芽衣]
「!?」
[杉崎 アンジェリカ]
「皆の前でその呼び方辞めて、っていつも言ってるでしょー!!」
[剣崎 芽衣]
「アンちゃん?」
[杉崎 アンジェリカ]
「それ! 恥ずかしいから、やめてほしいのに〜!」
[剣崎 芽衣]
「あはは、ごめん」
[剣崎 芽衣]
(アンちゃん可愛いなぁ)
その頃の大空……。
[朝蔵 大空]
「はっっっくしゅっ!! やば、風邪ひいたかなー」
「偏愛初心者」おわり……。