──愉快な、朝。
卯月はトコトコとひとり、登校して来ました。
[卯月 神]
(何やら朝蔵さんが、『ダブルチーズバーガー』……と言うものを、本気で企んでいるようですが。 まさか、あの " 本 " が本当に効いた、と言うのでしょうか?)
ドン!
[卯月 神]
「あっ、ごめんなさい」
曲がり角で誰かにぶつかってしまった卯月は、反射的に謝ってしまう。
卯月の、目の前に居たのは……。
[原地 洋助]
「すみません」
この男、原地洋助。
[卯月 神]
「貴方は……」
冷静な卯月も、これにはさすがにびっくり〜!!
[原地 洋助]
「ちょっと、お話。 よろしいでしょうか?」
卯月より
[卯月 神]
「お……おぉ」
……。
[永瀬 里沙]
「ねーねー。 もう、あの人で良いじゃん?」
今は里沙ちゃんと、校門をくぐった先の道を歩いている。
[朝蔵 大空]
「あぁ、リンさんは……ちょっと……かなり変わってる人だから」
リンさんって天使だし、それがバレたらきっと、まずいことになるんじゃないかな?
里沙ちゃん達には、出来れば近付けたくなーい……とんでもないトラブルに、繋がってしまう気がする。
[永瀬 里沙]
「顔さえ良ければ良い!!!」
[朝蔵 大空]
「……ううん! ダメ!! 絶対、仁ノ岡くんに会ってもらうんだから!」
早く里沙ちゃんに、仁ノ岡くんを見せたい!
[永瀬 里沙]
「はぁ……なんで学校、来ないのかねー」
仁ノ岡くんが、同じ学校に通っていることは分かっている。
でも、極たまにしか来ないらしい。
[朝蔵 大空]
「それは……分からない。 何か、事情があるのかもしれないけど」
学校に来ない理由、何か悩みがあるのかな。
もしかして、『いじめ』……?
そう考えたら、胸が苦しくなる。
勝手な想像だけど、もしそうだったら……私ひとりが背負うには、難しい問題だ。
[永瀬 里沙]
「学校に来ない、ね…………」
里沙ちゃんが歩みを止め、後ろで立ち止まる。
[朝蔵 大空]
「ん?」
里沙ちゃん、なんで止まったんだろう?
[永瀬 里沙]
「あ、いや……大空はさ、学校楽しい?」
[朝蔵 大空]
「えっ? 何、急に?」
[永瀬 里沙]
「いや別に? なんとなく」
里沙ちゃんが、気まずそうにそっぽを向いた。
なんで今、そんなこと聞くんだろ……?
[朝蔵 大空]
「うーん…………楽しい、よ!」
[永瀬 里沙]
「それは、どうして?」
[朝蔵 大空]
「えーと、うん。 やっぱり、卯月くんが転校して来てくれた辺りから。 私の毎日に、
[永瀬 里沙]
「う、うん」
[永瀬 里沙]
(また、卯月……)
[朝蔵 大空]
「それから、もっと人生楽しみたい! って、気持ちになれた……みたいな?」
[永瀬 里沙]
「大空……」
私の言葉に、里沙ちゃんは安心する様な表情を見せる。
[朝蔵 大空]
「それに何より、里沙ちゃんのおかげ!」
[永瀬 里沙]
「え? ……ふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃない!」
[朝蔵 大空]
「ふふっ!」
私達は、顔を見合わせて微笑み合う。
[永瀬 里沙]
「……」
[永瀬 里沙]
(確かに卯月が来てから、大空は明らかに変わった。 もちろん、良い方向に!! でも、卯月……って、改めて思うとなんなんだろう)
[朝蔵 大空]
「あぁ、もーー!! 一体どこに居るんだろー、仁ノ岡塁く〜ん」
頭をワシャワシャと、掻きむしる大空。
[永瀬 里沙]
(あいつのことが、1番分からない。 大空は、あいつにゾッコンだけど。 あの人はなんで、大空のことが好きなの? 影薄いし、いつもボケーッ……と、してて。 大空以外の人間とも、関わろうとしない)
[朝蔵 大空]
「せめて、写真とかあればなー。 撮る……? あー、でも盗撮はダメだしー」
[永瀬 里沙]
(ダブルデート……出来るか分かんないけど、その時に。 卯月、あいつに聞いてやろう! 大空とどうする気なのか、詳しく!)
その時、里沙が異変に気付く。
[永瀬 里沙]
「……?」
バサバサバサっ……。
[朝蔵 大空]
「どうしたの? 里沙ちゃん」
[永瀬 里沙]
「なんか、誰かに見られてる気がして……」
里沙ちゃん、何を気にしてるんだろ!?
[朝蔵 大空]
「えっ!」
[永瀬 里沙]
「気のせいかな……」
[朝蔵 大空]
「里沙ちゃん、霊感あるっけ?」
幽霊的な何かじゃないよね……?
[永瀬 里沙]
「無いけど。 ん〜……まぁ、ただの気のせいよね。 教室、行こっ」
[朝蔵 大空]
「うん、行こう!! 早く、卯月くんに会いたい! 待っててねー!! 愛しの卯月く〜ん!!!」
1秒でも早く、卯月くんに会いたい私は、無我夢中で教室まで突っ走る。
[永瀬 里沙]
「あ、あんたほんとに変わった……変わってるわねー」
……。
[朝蔵 大空]
「えっ!!! 卯月くん、休み!!?」
[永瀬 里沙]
「みたいね」
朝のホームルームが終わっても、卯月くんの席が
[朝蔵 大空]
「そんなぁ」
今日一日、卯月くんと会えないなんて……。
耐・え・ら・れ・な・い!
耐えられない!!!
[木之本 夏樹]
「あいつが今日、いないってことは……」
[文島 秋]
「あぁ。 いくらでも朝蔵ちゃんに、アタックし放題だ」
[木之本 夏樹]
「ゴクリ……」
[文島 秋]
「さぁ、行ってこ……」
[狂沢 蛯斗]
「大空さん! 顔色が悪いようですが!」
[巣桜 司]
「げ、元気出して下さい! 大空さん!」
積極的に大空に話し掛けて行く、狂沢と巣桜。
[木之本 夏樹]
「あぁ!?」
[文島 秋]
「おーっと、木之本またしても先を越されたー!」
[木之本 夏樹]
「う、うるせぇ! お前はいちいち、ふざけるな!」
木之本くん達、何騒いでるんだろ……。
仲良いなぁ。
あー、心配してくれるのは、とっても嬉しいけど。
今は正直、ほっといてほしいなー。
今日はもう、モチベーションが出ません。
さよなら、今日の私。
[朝蔵 大空]
「かぁー」
底に沈む勢いで、私の体から力が抜けて行く。
[永瀬 里沙]
「ちょっと、あんた! マジでしっかりして! さっきまでの威勢は、どうしたのよ!」
ダラけて椅子から、崩れ落ちそうな私を抱え、私のほっぺたを叩く里沙ちゃん。
私は僅かな力で、バッグからケータイを取り出す。
[朝蔵 大空]
「うぅ、『卯月くん大丈夫? 風邪でもひいた?』……っと」
卯月くんを、心配するメッセージを送った。
[永瀬 里沙]
「……連絡無かったの? 相変わらず冷たいわねー、あいつ。 『今日は休む』……ぐらい、言ってやれば良いのに」
[朝蔵 大空]
「うん。 でも、それが卯月くんだから」
[永瀬 里沙]
「何その理屈ダル」
私は、あることを思い出す。
[朝蔵 大空]
「あっ、1限目なんだっけ?」
[永瀬 里沙]
「あっ! 今日、男女合同じゃね」
[朝蔵 大空]
「えー! 体育〜!? 更に無理なんですけど〜」
どうやら1限目は、男女一緒に行われる体育らしい。
[朝蔵 大空]
「休んじゃおっかな〜……」
[永瀬 里沙]
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ! さっ、着替えるよ」
この精神状態で、体育は無理〜!!
……。
──その頃、卯月達は……。
ドンッ!!!
卯月が原地に、壁ドンされていた。
[原地 洋助]
「だからっ! 付き合ってるのか、付き合ってないかで。 答えてくれれば、良いですってば!!」
[卯月 神]
「うっ……お、落ち着いて下さい」
[原地 洋助]
「……そうじゃなくて。 何度も言わせないで下さいよ。 卯月先輩、でしたっけ? 大空先輩と付き合ってるのか、今すぐ教えて下さい」
[卯月 神]
「……」
[原地 洋助]
「なんで、すぐ黙るんだよ!」
[卯月 神]
「だって……」
[卯月 神]
(本当は今すぐ。 『付き合ってます』……って言いたい、僕だって……)
[原地 洋助]
「あぁ? ボクは回りくどいのが、大嫌いなんです。 早く、答えて下さい!」
[卯月 神]
(考えろ〜、考えなくては。 この人が、納得してくれる答えを)
[卯月 神]
「君は、朝蔵さんのことが好きなんですか?」
[原地 洋助]
「……? そうですけど。 あの、今話してほしいのは……!」
[卯月 神]
「僕も、今」
[原地 洋助]
「えっ?」
[卯月 神]
「僕も今、彼女に恋をしています!」
[原地 洋助]
「は、はい?」
[卯月 神]
「まだ、ちゃんとは付き合ってません」
[原地 洋助]
「付き合ってない? えっ、『ちゃんと』……って、なに」
[卯月 神]
「だから! お互い、良い恋敵として。 頑張りましょう、よろしくお願い致します!」
[原地 洋助]
「ほんとに、付き合ってないの?」
[卯月 神]
「はい。 狂沢くんとかが、勝手に妄想して。 僕と朝蔵さんが恋人、だなんて言ったんでしょう。 朝蔵さんと僕は……少し、仲が良いだけですよ」
[原地 洋助]
「ふ……ふーん、分かった。 付き合ってないなら、良いよ。 " 恋敵 " ね。 ふんっ、了解」
納得がいった原地は、解放する様に卯月の傍から離れる。
[卯月 神]
「でも朝蔵さんと現在1番近しい異性は僕ですのでではさようなら失礼します」
[原地 洋助]
「えっ?」
去り際、卯月は早口で言い残して、スタスタと逃げ去る。
[原地 洋助]
「あ! ちょ……ちょ、待てよ」
原地が引き留めるも、卯月には無視されてしまう。
[原地 洋助]
「な、なんだよあの捨て
……。
[朝蔵 大空]
「やれば終わるやれば終わる」
[永瀬 里沙]
「そうよー大空、その意気よー」
秋には体育祭もあって、その前に
もー! 体力無い私に、厳しい行事が秋に詰め込まれてて、今から嫌になる〜!
早く、夏休みにならないかな……。
あ、その前に期末テストもある。
[朝蔵 大空]
「あぁ、暑い……汗かく」
[卯月 神]
「すみません、遅れました」
[朝蔵 大空]
「!?」
今、卯月くんの声が聞こえた気がする。
[体育教師]
「おう卯月、具合でも悪かったか?」
[卯月 神]
「そうなんです」
声がしたほうを振り向くと、先生と卯月くんが話しているのが見えた。
[永瀬 里沙]
「あれ? 居るじゃん、休みじゃなかっんだー。 良かったね、大空」
[朝蔵 大空]
「卯月くん!!♡」
今日は皆んなで、サッカーをやるようで……。
[巣桜 司]
「むんっ」
あ、司くんがゴールキーパーやらされてる……。
[狂沢 蛯斗]
「……」
相手チームの狂沢くんが、ボールと共にゴール前まで駆けて来る。
[巣桜 司]
「こ、来いっ……!」
[狂沢 蛯斗]
「巣桜くん、退きなさい」
[巣桜 司]
「え……」
狂沢くんが、ゴールに立つ司くんに退くよう命令する。
[巣桜 司]
「あ、はい、すみません……」
司くんはそれを真に受けて、あっさり膝を揃えて退いてしまう。
!?
司くん!!?
[文島 秋]
「今だ! 狂沢くん!!」
○●○!!!ゴーーール!!!○●○
[文島 秋]
「ナイスだよ、狂沢くん!!」
[狂沢 蛯斗]
「ふふん、これくらい朝飯前ですよ」
え!? 普通に、ズルだよね?
[木之本 夏樹]
「な……に、してんの?」
[巣桜 司]
「ハッ! ぼ、ぼくは何を……す、すみません! すみません、すみません!! すみません、すみません!!」
[木之本 夏樹]
「お、面白いから良いけどさ……」
司くんが木之本くんに、何度も頭を下げて謝る。
[永瀬 里沙]
「木之本〜! あんたが、点取り返しなさいよー」
[木之本 夏樹]
「えぇ、なんで俺が」
[文島 秋]
「良いとこ見せれば、惚れてくれるかもしれないしな」
[木之本 夏樹]
「!!」
その瞬間、木之本くんがボール目掛けて走り出した。
[男子A]
「うわぁ!! なんか急に、木之本が本気出し始めたぞ!」
[女子A]
「きゃあ! 私こわーい!!」
次は私らのチームかぁ、やりたくないなぁ。
私は、辺りを見渡す。
[朝蔵 大空]
「あっ」
[卯月 神]
「……」
前方の少し離れた所に、卯月くんが座っているのが見えた。
私はそれに、そろりそろり……と、近付いて行く。
[朝蔵 大空]
「……ん」
卯月くんの後ろに立って、彼の服の裾を引っ張る。
[卯月 神]
「……っ! 朝蔵さん?」
[朝蔵 大空]
「……」
って、恥ずかし!///
授業中なのに、皆が見てるかもしれないのに、何やってんだろ私!
[卯月 神]
「……ダメですよ」
[朝蔵 大空]
「朝、居なかったから寂しかった」
[卯月 神]
「そうですか……ごめんなさい」
そう言われたと思ったら、私の頭に卯月くんの手が伸びて来る。
[朝蔵 大空]
「へっ?」
私もしかして今、卯月くんに頭触られて、まさか撫でられてる!?
一体、どこでそんなこと覚えたの卯月くん?!!
[文島 秋]
「君達、もう次のゲーム始まるよ?」
[大空&卯月]
「「!!?」」
[文島 秋]
「イチャついてる場合じゃ……」
[卯月 神]
「いえ。 朝蔵さんの頭に、
[文島 秋]
「ふーん、そ」
文島くんはニヤつきながら、木之本くんの所に戻って行った。
毛虫!!?
[朝蔵 大空]
「へっ!!? どこどこ!?」
[卯月 神]
「……貴女の髪は黒いから、熱が……熱い」
[朝蔵 大空]
「!!」
しまった……私の髪の毛が黒いせいで、卯月くんに熱い思いをさせてしまった!!!
私、明日から丸刈りにしまーーす!!!
つづく……。