[朝蔵 大空]
「あー」
里沙ちゃんが居ないと1日が長すぎる。
やっと午前の授業が終わったところだよ。
寂しいな、里沙ちゃんに会いたい。
お見舞いは要らないって言ってたけど、帰ったら電話してみようかな?
ゆっくり休めてると良いんだけど。
……。
[朝蔵 大空]
「何食べよう……」
昼休みに食堂にやって来た、ひとりで。
[朝蔵 大空]
「はは」
ぼっち飯ぐらい慣れたもんだ。
私はひとりで堂々と、孤独に唐揚げ定食を食す。
[朝蔵 大空]
「いただきます、モグモグ……」
旨い、やっぱり私唐揚げ大好き!!
ちなみにこの学校では、全ての定食メニューを500円で食べられる。
主食、副菜2品、汁物、サラダ、デザートまで付いてこの値段なのだから安い!
[???]
「あ、麺少なめでお願いします」
──数分後。
ガシャッ。
私の座っているテーブルに何かドンっと置かれた。
これは……お
急に目の前に『そば定食』が現れた。
[狂沢 蛯斗]
「おひとりですか?」
げっ、またこの子。
狂沢くんが勝手に向かいの席に座ってきた。
何しに来たの?
[朝蔵 大空]
「な、何?」
[狂沢 蛯斗]
「大空さんが、ひとりでとても寂しそうに食事をしてらしたので!」
[朝蔵 大空]
「あ、そう」
寂しいとかは無いし、別にほっといてくれていいのに。
しかも貴方なんかと一緒に居たら、地味に目立つんですけど?
[女子生徒A]
「ねぇアレ、カップルかな?」
違います……。
なんなら今まで一度も喋ったこと無かったし。
[女子生徒B]
「かもね、男の子可愛い〜」
見られている、しかも私達が可愛いんじゃなくて、狂沢くんだけ可愛いって言われるんだね。
[狂沢 蛯斗]
「……」
構わず麺
この子、なーんにも周りを気にしてないみたい。
あー、なんか私だけ意識してて悔しい、私も気にせず、とっとと食べちゃおう。
[狂沢 蛯斗]
「ごくっ……」
お箸を持つ手が美しい、静か……食べ方、綺麗だな。
[朝蔵 大空]
「……」
私は狂沢くんを、ジーっと観察してしまう。
[狂沢 蛯斗]
「あの、文島くんに言われたんですけど。 さっきはごめんなさい、ボク空気読めなくて……もうしません」
[朝蔵 大空]
「え? うん」
……ふ、普通に謝ることも出来るんだ?
へぇ、結構可愛いとこあんじゃん。
[狂沢 蛯斗]
「ごくっ」
それにしても本当に少食なようで、お肉とかちゃんと食べてるのかな?
めっちゃチビチビ食べてるし、実際チビだし。
……本人には言えないけど。
[朝蔵 大空]
「……はい」
私は、空いたお皿に自分の唐揚げをひとつ盛って、狂沢くんにそれをあげた。
[狂沢 蛯斗]
「えっ」
[朝蔵 大空]
「食べなよ」
狂沢くんは背もそうだし、色んな所がサイズ小さくて心配になる。
目と態度は大きいけどね!
[狂沢 蛯斗]
「い、頂きます」
狂沢くんは唐揚げを箸に取って口に運ぶ。
[狂沢 蛯斗]
「あ、熱っ」
[朝蔵 大空]
「き、気を付けて……」
もしかして唐揚げ食べたこと無いのかな?
ただ単に食べ慣れてないだけ?
[朝蔵 大空]
「ふーふーしなよ」
私は冷ましてから食べることを、狂沢くんにアドバイスする。
[狂沢 蛯斗]
「……ふぅ、ふぅ」
あーなんか、親が開業医なんだっけ?
もちろん里沙ちゃん情報だけど。
里沙ちゃんってば、ちょっと顔が良い男の子のことなら、何故か詳しいから。
確かに親がお医者さんだと、唐揚げとか食べたこと無さそう、偏見になっちゃうけど。
[狂沢 蛯斗]
「美味しい……」
本当に初めて食べたみたいな顔してる!
[朝蔵 大空]
「ふふっ、あはは」
私はなんだか微笑ましくて、笑いだしてしまった。
[朝蔵 大空]
「ファースト・カラアゲだ」
[狂沢 蛯斗]
「え……なんですか? それ」
[朝蔵 大空]
「ううん、なんでもない」
一緒にご飯食べてくれてありがとう。
意外と一緒にいて楽しいかも。
この気持ちは……恥ずかしいから胸の内に仕舞っておこう。
……。
そして、時は過ぎて放課後。
私は狂沢くんに、中庭まで連れて来られた。
[朝蔵 大空]
「ねぇ、部室とかって……」
入部する気があるかと聞かれたら、正直無い!
でも約束した以上、今日の見学だけは誠実に向き合おう。
[狂沢 蛯斗]
「無いです。 部員はボクひとりなので昨年、没収されてしまいました」
[朝蔵 大空]
「えぇ、狂沢くんひとりー?!」
ひとりなんかーい!
それはもう部活と言っても良いのか怪しい、ただの狂沢くんの趣味だよー!!
[狂沢 蛯斗]
「はい……だから寂しくて。 なので大空さん、お願いします」
今めっちゃ狂沢くんに詰められてます、助けて下さい。
[朝蔵 大空]
「そっか、そっか、ちょっと離れて」
私は狂沢くんの肩を、そっと押して私から離れさせる。
[朝蔵 大空]
「でー、部活内容って何するの?」
[狂沢 蛯斗]
「もちろん、『写真を撮る』ですね〜」
[朝蔵 大空]
「あ、ほんとにそれだけなんだ……」
簡単そう、なんか私でも出来そう!
[狂沢 蛯斗]
「質問に答えて下さい、大空さんは……」
[朝蔵 大空]
「ん?」
何を聞かれるんだろう、怖い。
[狂沢 蛯斗]
「撮るのと撮られるの、どっちが好きなんですか?」
何その質問、初めてされた。
[朝蔵 大空]
「えっ」
考えたこと無かったなー、でも撮られるって……モデルさんとかじゃないし。
撮るほうも、別に大した経験も技術も無いしなぁ。
[朝蔵 大空]
「どっちもどっちかなー? あははっ、答えられなくてごめん」
ここは当たり障りの無い返答をしておこう。
[狂沢 蛯斗]
「そうですか……」
[朝蔵 大空]
「狂沢くんは? どっちのほうが好きなの?」
[狂沢 蛯斗]
「ボクは撮る専門です、撮られるのは嫌いなんです……恥ずかしいから」
へぇ、そう言うところはシャイなんだぁ?
[朝蔵 大空]
「へー」
その時、狂沢くんの首に掛けてある、大きなカメラが目に入る。
うわぁ、きっとお高いんだろうなぁ……。
[狂沢 蛯斗]
「あ、気になりますか?」
狂沢くんは、私がカメラを見ていることに気付く。
[朝蔵 大空]
「う、うん!」
[狂沢 蛯斗]
「お貸ししますよ、どうぞ!」
狂沢くんは、自分のカメラを私に押し付ける。
[朝蔵 大空]
「あ、うん。 じゃあ〜……」
私は起動しているカメラを、狂沢くんに向けて……。
パシャ。
[狂沢 蛯斗]
「……!? なんでボクを撮るんですかー! 撮られるの嫌いって、言ったじゃないですか!」
[朝蔵 大空]
「あははっ、ごめんごめん! でも可愛いじゃん」
写真の狂沢くんは、なんだかいつもより間抜けそうな顔をしている。
ちょっとこの写真欲しいかも。
[狂沢 蛯斗]
「返して下さい、消します」
カメラが狂沢くんの手元に戻っていく。
[朝蔵 大空]
「仕返しに私のことも撮ってみれば?」
私はニカっと笑って、片手でピースサイン。
[狂沢 蛯斗]
「え?」
[朝蔵 大空]
「ほら、今がチャンスだよー」
狂沢くんは私に向かってカメラを構えた。
パシャ。
その時、木々を激しく揺らすほどの、強い風が吹き込んだ。
[朝蔵 大空]
「わっ! 急に何、もう!」
風のせいで、私の髪が乱れて最悪だ。
[狂沢 蛯斗]
「……綺麗だ」
[朝蔵 大空]
「嫌味?!」
こんな頭ぐしゃぐしゃなのに、綺麗な訳ないよっ!
[狂沢 蛯斗]
「あ、あっ、貴女はやっぱり良いな!」
髪の毛を直す私に、狂沢くんがまた詰め寄って来る。
[朝蔵 大空]
「はい?」
[狂沢 蛯斗]
「もっと貴女を撮らせて下さい!!」
狂沢くん、息遣いが変……興奮していらっしゃる。
かなり恐怖を感じた、逃げよう。
やっぱりこの子はなんか、頭おかしい気がする。
[朝蔵 大空]
「ご、ごめん私もうそろそろ帰るねー!」
[狂沢 蛯斗]
「御冗談でしょう? 貴女が部に入ると言うまで、帰しません!」
うわー、強引すぎる。
そんなに強い力で腕掴まれたら痛いよー。
[朝蔵 大空]
「ちょっと! やめてよ!」
バンッ!
急に横からカバン? のような物が突っ込んできた。
私の腕から、狂沢くんの手が離れる。
これで逃げられるようになったけど、一体何が起こったの?
今はそっちのほうが気になって、逃げようとはならなかった。
バンッ! バンッ!
!?
[狂沢 蛯斗]
「痛っ……痛いです!」
狂沢くんが痛そうな声を出す。
誰かが学校カバンを狂沢くんに、
[嫉束 界魔]
「大空ちゃんをいじめるなー! このケダモノー!」
なんとその誰かは、嫉束界魔くんだった。
助けに来てくれたの?
[狂沢 蛯斗]
「……」
狂沢くんは動けず、ただ耐えている。
絶え間無い嫉束くんの攻撃が続く。
このままじゃまずい、止めないと。
[朝蔵 大空]
「し、嫉束くん? ちょっと……やめて……ねぇ!」
これ私の声聞こえてるのかな嫉束くん……。
狂沢くんは貧弱そうだから、本当にやめてあげてほしい!
[朝蔵 大空]
「やめて!!」
[嫉束 界魔]
「あれ? あっ、僕なんてことを……」
嫉束くん、我を失ってたの?
私の大声に気付いた嫉束くんが、ようやく狂沢くんへの攻撃をやめる。
狂沢くんは少し涙目になりながら、
可哀想だけど、私は狂沢くんを慰めには行けない。
[嫉束 界魔]
「大空ちゃん逃げるよ!」
[朝蔵 大空]
「きゃっ……ちょ、うわぁ〜」
私の手を取った嫉束くんが走り出す。
[狂沢 蛯斗]
「カメラが……」
どうやら狂沢くんのカメラが、嫉束くんの攻撃により少し傷が付き、変形してしまったようだ。
[狂沢 蛯斗]
「あれは3組の嫉束界魔……絶対、許さない!!」
ああ、もう彼とは距離を取ろうと、そう思った。
……。
[嫉束 界魔]
「あいつ、追い掛けて来なかったね」
[朝蔵 大空]
「う、うん」
助けてもらったくせに言わせてもらうけど、本当は私……貴方と居るのも怖い。
[嫉束 界魔]
「僕さあの子と中学一緒だったんだけど、うん……前から変わった子だよね」
[朝蔵 大空]
「だ、ダメかと思った……」
あのままじゃ確実に強制入部だった、無理やり……。
[嫉束 界魔]
「大丈夫? 何もされてない?」
[朝蔵 大空]
「うん、私は大丈夫……それより狂沢くん、置いて来ちゃった」
ボッコボコにされてたもんな、犯罪者予備軍相手でも少し心配にはなる。
[嫉束 界魔]
「大丈夫だよ。 あの子しぶといから、" いじめ " られても」
[朝蔵 大空]
「…………そうなんだ?」
ふたりはよく知ってる仲なのかな?
遠慮無くボコボコしてたから、少なくとも友達同士ではなさそう。
嫉束くんが助けに来てくれてよかった。
[嫉束 界魔]
「んまぁ狂沢くんのことは置いといて、大空ちゃんさ……」
[朝蔵 大空]
「ん?」
[嫉束 界魔]
「ファンクラブの子達に、なんか言われたでしょ?」
はい、昨日言われたばかりです……。
[朝蔵 大空]
「あ、うん」
[嫉束 界魔]
「あれクラスの女子。 君の話してて、怪しかったから問い詰めたら、動画見させられたよ」
動画とは例の私が、嫉束くんのケータイを無理やり奪って、連絡先を交換させたように見える動画のことだろう。
[朝蔵 大空]
「あっ! あれなんか誤解されてて……」
[嫉束 界魔]
「うん知ってるよ。 でも誤解は解いといたから、あと盗撮したことも怒ったよ。 だから多分もう、何もしてこないと思うよ」
何もしてこないって言われても、完全には安心出来ないかな……。
[朝蔵 大空]
「……」
[嫉束 界魔]
「大空ちゃん、あの子達に何もされてない?」
何かされたと言われると、酷い言葉を浴びせられたことぐらい。
言われた言葉だって充分傷付いた。
でも、それを言うのは嫉束くんになんか悪い。
" 自分のせい " と、責任を感じさせてしまうだろうから。
[朝蔵 大空]
「ううん、ただ話を聞かされただけ」
[嫉束 界魔]
「そうなんだね」
[朝蔵 大空]
「うん! あとあの時は、助けてもらったんだ!」
[嫉束 界魔]
「そうなの? 誰に?」
[朝蔵 大空]
「えっとね、笹妬くんって子」
[嫉束 界魔]
「え、笹妬って……吉鬼のこと?」
あれ? 友達なのかな?
それにしてはなんか、反応が……。
[朝蔵 大空]
「う、うん。 とっても優しかった!」
[嫉束 界魔]
「優しくないよ、あいつは」
[朝蔵 大空]
「え……」
「強引な契約者」おわり……。