ある路地の奥にて 合成音声のいる街   作:火狸

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ある路地の奥にてー東北イタコ

 薄暗い部屋の中、二人が机を挟み向かい合う。暗い顔の依頼者とは対照的に明るい笑顔を浮かべている。彼女の名前は東北イタコ。霊能者であり、霊的な困りごとを解決してくれると頼る人が多い。

「それじゃあ早速お悩みを聞かせてもらえますの?」

彼女に促されるままに辿々しく悩みを打ち明ける。

「ちゅわ……噂話を聞いてからの精神の不調……その噂はお知り合いの方から聞いたんですの?」

小さく頷く。

「内容は聞きませんわ 重要ではありませんの 不調の詳しい症状を教えていたただけますの?」

イタコは笑顔を崩さずに話を聞く。

「突然の孤独感ですの?周囲との差を感じると それも自分が変質したように感じる……」

イタコは少し首を捻った後一際明るい笑顔を浮かべる。

「わかりましたわ 今回の件は……あたしがいうのも変ですけど霊的なものは関わっていませんわ 家に帰ってしっかり寝るといいですわ」

依頼者の怪訝そうな表情に薄く目を開けて答える。

「気のせいだなんていうつもりはありませんわ ……言霊というものがありますわ 昔から人…特に日本人は音に文字、ひいては意味を見出しますわ それ事態の良し悪しはさておき、全ての音に意味を見出した結果、ただの会話ですら過剰に意識を向けるようになったんですの」

イタコは楽しそうに笑う。

「あたしも仕事上よく言霊には頭を悩まされますわ 何気なく発した言葉も受け取り手によっては過剰な意味付けを受けるんですの ポジティブな言霊ならいいんですけれど、中にはネガティブな意味を多分に含む言霊があってたちの悪いことに広まるんですの 噂、という形で……あなたが聞いたのもその類ですわ 不安を煽る言霊、たまたま波長があったんですのね」

イタコは例えば、と指を立てる。

「応援って元気が出ますわね?でも時々、他の応援よりも元気づけられる一言をもらうことがありますわ あれこそわかりやすい言霊ですわ 変わり映えしなくても深く意識に刺さる言葉 これは人によって違いますわ」

依頼者はしっくりこないのか微妙な表情をしている。

「嘘だとお思いで?なら考えても見てくださいな その嘘は私にメリットがありませんわ?」

イタコは少し芝居がかった動きをする。

「“イタコのお祓い、相談無料”……こんな看板を出してるのに相談で終わらせるんですの それとも形だけのお祓いでもした方がいいんですの?」

イタコの雰囲気に依頼者も少し安心したようで表情も和らいでいる。

「というわけで今回はお題はいただきませんわ また困り事があったら頼ってくださいな」

依頼者が感謝を伝え、立ち上がる。

「さっきも言った通り、あなたは今精神的に参ってますにゃ 家に帰ったらしっかりと睡眠をとってくださいにゃ わかりました?」

イタコに見送られ、部屋を後にする。気のせいかもしれないがその足取りは軽くなったように感じた。

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