ある路地の奥にて 合成音声のいる街   作:火狸

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再び来てしまうー東北きりたん

 きりたんは記憶を頼りに住宅街を歩く。薄くガラスのように輝く髪、こうなったきっかけの路地に戻るつもりだった。

(ずんだもんは何か隠してる というかこれしかない あの時いた道はきっと……)

 きりたんは確信を持ってもう一度探していた。

(異世界!)

 しかし知識が一切なく全て妄想の域を出ない。

 

 やがて異質な路地に辿り着く。前は気が付かなかった異様な静寂。昂っていた期待が少し冷める。冷静になったというより失望したという方が近い。なにもない路地。

(面白くないですね ま、想定通り本番はここから)

 きりたんは手に持っていたスマホをバッグにしまい、走り出す。

(長期間いたらきっと髪だけでは済まない だからここを全力で通り抜ける!)

 あの時は引き返したが道であるならどこかにつながっている、そう根拠のない考えで疾走する。

 きりたんの予想は正しい。妖精の道はやはり道である。しかしその行き先についてはきりたんの完全な想定外だった。きりたんはこの道をショートカット、もしくは異空間の出入り口だと考えていた。しかし現実はそうではない。

 

「なんですかこれ」

 突然、スライドを入れ替えるように景色が変わり、きりたんは石畳の上にいた。周囲の森は深く、石畳はどこからとも見えない。前方の鳥居は全て石でできていて一部が崩れている。

 きりたんはスマホを取り出そうとバッグに手を伸ばして気づく。

 

 バッグが無い。

 

「え?」

 周囲を見ても落ちてはいない。服もない。しかし靴は履いている。ただし下駄である。

 きりたんはパニックに陥る。ただ全裸になったのではないらしく肉体もあるようでない。空に手が浮いているように感じる。

 慌てて駆け出すと足元の下駄がカランコロンと音を立てて動く。歩いているような動きだが少し遅れてついてきている。

(なん、戻ろうにも前後になにもない…?)

 あの路地との境が見当たらない。本格的にまずい状況だと理解する。体が無いのに汗が吹き出す。

「誰か いませんか」

 叫んだつもりだったがつぶやいた程度の音にしかならない。

 しかしそれに応える声が聞こえる。

「おや、珍しい ひとのこ?ですかね 迷子ですか?」

 優しい声に振り返るとそこには傘をさして佇む紫髪の女性がいた。その人には輪郭があり服もある。

「あ、あの ここどこですか 私、あの」

「ああ、落ち着いて焦らなくても時間はたっぷりありますよ 順番にどうぞ」

 言われて少し息を整え、経緯を話す。

「……で、好奇心に負けてしまったと ふふ、死んでないなら猫ではありませんね いえ、冗談ですよ」

「どうしたらかれますか?」

「帰りたいんですか?」

 不思議そうに聞き返される。

「ここはいいところですよ 道の暮れとはいえ空気がいいですし 現代社会より理想的な空間ですよ」

「いや、その 私は家の方が好きで じゃなくて その、とにかく帰りたいんです」

「そうですか では案内してあげましょう といってもタダではありませんよ」

 女性はきりたんの頭を指差す。

「対価はきっちり貰いますよ」

「えっ」

「私も慈善事業をしているわけではないので」

「私渡せるものなんかなにも」

「あるじゃないですか その綺麗な髪 少しいただければ結構ですよ」

「髪……?」

「ええ どうします?」

「お願いします、助けて」

「わかりました ではこちらへ」

 その女性がきりたんの無い腕を引く。景色が捩れ路地に戻る。きりたんの体も現れる。

「助かった……!」

「ふふ、よかったですね それでは失礼して」

 女性がきりたんの髪に触れ、少しだけ掬い取る。抜くでも千切るでもなく、砂を掬うように。

「ぁえ?」

「やっぱり綺麗ですね ガラスのように輝いている……」

 恍惚とした表情で髪を眺めている。しばらく眺め満足したのか懐へしまう。

「さて、おまけで出口まで送ってあげましょう おいで?」

 

 路地を出て元の住宅街に出る。今回は特に変化なく戻って来れたようだった。

「案内はここまで もう好奇心だけできちゃダメですよ?」

「ありがとうございました ……あの、名前を聞いてもいいですか?」

「私ですか?ゆかり 結月ゆかりです 次は安全な場所で会えるといいですね?」

 言いながらゆかりは路地へと戻っていった。

 

 路地の戻ったことをずんだもんに怒られたのは別のお話。

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