妖精にとって路地は特別だ。そもそも道は妖精と同じく自然から生まれる。森から離れ、緑のない街中において道は数少ない癒しだ。中でも路地は自然の道の形に近い。生き物の営みの中に多くが行き来した結果生まれる獣道。路地は人間の獣道と言って差し支えない。ゆえに妖精は路地に惹かれる。
ずんだもんも例に漏れず路地を好んでいた。家にいない時はいつも路地に行く。この前だってそうだった。
今日は天気が荒れていた。薄暗い路地の中、建物の隙間から降り注ぐ雨をガラス越しに眺める。
「この路地のカフェはなんでこんな窓が大きいのだ?2、3メートル先はビルの外壁なのだ まああの落書きはセンスがいいけども」
椅子に寄りかかりながらそう溢す。人を待っていた。しかし来ない。よく遅刻する相手だが今回は特にひどい。紅茶を飲み干し、天を仰ぐ。
追加で2杯ほど飲んだところでカフェの扉が開く。紫色の傘を閉じ、店内を一瞥する。
「おや ずんだもんさん お早い到着で」
「おせーのだ 流石の僕でも飽きてきたのだ」
「いやすみません この路地にた景色が多すぎて迷ってしまって 仕方がないのでイタコさんに道を聞いてやっと来れました あ、マスター いちごのショートケーキ一と紅茶ください」
「イタコに?どんだけ遠回りしたのだ 方向音痴とかそういう規模じゃないのだ」
「あははは」
「笑い事じゃねーのだ」
「そんなことよりなんのご用件で?」
「言わなくてもわかってるのだ?」
「はて なんおことやら皆目見当がつきませんね」
ゆかりはわざとらしく応える。いつのまにか届いていたケーキを食べる。
「嘘つけ ……この前の礼が言いたかったのだ ほら、きりたんを助けてくれたやつ」
意外、とゆかりは目を丸くする。
「……てっきり怒られるものかと」
「怒る要素がないのだ 純粋に感謝してるのだ」
「そうですか ふふ ならいいんですけど」
「……?」
怪訝そうなずんだもんを横目に苺を口にに放り込む。
「にしてもいいところですね 同じ妖精の道でもこんなに差があるとは あ、マスター レモンメレンゲパイをお願いします」
「ふふん ここ作るの大変だったのだ もっともこのカフェのマスターあってのことだけど」
カフェの奥からマスターのイフがレモンメレンゲパイを持ってやってくる。
「ずんだもん様のセンスあってこそでしょうとも この店の内装にあたくしは関わっておりませんで」
「カフェの内装は自由に変えていいって言ってるのだ 僕は自分で作るより人の作品見る方が好きなのだ あ、そういえば」
ずんだもんは窓の外、落書きを指差す。
「あの落書きは口ぶり的にマスターのじゃないのだ?」
「ええ いつのまにやらありました」
「おやおや?ずんだもん、人間入り込んでません?」
ゆかりの冷やかしに顔尾を引き攣らせる。
「………あー、まあここの変質は薄いし多分問題はない…」
「でも迷子になりやすいでしょう? イタコさんの店くらい外に直結してなきゃ」
ずんだもんが顔を覆い、立ち上がる。
「くっそ 面倒なことになったのだ ゆかり、傘借りるのだ あとで返すのだ」
「いってらっしゃーい」