子供のうちからインターネットに触れられる現代は、私に焦りしかもたらさなかった。
ネット上には、子供の自分から見てすら哀れな大人がたくさんいる。
失敗した人々は言う。あの時ああすればよかった、あれをやっておけばよかった、と。
他人の後悔を自分に投影するなんて馬鹿らしいと思っている。でもこの焦りは理性を押さえつけてくる。今しか出来ないことをしないのは凄く、凄く苦しい。
だってああはなりたくないから。一度きりの人生、後悔したくないから。
子供のうちしかできないことは何?私が今優先すべきことは何?一体何が出来てない?
あぁ、早く青春しなきゃ。
「それがここへきた理由と」
「んふふ やっぱおかしい?」
「いえ 悩み行動するのはいいことです」
そう?と手に持っていたフォークを軽く振る。
彼女の名前は双葉湊音。青みがかった髪は彼女の自慢の一つだ。
「しかし青春、というとこのような路地に来るのはいささか不思議ですな あの落書きも青春ですかな?」
「失敬な ストリートアートですよ……この路地の雰囲気、私ピンときました 漫画の世界そのものですね」
湊音は被っていたキャップを指で押し上げ、イフの方を見る。
「私の目指す青春にはもっと不思議な体験が必要な気がしてたんですよ ここにはそれがある この前ので確信した」
この前、というのはずんだもんが壁の落書きに気づくよりもっと前、昼間にイフのカフェにたどり着いた時のことだ。イフにとって初めての人間の客であったが故に不覚にも黒い煙…イフの特技を披露してしまったのだ。
「あのあとも数回きたけどさ、ここに来るたびに少し変化が起きるんだよね 私の自慢の髪にほら、水色の毛が混じってる 染めてないのに!」
「……今はその程度ですが長期滞在には確実にあんた様は耐えられないと……」
「嘘 騙そうったってそうはいきませんよーだ 私これでも情報源は多いんだから」
少し間をおいて自信満々に続ける。
「妖精になるんでしょ?」
「えぇ その通り 不可逆的な変化ですが」
イフが咎めるように言う。
「別にいいもん 不思議な体験には変化はつきものだし」
「おすすめはできませんな 生まれ持った性質を捨てるというのはなんとも」
イフは残念そうに首を振る。
「成長だと捉えればむしろいいことじゃん?」
「そうもいきません あたくしと違いあんた様は個があるでしょう」
「だからこそだよ あ、コーヒーおかわり」
「ううむ頑固ですな あたくしには青春は理解できそうにありませんな」
「それよりどんな妖精になると思う?できれば蝶がいいな」
「あんた様は良くて蛇でしょう」
イフが腕で蛇を表現する。
「むー、可愛くない!」