転生ハンターがダンまちをモンハン世界だと間違っているまま黒龍を狩る話 作:シャリ
黒龍というワードを使って自分を持ち上げる発言を聞いた瞬間、ハンターの背中がピクリと動いた。
今まで無反応だった、ほの暗い瞳が光を宿す。
視線がゆっくりと……だが確実にガリオンの方へ向いた。初めてまともに話しかける。
「黒龍だと? そんなモンスターがいるのか?」
「おや、ご存知なかったですか。まぁ、長いこと目撃例がないですからねぇ。黒龍というのは……」
先程とは打って変わって、ハンターは真剣にガリオンの言葉を頭に吸い込んで考える。
「黒龍は古くから生きている伝説のモンスターですぞ。全身を禍々しい黒の鱗と甲殻で覆い、炎を操る龍で」
ミラボレアスだな。
古龍だし、特徴が一致している。
「黒龍が落とした鱗だけでも他のモンスターが距離を取るほど恐れられており、その強さは過去の遭遇したいくつかの話によると、もはや災害を超えて災厄だと」
ミラボレアスだな!
古龍が相手なら古代どころか大型モンスターですら戦いを避ける。
「古くからの伝説故に話の由来は不明ですが、黒龍はいずれ世界を滅ぼす存在らしいですぞ。怖いものですなぁ」
ミラボレアスだな!!
シュレイド王国はミラボレアスが滅ぼしたという伝説もあったし。
「黒龍のこと、教えてくれて感謝する」
──でもミラボレアスがいるなら当然、ここはモンハン世界ということになる。
小さな村で手に入れた情報程度では、なにか誤りがあったのか。
もっと色んな情報がないと、この世界について正確な判断ができないな。
「頼みがある! 実を言うと俺は世の中について疎い部分があるんだ。一団が目的地につくまで、色んなことを教えて欲しい。それらの情報を護衛代にしてくれないか」
「ほほぉ……ハンター殿は情報こそが金と世渡り上手に繋がると実にわかってらっしゃる! 良いですぞ、承りましょう。一人の商人として頼みを受けた以上、護衛代はそちらに変えておきます。ですが、わたくし目の一団を救ってくれたお礼は別として、しっかり払わせてもらいますぞ~」
こうしてハンターは、一団が目的地につく日までダンジョンや冒険者や神などの詳しい情報を手にした。
一団と別れを告げ、情報を整理しハンターが一つの答えにたどり着いた。
「そうか、この世界の正体は…………」
ハンターはダンまちを知らないので、当然ながらたどり着くのは間違っている真実である。
「初代モンハンよりずっと前の時代。古代のモンハン世界だ!」
今の時代には天界から地上に来た文字通りの神がいる。神プレイヤー的な意味ではない。
神は『神の恩恵(ファルナ)』というレベルとステータスを眷属に与える力がある。ここで重要なのはファルナは神が地上で死んで天界に戻ると無効化される点だ。モンハン本編時代だと神は地上から去っているからハンター達にレベルが無いと考えれば、矛盾しない。
そしてファルナのレベルが上がることを『レベルアップ』ではなく『ランクアップ』と呼んでいる。
モンハンにある『ハンターランク』の『ランク』部分の語源がコレだ。
ダンジョンにはモンスターが沢山いるが、地上はそこまで多くはないらしい。俺が過ごした森のような人間がいない地帯だとまた違うようだが、人間が遭遇しやすい土地なら強いモンスターは基本的に見かけない。この前のハードアーマード達と一団の遭遇は珍しい例だとか。
これについては黒龍……もといミラボレアスが世界を破壊する方法としてオラリオを襲って、蓋をしていた塔のバベルごとダンジョンそのものを破壊。
ダンジョンが消えた影響でモンスターが世界に溢れる。言わばモンスターハンターワールドに変わってしまう。
それがキッカケでモンスターの生態系にも変化が起きた。魔石を落とさず、死体もすぐには消えない、俺が知るモンスター達になったのだ。
そうして、地上にいる人間たちがモンスターに襲われて多くの村や国が滅ぶ。
また、現在のギルドはダンジョンや神がいるファミリアの管理関係がメイン業務で、俺が知るモンハン本編のハンターズギルドとは異なる。
これは今の時代にダンジョンと神が存在するからだ。
一度、世界が滅んで人間とモンスターの時代となった後にハンターズギルドの形になる。
名前に関しても……ダンジョンに潜って冒険する者たちを『冒険者』と呼んでいる。だからダンジョンが破壊されて消滅すると同時に冒険者という呼称も自然と消える。
地上でモンスターを狩る者に……『ハンター』となった後、ギルドも合わせて『ハンターズギルド』に名前と体制が変わるわけだ。
地上に溢れるモンスターのせいで世界が滅び、神が天界に送り返された後……。
生き残りが、黒龍をミラボレアスと名付けて伝説として残した。
モンハン本編で見覚えが無い狼人や他の獣人たちは多くの人間が死んだ際に絶滅したのだろう。
いやまぁ俺が死んだ後の作品で出てるかもしれんから、そこは流石に断言はできんか。未来に当たるゲーム時代でもモリバーとか獣人族は多いし。
エルフに関しては……耳長いし長命だしで、単に竜人族の一種だなアレ。
生き残った人々の新時代で扱う、新しい硬貨も必要になる。
その時に『ヴァリス』から『ゼニー』に切り替わったわけだ。
とにかく、こうして俺が知るモンハン本編の世界へと完全に繋がる。
「このままミラボレアスを放置しておけば……俺にとって馴染み深い世界観にいずれ変わる。ゲーム本編のモンハンに繋がる。でも、それはつまり……」
世界が一度滅び、とてつもない数の死者が出る。
新時代を築く生き残りは居るにしてもだ。子供も大人も老人も大量に亡くなってしまう。
だから俺はミラボレアスを放置せずに、狩って未来を変えなければいけない。
待ち受ける滅びの運命を変える使命を与えられたからこそ、俺は古代のモンハン世界に転生したに違いねぇ!
「……なーんてな。使命っぽいのは建前だ。討伐目標がいるなら未来がどうとかゴチャゴチャ細かい考え抜きに、狩るに決まっているよなぁ!」
拳を突き上げて、高らかに声をあげる。
「なぜなら今の俺はハンター……モンスターハンターだ!」
ハンターは大いなる勘違いと意気込みを胸に抱く。
討伐対象を探すためにメイルストラの外へと踏み出す。
「待ってろよ、ミラボレアス!」
すっかりモチベーションを取り戻して笑うハンターの背中は、熱く、力強かった。
◆ ◆ ◆
天界の片隅、雲の間から下界を覗ける窓のような裂け目。
とある女神が頭を出し、そこから下界を見ていた。
女神の姿は、黒髪をツインテールにまとめ、首元の青リボンと胸の谷間が目立つ白いワンピース、低めの身長に反して胸は大きい。
女神の名はヘスティア。
彼女は今、ほっと息を吐いていた。
「あの子が元気になってよかった……」
彼女の視線の先には、黒龍の件で熱意を取り戻したハンターがいた。その表情は楽しげで、底抜けに明るい笑みが浮かんでいる。
神の力が制限される地上と違い、天界では女神として力が存分に使える。物理的に考えたら何も見えない距離のある下界の様子も、視線さえ通れば細かく見るくらいは造作もない。
ヘスティアは元々、下界にそれほど興味を持っていなかった。色んな制約がある地上の降りるよりも天界でダラダラと緩く過ごす日々を気に入っていたからだ。
ただ、地上に行く知り合いの神が少しずつ増えてきたので気になって、たまに地上を適当に覗き見していた。
僕がある日、なんとなく下界を覗いたとき、深い森で狩猟生活を続ける彼を見つけた。
人気が無い場所で一人でいるのに寂しさとは無縁の様子。
モンスターとの戦いには真剣でありながらも、楽しんでいる。
彼の心と身体の強さ……だけでなくエンジョイ&エキサイティングな雰囲気を気に入り、彼の日々を追うようになっていた。
元気で楽しげに過ごしていた彼が、村を訪れて以降は元気をなくした様子が続いた。
天界からの観察では室内の様子を見たり会話の聞き取りまではできない。それでも、なにかショックを受ける事態が起きたと分かる彼の落ち込みよう……。
「いっそ僕が下界に降りて、どうにか元気づけて……そのまま初めての眷属にしようかな?」
初めて下界に降りようか真剣に考えた。
ただ、神が天界から下界へ降りるのは、簡単でも気安くはできない。
下界で過ごすとなれば、神としての力のほとんどを封じた身体で生きることになる。
──結局はヘスティアが下界に降りる踏ん切りをしきる前に、ハンターは黒龍の話を知って元気を取り戻したという流れである。
ハンターが再び笑顔を取り戻したのを見て、ヘスティアは胸のつかえが一気に取れた気がした。
「ふふっ……良い顔で笑うのが僕好みなんだよね」
そういうわけでヘスティアは未だに天界に留まり、飽きもせずにお気に入りの彼を見守り続けていた。
ヘスティアの状況を簡単に言うと、自分好みの配信者を見つけて生放送に夢中になっている視聴者だ。
一方的ではあるものの、これもまた愛である。
転生ハンター「ここは古代のモンハン世界だ!」
ヴェルナー「(勘違いは)もう止まらんよ。 流れ始めたエネルギーと同じだ」