転生ハンターがダンまちをモンハン世界だと間違っているまま黒竜を狩る話 作:シャリ
リヴァイアサン討伐から二か月後。
山々が連ねる場所に存在する『竜の谷』。
地上モンスターだというのに強力な個体が多い地域なだけに、ハンターは喜んで狩りまくっていた。
リヴァイアサン素材で作成した水属性の片手剣『オデッセイG』で、目につくモンスター全てを斬り伏せていく。
上質な素材をたんまり確保しながら進み……。
ついに、探し続けていた相手を見つけてしまう。
「ようやく見つけたぜ! ミラボレアスぅ!!」
谷の深い部分を抜けると現れる、いくつかの広い空間。
その最奥で、目を閉じて横たわっている黒竜をハンターが発見した。
「なんかデザインがちょっと違うが……まぁゲームとリアルの差異の範囲だな。ゲームだとモデル作成のポリゴンとかの制約があるし。なにより、これまで出会ったどんなモンスターよりも強みを感じる! この存在感は間違いなく黒龍ミラボレアスだ!」
炎属性の片手剣『炎神剣アグニ』に武器変更し、黒竜に迫る。
敵を感じ取った黒竜が目覚め、禍々しい"両眼"で相手を捉える。
ゆらりと起き上がり、戦いの始まりを告げる大きな咆哮を谷中に轟かせた。
咆哮と同時に、黒竜の全身から邪気が噴き上がる。
エリア内の岩肌が薄黒く染まり、大地がメキメキと軋む。
「へぇ、カッコイイ演出だな」
ハンターは恐れず、むしろ楽しく笑う。
まずは左回りに距離を詰めて、斬りかかる。
片手剣の刃が振るわれる度に属性攻撃の火炎と血しぶきが飛ぶ。
黒竜は睨みながら右の前脚を持ち上げ、強く叩きつけた。
力だけで爆ぜて、えぐれた地面の塊が飛んできてぶつかる。
「ぬぐおお……!」
ふっ飛ばされて地面を転がるも、すぐに立て直す。
ダメージが重い。しかも予備動作が短い。
「リアルの狩りでヒリつく感覚ゥ! 面白い!」
息をつく間もなく黒竜が突進。
横に転がる回避で避けた……が、すぐに漆黒の尾が迫る。
反射的に盾を構えてガード姿勢。
「重っ!?」
素のガード性能が低い片手剣の盾では、スキルで補正されている状態でも受け止めきれなかった。
大きなノックバックが発生。ガードの上からダメージが通り体力ゲージも削れる。
黒竜が首を上げ、口内にチリチリと灼熱を灯す。
次の動作を読んだハンターがとっさに前へダッシュして飛び込む。上手いこと首の下に潜り込む。
次の瞬間、首を前に突き出した黒竜の口から極太の炎が吐き出される。
炎は目につく範囲の地面を全て焼きつかせた。熱波だけで空気がゆらぎ、地面の一部は高温でガラス化した。
難を逃れたハンターは素早く回復薬グレートを飲み干して全回復。
「よし、まだまだいける!」
片手剣で脚を斬りつける。それでも黒竜はまだ怯まない。
今度は翼を大きく広げた。
「飛ぶ気か」
──読みが外れる。
翼が地面を打つ。轟音と暴風が場を荒らす。
「うおおぉっと!?」
熱風が吹き荒れ、ハンターの身体が浮く。そのまま翼で叩かれて岩場に激突。
回復したばかりの体力が一気に削れる。
アイテムポーチから秘薬を取り出して飲み込む。
「秘薬は偉大!」
心が折れることなく、黒竜に接近して戦闘続行。
しかし、ハンターは防御と回避がうまく行かず被弾と回復が多い。
攻撃を受けてしまう原因は、ハンターが黒竜を黒龍ミラボレアスだと思いこんでいるせいだ。ゲームで覚えた動きとの齟齬で、行動を上手く読めていない。
体当たりからの噛みつき。
低空飛行中に範囲ブレスで追い込み、縦に一回転して尻尾の振り下ろし。
空からの着地時、周囲全域に放たれる邪気の衝撃波。
この黒竜は黒龍ミラボレアスではないので、ハンターの記憶にない動きを次々と繰り出す。例えると、PSP以来にモンハン復帰したプレイヤーが最新作の知らないリオレウスの動きに翻弄されている状態に近い。
さらに付け加えると火属性が効く黒龍ミラボレアスと違って、黒竜は火属性に耐性を持つ。
なので片手剣の刃本体でダメージが入っても、刃から吹き出る火属性攻撃の方はダメージの通りが悪い。コレが純粋な火ではなく、爆破が伴っていたら違っていただろうが……。
「くッ、はははぁ!」
それでもハンターは笑っていた。
俺がこの世界で戦ってきたモンスターの中で間違いなく、最強!
高難易度の狩りに挑戦する高揚感!
だからこそ、心が躍る!
あまりにも楽しい!
「モンハンは最高だァ!」
片手剣を握る手に力が入る。
左上から右下への斬り下ろし、右から左へ横斬り、折り返す形で左から右への水平斬り、右下から左上に斬り返しからの始動の斬り下ろしに戻る高速ループコンボを繰り出す。
その時だった。
連撃を受けた黒竜が初めてひるんだ瞬間、何かが地面へ転がる。
──黒竜の鱗。
戦いの中で傷ついた身体から剥がれ落ちた。
しかも、人里でモンスター避けとして見かける程度の鱗ではない。戦いの熱で禍々しくなっており、周囲の空気すら淀むレア度が高い一枚。
ハンターの視線がそれに奪われた。
「落とし物だぁぁぁ!!」
もはや条件反射。
攻撃を中断し、落とし物を拾い上げる。
確保したアイテムの詳細を確認。
【黒竜の邪鱗】
「うおおっ!? 邪鱗!! 知らんなぁ! だが、このレア度なら素材代用で」
突如として、視界が暗くなる。
「あっ」
視線を上げる。
目の前まで大きな足裏が迫っていた。
ドゴォォォン!
至近距離から放たれた前脚による叩きつけ。
まともに食らったハンターが立ち上がるも、ふらつく。
頭の上でピヨピヨと星が回る、状態異常『気絶』。
ふらふらと身体が揺れ、行動不能となる。
黒竜はゆっくりと首をもたげた。
口内に集束する地獄の業火。
まだ気絶が解けないハンターに向け、灼熱を放つ。
しっかり溜めた超高熱のブレスが空気中の水分を蒸発させる。高温になった大地が紅く染まる。
ハンターの残り体力がブレス直撃で全損。
ブレスを受けた身体は塵一つ残らず……竜の谷から消え去った。
◆ ◆ ◆
ダンジョンがある大きな都市、オラリオ。
ゼウスファミリアとヘラファミリアが一つの場に集まり、ざわざわと話し合っていた。
「信じられね~、一人でリヴァイアサンを討伐なんて」
「でもよぉ、証人もいるし本当の話だぞ」
「それが分かっていても、冗談みてぇな話だって意味さ」
「名前がハンターってのも珍しいよねー!」
「そんな名前なら狩猟の神が関わっているだろ~? と思いきや、彼を知らなかったわけだしな」
「ベヒーモスまで単独討伐とは」
「まるで英雄神話の主人公じゃのう」
「なぜ彼の主神やファミリアは名を上げなかった? ダンマリな理由がわからん」
「有名になれるチャンスなのにねぇ」
「主神がメチャクチャ恥ずかしがり屋なんじゃね~?」
一人の女性が両手を叩きパンパンと大きめの音を鳴らす。
視線が集まり、雑多な話は中断させられた。
彼女の名前はアルフィア。
まだ十代半ばの若さで、へラ・ファミリアの幹部となった人物。
見た目は銀色の長髪に加えて碧色と白色のオッドアイが特徴的だ。
衣装は黒を基調としたゴシックドレスを纏っている。大胆にも豊満な胸の上乳部分を晒しており、そこを始めとして見えている白い肌は血の気が薄い。
雰囲気としては芯の強さがあるが、それとは別にいずれ消えてしまいそうな儚さも兼ねている。
「この場ではムダな会話は求めていない。話をまとめよう。私たちが悠長に準備を進めている間に、ハンターを名乗る男がベヒーモスとリヴァイアサンを始末していた。二大ファミリアの討伐目標を見事にかすめ取られたわけだ。もはや三大クエストで残っているのは黒竜だけとなった」
ゼウスとヘラのファミリアは、ギルドに三大クエスト挑戦と遠征の認可を事前に取っている。
その上で計画を練り、作戦・人員・道具・装備などのありとあらゆるものの準備を時間をかけて行っていた。
歴史上最大の相手だけに、通常のファミリア活動をしながらもじっくり進める長期計画。それらが終わるよりもずっと早く、ハンターによるリヴァイアサン単独討伐の話がオラリオまで届いていた。
言うまでもなく大騒ぎになり、二大ファミリアによる事実確認が実施された。
確認した結果、リヴァイアサン討伐は真実であると判明。
偉大な功績をあげたハンターが現在どのファミリア所属なのか不明なのもあり、続けてハンターに関する情報収集も開始された。
すると偶然にも、ハンターがベヒーモスと戦って討伐する姿を遠くから眺めていた旅人を発見。
二大ファミリアは事前にベヒーモスの居場所と特徴を把握していたので、旅人が語る内容と戦闘の余波が残る場所を調べて真実であると結論付けていた。
アルフィアの言葉を隣に立っていた男が拾い上げる。
「惜しいものだな。それほどの英雄が、この世を去ってしまったのは……。協力して戦えたら、どれほど頼もしかったことか」
男の名はザルド。
ゼウス・ファミリアの幹部。
体躯の良い大男で、見た目通りの実力者である。
「歴史上でも類を見ないほどの英雄なのは認めよう。それでも……黒竜に一人で挑んだあげく死んだのは愚行であり、蛮勇であり、ただの愚か者だ」
ザルドとアルフィアが会話で触れているのは、ハンターが黒竜を相手に戦って倒れた話である。
なぜ知っているかというと、二大ファミリアは黒竜の居場所も前々から把握していた。混乱を避けるためにも場所はファミリア外には秘密にしており、遠視スキルを持つ者を監視につけていた。
監視の理由は他ファミリアが手出しをしないように、黒竜を見つけた者がいても口止めの契約をさせるため。
また、もしも黒竜が移動してしまった場合に、なるべく早く移動先などの調査を開始するためでもあった。
なのに、どうして監視者はハンターに声をかけなかったのか?
答えは……監視者が声をかける前にハンターが黒竜に向かってしまったからだ。
遠視中の監視者が想定していた流れは下記の通りである。
1,ハンターが見つけた黒竜を恐れて距離を取る。
2,距離が十分に離れてからハンターに声をかける。
黒竜に近づくのは不安要素が多く、危険性が高いからこその妥当な判断。
しかし、監視者の予想に反してハンターが勢いよく突撃してしまう。
「一人で黒竜に挑みやがった!? なに考えてんだ、あのバカは!」
まぁ何にせよ、すぐ死ぬだろう…………と思いきや、予想を超えて戦えていることに驚く。
最終的には敗北したとはいえ、想定外の出来事として急ぎ報告しにオラリオへ戻ったのだ。
「なんであろうと、既に死んだハンターは過去の英雄でしかない。大事なのは、今を生きている私たちのこれからだ」
アルフィアが集まったメンバーを見渡して続ける。
「便乗する形で癪に障る話だが……ハンターが討伐したことでベヒーモス戦とリヴァイアサン戦で想定していた物資の損耗と人的被害はゼロとなった。さらに、黒竜はハンターとの戦闘で多少は傷つき、疲労した。放っておけば完全に回復してしまうが、今から急いで向かえば僅かにとはいえ、こちらの有利に繋がる」
この場の代表として、ファミリアの誰もが待っていた号令を遂に出す。
「今こそ、黒竜を討伐する絶好の機会だ。出発するぞ!」
『うおおぉぉぉぉぉぉ!!』
◆ ◆ ◆
時は少し戻り、ハンターの体力が尽きてから数秒後。
竜の谷からずっと遠く離れたキャンプ。
「だぁーーーッ!!」
ベッドの上で、ハンターが勢いよく飛び起きた。頭をガシガシとかいてぼやく。
「あーあ……久しぶりに乙ったなぁ」
彼は黒竜の攻撃で倒れたが、本当の意味で死んではいなかった。
これが彼も認識していた自分だけの"仕様"。
モンハンでは基本的に……体力を失って力尽きること、通称『乙』を三回するとクエスト失敗になる。
転生ハンターである彼の場合、一日の範囲で二回までは数秒で一番近くのキャンプか拠点に復活する。
三回目は失敗判定として当日には復活しない。復活のタイミングは次の日となる。
……逆に言えば、一日待つだけで済むという話だ。
つまり、不老となった身体と合わせて事実上の不老不死になっている。
現状での不死性の消し方は二つ。
全キャンプと専用の居住地を廃棄してリスポーン地点が無い状態にすること。
または、目的があって彼を転生させて能力を与えた……とある存在がその能力を取り上げること。
「動きに慣れてきたのになぁ。でもレア素材を拾えたからヨシ!」
先ほど拾った素材アイテムの名称を再確認してボヤく。
「そういえば古代モンハン時代だと黒龍じゃなくて、黒竜なんだな。世界を滅ぼした際に竜から龍に成長する流れだったわけか。また一つ、この世界の知識が増えたぜ」
加工屋メニューを開き、目的の武器ページを開く。
「天鱗レベルの素材を要求されてるし、完成はミラボレアス討伐後だと考えていたから嬉しい誤算だ」
拾った黒竜の邪鱗と蓄えた素材を選択し、素材代用で強化生産。
「これこそが俺にとって……魂の武器!」
完成させた武器を取り出す。
槍と盾が銀色に美しく輝いている龍属性のガンランス。
【エンデ・デアヴェルト】
彼は確かめるように手に取り、じっくりと眺める。ゲームで一番好きな武器に触れられる嬉しさから口元が緩む。
「考えてみたら世界を破壊するなんて言われているミラボレアス相手に使うのに相応しいよな。なんたって、コイツは世界の終わりなんだからさ」
彼の言う通り、エンデ・デアヴェルトはドイツ語で『世界の終わり』という意味を持つ。
その名に違わぬ圧倒的な武器性能をしており、強力な古龍とも渡り合える逸品。
「よっしゃあ! 早速ミラボレアスにリベンジ……って、しまった! あの谷にキャンプ立てるの忘れてた……」
ハンターはゲーム同様にキャンプや訪れた村を対象にファストトラベルで瞬時に移動できる。しかし、キャンプを設置する前に黒竜を発見して勢いのままに挑んでしまった。
そのせいで乙った後の復帰地点が竜の谷から遠く離れたキャンプになっていた。
因みに女神ヘスティアは天界で使える女神パワーで彼をマーキングしており、彼がファストトラベルや乙で瞬間移動しても追って見れている。
「しょうがねぇか……。まぁ場所は分かったことだし、別に焦る理由も無い。せっかくだし、採取とか寄り道しながらのんびり向かおう」
・黒竜
隻眼ではない。
・片手剣の斬り下ろし、横斬り、水平斬り、斬り返しループコンボ(MHWs)
△→△→○→○繰り返し。
・エンデ・デアヴェルト
MHP2Gが初出の龍属性ガンランス。G級武器。
モンハンのプレイ日記書籍『逆鱗日和』シリーズの著者が推し武器としていた。
作者シャリの推し武器の一つでもある。カッコイイ。
・女神アルテミス
狩猟の女神なのでハンターのことを聞かれた。
「知らない……何それ……」と困惑した。