転生ハンターがダンまちをモンハン世界だと間違っているまま黒竜を狩る話 作:シャリ
後日談1話:ハンターがオラリオに来た話
とある日のキャンプにて。
ハンターは椅子に座り、ハンドル式の肉焼き機と焚き火で生肉を焼いていた。取っ手を掴んで肉をグルグル回す間、頭の中では軽快なメロディが流れる。
メロディが流れ終わり、少し間を開けたタイミングで肉を空高く掲げた。
「上手に焼けましたー!」
ハンターにしか認識できない女性の声がゲームと同じくどこからともなく聞こえ、ベストな焼け具合の『こんがり肉』が完成。
出来立てのこんがり肉をヘスティアに渡すと、彼女は小さな口で大きな肉にかぶりつき、一口目から伝わる旨みに唸った。
「おいしい! ……正直どうみても焼いてるだけなのに、飽きずに丸ごと食べれるくらいの旨味があるの不思議だよ」
「上手にこんがりと焼けた肉はいつだって美味しいものと決まっているからな」
彼がそう答えて、次は自分の分を焼こうとした時。
「【
鐘の音が響き、周りを巻き込むことなくピンポイントで放たれた音の衝撃がハンターを吹き飛ばした。
「ぬわあああ!」
「ハンターくぅぅぅん!?」
現れた銀髪の美少女が勢いよくハンターの上にまたがり、彼を地面に押さえ込む。
「ようやく見つけたぞ、手間をかけさせてくれたな」
押し倒されているハンターが相手を思い出す。
「お前さんは……あー……アルフィアだったか?」
「そうだ。今度は逃がさん」
二人の様子を見てヘスティアが叫ぶ。
「ボクのハンター君になにをする気なのさ!」
「今は話をするだけだ。主神のお前……ミラルーツも含めてだ」
「またミラ某に誤解されてるぅ!? ボクの名前はヘスティア! ミラルーツじゃないからねホントに!」
「……ヘスティアだと?」
馬乗りのままアルフィアが思い出すように告げた。
「ゼウスから聞いたことがあったな。ズボラでダラけていて自分が好きなこと以外には適当で、神としてやらなければいけないことがあってもギリギリまで後回しにしがちの処女神だと」
「なっ……! アイツめ~!」
下界に来てから初めて憤った後、ため息をつく。
「ハァ~、これだからアイツと関係がある眷属とは会いたくなかったのに……」
ブツブツ言いながら、ハッと気づいたというか若干の焦りまじりにハンターに向けて言う。
「ハンター君のことは適当じゃなくて大事に想っているから! 今の話で誤解しないでおくれよ」
「おうおう、わかっているさ。てーか、俺の上で話が展開されてるけど、そろそろ起きていい?」
「ふんっ……まぁいいだろう。お前たちが逃げた理由も含めて話をしようじゃないか」
そうして話し合いを行い、三大クエストをギルドに話を通さずにクリアしたことに対する罰則や処罰が無いとハンターはようやく理解した。
「勘違いだと分かって安心した~。いやはや、気が楽になったわ」
「よかったねぇ、ハンター君」
冗談抜きにホッとしている様子に、アルフィアが軽く呆れる。
「どういう誤解なんだ、まったく……。ともかく、三大クエストは世界の命運に関わる一大事だった。それぞれを達成した際の経緯についても、
「りょーかい。俺としてもオラリオはいつか行ってみたかったからちょうどいいな」
「オラリオかぁ……ボクも友神と会えそうで楽しみだぜ」
同意する返答を聞いたアルフィアは人知れずほくそ笑んでいた。
◆ ◆ ◆
太陽が沈み切った夜中。
オラリオにあるヘラ・ファミリアの拠点。
神会の開催は翌日。
ヘスティアとハンターが寝泊まりも含めて自由に使える部屋へと、アルフィアが二人を案内する。
「ヘスティアはこの部屋だ」
扉を開けると、そこには広々とした室内が広がっていた。精巧な装飾が施されたクローゼットや椅子をはじめ、ひと目で高級品と分かる家具が並んでいる。
「わぁ、すごく高そうなベッド!」
早速とばかりにクイーンサイズのベッドにダイブして身体を跳ねさせた。
そのまま全身の力を抜き、ベッドに身を預ける。
「移動で疲れたし、このまま寝ちゃおうかな」
「いいんじゃね。神会もすぐには終わらないだろうし、ちゃんと休まないとな」
「うーん……そうするよ。おやすみ、ハンター君にアルフィア君」
「おやすみ~」
続いてアルフィアは、ハンターが使う部屋へと案内した。
その部屋はヘスティアが使う部屋の隣……ではなく、少し離れている部屋だった。
促されるまま部屋へ足を踏み入れた彼は、ゆっくりと室内を見渡す。
「部屋の中は……ヘスティアのところと同じか」
彼は頭防具を外すと肩をぐるりと回し、息を吐いて身体の力を抜いた。
カチリ、という小さな金属音がハンターの背後で鳴る。
アルフィアが後ろ手に鍵をかけた音だ。
銀色の長い髪が夜の照明に艶やかに揺れる。
碧色と白色のオッドアイが、獲物を狙い定めた獣のように静かに見据えている。
「む?」
大型モンスターに発見されて敵視アイコンがついた時のような強い視線を感じたハンターが振り返った瞬間、アルフィアは一気に距離を詰めた。
細い腕が彼の胸を押してグイグイと押してベッドへと導く。
「なんだなんだ?」
予想外の行動をされて、訳が分からないまま押し倒された彼の身体を柔らかいマットレスが受け止めた。
アルフィアがまたがるようにして彼の上に覆い被さる。
「……どういうつもりなのか聞いてもいい感じ?」
彼の言葉を受けて、顔を寄せる。
「妙な勘違いをされないようにハッキリ伝えておく」
お互いの顔が近づいたことで、彼の頬を撫でるように銀髪がかかる。
「お前を好きになった。友人や冒険者として憧れての好きではなく、女として惚れたという意味だ。私の夫になれ、ハンター」
鐘の音のような澄んだ声音で告げると、アルフィアは迷いなく唇を重ねた。
──アルフィアは恋愛経験が無い。
なので、先に男を捕まえていた妹メーテリアに助言を求めた。
「既成事実を作ればいいのですよ」
身も蓋もない明け透けな一言から始まり、どうヤるかの性技も含めて教えてもらっていた。
なので、この状況の原因として半分くらいはメーテリアが悪い。多分。
彼女にとって初めての口づけ。
「……んっ……!」
相手の熱を求めて幾度か触れ合う。
やがて名残を惜しむように唇を離したアルフィアは、まっすぐにハンターを見つめた。
「返事を聞かせろ」
ハンターもまた、彼女の瞳を覗き込む。
自分に自信があると同時に、強い口調とは相反する拒まれることへの怯えと不安も垣間見える。
先ほどのキスも含めて、彼女から真剣な覚悟と想いを感じ取った。
「わかった。夫婦になろう。ただし、一つだけ条件がある」
出された条件を聞いた彼女は、静かに思案する。
短い静寂の末、答えを出す。
「……仕方あるまい。それでいい」
アルフィアはハンターが出した一つの条件を飲むことにした。
そもそも拒絶された場合は無理やりにでも事に挑んで既成事実を成立させるつもりだったので、むしろそれだけで済んでよかったとすら考えている。
条件については一旦さておき、彼がアルフィアを嫁にしてもいいなと決めた一番の理由だが。
(アルフィアって改めて見ると……この世界で俺が出会ってきた中では一番キリン装備が似合いそうだな!)
ゲームのモンハンを題材に描かれるエッチなイラストや成人向けの同人誌はキリン装備やナルガクルガ装備などの女ハンターの作品が多い。
つまり、キリン装備が似合う女性が好きなモンハンのプレイヤーは多いとも言える。
モンハン好きな転生者である彼もその内の一人だった。
なんにせよ男女の関係が成立したことで部屋の空気が穏やかになる。
さっきまで自分からキスするなど強気だったアルフィアが、不意に視線を泳がせた。
「これで……その、アレだ。お互いの気持ちは通じ合ったわけだから」
彼女はわずかに頬を染めて続ける。
「お前からも……好きだと言ってほしい」
最後の方だけ声が小さくなった。
要望を受けた彼は、彼女を安心させるためにも声に出す。
「俺も好きだ。……まぁ、俺の方はさっきの告白がキッカケだけどな。それでも、一人の男としてアルフィアのことをもっと深く知りたいと本気で思っているぞ」
飾り気のない好きの言葉。けれど、噓偽りのない言葉。
彼女が求めた答えとしては十分だった。
「……ふっ。ふふふ……」
満足そうにふにゃりと表情が緩んだ彼女は、ヘラ・ファミリア内で一番の実力者として恐れられる人間には見えないほど、年相応の恋する少女の顔をしていた。
──そんなわけで、同意の上で男女として事に及ぶ。
アルフィアが満足いくまで自身の
「寝取られじゃないかああああああああああああァァァ!!」
なんなら声どころか鼻水や涙も出ている。
「悪かった。でも、ちょっと落ち着いてくれ」
「落ち着けるわけないよォ! ハンター君がアルフィアの夫になるって……ハンター君がボクから離れていっちゃう……!」
嘆いているヘスティアは神様とは思えないくらい情けない顔をしている。
ハンターの背後に控えているアルフィアに敵意を向ける元気すら湧いてこないほどショックが大きい。
「じゃあ、そのまま聞いてほしい。アルフィアの真剣な想いは無下にしたくなかったし、見た目は好みだったしで夫になることを受け入れたが、代わりにアルフィアには条件を出してそれを飲んでもらったんだ」
「うぅぅ……条件……?」
潤んだ瞳がゆっくりとハンターの顔を見つめる。
なんのことだがわからず、まばたきを繰り返す。
「俺がヘスティアも嫁にするのを許してくれって条件だ。アルフィアだけじゃなくてな」
一瞬、ヘスティアの動きが止まった。
「え? そ、それって……」
彼女の声が上ずる。頰がみるみる赤く染まっていく。
ハンターは照れくさそうに頭を一度かき、でも真っ直ぐに彼女の目を見て気持ちを伝える。
「俺がこの世界で一番好きな女性はヘスティアなんだ。ずっと前から見守ってくれていたことを聞いて嬉しかったし、楽しむノリが俺と合うし、一番可愛いし、この先も一緒に居たいと思ってる。離れるなんてとんでもないね。まぁ重婚になっちまうが俺と夫婦になってほしい」
優しい手つきでヘスティアの頭を軽く撫でる。
「それにMHRハンターこと【猛き炎】もなんだかんだでヒノエとミノトを嫁にして三人で添い遂げてそうだしな!」
やはりというか、彼の判断基準にモンハンが入っていた。こればっかりは、どうしようもない。
「ええーと、その人たちが誰だかわかんないけど……嬉しい!」
小さな身体がぎゅっと彼にしがみつく。
神様らしい神聖さなど微塵もなく、ただ一人の女の子のように。
「ボクも……ハンター君のことが大好きさ! 一緒に旅をして、キャンプして、ふざけたり遊んだりして、近くでキミの熱を感じて……天界でただ見ていた時よりもずっと好き。だからボクもハンター君のお嫁さんになる!」
「よかった。そう言ってもらえて俺も嬉しいな」
黙っていたアルフィアが彼の背中ごしに疑問を投げる。
「処女神なのに重婚を受け入れるのか? 断って私の夫の単なる主神でいてくれても構わないが」
良い雰囲気に水を差されたヘスティアが、ジト目で答える。
「本音を言えば重婚じゃなくて独占したいけれど……ハンター君もアルフィア君を気に入っているようだし、もう先に手出しされたし……そこまで欲張らないよ。それにアルフィア君は人間じゃないか。同じお嫁さんでも、人間と神様というカテゴリが違うからボクは構わない。というか、拒否してハンター君をみすみす渡して一人占めなんてさせないんだからねっ!」
ヘスティアの意識が自分から逸れた隙に、彼が耳打ちする。
「この世界で一番愛しているよ、ヘスティア」
「ひゃう!?」
ヘスティアの唇が小さく震えた。顔を真っ赤にしたまま、モジモジと身をよじる。
「急にそんな風に言われたら……ボク、照れちゃうよ……へへへ……」
そう言って再び彼を強く抱きしめる。
さっきまでの大泣きが嘘のように、幸せそうな笑顔を浮かべて。
「ボクも愛してるぜ、ハンター君!」
後ろから、ハンターの肩が人差し指で強めにつつかれる。
つついたアルフィアの表情はむすっと不満げだ。
「おい。『愛している』の方は、まだ私は言ってもらえてない。不公平だ」
「すまん、出会ったばかりでそれを口にすると重みが無い発言になってしまうから言えない。アルフィアのことをもっと深く知って、一緒に生活して心の底から言えるようになってから伝えたいんだ」
「……そうか、わかった。だが、覚悟しておけ。すぐに本気の気持ちで言わせてやる」
ちゃんと自分を大事に考えてくれていると分かったので、彼女は素直に納得した。
二人の会話を聞いたヘスティアが、先に手出しをされた意趣返しとしてヤジを飛ばす。
「やーい、愛を囁かれてない周回遅れ妻」
「はん……言ってくれるじゃないか。ヘタレて出遅れをかました処女神が」
「なにおぅ!」
言い争いが酷くなる前にハンターが口をはさむ。
「二人とも俺の嫁になったからヘスティアとアルフィアも家族になるわけだし、仲良くしよーぜ。その方が今後、きっと楽しいからさ!」
夫になった彼の言葉を受けて、アルフィアがため息をつく。
「…………チッ、そもそも条件を飲んでいるわけだから……そうする他ないか」
「渋々感を隠さないねキミぃ」
そんなわけで、ハンターとヘスティアとアルフィアの関係に決着がつくのであった。
早速とばかりに、夫婦になった件をゼウスとヘラに報告。
思ってもみなかった重婚報告にゼウスとヘラは「あのヘスティアが!?」とそろって驚く。
しかし、ゼウスの方はすぐにヘスティアをからかい……彼女から容赦ない金的を食らってしばらくの間うずくまる羽目になった。自業自得である。
ファミリアが異なっていて、かつ、知っている神同士の眷属による結婚は直近でメーテリアという例がある。
それもあってハンター達の結婚は問題なくあっさり了承された。
他の決定事項だと、人里をモンスターから守るためにハンター達が行っていた黒竜素材の配布だが、以降はゼウスとヘラの二大ファミリアが代わりに実施することになった。自分たちはクエストに挑戦すらできなかったので、後始末くらいは任せて欲しいという自らの申し出だ。
ファストトラベルで行ける人里には配布済みだったので、それ以外なら人手を使った方が早く済むとハンターも了承して素材を引き渡した。
◆ ◆ ◆
神会。
オラリオにいる神々が集まり、話し合いを行う場。
めんどくさがって来ない神も通常ならポツポツいるが、今回ばかりはほとんどの神が出席している。それだけ三大クエストの達成というのは大きい事態なのだ。
しかも通常なら人間の立ち入り厳禁とされている神会に特例で人間が参加している。
もちろん、特例の参加者はハンターだ。
事前に言われていた通り、三大クエストを達成した経緯を話し出す。
「まず、俺は他の世界から転生してきた転生者で」
神にウソは通じないので転生者であると話し、転生チートについても実際に武器を取り出して説明した。
ただし、ヘスティアから言われてリスポーンできることは流石に隠して、話すのはファストトラベルまでにしている。黒竜にやられた時については、能力で移動したと詳細を飛ばして事実を口にすることで誤魔化しきった。
ハンターの語りが終わった途端に、神々はざわざわと騒ぐ。
神全体の中でも特に若い神達はハンターの話に疑いを持った。
短髪の若き男神が声を張り上げる。
「よその世界から来たなんて流石にありえねーだろ! 俺は下界と天界以外に世界があるなんて聞いたことすらねーし」
メガネをかけた若き女神が冷静に疑問点をあげる。
「彼が転生チートだと表現し、認識している力は生まれ持ったスキルであり、別世界からの転生者であるというのは彼の思い込みか勘違いではないのでしょうか?」
カールがかかった髪をいじる若き女神がボヤく。
「ウチは見てないけど昔の子供たちってさ~、神の恩恵を持ってないのにモンスターと戦えるのが稀にいたらしいよね。それだけ強かった状態にたまたま先祖返りしたって方が現実的じゃないかな~? それも前例を聞いた覚えないけど~」
今し方ツッコミを入れた若い神以外の女神と男神の表情は険しい。
いつもなら大声でふざけるタイプの神ですら、冷や汗をかいて隣の神とボソボソと小声で会話する始末。
……ざわめきが落ち着いたところで一柱が女神フレイヤに確認を依頼した。
人間の魂の色を見る能力を持つ女神フレイヤがハンターをよく観察して結論を出す。
「女神フレイヤの名において断言するわ。ハンターは間違いなく別の世界から来た子よ。魂の色合い自体がこれまで見てきたどんな魂とも異なるもの」
フレイヤから見えているハンターの魂の色は、薄い黄金と黒の二色。
二色ある上にどこか異質なものを感じ取ったので、フレイヤはハンターは別の世界の人間だと判断していた。
因みに二色ある理由は、黒龍ミラボレアスが与えていた能力を彼の魂に定着させて黒色が発生したからだ。そんな理由なので、正確に言えば別の世界の人間だから二色あったわけではない。微妙に勘違いである。
ついでに言うと、女神フレイヤは黒龍ミラボレアス成分とも言える魂の黒い部分に忌避感を覚えたので、ハンターに惚れたり気が向いたりすることはなかった。
どうでもいい補足だが、薄い黄金と黒はモンハンシリーズのロゴに存在する配色だったりする。
古き神が引き継いで語る。
「ハンターが転生者なのは疑いようもない。じゃが、別の世界から転生させるなんてムチャができる神はこの場にも天界にもおらん」
「だったら誰ができんだっての」
「"外なる神"じゃよ」
聞き覚えがない名称に先ほどの若い神達は「?」と眉をひそめる。
「外なる神は下界と天界も含めた世界全体を好きに改変も破壊も再誕もできるとされている存在じゃ。我々が知覚できない外側と関わりがあるとも考えられておるが……実際のところはなにもわからん。外なる神の姿を見た者や声を聴いた者もおらんしな。それでも、漠然と『存在している』と言える。若いお主らもいつか天界に戻った後、いずれ理解できるはずじゃ。これ以上は口にすることすら憚られるのう」
若い神を除いた他の神々も頷いたことから、語られた内容が真実だと分かる。
「とにかく……外なる神がその気になればワシらも世界も根源から消滅する。外なる神のお気に入りかもしれんハンターに余計な手出しをして怒らせたりしないようにした方がよかろう」
こうして、二つのことが決まった。
一つ、ハンターがヘスティア・ファミリア以外に移籍するのは禁止とする。
二つ、バランスを考慮しヘスティア・ファミリアが持てる眷属はハンターが所属し続ける限り、ハンターのみとすること。
ヘスティアとハンターは特に不満なく決めごとを受け入れた。
むしろヘスティアからすると、ハンターの移籍をかけた戦争遊戯が発生しないと保証されて安堵している。
ちなみに外なる神という概念じみた存在をヘスティアも知っていたが興味が湧かず、どうでもいいカテゴリ内の一種だったので気にしていなかった。
実際のところ、ハンターの転生に関わったのは本来ならば何も関係が無い世界にいる古龍だ。
ハンターと外なる神の繋がりをどれだけ心配しても無意味でしかない。
今回に関しては、ヘスティアのお気楽な判断が大正解だった。
──続いて、ハンターが【モンスターハンター】について説明する。
まず、この世界がモンハンで自分の前世では娯楽物として描かれていること。
時代で言えば今は古代モンハン時代で、本来の歴史だと黒竜によって世界が一度滅び、自分が知るモンハン世界に繋がるということも含めて話した。
意外にも淡泊な反応で、若い神以外からは事実として受け入れられた。何も当たってない勘違いなのに。
「世界という大枠は多いらしいからのう。ワシらの世界が描かれている遠い世界があって、そこからお主が外なる神によって引き込まれてもおかしくないわい」
よく考えてなかったヘスティアはともかく……外なる神を知る者ならば、そういう可能性も考えたことがあったのだろう。
ただまぁ声に出していないだけで、初めて聞かされた時のヘスティアのように内心で驚く神もいたが「いや、俺もそういうパターンも想定してたし? 動揺なんてダサい真似しないが? わかってたし?」と見栄を張っていたりする。
それはそれとして……。
ハンターが本来なら世界が一度滅んだ影響で生態系が変わって現れるはずだったリオレウスのような大型モンスターや歩くだけで国が崩壊するラオシャンロンのような古龍やハンターについてなど世界観についても解説するとツッコミが入った。
ツッコミを入れたのは、遠回しに他の神から知識不足や神として経験不足と揶揄された若い神々。
「ちょっと待てや! いくらなんでも、三大クエスト並みかそれ以上っぽい古龍とやらが多すぎるだろ! それこそ人類絶滅してないと道理が立たねぇだろうが!!」
「世界中で小型から強力な大型まで多くのモンスターが闊歩するモンハン世界は……バベルの塔がダンジョンの蓋をする前の時代の世界観に近いですね。しかしながら先の彼の意見と似た観点ですが、モンスター全体が強すぎるかと。子供たちが……ファルナを知った上で私たち神という拠り所を失ってしまった人類が対抗できるほど強くあれるでしょうか」
「ウチも詳しくないけどぉ、昔のファルナ無しで戦えた英雄ってそんなにいなかったはずだよね~。それを考えるとモンハン時代のハンター多すぎじゃない? そこのハンターちゃんが異世界から転生した子なのはさっき証明されたけどぉ、この世界がモンハンかどうかはわかんないよね~。ステイタスの代わりになる、何かがあるならともかくさ~」
彼らの考えを聞いた他の神も一理あるかもしれんなと唸る。
とはいえ、真実か否か断定しようがない……となったタイミングで鍛冶を司る女神ヘファイストスが提案してきた。
「モンハンの装備を提供してくれたら私の方で見て何か判断できると思うわ。ただし、研究にも使わせてもらうけど」
この提案に他の鍛冶系ファミリアも「うむ! 我らにも確認と研究をさせるべきだ!」と便乗。
モンハン装備に興味津々なのは明らかだった。
ハンター本人も了承したことで、ハンターが余らせていた素材で下位装備を一通り生産して該当ファミリアに提供。
それによる判断は後日として解散となった。
◆ ◆ ◆
ヘファイストスは自分の作業場にて並んだモンハン装備を眺めていた。
その中から片手剣『ドスバイトダガー』を手に取る。
刃の部分をコンコンと手の甲で叩いて感触を確認。
「コレを含めて、どれも戦闘中に壊れない……
鍛冶の神だからこそ、細かい違いを読み取っていた。
「その上で、私たちが付与できる不壊属性よりも性能が良い。今の技術と手法だと同じ不壊属性でも、この子たちのように砥石で研ぐだけで済む程度の劣化に抑えきれない。どうしても鍛冶師のメンテナンスが必要になるもの。完全に負けているわ」
鍛冶師の立場であっさり敗北を認めるも、声の調子は高い。不機嫌どころか、機嫌が良い。
「これらは不壊属性に伸び代がある証拠で……未来の武器である証拠ね。ワクワクしちゃうじゃない」
片手剣を戻し。次は弓とボウガンに目を向ける。
「尽きることがない矢を放つ弓と、リロードさえすれば何度も通常弾ってのを撃てるボウガン。それだけ聞くと神器よね。でも、未来の武器であって量産されている点を事実として考えたら」
顎に手を当てて、推測する。
「不壊属性を元に産み出された新属性ね。放たれた後の矢と弾は弾着後には回収できない。無限の資源にはできない縛りをかけることで、無限の矢と弾丸がギリギリ成り立っている……」
カラクリを突き止めたが、大きく息を吐いた。
「そこまで分かっても私たちが再現……いえ、新属性を成立させて付与まで成功するには最低でも千年くらいは必要かしら」
次はガンランスとスラッシュアックスとチャージアックスに視線を向けた。
「砲撃にせよ変形にせよ……私から見ても機構があまりにも複雑すぎる。ここにある見本を参考にしても、同じ武器種の新しい武器は今の技術だと作れないわね」
まいった、とばかりに頭をガジガジと掻く。
「仮に、この完成品を見本に全く同じ武器を複製しても……今の不壊属性の質だと使い物にならない。ガンランスだったら砲撃を数発撃つだけで、フレーム劣化で機能不全に陥るはず。先に不壊属性の質を上げる必要がある前提条件も考慮すると、販売できるレベルの逸品を生産なんて百年でも足りないわね」
続いて、属性武器に目を向ける。
「今の時代で作れる属性武器……のようなものは魔剣がある。でも、魔剣はあくまでも誰が使っても魔法を放つ剣の形をしたアイテム。不壊属性と両立できないから何度か使ったら砕ける特徴も含めて武器ではないのよね」
炎属性ランス『レッドテイル』を指先で触れる。
「モンハンの属性武器は素材の力を引き出しつつ、魔法のように放つのではなく武器に纏わせて形で力を留めている。魔剣のような攻撃範囲はないし、活かせるかは使い手の技量次第になるけれど……そうやって限定化する制約で不壊属性と両立ができている。面白い発想ね。モンハン武器の研究さえ進めば、私たちの手による実現まではそうかからないかもしれないわ」
──神である私が、武器の新たな可能性をこんなにも見せつけられるとは。
久方ぶりに、鍛冶そのものへの探究心が強く刺激されていた。胸が高鳴り、自然と口元に笑みが浮かぶ。
一旦、落ち着いて……武器よりも興味を引かれた装備を並べた場に足を動かす。
移動し、木製のマネキンに飾っている多くの防具が視界に入った。
ひとまず気持ちを落ち着かせると、武器以上に興味を惹かれた装備の展示へと足を向ける。
歩みを進めた先には、木製のマネキンに飾られた数多くの防具が並んでいた。
「モンハンの武器も十分に興味深かったけれど……鍛冶師として、それ以上の衝撃を受けたのは防具の方なのよね」
……オラリオにおいて、私たち鍛冶師も冒険者も武器と違って防具は注力していない。
理由は、ステイタスが伸びれば肉体の頑丈さが上がるから。
特に高レベルの冒険者は防具よりも己の肉体を信じている。
また、敏捷で足が速くなって攻撃を避けることに比重を置く者も多い。動きが制限されるのを嫌って、ただの着物や薄着……それどころか男の冒険者は半裸で活動する者もいる。
ファミリアの装備販売店にある高額商品もほとんどが武器。
売り上げも武器が圧倒している。防具はオマケと言っても過言でもないわ。
「対してモンハンの防具は……私たちの防具とは別格ね」
まず、武器のように不壊属性を付与できている。私たちの製法だと付与ができない。
次に、防具を着用すれば被弾箇所がどこであっても防具の防御力が適用される。
そして、なにより……防具ごとに着用者に付与されるスキルが存在する。
まるでステイタスで付与されるスキルのように。
「本当にとんでもない話よね」
なぜ、ここまで防具の発展に力を入れたのか?
……そんな答えはハッキリと分かっている。
装備をよく見た今なら、確信を持って言える。
「黒竜が滅びをもたらして……私たち神がいなくなって、子供たちがファルナを失ったせいね。頼りになるステイタスの代わりに防具こそが命を繋ぐために必要不可欠だった。つまり、防具が大きく発展している事実こそがハンターの話を裏付けているわ」
世界が一度滅びを迎えて、どうにか生き残った子供たちは……どれだけ不安だったのか。
かつての時代よりも強力な大型モンスターや古龍種が闊歩する地上で生きていくのがどんなに大変だったのか。
想像もつかないほどの危険があったはず。
「それでも……子供たちは生きることを諦めなかった……!」
目の前にある装備はハンターの能力による再現物。
でも鍛冶を司る神の私なら、触れれば元の装備が産み出された熱量を感じ取れる。
本来の歴史で……幾多の困難に満ちた未来にあっても、子供たちは決して歩みを止めなかった。
モンスターに抗い、知恵を重ね、技を磨き、積み重ねた果てに……これらの装備へと辿り着いたのだ。
眩むほど輝く子供たちの意思によって成し遂げられた美しさが、ここにある。
それに比べれば、オラリオの防具技術はあまりにも立ち遅れている。
モンハン防具という理想を体現した完成品を参考に研究しても、これらと肩を並べる域へ至るまで一体どれほどの歳月を要するのか見当もつかない。
百年どころか千年の時間が必要になるかもしれない。いや、千年を費やしてなお遠く届かない可能性すらある。
──だとしても!
「私が……いいえ、新たな未来を歩む今の私たちが……必ずあなた達の高みまで辿り着いてみせる。女神ヘファイストスの名にかけて約束するわ!」
目の前にある防具を……愛おしい存在を抱きしめる。
「だから今だけは……こうさせて」
子供たちの尊さに私の胸が満たされ、涙がこぼれ落ち続けた。
──ちなみに鍛冶に心得のある者や、装備の本質を見抜ける他の神々も、おおむねヘファイストスと同じ感覚に陥っていた。
『ああぁー! 子供たちがてぇてぇなー!』
そんなこんなで神々はモンハンの装備を「現代の装備が発展した未来の産物」だと盛大に誤認し、ハンターの話を裏付ける証拠だと勘違いしてしまった。
後日、神会の場にて。
「──以上により、この世界がハンターの言う通りモンスターハンターの世界だと認める。あっ、因みになんじゃがモンハン世界だってことは秘密にする必要はないぞ。すでに口の軽い一部の神が広めておったようじゃしな。それにワシら神々がいなかった以前の時代からすれば、神がぞろぞろ地上に居る現在だって信じられん話になるしの~」
この世界がモンハンであると認められてしまった。
なにもかも、真実を知る者が不在なせいである。
ダンまち世界がモンハン認定されてしまった神会からの帰り道。
ハンターと腕を絡めて歩いていたヘスティアは、小さく微笑むと彼を寝宿へと誘った。
部屋へ入ると、彼は彼女に促されるままラフな格好になり、ベッドの縁へ腰を下ろす。
「ねぇ……ハンター君」
ちょこんとハンターの脚に座り、対面座位の体勢になったヘスティアが上目遣いに彼を見つめる。
「アルフィア君には先に手出しされちゃったけど……ボク、ハンター君とこうして二人きりになれるのを、ずっと楽しみにしてたんだよ?」
そう言って彼の胸元に顔をうずめる。
「本心からボクと同じ好きだって分かっているから、アルフィア君のことも大切にしてほしい。でもね……主神のボクだって、一人の女の子としても愛されたい」
彼女の身体は小さく緊張で震えていた。
ハンターは愛おしさが胸いっぱいに広がるのを感じ、彼女の背中を撫でて緊張を溶かす。
「俺にとって、ヘスティアは主神とか関係なく可愛い女の子だよ。俺を選んでくれて、好きになってくれて……ありがとな」
「ハンター君……っ!」
顔を上げたヘスティアの青い瞳は、潤んで煌めいている。
ハンターは片手で彼女の柔らかい頬を優しく包み込み、ゆっくりと顔を近づけた。
「……んっ」
そっと重なる、ふたつの唇。
最初は触れ合うだけの優しい口づけ。
しかし、お互いの体温と愛しさが伝わるにつれて、自然とキスは深くなる。
ヘスティアの小さな口孔がわずかに開くと、互いの舌が絡み合い、甘い蜜を確かめ合うような濃厚なものへと変わっていった。
「ん……ぁぅ……んっ、ふぁ……ッ」
初めて味わう口づけの快感に、ヘスティアの身体が小さく跳ねる。
長く熱いキスの後、吐息を漏らしながら唇が離れると、ヘスティアの顔は朱に染まっていた。
「初めてキスしちゃった……すごく、心があったかい」
「俺もだよ。……このまま抱いても大丈夫か?」
「うん……。ボクが処女神だったのは、そういうことをしたいって思える相手が、今までいなかったのが大きいし……。それに正確に言えば、天界にいた頃のボクの身体と、今この下界にいるボクの身体は別物だし……」
神ではなくただ一人の女の子として、目の前の相手を求める。
「ハンター君の全部で……ボクを愛して」
「わかった。最後まで続けて、いっぱい愛するよ」
こうして、二人は男女として深い繋がりを得るのだった。
◆ ◆ ◆
これは後日の話になるが、鍛冶系ファミリアはハンターの話を参考に、不壊属性武器専用の砥石を販売し始めた。
その砥石は武器種ごとに異なる専用品での販売であり、モンハン原作のように鍛冶師の手入れが不要になるほどの効果があるわけでもない。
それでもダンジョン内で簡易的に切れ味を回復できるようになった恩恵は大きく、不壊属性武器を扱う冒険者たちはこぞって買い求めた。
さらに、モンハンワイルズに登場する武器装飾品『チャーム』も商品化された。
もっとも、そのデザインは原作の再現ではない。各ファミリアのエンブレムや鍛冶師ごとの工房印など、この世界ならではの意匠が中心となっている。
これらは高価なユニーク武器を愛用する冒険者たちの心を掴み、ブランド自慢のようなノリで好評を博した。
その流れに便乗して「飾りなら俺たちにも作れるな!」と美術系ファミリアなども独自のチャームを販売し始める。
こちらは量産武器でも気軽に自分だけの個性を演出できる点が受け、特に低レベル帯の冒険者たちから高い支持を集めた。
モンハン装備の研究開始に加えて、砥石とチャームの普及。
もう繋がりがないはずのモンハン世界に、ダンまち世界側が歩み寄ってしまったのだった。
・アルフィア
後日、ハンターに頼まれてキリン装備を着てみた。
割と気に入り、そのまま致した。
・アマゾネス
英雄の3人目以降の嫁にさせろ!と押し寄せて来たがアルフィアのゴスペルで吹っ飛ばされた。
・メーテリア
姉にも夫ができてニコニコしている。
・女神アルテミス
オラリオに寄ったら、自分と同じく処女神だったヘスティアが夫を見つけたうえに重婚だったので凄くビックリ。
でもヘスティアが幸せそうだったので、祝福した。
【後書き】
ヒロイン周りの話はもっとバッサリと描写カットする案もありましたが、まぁコレ本編じゃなくて後日談だし別にいっか、とそのままにしました。
(前作長編のフリーレンも後日談でヒロイン部分に尺取ったし、それどころかR18外伝まで書いたし…)
勘違いの定番の一つと言えば"好き"を友愛の好きと勘違いですが…戦闘能力を除けば最強女性疑惑のメーテリアが生存している時点でそんなのムリですねハイ。
興味本位でキリン装備のアルフィアさんの画像が無いか探しましたが見つかりませんでした。
似合いそうなのに…残念…!
本編最終話でのクエスト報告(感想、評価)ありがとうございました。糧にして更新がんばります。
次回。
ハンターさんが勘違いして、とあるファミリアと遊ぶ話です。