血しぶきハンター   作:みこみこみー

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10話 小太りのバディ

 

「これでよし……と」

 

 トンパが腕時計型のタイマーを身につけるのを貴方は見届けていた。

 タイマーには試験の残り時間の表示と、「⚪︎」と「×」のボタンがついている。

 どうやらこれを用いて多数決を行いながら進んでいくようだ。

 そう理解した貴方の腕にタイマーの姿は無い。

 

〈遅れてきた16番と乱入者の326番は運命共同体になってもらう。2人揃って生きてゴールに辿り着いた時、初めて合格としよう。〉

 

 定員を超え6人になってしまった貴方達に提案されたのは、そんなルールであった。

 貴方は大迷宮の道に戻って攻略していいと言われたが、迷子常習犯の貴方には迷宮などクリアできる自信も無いので、大人しく多数決の道で行くことにしたのだ。

 貴方には多数決の票を入れる権利すらないが。大迷宮をほとんど探索出来なかったことが悔やまれるが致し方無い。

 

 道の途中にある試練でも貴方とトンパは一心同体であり、一人ずつしか受けられない試練はタイマーを持つトンパのみが挑戦できる。

 貴方にとってはかなり不利なルールだが、貴方は大迷宮の攻略を諦めている上に、この中で貴方だけ念を使える。仕方のないトレードオフであると貴方は受け入れていた。

 実際はこれ以上貴方を暴れさせないことが一番の目的であるが、貴方はそれには気付いていない。

 

 ゴゴゴ……

 

 5人がタイマーを嵌めたことで扉が現れ、一行はそこへ注目する。

 早速多数決だ。「このドアを ⚪︎→開ける ×→開けない」

 

「こんなもん答えは決まってんのにな」

 

 ピ、と5人がボタンで票を入れ終われば結果が表示され、⚪︎4と×1で扉が開いた。

 

「誰だ!? ×のボタン押したのは」

「ああスマンスマン、ハハハ。オレが間違って押しちまった」

 

 白々しく謝るトンパをレオリオが睨みつけたその時、貴方は背後からトンパの尻をドゴォッっと豪快に蹴り上げた。

 ×を押したのは明らかに故意だった。次に同じ真似をすれば腕を落とす。別にトンパが生きてさえいれば達磨にしたって試験はクリアできるのだ。

 

「ぐえっ!! ……わ、わかった! 協力する! するから武器を降ろしてくれ!!」

 

 貴方は頷いて先を促した。トンパが死にかけた時は最悪『聖女の血』を輸血すればいい。正気は失うかもしれないが死ぬことはないだろう、多分。

 

「争ってる時間が惜しい。早く先へ進もう」

「あ、ああ。それもそうだな」

 

 クラピカにも宥められたレオリオは、貴方の容赦ない蹴りに怒りも霧散した様子だ。

 少し進めばまた多数決があり、道は左右に分かれている。どちらに行くかを多数決するらしい。貴方はどちらも探索してアイテムが落ちていないか確認したいと思ったが、そんな選択権はないので黙っておいた。

 

 多数決は右が選ばれた。左を選んだらしいレオリオは文句を付け出したが、クラピカが論理的な説明でもって応える。

 人間は迷ったり未知の道へ進もうとした時、左を選びやすいらしい。それを逆手にとって、左の道には困難な課題が設定されている可能性があるとも。

 なんと! では次に新たな聖杯へ潜るときは右から行ってみるとしよう。そう貴方は感動した。

 どうせ全部の道を確認する貴方には大して意味がないのに。

 

 

 ■

 

 

 しばらく進み続けてきた貴方達の眼前、道が途切れたその先には奈落に囲まれた正方形の大きなリングがあり、さらにその先には通路が見える。

 人影も目に映る。受験生ではないようだ、試験官だろうか。そのうちの一人が前へ出て大きく声を張り上げる。

 

「我々は審査委員会に雇われた「試練官」である!! ここでお前たち5人は我々と戦わなければならない!」

 

 1対1の勝負を行って5回中3勝すれば先へ進めるようだ。戦い方も自由で引き分けが無いという。

 受けるかどうかにも多数決をしろというので全員⚪︎を押した。

 なお貴方は見ているだけである。戦う数にも含まれていないし、貴方はちょっと寂しくなった。

 相手の一番手は先程から声を張り上げ説明していたスキンヘッドの大男らしい。見るからに戦闘経験豊富そうである。

 

「オレが行こう!」

 

 スッと身を乗り出したのはトンパであった。正気か? どう見ても彼の敵う相手ではない。

 当の本人は、この試練の毒見役だとか誤投票の詫びであるとか御託を抜かしているが、そもそも最初から負けが濃厚では意味が薄い。

 そうしているうちに奈落を渡る細い足場が現れた。戦う者はこれを伝って正方形のリングへと進むようだ。

 貴方はトンパが先へ赴こうとするのを呼び止め、いくつかのアイテムを手渡し使い方を教えた。無いよりマシだろう。

 

「勝負の方法を決めようか。オレはデスマッチを提案する!!」

「……いいだろう!! その勝負受けた!!」

 

 一方が死ぬか負けを認めるまで戦うルールだ。案の定トンパには不利だが、どう切り抜けるつもりだろうか。

 

「その覚悟見事! それでは、勝負!!」

「グビッ……ゔォエッ」

「な……!?」

 

 開始と同時に駆け出す試練官に対し、トンパは貴方から受け取った秘薬を勢いよく飲んで思い切りえずいた。

 突然怪しげな薬を飲んでは嘔吐し出したトンパに対し、試練官もその身の勢いを失ってドン引きしているようだ。

 

「う、ゔぅぇ……くくく、さあ! どこからでもかかってこい!!」

「ふむ、何のつもりかは知らんが、いざ!!」

 

 試練官は無手のまま突撃し、その鋭く頑強な指先をトンパの首元へ真っ直ぐ突き出す。

 トンパはのろまに身を捻るが、動きが追いつかず回避しきれない。

 

  ガキン!

 

「何っ!?」

 

 そのままトンパの喉を惨たらしく破壊するはずだった手刀は、まるで金属にぶつかったような音と共にトンパの首に弾かれ大きく逸らされた。

 『鉛の秘薬』。貴方がトンパへ渡した、重苦しくドロリとした飲み薬である。

 これを飲んだ者は、一時的に比重を高め、攻撃を弾きやすくする効果がある。

 そのあまりに重い飲み口と名状し難い味わいは、慣れていなければトンパのように思わず吐き出してしまうほどの不味さを誇る。しかし効果は確かなものだ。

 人間が発するとは思えない硬質な金属音と重さに驚き距離を空けた試練官へ、トンパはすかさずアイテムを投擲する。

 小さく細長い刃物のようなそれは試練官へ真っ直ぐ飛躍し、しかし寸前で躱される。

 

「毒か!」

 

 刃物に毒々しい紫色の液体が大量に付着しているのを視認した試練官は、それがまさしく猛毒である事に気付く。

 貴方が提供したそれは、『毒メス』。歪んだメスのように薄く鋭く、たっぷりと毒に塗れた投げナイフである。

 凶暴な獣には毒など遅効に過ぎるが、人間相手ならば効果は抜群だ。掠るだけでも勝機は見える。

 トンパは立て続けに毒メスを2本投擲する。

 

「だが、当たらなければ意味もあるまい! ……フン!!」

 

  ガキン!

 

 貧弱な投擲を軽く躱した試練官が再びトンパに手刀を突き出し、そして弾かれる。

 相手の攻撃が効かない事に余裕の笑みを浮かべたトンパの土手っ腹へ、間髪入れずに試練官の猛烈な蹴りが突き刺さる。

 

「ぐぼっへェ!?」

 

 ……やっぱりな。貴方はそんな感想を抱いた。

 鉛の秘薬はあくまで比重を高めるのみで、身体の防御力自体が上がるわけではない。真正面から攻撃を受ければ弾けずにマトモに食らう羽目になる。

 なんなら身体が重いせいで尚更深く蹴りが突き刺さっているようだし、薬によって動きも鈍い。これはもう勝てないだろう。

 

「ごふッ……ま、まいったァーーー!!」

 

 迫る追い討ちを何とか腰を捻ってガキンと弾き、トンパは即座に土下座で降参した。

 調子に乗って回避を疎かにしなければ勝ちの目もあったが、終わってみれば全く話にならない戦いであった。

 相手に勝利数が一つカウントされ、青い顔のトンパは腹を押さえながら震える脚で足場を伝って戻ってくる。

 

「い、いや〜面目ない。ぐ、うう……いいところまではいったんだがな」

「けっ、あんだけ大面かいといて、てんで情けない動きようだったぜ」

「まあまあ、トンパさんもやれるだけはやってくれたよ」

 

 早々に黒星をつけられ機嫌の悪いレオリオがトンパに嫌味を言うのを、ゴンがやんわり宥める。

 

「あんたも、悪ィな。せっかくいいモン寄越してくれたのに、全部使って負けちまった。……ぐべぇッ!?」

 

 貴方はそう謝るトンパの腹に情け無用のパンチをお見舞いした。毒メスはまだ残っているだろう。隠し持とうとしても無駄だ。

 トドメを刺されて地に撃沈するトンパから残りの毒メスを回収した貴方は、あまりの容赦の無さに汗を流すクラピカ達には気付かなかった。

 

 負けてしまったとは言え、トンパが生き延びたのならまだ問題はない。

 あとの4人で3勝してくれればクリア可能だ。 

 






 『聖女の血』
 血の聖女による「施しの血」。
 その施しは、医療教会と拝領の価値の象徴なのだ。

 『鉛の秘薬』
 製法が全く知られていない謎めいた薬。
 一時的に比重を高め、攻撃を弾きやすくする効果があるが、動きは鈍り、また防御力も変わらないため、使いどころが難しい。
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