血しぶきハンター   作:みこみこみー

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2話 プロ狩人を自負する者

 

 貴方のやるべき事は分かった。

 

 目的は2つ。狩人としての本懐を成す事。そしてヤーナムの結末を知る事だ。

 

 前者に関してはさほど難しくはないだろう。先程の男から、未だ世界には害獣が腐るほど蔓延っている事は確認済みだ。

 それはヤーナムに居たような人が理性を失って獣と化したものとは根本的に違うであろうが、人に仇なす醜い獣には違いない。

 例えその形が、人であろうと、なかろうと。

 

 後者に関しては先行きは未だ不明だ。ヤーナムが何処にあるのか、そもそもまだ存在しているのかすら定かではない。

 ひとつ可能性としては、狩人の夢からヤーナムへ目覚めるという方法だが、貴方はこれにはあまり期待していない。

 幾千幾万と繰り返したあの悪夢の日々において、狩人の夢は月の魔物の領域であった。

 しかし今は違う。月の魔物は貴方が屠り、その身に青ざめた血を取り込んだ。例えその領域を継承していたとしても、月の魔物が支配していた時とは主が違う。

 しかも貴方が最後に狩人の夢を見た時から、100年以上経っているかもしれないのだ。昔のままヤーナムへ繋がっていると考えるのは甘い考えであろう。

 まずは狩人として功績を残し、ヤーナムの結末を探求するために十分な資材と力を手に入れるのが良いだろう。

 

 そうと決まれば、早速狩りの仕事だ! 

 貴方は今の自分が持つ狩人の業を確かめる為、男から先程聞き出した、凶暴な獣達が縄張りとしている湖へ狩りに向かう事にした。

 

 

 

 

 結果だけ言うなれば、貴方の狩人の業は些かも衰えておらず、むしろ身体能力が大幅に上昇していたためあまりに容易く狩る事ができた。

 相手は巨大な腕を持つ猿の獣であったが、その強靭な剛腕も『ノコギリ鉈』で力ずくに斬り裂き、隙を狙ってパリィしては赤黒い内臓を引き摺り出し、群れで襲われようとちぎっては投げちぎっては投げ、多分に余裕のある狩りであった。

 試しに『エーブリエタースの先触れ』を召喚した時は、あまりの威力に大惨事だったが。精霊を媒介にして上位者『エーブリエタース』の触手を召喚する秘儀であるが、どうみても実物の触手よりずっと大きかったような……。

 貴方は攻撃型の秘儀はしばらく封印する事にしようと決めた。威力のコントロールが出来るようになるまでは、周辺被害が酷くて使えたものではない。

 

 問題はその群れのもとに人が囚われていた事である。この獣は捕らえた獲物を保存食として生捕りにすると聞いたので、ここに気絶している数人もそのために捕まっていたのだろう。

 貴方はとりあえず、蔦や草でがんじがらめにされた彼らの拘束を解き、げしげしと脚でつついて気を起こさせた。

 

 

 

 

「君には本当に感謝している! つ、次に食われるのは私の番だったのだ……!」

 

 彼らを起こした貴方は、介抱しつつ話を聞いていた。

 獣には小柄な獲物から先に喰う習性があったらしい。助けた内の一人の青年は顔を真っ青にしながら何度も貴方に感謝を捧げている。

 曰く、彼はあるマフィアの次期頭領候補であり、他の候補との競争で有利に立つため、非常に高価なこの獣の皮を獲りに来て返り討ちにあったらしい。

 他の捕まっていた男達も彼の部下であり、連れて来た半数は死んだと言う。

 

 貴方はこれがきっかけで彼の所属するマフィアから狩りの仕事を斡旋して貰うようになる。実績を残す内に、マフィアに限らずあらゆる依頼人から仕事を頼まれるようにもなった。

 

 

 

 

 そんな暮らしを1年と少しほど重ね、貴方が害獣専門の狩人として順調に名を挙げていた時のことである。

 

「……はぁ、知らない? 念能力を? ……冗談としては0点だな。いつも使っているだろうが」

 

 もはや顔馴染みとなったマフィア幹部との会話の中で、貴方はどうやら「ネン」という神秘や魔術と似て非なる現象が実在するらしいと知った。しかも既に貴方はその力をいつも使っているときている。

 

「……まさか、本当に知らないのか。こりゃ珍しい、天然物だったんだな……」

 

 ごく稀にだが、熟練した職人や求道者などの中には念を無意識に使う者もいるらしい。しかし貴方ほど強力な念能力者が無意識に習得している者であったなど聞いた事がないと言う。貴方が本当に知らないと伝わった時、それはもう大層に驚かれた。

 貴方は彼に念能力とやらを教えてほしいと頼むと、彼は自分の代わりに優秀な教師を貴方に紹介した。

 

 

 

 

 そこから半年程、貴方はその師匠のもとで念能力の修行をこなしたが、貴方の期待とは裏腹に、師匠は貴方が念能力を完全に習得する事を諦めた。

 どうやら、既に『制約と誓約』なるもので貴方の念能力は大幅に制限されており、その能力の内容もとっくに決まっていたようだ。狩人としての力、すなわち『血の遺志』による常人離れした身体能力や、神秘のもたらす強力な秘儀などがそれだ。

 念能力の基礎たる"練"にすら制限があり、代わりに強力無比な"発"を持っていた貴方は、既に能力者として完成されているというのが師匠の言である。

 

 念能力を保存する容量(メモリ)がほとんど残っていなかった貴方は、その僅かな領域で上位者たる己の神秘性を制御する術を作り出した。

 念を知る前から神秘を辺りに撒き散らすのは感覚的に抑えられていたものの、貴方の身に流れる青ざめた血だけはどうにもできなかったのだ。

 それを念能力によって常人のそれへと限りなく近づけた貴方は、これで己が人間でないことを露呈してしまう可能性を無くした。

 僅かな容量では無償の能力にはできず、その血を秘匿する間は常に奥底へと神秘と狂気を蓄積し続ける事になってしまったが、致し方あるまい。

 

 結局、修行で得た純粋な成果としてはオーラが見えるようになった程度だが、それでも念能力について一通り知識を得られた貴方は、師匠に感謝を述べて修行を終えた。

 

 

 

 

「……お、お前、プロハンターも知らないのか? 狩人なんて名乗ってるのに? 信じられねえ……」

 

 修行を終えた貴方がいつものマフィア幹部に報告と感謝を述べにいった時、返ってきたのは「せっかくだしプロハンターになればいいんじゃないか」という台詞だった。

 ハンターとはつまり狩人のことだろう。しかし貴方の知る限り、狩人にプロやアマチュアといった区別は特に存在しなかった。

 ……いやまて、知己(ちき)の狩人達同士では『聖杯ダンジョン』に潜るようになって一人前というような風潮もあるし、聖杯デビューすればプロ狩人と呼んで差し支えないのではないか。

 それなら問題ない。貴方は気が狂う程に何度も何度も聖杯に潜っては血晶石を厳選していた。あまりに狂気的な執心により地底人と揶揄された人種であったのだ、プロ狩人を名乗るのに不足はないだろう。

 次に狩人の夢に戻った時は久しぶりに潜ってみるのも悪くない。『9kv8xiyi』……もはや第二の故郷である。

 

「全然違うし、一体何の話をしてるんだよ。あんた、時々頭がおかしくなるよな」

 

 失礼な奴だと貴方は憤慨するが、内心ではあまり否定できないでいた。事実、まともであってはとてもあの悪夢で生き残るなど不可能である。

 詳しく話を聞くに、プロハンターというのは貴方の目的を叶えるには非常に有用な資格であるようだ。

 プロハンターとなれば、ヤーナムを探すのに採れる手段も滅法増える。

 何より、狩りに優れ、無慈悲で、血に酔った良い狩人であると自負する貴方にとって、自分がアマチュアであるなど認められることではなかった。

 

「念能力の件といい、ハンター試験の件といい、つくづく順序のおかしな奴だ……」

 

 次に行われるハンター試験は半年後、1999年の第287期試験らしい。

 貴方はこの試験に挑戦しようと決心した。

 






 『聖杯ダンジョン』
 ヤーナムの地下に無限に広がる遺跡。早い話が自動生成型のダンジョン。
 深度が上がるほど強力なボスが待ち構え、強力な血晶石が手に入る。
 
 『血晶石』
 武器に捩じ込むことで血晶強化を行うことができる。
 武器に新たな属性を持たせたり、特性を一点強化したりなど、大幅な強化が可能。
 一部の狩人は理想の血晶石を求めてひたすら地下に篭っている。
 
 『9kv8xiyi』
 最も有名で最も愛されたであろう聖杯文字。
 聖杯ダンジョンは固有の聖杯文字によって他の狩人にも共有できる(要はシード値)。
 通称"3デブマラソン"の中でも最高率で「物理攻撃力+27.2%」の血晶石をマラソンできる。
 当時学生だった筆者はここを愛するあまりSNSのパスワードに設定し、無事アカウントを乗っ取られたことがある。
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