血しぶきハンター 作:みこみこみー
本当にスレスレの戦いであった。
彼の圧倒的な戦闘センスと技術は、数々の強敵を屠ってきた貴方をして戦慄たらしめるものだ。
上位者となった今でも、やはり血に酔った狂人は手強いものであるらしい。
不意打ちに近い形で先手を取ったからこそ終始有利に戦えたが、正々堂々試合形式であれば結果は違ったかも知れない。
失血により気を失って地に伏すヒソカをさっさと燃やしてしまおうと近付く貴方は、彼のポケットから何やら聞こえる事に気づいた。
「ピピピ」と鳴るその携帯電話を取り出した貴方は、何となしにコールに出てみる。
「あ、もしもし? やっと出た。早くしないとそろそろ合格者が締め切られそうだぜ」
ヒソカの友人だろうか。男の声で話し出す。どうやら彼も受験生のようだ。
貴方はとりあえず挨拶した。申し訳ないが貴公の友人は燃やさねばならない。汚物は消毒である。
「……キミ、誰? 」
貴方は簡潔に説明した。自分は被害者で、襲われたので仕方なく返り討ちにした。この狂人は燃やして葬る。
なお貴方は正直に話しているつもりだが、実際のところ今回ヒソカが襲ったのはゴンたちであり、貴方はむしろ襲いかかった側である。まるで話も聞かないで。
電話の相手はヒソカが負けたことに半信半疑のようだが、とにかくヒソカは商売相手であり殺されると困るらしく、出来れば二次試験会場まで生かして持ってきて欲しいと貴方に頼んだ。
貴方は自分にメリットがないからと断ろうとしたが、依頼として金は(ヒソカが)払うと言う。
ここまで再起不能にすればもう絡まれもしないだろうと思い受ける事にした。切り落とした手足も持っていこう。これも売れるかも知れない。
「アルトさん!」
電話を切るとゴンが貴方へ駆け寄ってきた。
近くには彼の仲間であった男たちもいる。仲間の片方は頬を林檎のように腫らして気絶しているようだ。
なるほど、彼らを救いにヒソカの元へ駆けつけたのか。
「助けに来てくれたんだよね、ありがとう! ……その、ヒソカはどうするつもりなの?」
依頼を受けたので生かして連れて行くと貴方は答え、それよりも時間が無いとゴンへ伝えた。
貴方はヒソカを持って先に行くが、ゴン達は問題ないかと確かめる。
「大丈夫! 自力で乗り切るよ。アルトさんも気をつけて!」
貴方はゴンへ、ジェスチャー『確かな遺志』を示し、ヒソカを担いで駆け出した。サトツの気配を追えば確実だ。
瀕死の人間とその千切れた手足を持って走る貴方の姿はどうみてもイカれていたが、貴方にその自覚はなかった。
■
「カタカタカタカタ……」
やはり狂人は狂人を呼ぶのだろうかと、貴方は心底嫌そうな顔で思案していた。
貴方の目の前では、ヒソカの友人らしき顔面が針だらけの異常者が、気絶するヒソカを貴方から受け取っている。
さっき携帯電話で話した相手は普通の綺麗な声であったと貴方は記憶しているが、とてもこの顔からあの声が発されていたとは思えない。というか会ってからはカタカタと口を鳴らすだけでまともに喋りすらしない。これがさっき話した男で合っているのか?
貴方は「この針、片っ端からひっこ抜いてみたい」とも思ったが、どう考えても怒られそうだしここで戦闘となるのは得策でない。
依頼達成の報酬である小切手を受け取った貴方は、さっさと距離を置く事にした。
ついでに持ってきた腕と脚も高く売れて、貴方の懐はウハウハである。
「ガルルルルルル……ゴルルルルルル……」
無事二次試験会場へと辿り着いた貴方は、地の底から鳴るような獣の唸り声が響く建物の前で、その時を待っていた。
一体どのような化物が飛び出すのか、おそらく試験は彼奴を狩ることだろう。ハンター試験に相応しい課題だ。
貴方が感じ取るに、中の獣はなかなか巨大な存在であり、明らかに念も扱える。かなりの強敵であろう。
不可解なのは、建物の中にもう1つ、人間の存在も感じることだ。こちらも念使いのようだし、まさか獣の飼い主か何かだろうか。
いくらハンター試験といえども、ここまで熟練した念使いとの戦闘を試験にするとは。貴方はプロハンターというものが如何に選りすぐりの人材たちであるのか、身をもって実感していた。
いずれにせよ、今この獲物とまともに戦える受験者は己と顔面針狂人ぐらいのもの。遠慮なく血祭りにあげてしまって問題ないはずだ。
貴方は久方ぶりにどっぷりと血に酔える予感を覚え、ウキウキと期待を膨らませていた。試験開始は正午、あと十分程である。
「おーい、アルトさーん! 間に合ってよかった!」
ゴン達が間に合ったようだ、貴方は安堵した。
頬を腫らした男も途中で目覚めたのか、自力で歩いている。
無警戒でにこやかに貴方へ駆け寄るゴンに対し、金髪の青年は少しの警戒を向け、長身の男は貴方が誰か分からないという顔をしている。
ちなみに試験を待つ人混みの中では、貴方の周りにだけ不自然に穴ができている。
一次試験の終わり頃、いかにも死にかけな人間と血切れた腕や足を抱えて血塗れでやってきた貴方は、それはもう驚愕と奇異の目で見られた。
抱えていたのがあのヒソカだとわかった暁には、もはや誰も近付かず目も合わせず、祟り神か何かに対するような対応を取られている。
謎の唸り声や試験の予想について貴方がゴンと談笑し始めると、彼の連れ2人も近づいてきた。
「失礼。先程は命を救っていただいた事、誠に感謝する。私はクラピカという者だ」
「レオリオだ。悪ィな、オレはさっき何があったかよく覚えてないんだが、とにかくあんたに助けられたのは確かだ。ありがとな!」
貴方も自己紹介を返し、礼は不要であると答える。ただ友人を救ったに過ぎない。狩人の友は協力し合うものだ。
幾らかの会話を交し、彼らは貴方へ少し打ち解けていった。
ただし、貴方の全身に塗れた返り血の匂いに、彼らや周囲の者たちが内心引いていることには最後まで気付かなかった。
「よ。どんなマジック使ったんだ? 絶対もう戻ってこれないと思ったぜ」
「キルア!」
キルアも無事に着いていたようだ。念能力者を除けばおそらく受験生でも一、二を争う実力者なのだから、当然か。
年長二人と話を続けていた貴方はそこで、クラピカから幻影旅団という盗賊団について何か知らないかと問われた。
その目は真剣で、暗く深い復讐の炎が覗き見える。しかしそのような集団を貴方は知らない。力になれず済まないと返した。
「アルトのニオイをたどった──ー!? つーかどんなニオイだよ、この距離でも全然わかんねーけど」
「うーん、オレもなんて言ったらいいかわかんないけど……。アルトさんは、何だか満月みたいな香りがするんだ」
「月ィ!? お前……やっぱ相当変わってんな」
少年たちは楽しそうに盛り上がっている。そろそろ試験も開始の時間だ。
「……つーかさ、マジで何があったんだよ。あいつ、ボロ雑巾みたいなヒソカを抱えてきたんだぜ。ゼッタイ、ただモンじゃねぇって」
「アルトさんはオレ達を助けてくれたんだよ。びっくりするほど強かったんだ!」
一体いかなる獣が現れるのかと胸を躍らす貴方は、小声で話す少年達の会話の内容にまでは気付かなかった。
『確かな意志』
狩人のジェスチャー。
片腕で低くガッツポーズを取る。