血しぶきハンター 作:みこみこみー
ふむ、なかなか広いな。探索し甲斐がある。
休眠を取るというクラピカ達と別れた貴方は、早速飛行船の中を端から端まで彷徨っていた。
扉や箱といった開けられる物と見れば、片っ端からとにかく開け放って中を確認する。
良いものがあれば遠慮なくいただく。狩人の世界では、狩人が触れた瞬間に他のあらゆる事情を差し置いて占有権が発生するのだ。他の法律なぞ知らぬ。
もはや使命感すら感じている貴方のこの悪癖は留まる所を知らない。もちろん全て開けっぱなしである。
生憎、開かない事の方が多い上に開けられたとしても大したものは見つからないが、存分に探索できているだけ貴方は楽しんでいた。
貴方が次に入ったのは何やら物置らしき薄暗い部屋である。とはいえ施錠されていないような部屋だけあって大したものはない。
そこで貴方はそこに大きめの
——丁度いい、幾らか消耗品を補充するか。
貴方はその水瓶に軽くオーラを込め、"発"を行った。
すると忽ち、水の表面から子供の骸骨のような外見の白く小さい存在が次々と現れた。数は合わせて11人。
黒い箱やナイフなど、様々な物品を抱えては貴方へ見せようと掲げてくれる。
彼等は『水盆の使者』。
悪夢に住まい狩人を慕う、小さな亡者達である。積み重なる狩人の遺志を媒介し、貴方と取引することができる。
貴方がヤーナムの地で悪夢に囚われてから、ずっと貴方を助け支えて来てくれた頼れる可愛い存在だ。
貴方の持つ念能力のひとつによって、彼らを呼び出すことができる。
《
狩人の夢に住まう小さな亡者「水盆の使者」を召喚する。使者とは血の遺志や啓蒙を用いて取引をする事が出来る。
現実世界では適切な大きさの水盆に水を張ってオーラを込めることで使用可能。
正確に言えばこの能力は使者が出現できる神秘的空間を創り出すだけであり、使者の存在そのものは"発"ではない。
貴方は血の遺志を対価に払い、スローイングナイフや青い秘薬などのアイテムを受け取った。
これで暫くは安泰である。
使者に別れを告げ部屋を立ち去った貴方は、直ぐ近くから強い血の匂いを感じ取った。新鮮な血だ、それも大量の。
匂いの元を辿れば、その発生源は直ぐに見つかった。
「あ、見つかっちゃった?」
通路の上、T字路のそこにあったのは、顔や身体がバラバラに切断された受験者と思しき2人の死体。そしてそこからやって来た、上半身裸のキルアの姿であった。
どうやら彼が2人を殺したらしい。喧嘩でもしたのだろうか。
「いやぁ、ちょっとイライラしててさ。絡まれたからついやっちった。ゴン達には内緒にしてよ」
死体は綺麗な断面をしている。見事な手際だ。
貴方は彼へ素手でこれをやったのかと問う。
「え? ああそうだよ。こう、チョット肉体を操作してね」
彼の手は血管を浮き出しながらビキビキと音をたて、その爪を長く鋭く変形させた。
武器がなければ大した攻撃力を発揮できない貴方は、彼の特技をそれはそれは褒めちぎった。
身軽で証拠も残らず手入れも不要、さぞ使い勝手が良さそうだ。
「……あんたもやっぱ相当変わってるね。フツー、こんなの見たら引いたり怒ったりするもんだと思うケド」
何故貴方が怒らねばならないのか。別に獲物を取られたわけでもあるまいに。
疑問に思いつつも、貴方はキルアが汗だくなのを見て一体何をしていたのかと問うた。
曰く、ネテロ会長とゴン、キルアの3人でボールを奪うゲームをしていたらしい。ネテロとの実力差が大き過ぎて、キルアは先に諦めてきたようだ。
熟練の年寄りは何者よりも油断ならない強者である。貴方が固く信じるそれは経験談に基づく確信だ。僅かでも隙を見せれば首を獲られる。
少なくとも念を扱えぬ内は逆立ちしたって遊ばれて終わりだろう。
貴方は残ったゴン達がいつまでゲームを続けていそうか尋ねた。
「んー、たぶん朝までずっとやってると思うよ。でもやめといたほうがいいぜ。あのジジイ、マジのバケモンだし」
貴方は彼等に混じるつもりはないと返した。このような空の上で本気で相手すれば船が墜ちかねない。かといって武器が無ければ、自身の制約によりネテロには手も足も出ないであろう。
キルアを労った貴方は、善は急げとばかりに目的の場所を探しに歩き始めた。
ここだ! おそらく間違いない。覚えのあるオーラの残滓だ。
貴方が見つけたのは、ネテロ会長の私室と思しき部屋である。
ハンター協会の会長だ。飛行船とはいえ何か特別な品を隠し置いているに違いない。
施錠をどうしたものかと思っていたが、いざドアノブを回してみれば最初から鍵はかかっておらず直ぐに開けられた。どうやら会長はズボラらしい。
貴方が部屋の中へ足を踏み込めば、そこは小さな和室であった。
小ぢんまりしたテーブルと戸棚一つだけの簡素な部屋であり、期待したほどの宝はなさそうである。
貴方は知る由もないが、元々船に乗る予定のなかったネテロには特に自室もなく、この部屋には臨時で荷物を置いたのみであった。
貴方は部屋を漁る。戸棚からは如何にも高級で年季の入っていそうな古酒が見つかったが、それ以外は特筆すべき収穫もない。
貴方は酒に酔えない。むしろ血に酔うのである。したがってこの酒は無入用だが、せっかく手に入れたしとりあえず狩人の夢へ送っておこう。
まさか成果がたったこれだけしか無いとは。会長の癖にシケたもんだ。
肩透かしを食らってがっくりとした貴方はその時、部屋の端の畳の一つが不自然にずれていることに気付いた。
ははーん。貴方の探索における目敏さでは、右に出る者がいなかった。
貴方が畳を捲ると、その下からは幾らかの雑誌や写真が現れる。
ふむふむ……。どれもこれも際どい格好をした女性の姿が写されている……。胸部の大きなものばかりだ。
人を超え上位者となった貴方は、この手のものに何ら情動を動かす事はない。
だがしかし、これでも一応ネテロの私物。持っていれば何かいいことがあるかも知れない。とりあえず全て貰っておこう。
まだ到着まで時間はある。一通り部屋を漁って満足した貴方は、そこを後にして探索を続けることにした。
なお貴方にとって"窃盗"などという概念はない。これはあくまで探索の一環であり、正当な戦利品である。
ゴンからボールを守っていたネテロは、知らぬ間に本当に守るべき秘密を失ってしまったのだ……。
■
「ここはトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。ここが三次試験のスタート地点になります」
目的地に到着し飛行船を降りた貴方達は、見慣れた豆男から試験の説明を受けていた。
72時間以内に生きて下まで降りてくること。これが課題のようだ。
とてつもなく巨大な塔だ。ただ階段で降りるだけでも相当の時間を要するだろうが、まさかそんなに単純なものでもあるまい。
受験者は40人。いよいよ試験が開始された。
貴方はまず周りを見渡す。床はただ真っ直ぐ平らに広がるのみであり、入口などは見当たらない。
外壁を伝っていこうにも怪鳥に狙い撃ちを喰らうようだ。遥か下の地面へ落とされる受験者が見本となってくれた。
やろうと思えば銃で怪鳥を撃ち落としながら降りれば何とかなりそうだが、わざわざそこまで苦労する必要もないし、何より塔の内部もくまなく探索したい。
どこかに仕掛けが隠されているのだろうと貴方は暫く床を調べ歩くと、予想通り床のタイルが開く部分を見つけた。隠された仕掛けを解き明かすのは貴方の得意分野なのだ。
早速貴方が下へ降りると、部屋には「大迷宮の道」と書かれた看板が壁に付いているのを目にする。
"君はこの先、トラップと刺客が蔓延る長い迷宮を乗り越えゴールしなければならない"
成程、目の前にある入り口からは聖杯ダンジョンの地下遺跡のような構造が続いているらしい。なかなかに厄介そうである。
道に迷えば
時間さえかけて良いのなら、貴方はこの迷宮のあらゆる構造を丸裸にするまで探索しただろう。しかし今はそうもいかない。
単純な戦闘ならさしたる苦労もしなかったであろうが、この迷宮はもしかすると貴方にとって天敵であるかもしれない。
かつて地下遺跡においても、一体何度、壁を破壊して突破できたらいいかと切に願った事だろう。
……いや、待てよ? もしかして今なら行けるのではないだろうか。
貴方は気付いた。気付いてしまったのだ……。
今の貴方の力なら、壁ごと吹っ飛ばして強引に進めるのではないか。
そんな最悪な攻略法に。
■
ゴォォォン……。
「なんだろうねこの音。さっきから何度も聞こえてきてるけど」
「さァな。デカい獣でも暴れてるんじゃねーか?」
「少しずつ近づいて来ているようだな」
トリックタワー屋上から降りてすぐの広い部屋。そこにはそれぞれ腕にタイマーをつけたゴン達4人が待ちぼうけを食らっていた。
彼らが入ったのは「多数決の道」であり、5人揃って初めて開始できる道であったのだ。
全員でこの部屋へ入ってからかなりの時間が経過しているが、最後の1人は未だ訪れていない。
「ゔ〜〜〜。あれから2時間か。もしかしてもう全員別のルートで行っちまったんじゃねえのか。いまごろ上に残ってるのはよっぽどのマヌケだぜ」
レオリオが苛立ちを隠せずにそう発した時、再びドゴォォンと大きな音が聞こえてくる。
「かなり近いぞ! 一体何が来てるってんだよ!」
「レオリオ! そこから離れて!!」
ゴンが音の聞こえてくる方の壁からレオリオを引き離したその直後。
耳鳴りで鼓膜が裂ける程の轟音を立てて壁が爆発し、粉々に崩壊した。
「なっ、何だ!? 敵か!?」
全員の警戒に満ちた視線が向けられる。
舞い上がる砂埃をかき分け、砕けた瓦礫を踏みしめて入って来たのは、果たして巨大な大砲を左手に抱える、貴方であった。
「アルトさん!?」
驚愕の声でもって迎えられた貴方は、自分が間違えて大迷宮の外まで壁を壊して出て来てしまったことに気付く。
どこもかしこも似た様な壁にするやつが悪い。開き直った貴方は4人へ挨拶した。
「お、お前っ、壁をブッ壊して進んでやがったのか! つーか何だその大砲、そんなモン持ってたか!?」
レオリオが貴方のあまりの凶行にドン引きして叫んだその時、部屋のスピーカーから非常に取り乱した声が響いた。
〈ストップ!! ストップだ326番!! 聞こえるか!? 壁の破壊を今直ぐ止めるんだ!! 〉
聞こえる声はもはや半狂乱だ。もしや壁を破壊するのは拙かっただろうか。貴方は言われた通り動きを止めた。
そう言えば、大迷宮の道にはあの様なスピーカーは無かったな。
〈よし、よしッ! それでいい。悪いが326番、君が持つその大砲は今後使用禁止だ。塔が崩れかねん〉
残念だ。目障りな障壁を粉々に吹き飛ばしていくのは大変爽快であったのだが。
貴方は至極悲しそうに大砲を下ろして背負った。
〈幸いその部屋は5人用で、ちょうど君で揃った所だ。そのままそちらの道を進んでくれて構わない。……よし、それでは諸君の健闘を……〉
ガコン……。ドサ。
アナウンスが安堵の声を漏らした時、部屋の天井が開いて小太りの男が落ち入って来た。確か、トンパと言ったか。
〈……。ちょっと待て、今、考える〉
おそらく試験官であろうアナウンスの声は、僅かな疲労と怒気を滲ませつつ黙り込む。
うぅむ、6人になってしまった。
『大砲』
設置型の大砲をそのまま手持ち銃としたような代物。
バカげた重さ、反動、水銀弾消費量を誇り、代わりに威力は絶大の一言。
多くの狩人が、「これが何発も制限なしで撃てたらなあ」と夢想したことだろう。たぶん。