機動戦士ガンダム ジオンの残響 ―シャアもミネバもいない火星で、亡霊たちは「ザク」の皮を被った怪物を造り上げた―   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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シャルル艦隊の脅威

熱い。

 

だが、それは大気圏突入の摩擦熱ではない。

戦域を埋め尽くすRFシリーズが吐き出す熱線と、それに対峙する僕の、焦燥と高揚が混じり合った血の熱だ。

 

宇宙世紀0122年。

地球圏に突如として現れた火星独立ジオン軍、通称「オールズモビル」の主力艦隊。

その先頭に立つのは、かつて火星でボッシュ大尉と共に戦ったとされる、ジオンの騎士道精神の体現者――シャルル・ロウチェスター大佐だった。

 

「ベルフ! 敵増援、来るわよ! 11時方向から高速接近中!」

 

エイブラムのブリッジから、アンナフェルの切迫した声が通信回線を震わせる。

彼女はオペレーターとしての職務をこなしながら、既にジェガンのコックピットで待機していた。

モニター越しに見える彼女の横顔。

唇を強く噛み締め、恐怖を抑え込もうとするそのひたむきな姿。

彼女が手作りしてくれた、あの不器用な形のおにぎりの温もりを思い出す。

僕は、彼女をこの地獄のような戦場から守り抜くと、改めて心に誓った。

 

「分かっている。……行くよ、F90!」

 

僕は1号機のスラスターを全開にした。

バイオコンピュータ「Type-A.R」が、敵艦隊の布陣を瞬時に算用数字のデータとして弾き出す。

だが、その視界に映り込んだのは、一年戦争の悪夢を現代に蘇らせたような光景だった。

 

RFザク。RFドム。そして、RFゲルググ。

旧ジオン公国の名機たちの姿を模しながらも、その内部には最新鋭のジェネレーターと電子兵装が詰め込まれた、歪な機体群。

それは、過去の栄光に縋りながら最新技術で武装した、執念の結晶だ。

 

その中央から、一機の赤いRFゲルググが突出してきた。

シャルル・ロウチェスターの愛機。

その加速、その機動。

明らかに他の機体とは一線を画している。

 

『……フ。このプレッシャー。ボッシュが最後に見た、サナリィの新型か』

 

通信に割り込んできたのは、静かだが鋭い、鋼のような男の声。

シャルル大佐だ。

彼は、あたかも戦場をダンスホールであるかのように優雅に、だが確実に僕の1号機の死角を突いてくる。

 

『若き連邦の兵士よ。貴様がボッシュの遺した1号機の主か。その機体に刻まれた、我が友の執念。貴様などに受け継げるものか!』

 

激突。

ビーム・サーベルとヒート・ランサーが火花を散らす。

その瞬間、1号機のバイオコンピュータが激しく点滅した。

14話で差し込んだボッシュ大尉の戦闘データが、シャルルの声に呼応するように、僕の脳内に「亡霊」のイメージを投影する。

 

ボッシュが愛した、偽りの安らぎ。

シャルルが掲げる、滅びゆく騎士道。

ネオ・ジオンから火星へと流れた、敗者たちの底なしの怨嗟。

それらが濁流となって僕を飲み込もうとする。

 

「……っ! 僕は……あんな男の執念になんて、負けない!」

 

僕は、シャルルのRFゲルググを振り払うべく、1号機のハードポイントに装着されたVタイプ・ユニットを駆動させた。

ヴェスバーの銃身が展開し、月光のような蒼白い閃光が闇を裂く。

だが、シャルルはそれを紙一重で回避し、嘲笑うように告げた。

 

『未熟。機体の性能に頼るだけの子供が! ジオンの魂、その重さを知らぬ貴様に、我らを止める資格などない!』

 

シャルル艦隊の圧倒的な物量と、その統率された騎士道的戦術。

エイブラム隊のジェガンたちが次々と火達磨になっていく。

アンナフェルの悲鳴にも似た「ベルフ!」という叫びが、僕の理性を辛うじて繋ぎ止めていた。

 

宇宙世紀0122年。

僕たちは、まだ知らない。

このシャルルという「騎士」の背後に、どれほど巨大な組織の陰謀が渦巻いているのか。

そして、僕の背中を守るアンナフェルの祈りが、この凄惨な戦場でどのような形を成していくのか。

 

「アンナフェル、僕のそばを離れるな! 守る……僕が君を絶対に守ってみせる!」

 

僕は、バイオコンピュータから流れ込む怨嗟のノイズを、彼女を守りたいという純粋な意志で塗り潰した。

白きガンダムが、紅蓮の炎に包まれる宇宙(そら)で、牙を剥く。

希望と、継承。

その言葉の真の意味を問われる戦いが、今、本格的に幕を開けた。

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