機動戦士ガンダム ジオンの残響 ―シャアもミネバもいない火星で、亡霊たちは「ザク」の皮を被った怪物を造り上げた―   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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レイラの囁き

熱い。

 

だが、それは大気圏突入の摩擦熱ではない。

至近距離まで接近したアナハイムの試作機、シルエットガンダム改のコックピットから伝わってくる、強化人間レイラ・ラギオールの凍てついた精神波が、僕の脳を逆なでする摩擦の熱だ。

 

宇宙世紀0122年。

ゼブラ・ゾーンの静寂の中で、僕のF90 1号機と、トキオのRXF-91は、シャルル艦隊の追撃を前に、一時的な共闘という名の危うい均衡を保っていた。

 

「……ベルフ、さん」

 

通信回線から聞こえるのは、雪解け水のように冷たく、それでいて今にも消え入りそうなレイラの囁きだった。

彼女のシルエットガンダム改は、僕の1号機のすぐ隣に浮遊している。

サナリィの技術を盗用しつつも、アナハイム特有の重い加速特性を持つその機体。

トキオはそれを「サナリィの猿真似」と吐き捨てていたが、レイラにとっては、その機体こそが彼女の存在を規定する唯一の檻だった。

 

「レイラ……。その体、大丈夫なのか。さっきから、バイオコンピュータのノイズがひどいんだ」

 

「……私は、部品だから。このRXF-91の性能を引き出すための、ただの、インターフェース。アナハイムの人たちが、そう言ってた」

 

彼女の白い指先が、コックピットのコンソールに震えながら触れる。

強化人間として調整され、感情を殺されてきた少女。

だが、僕のF90に搭載されたボッシュ大尉の戦闘データ、ネオ・ジオンから火星へと至る怨嗟の記録が、彼女の中にあるネオ・ジオン出身という過去の傷痕を激しく共鳴させていた。

 

「あなたの機体から聞こえるの……。火星の砂に消えていった人たちの、終わらない叫びが。……怖い、ベルフさん。私もいつか、あんなふうに、誰かのための記録になって消えるの?」

 

レイラの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。

年相応の少女としての、脆く、美しい涙。

それはアナハイムの技術者たちがどれほど精神を調整しようとも、決して消し去ることのできなかった人間の証だった。

 

「部品なんかじゃない! 君は、レイラという一人の女の子だ!」

 

僕は思わず叫んでいた。

1号機のバイオコンピュータが、彼女の悲しみに同調するように、算用数字の海を激しく波立たせる。

そのとき、後方のジェガンからアンナフェルの通信が割り込んできた。

 

「ベルフ! レイラちゃんを放っておけないのはわかるけど、敵が来るわ! 7時方向、RFゲルググの小隊よ!」

 

アンナフェルの声には、レイラに対する嫉妬よりも先に、ベルフと、そして目の前の儚い少女を救いたいという、彼女らしい世話焼きな優しさが溢れていた。

彼女はジェガンのスラスターを噴射し、1号機とシルエットガンダム改の盾になるように位置取る。

 

「……レイラ。僕の手を掴んで。君が部品だっていうなら、僕がその鎖を断ち切ってやる」

 

僕は1号機のマニピュレーターを、レイラの機体へと伸ばした。

最新鋭小型MS同士の、繊細な接触。

プラグ一つ、ボルト一つに至るまで洗練されたサナリィの1号機と、どこか歪さを抱えたアナハイムの試作機。

二つのガンダムが指先を重ねた瞬間、レイラの凍てついた心が、微かな熱を帯びた。

 

「……温かい。……ベルフ、さんの、手……」

 

宇宙世紀0122年。

ゼブラ・ゾーンの闇を、RFゲルググの放つビーム・ナギナタの閃光が赤く染める。

亡霊の怨嗟、組織の癒着、そして強化人間という名の悲劇。

すべての闇を切り裂くように、僕とレイラ、あるいはアンナフェルの思いが、一つの戦場へと溶けていく。

 

「行くよ、レイラ! 君が望む平和な世界は、僕たちが、この手で掴み取るんだ!」

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