機動戦士ガンダム ジオンの残響 ―シャアもミネバもいない火星で、亡霊たちは「ザク」の皮を被った怪物を造り上げた―   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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トキオの咆哮

熱い。

 

だが、それは大気圏突入の摩擦熱ではない。

月面のクレーターを埋め尽くすRFシリーズの包囲網。そのただ中で、アンナフェルの命を弄ぶオールズモビルに対する、剥き出しの殺意の熱だ。

 

宇宙世紀0122年。

月面の砂を巻き上げ、僕のF90 1号機は孤立していた。

眼前にはシャルル・ロウチェスターのRFゲルググ。そして背後には、不時着したジェガンの周囲を固める敵の歩兵部隊。

1号機のバイオコンピュータは、ボッシュ大尉の残した戦闘データと僕の怒りを混濁させ、コクピット内に算用数字の激流を撒き散らしていた。

 

「……ベルフ……逃げて……」

 

アンナフェルの声は、砂嵐のようなノイズに埋もれかけていた。

彼女を救うための一歩が、そのまま彼女の死を招く引き金になる。

騎士道を語るシャルルの罠は、僕の若さを、その青すぎる正義感を嘲笑うかのように月面に横たわっていた。

 

「……くそっ! 僕は、僕はまた何も守れないのか!」

 

操縦桿を握る僕の指先が白く震える。

その時だった。

 

天を裂くような加速音が、月面の真空を震わせた。

11時方向、デブリの影から放たれたメガ・ビーム・ライフルの光条が、アンナフェルを包囲していたRFザクの1機を、その装甲ごと蒸発させた。

 

「……何ッ!?」

 

シャルルが驚愕に声を荒らげる。

月面の地平線から躍り出たのは、アナハイム・エレクトロニクスの意地と虚飾を背負った機体。

RXF-91、シルエットガンダム。

そしてその後方には、レイラの駆るシルエットガンダム改が、雪のような白光を纏って続いていた。

 

「おい、サナリィの小僧! そんな情けない顔でガンダムに乗ってんじゃねえよ!」

 

通信回線に割り込んできたのは、不遜で、それでいてどこか清々しいトキオ・ランドールの怒声だった。

シルエットガンダムの背部ヴェスバーが展開され、アナハイム製特有の、どこか野暮ったいが力強い加速特性を月面に刻みつける。

 

「トキオさん!? どうして……」

 

「勘違いするな。俺はアナハイムの汚れ役だ。サナリィのデータがこんな掃き溜めでゴミになるのは、俺たちのプライドが許さねえんだよ!」

 

咆哮。

トキオのシルエットガンダムが、月面の重力を無視したような機動でシャルルのRFゲルググへと肉薄する。

利権、癒着、技術盗用。

そんな醜い大人の事情を、今のトキオの操縦はすべて焼き尽くしていた。

彼は組織の犬であることを自嘲しながらも、その魂だけは、目の前の理不尽を許せない「個」として燃え上がっていた。

 

「レイラ! お前はあのジェガンの女を助けろ! ベルフ、お前は前を見ろ! 敵の大将は俺が抑えてやる!」

 

「了解……。ベルフさん、今、行きます」

 

レイラの透き通った声が僕の耳を打つ。

シルエットガンダム改が、強化人間としての不安定な精神を、僕との交流で見つけた「温もり」で繋ぎ止め、アンナフェルのもとへと急降下していく。

 

「……ありがとう。二人とも!」

 

霧が晴れた。

バイオコンピュータのノイズが、僕の意志と同調し、青白い光を帯びて静まり返る。

僕はF90のハードポイントに手を添え、アンナフェルが固定してくれたミッションパックの感触を、自らの血肉のように感じ取っていた。

 

宇宙世紀0122年。

利権を嫌うトキオと、仲間を想う僕の間に、理屈を超えた奇妙な友情が芽生えた瞬間だった。

 

「シャルル・ロウチェスター! 僕は、僕自身の意志で、あなたの古きジオンの夢を打ち破る!」

 

僕はVタイプ・ユニットのヴェスバーを最大出力で展開し、トキオと共に、月面の闇を切り裂く光となった。

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