機動戦士ガンダム ジオンの残響 ―シャアもミネバもいない火星で、亡霊たちは「ザク」の皮を被った怪物を造り上げた―   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

7 / 24
裏切りの火蓋

熱い。

 

アドミラル・ティアンムのハッチが開放され、宇宙の虚無が目の前に広がる。

だが、俺の視界を支配しているのは、美しき星々ではない。

 

爆辞だ。

そして、絶叫だ。

 

宇宙世紀0120年。10月28日。

サイド4、フロンティア4宙域。

 

「オールズモビルだ! 識別不明のMS群が接近! 迎撃用意!」

 

艦内に鳴り響く警報。

オペレーターの悲鳴に近い報告を、俺はF90 2号機のコクピットで、極めて冷静に聞いていた。

 

予定通りだ。

シドニー・アンバー。あの女が手配した火星の「亡霊」たちが、この平和ボケした連邦の巡洋艦を、狩り場に変えるためにやってきた。

 

「ボッシュ大尉! 出撃準備は!?」

 

隣のハンガーから、デフ・スタリオンの1号機が滑り出してくる。

ミッションパック「A(アサルト)」タイプ。

長距離侵攻用の重武装を纏ったその姿は、正義という名の重圧に耐えかねているように見えた。

 

「……出撃する。デフ、先行しろ」

 

「了解! F90 1号機、デフ・スタリオン、行きます!」

 

1号機の背部スラスターが火を噴き、カタパルトから射出される。

その眩い光を見送りながら、俺はコンソールの深層に隠した「裏切りのキー」を叩いた。

 

システムが書き換わる。

擬似人格コンピュータ「Type-A.R」の論理回路が反転し、連邦の味方識別信号(IFF)を、俺の手で「敵」へと書き換えていく。

 

「ボッシュ大尉!? 何を……2号機のIFFが消えた!? 通信回路も遮断されています!」

 

ブリッジからの混乱した通信。

俺はそれを物理的にオフにした。

 

俺が駆るF90 2号機。

今はまだサナリィ製の白い装甲を纏っているが、その中身はすでに連邦を、ガンダムを殺すための牙と化している。

 

俺はスロットルを押し込んだ。

出力3,160キロワットの核融合炉が咆哮を上げる。

全高14.8メートルの小柄な機体が、重力という名の未練を振り切り、戦場へと飛び出した。

 

「大尉! 大尉、聞こえますか!? 敵が……RFザクの部隊が展開しています! 援護を!」

 

デフの叫び。

視界の先では、1号機が旧ジオン軍のMSに酷似した機体群に包囲されていた。

 

RFザク。

見た目は一年戦争の遺物だが、その中身は最新の部材で構成された怪物だ。

だが、1号機を駆るデフの技量は、それを圧倒していた。

最新鋭機F90の機動性が、旧世代のフォルムを置き去りにしていく。

 

「……デフ。お前はいいパイロットだ。だが、お前が信じているその『白』は、俺が今日、ここで汚してやる」

 

俺は操縦桿を引き絞り、1号機の背後を取った。

デフは俺を「父」のように慕っている。

だから、背後から接近する2号機に対して、何の疑いも持たない。

 

「大尉! 助かりま……え?」

 

デフの言葉が凍りついた。

 

俺は2号機のビーム・ライフルを、1号機の右肩に向けて発射した。

 

高出力の粒子ビームが、最新のセラミック複合材を焼き切る。

1号機の右腕が、ミッションパックのパーツごと、宇宙の闇へと舞った。

 

「ボッシュ大尉……? 何を……今の誤射ですよね!? 大尉!」

 

「誤射ではない。……決別だ、デフ」

 

俺は通信を開いた。

冷酷に、オールドタイプの執念を込めて。

 

「俺は、連邦を捨てる。アムロ・レイが守ろうとしたこの停滞した世界を、俺は認めない。……さらばだ、教え子よ」

 

「嘘だ……嘘だボッシュ大尉! あなたがそんなことをするはずがない!」

 

デフの叫びを遮るように、火星から来たRFシリーズがアドミラル・ティアンムに取り付く。

ブッホ・コンツェルンが手配した内通者たちが、艦内の隔壁を開放していく。

 

これが、裏切りの火蓋だ。

 

俺は1号機の追撃を振り切り、あらかじめ指定されていた座標へと機体を向けた。

そこには、俺を火星へと導くための、旧ネオ・ジオン軍の巡洋艦が潜んでいる。

 

「ボッシュ大尉ィィィ!!」

 

遠ざかるデフの叫び。

1号機のセンサーが、俺の2号機を「敵」としてロックオンする。

 

だが、遅い。

サナリィの天才たちが生み出したF90の機動性は、俺という「執念」を乗せて、連邦の射程圏外へと一瞬で飛び去った。

 

俺はコクピットの中で、狂ったように笑った。

頬を伝う汗は、もはや連邦のオイルの匂いではない。

火星の、あの乾いた赤い砂の匂いがする。

 

宇宙世紀0120年。

ガンダムF90 2号機。強奪完了。

 

俺の背後で、かつての母艦が炎に包まれていく。

その炎は、俺が30年間抱き続けてきた、ガンダムに対する常軌を逸した愛憎の裏返しでもあった。

 

「待っていろ、シャルロット。お前たちの望む『騎士』が、今、ガンダムを携えて帰還する」

 

俺は火星への最短コースを計算し始めた。

2号機のモニターに映る算用数字が、俺の新しい人生の秒読みを開始していた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。